英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件 市橋弁護団vs捜査当局、すでに激しい“つばぜり合い”

2010-01-03 | 死刑/重刑/生命犯

【衝撃事件の核心】供述は公判対策? 英会話講師殺害事件 市橋弁護団vs捜査当局、すでに激しい“つばぜり合い”
産経ニュース2010.1.1 07:00
 千葉県市川市のマンションで平成19年3月、英国人の英会話講師、リンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=が他殺体で見つかった事件は、市橋達也被告(30)が殺人と強姦致死の罪で追起訴され、事件解明の舞台は法廷の場に移ることになった。整形手術を施し2年半以上の間逃亡し、逮捕されると完黙、断食を続け、追起訴直前になると一転して供述…。その行動が、最後まで世間の耳目を集めた市橋被告。一方、被告自身の口から事件が語られ始めたことで、検察・弁護側双方の主張の違いも明らかになり、今後の公判の行方が注目される。(西山典男、西川貴清、三宅令)
捜査員に「謝罪」がしたい? 弁護側のアドバイスは…
 「弁護士としては、これは異例の起訴だと思います」
 市橋被告が追起訴された翌日の12月24日。千葉県弁護士会館の会見場に現れた弁護団は、あいさつもそこそこに捜査当局への不満を口にした。
 会見場には、市橋被告が突然供述を始めていたことが明らかになったことを受け、事の真相を確認しようと50人近い報道陣が詰めかけていた。
 あふれかえるマスコミの間を縫うようにして現れた弁護団代表の菅野泰弁護士ら3人は、市橋被告が追起訴された「殺人」と「強姦致死」という起訴事実について「起訴事実にある犯行の時間帯があいまい」「起訴直前に市橋被告が供述した内容がほとんど反映されていない」と批判を重ねた。
 弁護団によると、市橋被告は11月10日に死体遺棄容疑で逮捕されてからしばらくすると、弁護団に対して心を開き、「(事件については)正直に話します」と約束したという。
 死体遺棄罪で起訴後、殺人と強姦致死で再逮捕された12月2日以降は、事件発生当時、リンゼイさんと2人きりでいた自宅内で何があったのかについての「告白」も始めていたらしい。
 さらに、追起訴される数日前からは「(捜査側に対して)謝罪がしたい」と弁護団に相談。弁護団は「何について謝罪するのか説明しないと(捜査側は)謝罪と思ってくれない」とアドバイスしたという。
 市橋被告は数日ほど考え、勾留期限満期前日の22日午前から、千葉地検による調べの中で、事件の内容を供述し始めた。
「連れ込んですぐ暴行」 それでも殺意は否認
 弁護団が明かした市橋被告の「告白」は詳細なものだった。
 それによると、19年3月25日午前9時ごろ、市橋被告は自宅近くのコーヒーショップでリンゼイさんと合流。午前10時ごろ、リンゼイさんを自宅に招き入れると、すぐに性的暴行を行った。
 市橋被告は「被害者が(性行為を)承知していないので」(弁護団)、自由を奪うために手足を縛った、と説明しているといい、弁護団は「暴行はこの1度だけで、何度も行われたとは考えていない」と付け加えた。
 その後、リンゼイさんを室内で半日以上にわたって監禁。翌26日の未明、リンゼイさんが逃げようとして何度も大声を出したため、後ろから手を首に回し、声が出ないようにすると、ぐったりして息が止まったという。市橋被告はその後、リンゼイさんに対して人工呼吸もしたといい、「殺意はなかった」と主張しているようだ。
 ただ、肝心の部分で未解明な所も多く残った。
 記者からの「なぜ今、(黙秘をやめて)語り始めたのか」という質問に弁護団は「『なぜ』、『いつ』という理由は、公判で明らかにしたい」と回答。「監禁してどうするつもりだったのか」「なぜ、救急車などを呼ばなかったのか」という質問にも歯切れの悪い回答が続いた。
「今さら…」 あきれる捜査当局が推測する自供の意図は?
 もっとも、突然自供を始めた市橋被告に対し、捜査関係者は不信のまなざしを向けている。
 「今さら何言ってるんだよ。だったら初めから言えよ」とこぼす捜査関係者。それによると、逮捕当初は捜査員が投げかける雑談には答えていた市橋被告だが、時間の経過とともに取り調べ中はほとんど口を開かなくなったという。
 捜査本部内では当初、逮捕直後から2週間あまり続けた断食の終了が「話し出すきっかけになるのでは」という見方もあった。「断食」を「捜査への抵抗の象徴」(捜査関係者)と考えていたからだ。
 しかし、実際には断食終了後も自供を始めることはなかった。
 「しゃべらないだけでなく、態度も良くなかった。机にひじをつき、そのひじに体をもたれかけるようにしながら、捜査員の話を黙って聞いていたりしていた」と捜査幹部。別の幹部も「謝罪したいやつが、あんな態度で取り調べを受けるか」と語気を荒らげる。
 では、なぜ供述したのか。市橋被告の取り調べの様子を知る捜査関係者が口をそろえて推測する理由は「保身」だ。
 最後まで黙っているよりも、進んで罪を認めて心証をよくし、情状酌量を得ようと考えたのではないか、と考えたのではないかという。
 、「心証を良くしようと考えたのだろう。ただ、(逮捕から自供まで)これだけ時間が開いたら逆に(心証は)悪いでしょう。誰も信じないんじゃないの」と捜査関係者。別の捜査幹部は「だいたいこの時期に話し出すこと自体、保身のためとしか考えられない。謝罪のためなんてことではないんだ」と指摘。そして、こうこぼした。
 「何言っても、卑劣な男だよ。ほんとにさ」
事件は1つ、それとも2つ? 室内で行われた事件をどう考える
 では、今後の公判では、どこがポイントになってくるのだろう。
 「2つめの事件では…」
 会見で1時間以上に渡り、捜査を批判し続けた弁護団。その中で、今回の事件は「2つ」の事件に分かれる、ということをたびたび強調していた。
 地検は今回、「強姦が発端だが、一連の行為の中で殺人という犯罪も同時に行われた」とする「観念的競合」があったとして「殺人」と「強姦致死」の罪で起訴している。
 しかし、弁護団は「暴行を加えたのは事実。リンゼイさんが死んだのも事実」と認めた上で「暴行行為と、リンゼイさんが死ぬまでの間にかなり時間があり、事件は2つに分かれる」と主張。「一定の限度で責任はあるが、強姦行為に関連して死んだという『強姦致死』というのは認めない。また、殺意を持って死なせてもおらず『殺人』ではない」と主張している。
 では、どのような罪が適当と考えるのか。
 この点について弁護団は「今後、接見を継続して見極めたい」としているが、現段階では「強姦」と「傷害致死」、または「強姦」と「監禁致死」が適当であると主張する可能性が高いという。
 そこには、捜査側がひとまとめにしている事実を2つに分け、起訴事実について争うとともに、「殺意」を否定する意図があることが分かる。
 ただ、こうした弁護側の主張について、捜査当局では余裕を持って受けとめている。
 「犯行は25、26日の2日間に行われたこと。(強姦とリンゼイさんの死が)半日程度離れていたとしても、強姦致死の成立や観念的競合に問題はない」。捜査幹部は弁護側会見の感想を問われるとこう答えた。
 捜査当局が自らの主張に自信を見せるのは、仮に強姦とリンゼイさんの死亡までに半日以上の開きがあったとしても「2人がマンション内に居続けた」ことには変わらない、という状況があるからだ。
 ある捜査関係者は「弁護側が、罪名の可能性として『監禁致死』を挙げたことからも明らかなように、殺害時もリンゼイさんに対する監禁行為は続いていた」と話している。
対決姿勢示す弁護側 裁判員裁判の行方はいかに…
 今後、公判前整理手続きで争点などが整理されると、いよいよ裁判に突入する。行われるのは、もちろん一般の国民が審理に参加する「裁判員裁判」だ。
 ここでは、市橋被告に対する被告人質問はもちろんのこと、被害者、加害者双方の親族が出廷して行われる証人尋問などが与える影響も、公判の行方を左右する上でのポイントとなってきそうだ。
 捜査関係者によると、事件発生後、何度も来日しているリンゼイさんの父親は、公判に出廷する可能性は高いとみられるという。
 「恐らく、すごいけんまくで来るだろう」と捜査幹部。「父親の怒りは本当に激しい。その話を聞けば、裁判員は極刑でも仕方ないって思うはず」との見通しを示す。
 一方、市橋被告はこれまでに両親との連絡を拒み続けているが、弁護側の情状証人として、市橋被告の両親は出廷するのだろうか。
 弁護団は会見で、「両親は呼びたいが、その前に、本人に確認しなくては」と市橋被告の意向を確かめる方針を明らかにした。ただ、弁護団はその一方で、「認めている範囲でも十分に罪は重いわけだから…」と、親族に協力を仰ぎたい気持ちものぞかせた。
 起訴後も、捜査当局が任意で取り調べを行うことは可能だが、「すでに任意の取り調べには応じないと県警に通告している」と弁護団。市橋被告がいる千葉刑務所の拘置施設にも「任意での調べには出房は避けるように通告書を出している」と対応を徹底しており、裁判へ向けて捜査当局との対決姿勢を強めている。
 弁護団は今後、こまめに市橋被告と接見し、公判対策について相談するとともに、2年7カ月に渡る逃走生活や逃走経路などについても話を聞いていきたいとしている。

リンゼイ・アン・ホーカーさん事件 市橋容疑者「騒がれ首絞めた」弁護団に説明


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