郷原信郎氏×魚住昭氏「主任検事逮捕! 証拠改竄! 特捜神話の崩壊」② からの続き
魚住 それから、少なくとも刑事責任がどこまで及ぶかっていう話が一つありますね。前特捜部長とか、そのへんにまで及ぶかどうかっていう。それから、行政的な責任、監督責任がどこまで及ぶかっていう問題と、この二つありますね。
郷原 それが区別されてないんですよ、この話が。昨日あたりの、大坪(弘道)前部長、佐賀前副部長の話も区別ができてないんですよ。分かる気はするんです。
検察の組織内の問題としては、刑事責任の問題がどうのこうのというよりも、まず自分たちの仕事は基本的に起訴すること、そして公判で有罪にもっていくこと、そういう方向でしかものを考えてないんですよ。
今回の改竄の問題の報告を受けたときに、地検の幹部、検事正、次席にどういう報告をしたのかっていうことが新聞に出ていますよね。「問題ありません」と報告している。
この「問題ありません」って、どういう意味かっていったら、「有罪立証に問題にはなりません。差し支えありません」と、こういう意味なんですよ、多分。
魚住 ああ。
郷原 われわれは問題があるかないかは、組織としてそれでいいのか、そういう事実が出てきて、それをちゃんと公表して世の中に対して謝罪しなくていいのか、という観点から考えますよね。
そういう観点じゃないんですよ、あの検察の中にいると。問題がないというのは、公判に支障があるかないかと、こういう話なんですよ。
だから、みんなその範囲内で共通言語として検察の内部では通用するんですよ、次席も検事正も高検も。しかし世の中にはそれは通用しないんです。
魚住 なるほど。
郷原 今、社会が問題にしているのはその部分ですよね。なんでそんな問題があるんだったら、分かったんだったら、ちゃんと公表しなかったのか。で、それを言ったのがその女性検事なわけですよ。
その女性検事が、社会的に見て許されないということをちゃんと思ったっていうのは、やっぱり検察の組織内部にもちゃんとした人がいるっていうことですよね
魚住 でもその公判部の検事は、公判での立証活動に参加しているんでしょ?
郷原 だから、その後やっぱり部内では「問題だ、問題だ」って言ったんじゃないですか。それでも上のほうがちゃんと是正措置をとらなかったんで、それは然るべき時期にということで今度の無罪判決が出てから、いわば外部への、という話になったんじゃないですかね。朝日新聞なんかの記事によると、やはり協力していると思えますよね。
魚住 結局、責任のなすり付け合いになったわけですかね? なんで、正確な更新日時を書いた捜査報告書を弁護側に開示したんだ、という。
開示したヤツが悪いんだという議論と、いやそうじゃない、もともとあるべきファイルを上村元係長に返却するなんていう、いってみればそういう隠蔽工作をした人間が悪いのか、議論になったんだと思うんですよ、きっと。
郷原 だから主任検事としてそこを問われて、これじゃ無罪になるじゃないかと言われて、そこで思わず時限爆弾を・・・。
魚住 時限爆弾(笑)。
郷原 仕掛けてあるっていう話になったんじゃないんですか。
魚住 いや、俺がやったことは悪くないんだ、と。
郷原 大丈夫なんだと、思わず言ってしまった。
魚住 そうかそうか。あれには深い意味があるんだ、と。
郷原 その時には、もちろん問題にした女性検事との間では、改竄がどうのこうのと問題にはなっていなかったでしょうね、そのフロッピーのデータと違うということが問題になっただけで。最初はそうですよね。
魚住 最初は・・・。
郷原 最初はそのはずですよ。そんなことは言わなきゃ分からないはずですから、その女性検事のほうは知らなかったはずですよ。
魚住 そうですよね。
郷原 最初は日付が違うっていうことが問題になって、それで国井検事が、これはどうなのかってことで問い合わせたっていうことになっています。
魚住 最初は、なんでフロッピーデータがないのという話だっていうふうには、朝日新聞には書いてありましたね。
郷原 ただ、その時にはないから、改竄されてる話は知らなかったんですよ。
魚住 そうそう。女性検事は知らないです。
郷原 改竄されてる話が初めて出たのは、前田検事が時限爆弾って言うことで出たんです。
魚住 そうそう。多分、前田検事と国井検事との間の遣り取りで出たんですね。
郷原 ええ。
魚住 だからそれは内輪の話なんですね。で、その内輪の話を国井検事が他所に漏らしているんですよね。
郷原 他所へっていうのは?
魚住 上に報告しているんですね。多分、女性検事にも言ってるんですね。
郷原 言ったんでしょうね。
魚住 それって、仲間への裏切りじゃないですか?
郷原 おそらく国井検事の頭の中には、彼には、有罪になりさえすればいいっていう頭しかないんですよ。だから、女性検事から言われたのは、「これじゃ無罪になるじゃないか」って言われたから、それで前田検事と話をして、「大丈夫だ、時限爆弾が仕掛けてあるから」って言われたんで、その通り「大丈夫だ、時限爆弾が仕掛けてあるんだ」って言ったんじゃないですか(笑)。
魚住 (笑)
郷原 ところが、全然考えていることの方向が違うわけですよ。有罪になればいいっていうことじゃないんですよ、多分。
魚住 そうか。
郷原 そこは、ちょっと言語が違う、頭の中で考えていることが違うっていう前提で考えないから話がおかしくなるんです。
編集部 確かに時限爆弾っていうのがよく分からなかったのが、今の話でちょっと分かりました。
郷原 分かったでしょ。だから、有罪にすることしか頭にないんですよ。で、多分、彼の頭の中では、なんだかんだいったって有罪にさえなれば問題が表面化することはないんだと。
だからいってみれば、もう火の玉みたいになって暴走しているわけですよ。それでもゴールにさえ辿り着けば、火の玉になっていても火は消える。それを有罪にすることを諦めてしまったら、ここでそのまま炎上する。ということはもう後には引けない。それはもう火の玉特急ですよ。どんどん前に進むしかない。そういうことになってしまうのが、まさに検察の非常に怖いところだと思うんですね。
∴
編集部 改めてお聞きしたいのですが、前田検事がフロッピーのデータを改竄した目的はなんでしょうか。
郷原 そこが難しいところなんですよ。一つは、前田検事が今は「過失だった」と言ってるみたいですね。間違って改竄されてしまっただけの行為であると。その理由に挙げているのが、報告書が正確なものが証拠開示されているんだから、そんなものやっても意味がないと言っているらしいです。多分それは違う。本人は報告書の存在を認識してなかったんだと思うんです。
ただ、もう一つ問題は、最終の更新日は改竄しているんですけども、作成日は6月1日のままなんですよ。要するに、その文書の作成を始めた日のデータは6月1日になっています。ということは、いずれにしても検察のストーリーと合わないんですよ。
魚住 1日に作成して、8日に・・・。
郷原 完成したっていう話です。ただ、もし1日に作成を始めたんだとすると、5月中に指示がなければおかしいじゃないですか。
魚住 そうです。
郷原 作成を始める動機がないわけですよ、そういう不正なものですから。ですから、完全にストーリーに合う物的な証拠にはならないんですよ、6月1日が作成日であると。
魚住 そうですね。
郷原 6月1日の作成日の改竄が可能だったかどうか分からないんですけども、いずれにしても不完全なんですね、改竄したものが検察側証拠としては。
魚住 ただいずれにしても、上村元係長の弁護側にしろ、村木元局長の弁護側にしろ、そのデータをたとえ入手していても、それをわざわざ法廷に出す必然性はないですよね。
郷原 ええ。だから、法廷に出すことはあんまり考えてなかったんじゃないかと思うんですよ。
魚住 そうですよね。
郷原 だって、6月1日と6月8日で作成日と更新日がずれているから、仮に報告書がなかったとしても、法廷に出してもらったってあんまりプラスにならない。しかも改竄してますからね。まあ、そんなヤバイものが出てくることは予想してなかった。むしろ逆に弁護人の手元にある状態のほうがいいと思ってたんじゃないですかね。
魚住 僕も最終的な狙いが分からない。自分の保管している証拠の中に自分のストーリーと合わない物証があるというのは我慢ならなかったんだろうと思うんです。そして不安でならなかったんですよ。
それをなくすために、すでに押収目録に入っているから破棄するわけにはいきませんね、バレちゃうから。検察側証拠の中から排除するいちばんいい方法は、上村元係長に返しちゃうこと。
で、村木さんの弁護人が、そのフロッピーの存在に注目することまではないだろうというような、そういう隠すことが目的だったのではないかな。だからデータ改竄よりも、フロッピーデータを返却したことのほうに意味があるんじゃないかな。
郷原 そうなんです、重点はそっちなんですよ。証拠を隠滅したということよりも、私はそこにもう一つの目的が、上村氏の弁護人を争う方向にもっていかせないという・・・。
魚住 ええ、それはあるかも知れません。
郷原 確かに、返すっていう行為のほうが主だと思います。そうするともう一つ問題なのは、本当にそういう重要な証拠物を返すということを、前田検事一人でやったんだろうかということ。これはみんな疑問に思うところなんですね。
魚住 そうか、主任検事一人じゃ、他の人に誰にも知られずにそういうことをやるっていうのはちょっと難しいですよね。
郷原 例えば国井検事は公判に立ち会っているわけでしょ。それまでずっと相談してやってきたものを、本当にそこで相談してなかったのか。返すときにそういう相談はしてないのか。じゃ、当時の副部長はどうだったのか、という上司との問題。そのあたりが今の捜査のポイントじゃないかと思うんですけどね。
魚住 そうですね。
編集部 魚住さんが、前田検事を急いで逮捕したのは何かを隠す意図があったのではないかと仰いましたが、例えばどんなことが考えられるでしょうか。
魚住 具体的にはよく分かりません。ただ、最高検のいちばんやりたいことは、余計な事実が表に出ないことです。前田検事の悪質さとか、前田検事の犯罪性みたいなものは、多分、余計に強調するでしょう。そのことによって世論を納得させる。但し、前田検事以外、特に上のほうに責任の連鎖が始まらないように早く切って、前田検事だけの犯罪にしてしまうという発想は検察の習性として明らかです。
これは検察だけでなくどこでもそうでしょうけど、そういうことをやる人たちだから、おそらく事件の真相はこれくらいしか出てこないだろう。
郷原 もう一つ問題なのは、過去の東京地検特捜部の事件で彼がどういう仕事をしたのかということと、その捜査の経緯とか、その時の上司の指示とか、いろんなことを彼は知っているわけです。そういったことに関して余計なことを喋られたら困るっていうことがありますよね。
一方で、個人犯罪に持って行かなくてはいけない。しかし、個人犯罪に持って行こうとすると、これ、ものすごく厳しいですよね。本当に個人犯罪としてこれだけのことをやっちゃったということになると、執行猶予は付かないですよ。
魚住 そうそう。
郷原 それだけの処罰を受けさせることを覚悟させ、尚かつ余計なことを喋るなということが言えるかっていったら、普通は言えないですよ。
魚住 言えないですね。だからどこか僕が期待しているのは、前田検事が、俺だけ悪者にするのなら世の中に真実を全部バラすと、そうなってくれるといちばん有り難いですね。
郷原 そうすると特捜検察の闇が全部・・・。
魚住 そう、暴かれて、特捜の過去におこなってきた悪さが次々と明らかに出てくるというのが、僕がいちばん期待しているところなんですけどね。
郷原 具体的な事実が出てこなくても、前田検事の供述によって、少なくとも外形的にも彼が調べに関わった特捜事件の調書は、これ使えないですね、もう。
西松建設事件の大久保(隆規)氏の調書、それから緒方(重威)元公安調査庁長官の事件の満井(忠男)氏の調書、この間収監された守屋(武昌)元防衛事務次官の事件でも、贈賄供述は確か前田検事ですね。そして佐藤栄佐久前福島県知事の事件でも当時の県土木部長とか水谷建設、あのへんも調べていると新聞に出ていますね。
個人犯罪を強調すれば強調するほど、そんなとんでもない情報の改竄をやる人間だっていうことになると、調書でっち上げなんて朝飯前っていう話ですよね。しかも全部争われていますよね、調書の任意性、信用性が。これはもたないですよね。
魚住 もう守屋さんは確定しているからいい?
郷原 でも、本人の供述如何では再審・・・。
魚住 再審請求ですか。
郷原 ええ、新証拠っていうことになりますね。
魚住 落合(洋司)弁護士が緒方元長官の弁護人をやっておられて、前田検事を偽証罪で告発すると言ってますね。
郷原 そういう話になっていますね。週刊朝日と今西(憲之)さんが出した本(『私は無実です』朝日新聞出版))の中で、そのくだりが出てきますね。前田検事の調べを法廷で証言した内容ですね。
満井さんの話による、うどんを捏ねる話ですね。二人で知恵を出してうどんを捏ねていこうや、というような、そういう調べの仕方でうまく取り込んでいって、いつの間にか全然喋ってもいないようことを調書に取られたんだっていうことを言ってますよね。それを今問題にしてるわけですね。その点について法廷で嘘を証言したということを問題にしたわけですね。
編集部:前田検事が全部喋ることに期待したいですね。
郷原 まず、偽証で告発されれば、大阪地検だけの事件でなくて、東京地検の捜査に関わる事件もそれで表面化するっていうことになりますね。そうすると、どんどん他の事件も・・・。
魚住 火が着いてくるってことですよね。偽証で告発されると、どこが捜査するんですか。また最高検ですか(笑)。
郷原 関連事件ですから、普通は最高検でやるしかないじゃないですか。
魚住 最高検ですか(笑)。
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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◇ 郷原信郎氏×魚住昭氏「特捜神話の崩壊」③俺だけ悪者にするのなら世の中に真実を全部バラす
◇ 郷原信郎氏×魚住昭氏「特捜神話の崩壊」②証拠の扱いに慣れてない特捜部
◇ 郷原信郎氏×魚住昭氏「特捜神話の崩壊」①指揮権発動なんてよくある話だよ
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