杉田久女(ひさじょ)を題材にした小説、松本清張『菊枕』や吉屋信子『私の見なかった人〈杉田久女〉』より、この作品が有利だったのは、資料がある程度公表されてきたことによる。
1つは、久女の夫で美術教師・宇内(うない)の教え子・増田連(れん)が刊行した『杉田久女ノート』、もう1つが、久女の長女・石昌子(いし・まさこ)の『杉田久女』であろう。
ともに本書「序章」によれば、
そのような資料を使い、書かれた久女像は、したがって、松本や吉屋の作品とは異なったものとなってくる。
まずは前回にご紹介した、久女の悪名を高めた、彼女のライバル・長谷川かな女との俳句の応酬に関しては、
そのように、伝説の嘘を剥いでいく作業が続けられ、久女が生まれた時点からの足跡をたどる本書の記述となっていく。
田辺聖子
『花衣ぬぐやまつわる…――わが愛の杉田久女』(下)
集英社文庫
定価:580円 (税込)
ISBN4-08-749588-4
1つは、久女の夫で美術教師・宇内(うない)の教え子・増田連(れん)が刊行した『杉田久女ノート』、もう1つが、久女の長女・石昌子(いし・まさこ)の『杉田久女』であろう。
ともに本書「序章」によれば、
「いまのところ(一風斎註・元版刊行は1987年)、杉田久女研究書としては、久女の長女でいられる石昌子さんの書かれたもののほかには、この書が唯一の、よくまとまった労作である。」という評価。
そのような資料を使い、書かれた久女像は、したがって、松本や吉屋の作品とは異なったものとなってくる。
まずは前回にご紹介した、久女の悪名を高めた、彼女のライバル・長谷川かな女との俳句の応酬に関しては、
「増田氏の研究によれば(両句の)制作年代は全くちがうという。つまり長谷川かな女の句は先に出来ているのである。としている。
『呪う人……』は大正時代の句で、久女の『単帯』の句は昭和13年10月の『俳句研究』に載っている。
『大正期のかな女の句と昭和13年の久女の句を継ぎ合わせた伝説作者の腕は、あざやかの一語に尽きる』」
そのように、伝説の嘘を剥いでいく作業が続けられ、久女が生まれた時点からの足跡をたどる本書の記述となっていく。
この項、つづく
田辺聖子
『花衣ぬぐやまつわる…――わが愛の杉田久女』(下)
集英社文庫
定価:580円 (税込)
ISBN4-08-749588-4