一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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最近の拾い読みから(57) ― 『花衣ぬぐやまつわる…――わが愛の杉田久女』【その2】

2006-09-01 10:49:51 | Book Review
杉田久女(ひさじょ)を題材にした小説、松本清張『菊枕』や吉屋信子『私の見なかった人〈杉田久女〉』より、この作品が有利だったのは、資料がある程度公表されてきたことによる。

1つは、久女の夫で美術教師・宇内(うない)の教え子・増田連(れん)が刊行した『杉田久女ノート』、もう1つが、久女の長女・石昌子(いし・まさこ)の『杉田久女』であろう。

ともに本書「序章」によれば、
「いまのところ(一風斎註・元版刊行は1987年)、杉田久女研究書としては、久女の長女でいられる石昌子さんの書かれたもののほかには、この書が唯一の、よくまとまった労作である。」
という評価。

そのような資料を使い、書かれた久女像は、したがって、松本や吉屋の作品とは異なったものとなってくる。

まずは前回にご紹介した、久女の悪名を高めた、彼女のライバル・長谷川かな女との俳句の応酬に関しては、
「増田氏の研究によれば(両句の)制作年代は全くちがうという。つまり長谷川かな女の句は先に出来ているのである。
『呪う人……』は大正時代の句で、久女の『単帯』の句は昭和13年10月の『俳句研究』に載っている。
『大正期のかな女の句と昭和13年の久女の句を継ぎ合わせた伝説作者の腕は、あざやかの一語に尽きる』」
としている。

そのように、伝説の嘘を剥いでいく作業が続けられ、久女が生まれた時点からの足跡をたどる本書の記述となっていく。

この項、つづく


田辺聖子
『花衣ぬぐやまつわる…――わが愛の杉田久女』(下)
集英社文庫
定価:580円 (税込)
ISBN4-08-749588-4

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