*屋代秀樹作・演出 公式サイトはこちら 新宿眼科画廊スペース地下 20日で終了 (1,2,3,4,5,6,7)
辺見(宮崎雄真/アマヤドリ)はかつて小説を書いていたが、ここしばらく活動休止状態。恩師の伝手で多賀家を訪れ、四姉妹の末娘の家庭教師として通うことになった。新宿眼科画廊スペースを横長に使い、壁にはまるでひびのように蔦が這い、そこに枯れた薔薇が数本付けられている。中央には木製の小さなテーブル、その上にガラス瓶がひとつ。最初に舞台に登場するのは次女(田中渚)である。古風なドレスをまとい、髪には羽飾りまでつけて、まるでヨーロッパの貴婦人のよう。長女(八木麻衣子)はメイクも地味で、喪服風の黒のドレス、四女はフリルが可愛いミニドレスだ。髪の色やメイクは現代風で、それぞれややずれたコスプレの趣だ。次女は辺見を庭師とまちがえ、四女は義務教育の途中でリタイアしたらしいが、しきりに「大学に行きたい」と言う。広大な屋敷で誰ともつき合わず、世間から隔離された環境の姉妹たちと、小説家くずれの中年男とのぎこちないやりとりが続く。
それぞれ性格の違う娘たちと辺見との会話は、テンポが良いとは決して言えないのだがそこに妙味があって、とぼけたコントのような味わいがある。しかしすがたを見せず、会話のなかにだけ登場する三女がキーパーソンであることが示されてくると、物語は次第に横溝正史ばりに変容してゆく。落としどころはカニバリズム、と言ってしまえばそれまでなのだが、血や手足など、生々しいものをまったく出さずに描くところが本作の旨みであろう。長女が「父の遺言だから」と、辺見に見せることを頑なに拒んだ本がどのようなものなのか、家庭教師の仕事を世話するにかこつけて、辺見にその本を入手するよう命じた恩師とは何者なのか。そもそも姉妹たちの父とは?
意を決して三女の部屋に向かった辺見は、もう二度と帰ってこない。しばらくして多賀家に男性の訪問客が。辺見役の宮崎が、今度はハンチング帽の似合う庭師として登場する。彼もやがてはすがたを消すことになるのだろう。
さまざまなことが、際どいあたりまで示されながら、すべては語られない。もどかしい、もの足りない気持ちはたしかにある。しかし手の届きそうな寸前で断ち切られる物語は、猟奇的な内容であるにも関わらず存外爽やかであり、ここに自分は嵌っているのである。
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