語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】推進派が牛耳る原子力規制庁 ~安井正也緊急事態対策監~

2012年12月29日 | 震災・原発事故
 (1)「原子力規制委員会」の売り物は、「推進勢力からの独立」だった。
 しかし、売り文句には発足当時から大きな疑問符がついていた。田中俊一・委員長を始め、5人のうち3人が「原子力ムラ」出身者であることが批判を浴びたのだ【注1】。

 (2)委員の出自とともに、いや、それ以上に大きな問題は、事務局組織「原子力規制庁」が原子力ムラの住民に牛耳られていることだ。これまでに強引に原子力推進行政を進めてきた経済産業省や文部科学省の役人がずらりと顔を揃えているのだ【注2】。
 その代表格が、事務方ナンバー3の安井正也・緊急事態対策監だ。
 安井は、京都大学工学部原子核工学科卒。経産省で原子力を推進した。2004年に発覚した原発の使用済み核燃料の直接処分に係る試算結果隠しに深く関わった。
 「再処理をせずに直接処分した時のコスト試算はないか」
という国会質問(福島みずほ・参議院議員/社民党代表)に対して、経産省資源エネルギー庁の幹部は試算の存在を否定する答弁を行った。しかし、その後、その存在が発覚した。虚偽答弁だ、と批判を浴びたが、試算の存在を知らないので虚偽答弁には当たらない(単に業務を管理する能力が無いだけ)、という不透明な決着をみた。
 この「虚偽答弁」の案を作成したのが、安井正也・原子力政策課長(当時)だ。安井は、この時、寺坂信昭・電力・ガス事業部長(当時。原発事故当時の原子力安全・保安院長でもある)とともに厳重注意の処分を受けている。
 実は、安井は「直接処分」コスト試算の隠蔽を主導していた。「世の中の目に触れさせないようにしろ」と部下に厳命したメモが存在し、関係者の証言と併せて、この事実が今年1月発覚した。【毎日新聞 2012年1月1日】【注3】
 全量再処理が国策だが、「直接処分」コスト試算が明らかになれば、直接処分が再処理より安価である(再処理19兆円の4分の1~3分の1以下ですむ)ことが判明し、政策変更を求める動きが加速したはずだった。再処理を巡り、2002年以降、東京電力と経産省の首脳らが再処理事業からの撤退を模索していた。安井は、「原子力ムラ」が撤退する動きを封じた形だ【注3】。
 「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」では、2004年5月に複数の委員から、直接処分のコスト計算を求める意見が出た。原子力政策課は分科会の担当課だったが、委員らに試算の存在を伝えなかった。分科会は、同年6月、19兆円を産業用、家庭用の電気料金に上乗せする新制度の導入案をまとめた。この結果、「国内全量再処理」の国策が堅持された(現行の原子力政策大綱)【注3】。

 (3)規制委員会発足以来、頻繁に記者会見などが行われている。しかし、安井はほとんどマスコミの前に姿を見せない。質問に答えない。
 9月の規制委員会発足時にも、ウィーンに出張し、原子力推進の国債組織、国際原子力機関(IAEA)の総会決議に関する調整や、天野之弥・事務局長の再選に向けた根回しをしていた、とされる。

 (4)規制庁において、安井に次ぐ幹部は3人の審議官だ。
  (a)桜田道夫・・・・東京大学工学部原子力工学科卒。資源エネルギー庁が長いが、規制に熱心だったわけではなく、規制委員会発足に向けた国会議員や記者との応答では、たびたび言葉に詰まり、事務局員が代わりに説明する局面も多い。「その資質を疑問視せざるをえない」【与党議員】
  (b)名雪哲夫・・・・文部科学省出身。旧・科学技術庁原子力局などでの勤務経験があるムラの住民。
  (c)山本哲也・・・・原子力・安全保安院からの横滑り。

 (5)規制庁において、450人の一般職員も、大半が文科省や保安院などでこれまで原子力行政に関わってきた役人の横すべりだ【注2】。
 その中には、電力会社や原発メーカー、電力関連企業など推進企業から旧組織に出稿していた人物が、そのまま「異動」した例も少なくない。
 これが、国会事故調による厳しい指弾を恐れ、報告書が出る直前に急いで自公民が談合修正して作った規制庁の実態だ【注4】。

 【注1】
【原発】規制委員会委員長候補は「原子力ムラ」の中心人物
【原発】原子力規制委員会委員案の違法性 ~欠格人事~
【原発】委員の欠格 ~原子力規制委員会の記者会見~

 【注2】
【原発】秘かに進行する全原発再稼働計画
【原発】天下り容認の規制庁人事 ~民自公修正談合~

 【注3】
核燃サイクル:直接処分コスト隠蔽 エネ庁課長04年指示 (毎日新聞)

 【注4】
【原発】天下り容認の規制庁人事 ~民自公修正談合~

 以上、水木守(環境ジャーナリスト)「安井正也緊急事態対策監 推進派が牛耳る原子力規制庁」(「週刊金曜日」2012年12月7日号)に拠る。

 【参考】
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【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~
【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~
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