一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

H. カウエル『フルートとオーボエ、チェロ、ハープシコードのための四重奏曲』を聴く。

2007-01-05 05:57:16 | CD Review

AMERICAN CLASSICS
A CONTINUUM PORTRAIT・I
HENRY COWELL
Quartet for Flute, Oboe,
Cello and Harpsichord
Suite for Violin and Piano
Songs and Piano Pieces
Polyphonica・Irish Suite
Continuum
Cheryl Selzer and
Joel Sachs, Directors
(NAXOS 8.559192)

ヘンリー・カウエル(1897 - 1965)というと、トーン・クラスター(「音の塊」。ピアノの鍵盤を腕で叩いたりして、その部分の音を総て一遍に出すような手法)やピアノの内部奏法(ピアノの弦を、直接つまんだり擦ったりして音を出す手法)の創始者、つまりは実験音楽家として有名なのですが、このCD『器楽、室内楽&声楽曲集 第1集』では、彼の別の面を知ることができます。

というのは、トーン・クラスターで有名な楽曲は、ピアノ独奏曲『虎』くらいなもので、『フルートとオーボエ、チェロ、ハープシコードのための四重奏曲』などは、どちらかと言えば、新古典派的であり、叙情的な楽曲だからです。
初めて聞くと、とてもカウエルの作品と言い当てることはできないでしょう。

ことほどさように、一般に思われているカウエルのイメージと異なっているのは、ハープシコードをフィーチャーしたという点からも窺えます。

この人、実験音楽家だけではなくて、1932年にはアメリカで初めての民族音楽学の講義をしているし、
「1931年から1932年にかけてベルリンで民族音楽学者エーリッヒ・フォン・ホルンポステルと、インドおよびジャワの音楽家に師事している」(ロバート・P・モーガン編、長木誠司監訳『西洋の歴史と社会11、世界音楽の時代』)
そうなのね。

ですから、新しい手法をさまざまに手掛けた実験音楽家というより、「世界音楽」への視点を持った作曲家と見ることができる。
彼に影響を与えたのは、ガムラン音楽であり、アメリカ独立戦争時代の讃美歌であり、イランの音楽という幅広いものだったわけですし、基本には西欧音楽の伝統も含まれているわけです。

さて、この『フルートとオーボエ、チェロ、ハープシコードのための四重奏曲』は1954年の作品です。
1910~30年代の前衛的な手法は、ここでは影を潜め、先ほど述べたような、西欧音楽的の伝統(あえて言うなら「バロック的」)を踏まえた傾向が強く出ているような気がします(その後、1957年に来日、『オンガク』"ONGAKU for orchestra" という日本の旋律による楽曲を作曲している)。

実験音楽的な側面と西欧伝統音楽的な側面が、感動的に融合している作品としては、同CD収録の『ヴァイオリンとピアノのための組曲』(1925) や『ストリング・ピアノと小管弦楽のためのアイルランド組曲』(1925) を、また、前衛的な側面を前面に出した作品としては、『小管弦楽のためのポリフォニカ』をお聴きになるとよいでしょう。

いずれにしても、その前衛的な手法の中からも、『フルートとオーボエ、チェロ、ハープシコードのための四重奏曲』に明瞭に現れている、カウエル独自の叙情性が聴き取れることと思います。

最新の画像もっと見る