JBpress 2016.4.18(月)
著名な科学誌が論文を発表、氷床の大量溶解が原因
エクアドル・ガラパゴス諸島沖を泳ぐアオウミガメ〔AFPBB News〕
日本の主要メディアが取り上げないのが疑問に思えるほど重要な記事が今月8日、米科学誌に発表された。科学にご興味のない方もぜひご一読いただければと思う。
論文を端的に述べると「地球温暖化によって地球の軸がぶれ始めている」という内容である。地球の軸とは北極と南極を結ぶ地軸のことだ。
ご存じのように地球は完璧な球体ではなく、北極の自転極と南極の自転極を結んだ軸を中心に自転している、いわばコマのようなものである。
地軸は公転面に対して23.4度という角度で傾いている。その傾きがあることで、地球が太陽を1年で1周する間に日本などは四季が巡ってくる。傾きがないと1年中同じ季節ということになる。
2000年頃から変化強まる
8日に発表された論文は、『サイエンス・アドバンシーズ』という科学誌に掲載された。著名な科学誌『サイエンス』のオンライン版と言える出版物で、研究者の評価は高い。
実はこれまでも、自転極が長い年月をかけて移動していることは知られていた。1年にわずかであるが移動していた。ところが2000年頃から、急に移動のペースが速まっている。しかも向きも変化している。
論文の著者の1人で、米カリフォルニア州の航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のスレンドラ・アディカリ氏は米通信社の取材に対し、「近年の自転極の動きは20世紀に見られたものとは違い、たいへんドラマチックです」と答えている。
何がドラマチックなのか。
北の自転極(以下便宜的に北極点)はこれまで、西方向に動いていた。西方向というのは、地球儀を真上からみた時にカナダ方向を指す。しかし2000年頃から移動の方向が、経度にして約75度東になり、英国へ向かっているというのだ。
移動距離にすれば1年で7インチ(約17.5センチ)に過ぎないが、地球科学的には「たいへん重要な情報」(アディカリ氏)であるという。
論文の最大のポイントは、北極点の移動が地球温暖化に影響を受けているという点だ。温暖化の原因は様々だが、NASAによると2015年は過去136年間の観測史上、地球上の平均気温が最も高かった。
気温の上昇に伴い、グリーンランドの氷河や西南極の氷床が大量に溶けて質量の再分配が起きているというのだ。つまり、大量の固体が液体になったことで地球上に大きなうねりが生じ、それが地軸を動かすほどの力になっている。
ちなみに、同論文ではグリーンランドの氷河は毎年275兆キロが、西南極からは毎年124兆キロが溶けているという。
実は2009年、米テキサス大学のジャンリ・チェン教授の研究チームが英科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』で、南極の氷の融解が海面上昇につながる恐れがあると警告していた。
溶けた水が移動して地軸が変化
それまで、南極の氷床は地球温暖化の影響をそれほど受けないと言われていたが、実は融解は着実に進んでいることが判明した。氷が水になることで地表上に動きが起こると、地軸は質量を失った場所へと動いていく。
論文のデータ収集に使われたのは、地球観測衛星グレース。地球の重力を測定することで海洋や極地での大規模な変化を探知できる。
論文ではさらに、氷の融解以外の地球温暖化の影響も記述されている。特にユーラシア大陸で大きな湖の水位が低下したり地下水の枯渇が起きている。こうした現象も地軸のブレを起こさせる要因になっている。
アディカリ氏と共著者のエリック・アイビンス氏の計測によると、グリーンランドの氷河の融解だけでは地軸の移動は発生しなかったという。西南極での氷床が溶け出したこと、さらにユーラシア大陸の水源の枯渇が地軸移動の複合的な理由だとしている。
一部研究者から大陸での水源の枯渇は、地軸移動の原因としては軽微ではないかとの疑問が寄せられた。しかしアディカリ氏は次のように説明している。
「ユーラシア大陸での水量の変化がないと、地軸の方向の変化の説明がつかないのです。地軸移動が起こる確固とした証拠を初めて示させたと思っています」
特に2003年から2015年までの氷と水の質量分配の影響が大きいという。
地球温暖化と地軸の移動との関連は今回初めて科学誌で発表されたが、地球上にはすでに気づいていた人たちがいた。先住民族イヌイットたちである。
科学的な論文紹介の後に、イヌイットの経験的な見方を紹介することは不釣り合いかもしれないが、1つの見方として記したい。
2010年、カナダのドキュメンタリー番組でイヌイットたちが「地球の軸がぶれている」と発言し、部族長がNASAに書簡を送付していた。また番組でインタビューを受けたイヌイットたち全員が、太陽と星の位置が変化しており、地軸がぶれているのではないかと発言している。
同番組に出演したイヌイットのサミュエリ・アンマックさんは、幼少時から毎日父親に天空を確認するように教えられてきたという。
心配し過ぎる必要はないが・・・
「1年を通して太陽の軌跡や星の位置を見ています。見ていると言うより、太陽や星はイヌイットの生活の一部なのです。ですから変化が起きればすぐに分かります」
「いま太陽は本来沈む場所からずれています。星の位置も本来あるべき所にないのです。これは地球の軸がぶれているとしか説明がつきません。どうしてそうなったのかは分かりません。ただ空が変わってしまいました」
別のイヌイットは「すべてが東に流れている」という興味深い発言もしている。
イヌイットたちは自然現象の冷徹な観察者である。もちろん地軸変化の理由を分析する研究者ではないので、温暖化が原因であるとの結論には至っていない。それでも5年以上前から、地軸の変化に経験論的に気づいていたと言えるかもしれない。
しかし前出のチェン教授は今回の論文結果が出ても、「心配することはありません。地球温暖化の興味深い一面が現れただけです」と心配しすぎる必要はないと述べる。
確かに地軸移動の方向が変わったことで近い将来、人類に多大な影響が出ることはなさそうだ。それよりも地球温暖化によって様々な悪影響が表出している点を憂慮すべきだろう。
チェン教授でさえ、2009年の論文内で「南極の氷床の融解によって、今後世界の海面上昇に大きな影響を与えることになるだろう」と記している。
西南極の氷がすべて溶けることはないだろうが、もし融解すると世界中の海面を約5メートルも上昇させるという。そうなると地軸移動どころの話ではない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46610
著名な科学誌が論文を発表、氷床の大量溶解が原因
エクアドル・ガラパゴス諸島沖を泳ぐアオウミガメ〔AFPBB News〕
日本の主要メディアが取り上げないのが疑問に思えるほど重要な記事が今月8日、米科学誌に発表された。科学にご興味のない方もぜひご一読いただければと思う。
論文を端的に述べると「地球温暖化によって地球の軸がぶれ始めている」という内容である。地球の軸とは北極と南極を結ぶ地軸のことだ。
ご存じのように地球は完璧な球体ではなく、北極の自転極と南極の自転極を結んだ軸を中心に自転している、いわばコマのようなものである。
地軸は公転面に対して23.4度という角度で傾いている。その傾きがあることで、地球が太陽を1年で1周する間に日本などは四季が巡ってくる。傾きがないと1年中同じ季節ということになる。
2000年頃から変化強まる
8日に発表された論文は、『サイエンス・アドバンシーズ』という科学誌に掲載された。著名な科学誌『サイエンス』のオンライン版と言える出版物で、研究者の評価は高い。
実はこれまでも、自転極が長い年月をかけて移動していることは知られていた。1年にわずかであるが移動していた。ところが2000年頃から、急に移動のペースが速まっている。しかも向きも変化している。
論文の著者の1人で、米カリフォルニア州の航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のスレンドラ・アディカリ氏は米通信社の取材に対し、「近年の自転極の動きは20世紀に見られたものとは違い、たいへんドラマチックです」と答えている。
何がドラマチックなのか。
北の自転極(以下便宜的に北極点)はこれまで、西方向に動いていた。西方向というのは、地球儀を真上からみた時にカナダ方向を指す。しかし2000年頃から移動の方向が、経度にして約75度東になり、英国へ向かっているというのだ。
移動距離にすれば1年で7インチ(約17.5センチ)に過ぎないが、地球科学的には「たいへん重要な情報」(アディカリ氏)であるという。
論文の最大のポイントは、北極点の移動が地球温暖化に影響を受けているという点だ。温暖化の原因は様々だが、NASAによると2015年は過去136年間の観測史上、地球上の平均気温が最も高かった。
気温の上昇に伴い、グリーンランドの氷河や西南極の氷床が大量に溶けて質量の再分配が起きているというのだ。つまり、大量の固体が液体になったことで地球上に大きなうねりが生じ、それが地軸を動かすほどの力になっている。
ちなみに、同論文ではグリーンランドの氷河は毎年275兆キロが、西南極からは毎年124兆キロが溶けているという。
実は2009年、米テキサス大学のジャンリ・チェン教授の研究チームが英科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』で、南極の氷の融解が海面上昇につながる恐れがあると警告していた。
溶けた水が移動して地軸が変化
それまで、南極の氷床は地球温暖化の影響をそれほど受けないと言われていたが、実は融解は着実に進んでいることが判明した。氷が水になることで地表上に動きが起こると、地軸は質量を失った場所へと動いていく。
論文のデータ収集に使われたのは、地球観測衛星グレース。地球の重力を測定することで海洋や極地での大規模な変化を探知できる。
論文ではさらに、氷の融解以外の地球温暖化の影響も記述されている。特にユーラシア大陸で大きな湖の水位が低下したり地下水の枯渇が起きている。こうした現象も地軸のブレを起こさせる要因になっている。
アディカリ氏と共著者のエリック・アイビンス氏の計測によると、グリーンランドの氷河の融解だけでは地軸の移動は発生しなかったという。西南極での氷床が溶け出したこと、さらにユーラシア大陸の水源の枯渇が地軸移動の複合的な理由だとしている。
一部研究者から大陸での水源の枯渇は、地軸移動の原因としては軽微ではないかとの疑問が寄せられた。しかしアディカリ氏は次のように説明している。
「ユーラシア大陸での水量の変化がないと、地軸の方向の変化の説明がつかないのです。地軸移動が起こる確固とした証拠を初めて示させたと思っています」
特に2003年から2015年までの氷と水の質量分配の影響が大きいという。
地球温暖化と地軸の移動との関連は今回初めて科学誌で発表されたが、地球上にはすでに気づいていた人たちがいた。先住民族イヌイットたちである。
科学的な論文紹介の後に、イヌイットの経験的な見方を紹介することは不釣り合いかもしれないが、1つの見方として記したい。
2010年、カナダのドキュメンタリー番組でイヌイットたちが「地球の軸がぶれている」と発言し、部族長がNASAに書簡を送付していた。また番組でインタビューを受けたイヌイットたち全員が、太陽と星の位置が変化しており、地軸がぶれているのではないかと発言している。
同番組に出演したイヌイットのサミュエリ・アンマックさんは、幼少時から毎日父親に天空を確認するように教えられてきたという。
心配し過ぎる必要はないが・・・
「1年を通して太陽の軌跡や星の位置を見ています。見ていると言うより、太陽や星はイヌイットの生活の一部なのです。ですから変化が起きればすぐに分かります」
「いま太陽は本来沈む場所からずれています。星の位置も本来あるべき所にないのです。これは地球の軸がぶれているとしか説明がつきません。どうしてそうなったのかは分かりません。ただ空が変わってしまいました」
別のイヌイットは「すべてが東に流れている」という興味深い発言もしている。
イヌイットたちは自然現象の冷徹な観察者である。もちろん地軸変化の理由を分析する研究者ではないので、温暖化が原因であるとの結論には至っていない。それでも5年以上前から、地軸の変化に経験論的に気づいていたと言えるかもしれない。
しかし前出のチェン教授は今回の論文結果が出ても、「心配することはありません。地球温暖化の興味深い一面が現れただけです」と心配しすぎる必要はないと述べる。
確かに地軸移動の方向が変わったことで近い将来、人類に多大な影響が出ることはなさそうだ。それよりも地球温暖化によって様々な悪影響が表出している点を憂慮すべきだろう。
チェン教授でさえ、2009年の論文内で「南極の氷床の融解によって、今後世界の海面上昇に大きな影響を与えることになるだろう」と記している。
西南極の氷がすべて溶けることはないだろうが、もし融解すると世界中の海面を約5メートルも上昇させるという。そうなると地軸移動どころの話ではない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46610