労組書記長(←元)社労士 ビール片手にうろうろと~

労組の仕事している勤務社労士がもしや誰かの役に立ってるんかな~と思いつつ飲んだくれて書いてるっす~(* ̄∀ ̄)ノ■☆

「大陸交通事件」タクシー乗務員のクレジットカード手数料等の負担分等支払請求

2024-04-09 | 書記長社労士 労務管理

 他の判例を調べているときにたまたまに目に付いた判例で、ちょっと古い判令ながら、あまりにも気に入らなかったのでメモしておく。

大陸交通事件
タクシー乗務員のクレジット等の手数料負担分等支払請求(業務関連費用を労働者に負担させることの労基法24条1項違反該当性等)
東京地裁(令和3年4月8日)判決(控訴審である東京高判令4.1.13でも同旨、最1小でも上告棄却)

 タクシー運転手Xらが、給与から、①乗客がクレジットカードを利用したときのクレカ利用料金、②GPS搭載車や高級車の利用料金、③自分が起こした交通事故の賠償金の一部、を会社Yが給与から控除したことを無効、などとして争った事案。
裁判所は、①③と②の一部(GPS搭載車利用料金)について、歩合給の算定の基礎からクレジットカード手数料等の費用を控除して歩合給を算定したことは合理性を有するとして、Xらの請求を否定し、②の一部(高級車の利用料金)について肯定した。

 Xらの給与から控除できるとした理由は、基本給からその金額を丸ごと控除したのではなく、「歩合給を計算する過程で控除した」点にあるようだ。
歩合給は一種の成果主義であって、会社が得た収益に応じて計算されるものであり、クレカ手数料は、「会社が得た収益の金額を計算する過程で控除」されており、実際に売り上げた金額から税金や経費を控除した収益を「YとXらで分配する」という計算方法が、歩合給の考え方に一致している点が重視されたようだ。
したがって、「賃金全額払いの原則」(労基法24条1項本文)にも違反しないという判断。

 私たちタクシーで働く労働組合としては、この判決はわたしたちとは真逆なものだ。
今年3月のハイタクフォーラム厚生労働省要請でも、以下のとおり指摘している。
「事業者側が当然負担すべき経費を、運転者の賃金から控除して負担させていることや、営業的割引分を運転者に負担させている事業者はいまだ多く存在している。これらのいわゆる『運転者負担』は、改正タクシー特措法の附帯決議でも、解消を指摘されている。
運転者負担は、歩合給賃金の計算の基礎となる売り上げから控除されるので、労働基準法で禁止された賠償額予定や法令・労使協定で定められた以外の賃金控除には当たらないとの見解があるが、それは歩合給賃金計算上の手段であって、結果として、賃金からの賠償額控除、および労使協定で定められた以外の賃金控除となっている。」


 タクシー運転者の歩合給って、売上の何%ってことで、例えば運転者に売上の50%が歩合給として支給されるとすれば、会社の方にはその残り50%が収入として残る。
その残り50%の部分が、そのそも、車両費や燃料費、管理費、そしてこういったクレジットカードの手数料などの販売手数料、そして会社の利益を償うためのものであるのだから、歩合率を計算のもととなる売上から「会社が得た収益の金額を計算する過程で控除」という考え方で控除されるとしたら、それは二重取りではないか!
ということで、この判決には大いに疑問がある。
しかも、最近、運賃改定によって売り上げが上がっているのだが、それをもって事業者は、運転者の歩合給が増加しており、それを理由として春闘での賃上げを否定するだけでなく、それどころか、歩合率の引き下げを画策する動きが顕著になっている。
これは運賃改定を利用者に納得してもらうために「運転者の賃金改善」を一番に理由としていたことに反する。

 国土交通省は、2019年12月20日に、「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」や2019年4月から順次施行されている働き方改革関連法の趣旨を踏まえ、「タクシーの運賃改定の公示にあたっての留意事項」として「運賃改定実施後において、各事業者において、適切に運転者の労働条件の改善措置を講ずること。」という通達を発している。⇒https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000316.html
そして、そのフォローアップとして「各地方運輸局長は、事業者団体における労働条件の改善状況の公表の結果が、運賃改定の趣旨を逸脱すると認められるときには、その事実関係を公表するとともに、必要な指導等を行うこととする。」としている。
この通達を踏まえて、労使関係の訴訟ではなく「国土交通省の不作為として国賠訴訟を起こせないか」について検討していくのもありかと考える。

改正タクシー特措法の附帯決議(衆議院では13で、参議院は9で)
 一般乗用旅客自動車運送事業者は、歩合給と固定給のバランスの取れた給与体系の再構築、累進歩合制の廃止、事業に要する経費を運転者に負担させる慣行の見直し等賃金制度等の改善等に努めるとともに、運行の安全を確保し、拘束時間外に運転代行業務に従事すること等により安全な運転をすることができない運転者を乗務させることがないよう万全を期すること。


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【メモ】介護離職 4 類型⇒介護離職を防ぐために

2024-04-03 | 書記長社労士 労務管理

 一般社団法人 日本経済調査協議会の介護離職問題調査研究会がまとめた報告書「『介護離職』防止のための社会システム構築への提言~最終報告書~企業への調査結果から」。⇒https://www.nikkeicho.or.jp/new_wp/wp-content/uploads/kaigo-saisyu.pdf
この報告書では、ケアマネージャーを対象としたアンケートの回答に記載された「介護離職となった方(ケース)の概要」(自由記述)を詳細に分析した結果、「介護離職における定義(類型化)」を 4 類型に分けることができるとした。

①両立困難型介護離職
 「家族介護者は仕事を続けたいが、要介護者のケア等でやむなく離職するケース」とし、仕事と介護の両立に課題が生じ、やむなく介護に専念することを選択してしまうケース。
 例えば、「1 人では歩行が安定しておらず、常時見守りが必要。毎日デイに行くが、送迎時間に家族が仕事で不在になってしまい、ヘルパーを入れるにしても単位オーバーで金額的にも負担が大きい。」「認知症重度となり、24 時間、常に目が離せなくなり、離職したケース。」などが挙げられる。

②職場起因型介護離職
 「職場環境による背景が大きく、介護者が介護をきっかけに離職するケース」とし、「介護」というリスクが生じる以前に、家族介護者が職場に対して「職場の人間関係でストレスがある」「上司と合わない」などの悩みを抱えている状況下に、タイミングとして「介護」に直面し、「離職」に至るケース。
 例えば、「介護者自身が会社で問題を抱えている中、親に介護が必要となり、「介護」を理由に休職→退職した。」などが挙げられる。

③孤立型介護離職
 「要介護者及び家族が介護保険サービスを拒否しがちであるために介護離職するケース」とし、要介護者もしくは家族介護者が介護保険サービス等の利用を拒み、外部からの支援に頼ることができず、「介護」に専念せざるをえないことで、「離職」してしまうケース。
 例えば、「利用者の息子への依存が強く、他人ではなく家族に世話をしてもらいたいとの思いが強い。」などが挙げられる。

④心情型介護離職
 「介護者の要介護者に対する心情的・義務的な背景を要因として離職するケース」とし、介護者の要介護者に対する「心情的」な側面が強く、自ら介護しながら時間を共にしたいという気持ちから「離職」にいたるケース。一部、がん末期の介護ケースも含まれると考えられる。「③孤立型介護離職」と比べると、家族介護者が前向きに「介護」に取り組む姿勢が窺える。
 例えば、「介護者も家族としての責務を感じ離職している。」「ターミナル期、夫のそばで過ごすため離職。」などが挙げられる。


 そして、中間報告書では介護離職を大きく 4 つに定義づけ(分類)したが、それぞれ仕事を辞める分岐点(時間)、ここでは「X 点」と規定するが、この時期をできるだけ引き延ばしていくことが、「介護離職防止」において重要なポイントであると考える、としている。
この「X 点」を右側に引き伸ばして「仕事と介護を両立する期間」を、できるだけ長くしていく方策を考えていくことが重要となる。

〇一概に「介護離職はダメ」というわけではない。
しかし「介護離職するしかないじゃないか」というのであれば、ほかに選択肢もあるはず。
その選択肢を介護者は見つけられない、わからない、探せない、結果「介護離職」という選択肢しか見えなくなっている。

〇「介護は家族がやるもの」「介護は最後の親孝行」などという考え方も、いまはまだ強く根付いているが、これが「アンコンシャスバイアス」である、ということに気付くことが、介護離職防止の第一歩。

〇介護離職防止対策、仕事と介護の両立、両立支援は「介護」の問題ではなく労働問題であり、介護と介護の両立支援はキャリア支援。

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【メモ】性的マイノリティに対する企業対応の課題

2024-04-01 | 書記長社労士 労務管理

 2024年冬ドラマで放映されていた「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」 について、毎回、とても勉強になるなぁと思い一生懸命観ていた。
「沖田誠48歳。世間の常識・偏見で凝り固まった彼には“最近の若者"が理解できない。上司にお茶を注がない女性、メンズブラ愛用の部下、そして可愛いものが好きな息子…。そんなある日、ゲイの青年・大地と出会う。──人としての成長を誓うおっさんは、無事“自分の中の常識"をアップデートできるのか!?」ってなお話しなんだが。
と、そんな折、東京社労士会の会報で良記事が掲載されていたので、部分的にメモ。

LGBTQに関する課題のうち、同性パートナーを巡る課題(戸籍上の婚姻関係となれないことによる問題)とその「養育する子」について。
⇒社内規定で検討可能か?⇒現行制度では対応が困難か?⇒全ての従業員に対し、より幅広く、平等に処遇できるか?(セクシャリティを理由に特定の従業員を優遇するのではなく)

社内制度上の配偶者をどこまで拡大して認定できるか?⇒何を以て配偶者であることを確認することが出来るか?⇒配偶者の範囲と確認書類
【男女間】①法律婚、②事実婚 ⇒法令や判例では異論なく、企業実務でも浸透しつつある ⇒世帯全員の住民票をはじめとした各種公的機関の証明書類を用いて確認
【同性間】③自治体の同姓パートナーシップ制度 ⇒公的機関が発行した宣誓書という形が整っている⇒社内手続き上の確認書類として活用できる。
④ ③に近しいもの ⇒❶居住する自治体で制度を導入していなければパートナーシップ証明書は取得できない、❷18~19歳の場合は証明書を発行していない場合、❸アウティング等を恐れて証明書を取得しない場合 ⇒パートナーシップ証明書の提出を必須とすることは、当事者に過大な負担を課す可能性⇒確認書類の代替手段があったほうが望ましい?自己申告で認める?

社内規定への反映
家族手当 ⇒同性パートナー、さらに踏み込んでその「養育する子」
住宅手当、社宅 ⇒現金給付は容易、現物給付である社宅は?
単身赴任手当、帰省手当 ⇒特に海外赴任では、現地法や宗教等の事情
慶弔関係(結婚祝金、死亡弔慰金) ⇒源泉徴収が必要な場合、法律婚と区別する必要はない
休暇・休職制度 ⇒法令に定めがない制度は企業で自由にアレンジ可能⇒育児休業・介護休業は法令における制度要件と合致させている場合、雇用保険による給付金は同性パートナーについて支給対象外⇒休業取得要件を給付金支給要件に合致させる必然性はない
緊急連絡先 ⇒アウティングへの配慮
※留意事項 申請時の関係者は必要最低限の者にとどめておくことが望ましい⇒申請フローにLGBTに関する一定の理解がない者が含まれる場合、必要以上に情報開示を求めることは直接・間接的なカミングアウトやその強要になりかねない場合

社内対応の限界
労働保険、社会保険、税法上の取扱い ⇒現状、LGBTQ当事者を前提とした設計にはなっていない
社宅 ⇒集合住宅で同僚も居住する場合、見えないハードルになりえる
海外赴任 ⇒法令、宗教等による制約
海外赴任中に身分関係が生じた者 ⇒海外で同性婚が認められているケースがあることから、海外赴任者が現地で婚姻した場合、帰任時の処遇
遺族給付 ⇒法定相続人との競合⇒遺言等で同性パートナーへの分与を希望したとしても遺留分の問題⇒団体保険や厚年基金、確定給付企業年金、確定拠出年金
パートナーシップ解消時の対応
貸付金清算

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【メモ】固定残業代制の有効性可否

2024-03-05 | 書記長社労士 労務管理

固定残業代(定額残業代)が時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金に対する有効な弁済と認められない場合
①割増賃金を一切払っていないことになる
②固定残業代部分が割増賃金の計算基礎となる賃金(労基法37条1項、労規則21条)に組み込まれることになるため、1時間当たりの単価が跳ね上がる
③裁判に至れば、未払残業代全額を上限とする付加金の制裁(労基法114条)を受けるリスクが生じる

固定残業代による支払いをめぐり裁判例で検討されてきた割増賃金支払いの有効要件、判断要素
①時間外労働や深夜労働の対価(割増賃金)の趣旨で支払われていることの合意がある⇒「対価要件」
②通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別できる⇒「明確区分性」
③雇用契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべき

〇高知観光事件【最小判平6・6・13】
 歩合給で雇用されているタクシー運転手に対する時間外および深夜労働の割増賃金につき、歩合給にくみ込んで支払っているという会社側の主張に対し、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外および深夜の割増賃金に当たる部分とを判別できないとして、右割増賃金の支払いが命ぜられた事例。
 割増賃金不払いに対する附加金の請求につき、二年を経過したものを除き認容された事例。
〇テックジャパン事件【最小判平24・3・8】
 基本給を月額で定めた上で月間総労働時間が一定の時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において,使用者が,各月の上記一定の時間以内の労働時間中の時間外労働についても,基本給とは別に,労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの)37条1項の規定する割増賃金の支払義務を負うとされた事例
〇日本ケミカル事件【最小判平30・7・19】
 雇用契約において時間外労働等の対価とされていた定額の手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断に違法があるとされた事例


基本給や出来高給(歩合給や能率給など)を含め、通常の労働時間の賃金として支払われるべきものを固定残業代などの割増賃金に振り分けて支給することで割増賃金の支払いを抑えることは労基法37条の趣旨に反するといえる。
(労基法37条の趣旨⇒割増賃金を支払わせることによって時間外労働等を抑制し、労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに労働者への補償を行う趣旨)

国際自動車事件二次上告審事件【最小判平29・2・28】
 歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であるとして未払賃金の請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例


対価性の判断⇒当該手当の名称や算定方法だけではなく、労基法37条の趣旨を踏まえ諸手当の位置付け等にも留意して検討しなければならない
⇒使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況など諸般の事情を考慮し、それが労基法37条の趣旨にかなる割増賃金として位置付けられるのかを実質的に検討し、同条の趣旨にかなわない割増賃金なるものは、その対価性を否定する
⇒割増金の額そのままが歩合給①の減額につながるという仕組みが、当該揚高を得るにあたり生じる割増賃金をその経費としてみたうえで、全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいと評価


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【メモ】経産省職員事件 最小判令5・7・11

2024-02-05 | 書記長社労士 労務管理

 1月18日に「介護離礁を防止するために~知っておこう、家族のこと・制度のこと・取り組みのこと~」をテーマに近鉄グループ労組の労働講座で80分間の講演させてもらったが、自分は第2講座で、第1講座は「LGBTQ+」に関する内容だった。
その中で「経産省職員事件【最小判令5・7・11】」が取り上げられていたので、この裁判例についてメモしておく。

経産省職員事件【最小判令5・7・11】 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191

 生物学的な性別が男性であり性同一性障害である旨の医師の診断を受けている一般職の国家公務員がした職場の女性トイレの使用に係る国家公務員法86条の規定による行政措置の要求は認められない旨の人事院の判定が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとされた事例

本件判定部分の違法性について
①職場のトイレ使用制限は、原告を含む職員の服務環境の適正を確保する見地からの調整を図ろうとしたものであるが、原告は性同一性障害である旨の医師の診断を受けているのであるから、原告はトイレ制限により、日常的に相応の不利益を受けている
②原告は、健康上の理由から性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与を受け、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている
③現に、原告が本件説明会の後、本件執行階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない
④本件説明会において、原告が本件執行階の女性トイレを使用することによって、担当職員から数名の女性が違和感を抱いているように見えたに留まり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない
⑤本件説明会から本件判定までの約4年10か月の間、経産省が特段の配慮をすべき他の職員が存在するか否か調査を行ったり、処遇の見直しが検討されたことがうかがわれない。(1
以上によれば、遅くとも本件判定時においては、原告が女性用トイレを自由に使用してもトラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに原告を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。
したがって、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。

本判決は、措置要求に係る人事院判定の取消訴訟であり、その審査に関する原審判決の考え方を否定した点で重要
⇒ 民間企業を含めて影響が及ぶ点としては、職場におけるトランスジェンダー職員とシスジェンダー職員の利害調整に係る判断であろう。
⇒ トランスジェンダー職員とシスジェンダー職員の労働現場における利益衡量は、具体的な事情を踏まえた判断でなければならない。
⇒ 両者間の利益衡量・利害調整を感覚的・抽象的に行うことが許されるべきではなく、客観的かつ具体的な利益衡量・利害調整が求められている。
⇒ そしてその調整は、一旦処遇を決定すればそれで終わりというものではなく、その後も研修等を通じた職場の理解の増進や、必要に応じた処遇の見直し等、人事担当者等にはより適切な利害調整を継続的に図っていく責務がある。

業務への示唆
〇自認する性別に即して社会生活を送ることへの尊重
⇒本判決は、民間企業を含む、職場におけるトランスジェンダー職員とシスジェンダー職員の利害関係のあり方を示している⇒裁判所は戸籍上の性別にかかわらず、自認する性別に即した社会生活を送ることが(法的とまで言えなくても)重要な利益であることを示している。
〇具体的事情に基づいた判断と調整
⇒トランスジェンダー職員とシスジェンダー職員の利害調整の基礎となる事実は、具体的なものでなければならない。⇒担当者の主観による抽象的な判断を基準として、トランスジェンダー職員のみに制約を課す方法は適切でない
〇法専門家の知識の習得と職場の理解増進の必要性
⇒「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が2023年6月23日に成立 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC1000000068 ⇒第6条に事業主の努力義務を規定

第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

トランスジェンダー職員の処遇に関するこれまでの下級審の判例
S社解雇事件【東京地決平14・6・20】 女性の服装・化粧を禁止する服務命令違反を理由とする懲戒解雇を無効とした。
淀川交通(仮処分)事件【大阪地判令2・7・20】 タクシー乗務員の化粧を理由とする就労拒否の正当性を否定した。

参考判令
性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件【最大判令5・10・25】
トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変える際、生殖能力をなくす手術などを求める法律の要件(性腺除去要件)が、憲法に違反するかどうかが争われた家事審判の特別抗告審の決定で、最高裁は、生殖機能をなくす手術を求める要件は「憲法違反」と判断したが、外観要件については判断しなかった。


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令和6年能登半島地震に係る雇用調整助成金の特例措置について

2024-01-23 | 書記長社労士 労務管理
 第203回労働政策審議会職業安定分科会は、所用により欠席したが、議題は「雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱について(諮問)」で、中身は「令和6年能登半島地震に係る雇用調整助成金の特例措置」についてだった。⇒特例措置の概要はこちら


1.改正の趣旨
 今般の令和6年能登半島地震の発生に伴い、経済上の理由により、急激に事業活動の縮小を余儀なくされた場合における雇用維持の支援を図るため、雇用調整助成金制度の特例措置を講ずることを内容とする雇用保険法施行規則(昭和 50 年労働省令第3号)の改正を行う。
2.改正の概要
 雇用調整助成金について、対象期間の初日が令和6年1月1日から起算して6月が経過する日までの間にあり、かつ、令和6年能登半島地震に伴う経済上の理由により、急激に事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して、以下の特例措置を講ずる。
【全国】
○ 過去に雇用調整助成金を受給した日数がある場合について、その日数を受給可能日数から減じないこととする。
○ 本特例措置の対象として雇用調整助成金が支給された休業等の日数を、後に別途受給する場合の雇用調整助成金に係る受給可能日数から減ずることとされている過去の受給日数に含めないこととする。
○ 継続して雇用された期間が6か月未満の雇用保険の被保険者について支給対象とする。
○ 過去に雇用調整助成金を受けたことがある事業主については、対象期間が満了した日の翌日から起算して 1 年を経過していない場合について支給対象とする。
【対象地域(新潟県、富山県、石川県及び福井県)】
○ 休業等又は出向に係る助成率を2/3(中小企業事業主にあっては4/5)とする。
○ 休業等規模要件(所定労働延日数に占める休業等の実施日の延日数)を1/30(中小企業事業主にあっては1/40)とする。
○ 1年間の支給上限日数を 100 日から 300 日とする。


【地震に伴う「経済上の理由」とは】
地震による直接的な被害そのものは経済上の理由に当たりませんが、災害に伴う以下のような経営環境の悪化については経済上の理由に当たり、それによって事業活動が縮小して休業等を行った場合は助成対象となります。
(経済上の理由例)
・取引先の地震被害のため、原材料や商品等の取引ができない
・交通手段の途絶により、来客がない、従業員が出勤できない、物品の配送ができない
・電気・水道・ガス等の供給停止や通信の途絶により、営業ができない
・風評被害により、観光客が減少した
・施設、設備等の修理業者の手配や修理部品の調達が困難で、早期の修復が不可能

【リーフレット】
・令和6年能登半島地震の災害に伴う雇用調整助成金の特例措置を実施しています ⇒https://www.mhlw.go.jp/content/001188847.pdf 
・出向を活用し雇用の維持を図る事業主を支援します (令和6年能登半島地震に係る特例措置) ⇒https://www.mhlw.go.jp/content/001195319.pdf
【ガイドブック】
・雇用調整助成金ガイドブック(令和6年能登半島地震特例用) ⇒https://www.mhlw.go.jp/content/001195139.pdf


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令和5年版社会保険労働保険手続便覧を入手(なんと9年ぶり😅)

2023-12-13 | 書記長社労士 労務管理

 うちの職場で任継の手続きでトラブルがあって、協会けんぽから「一度処分したらもうどうしようもないので審査請求してください」と言われたってことで、そこで自分に相談が来た。
詳細を聞くと「ん?」がいくつかあって「それ、ツッコみどころあるやん」って思ったので、審査請求を前提として確認しておきたい相談事跡もあるし、協会けんぽ支部の担当者に会いに行こうかと、自分はうちの担当者を連れて行ってみた。
経過については細かく書かないが、保険者の瑕疵を順番に確認しつつ、「それでね、念のために言っておきますが、審査請求決定待たずとも、職権で処分変更できるんですよ」って担当の方にアドバイスしたら、「え?そうなのですか!いずれにしても、相談事跡については確認してお知らせしますし、上長に今回処分の経過を報告し相談してみます。」とのこと。
はい、後日電話があり、処分変更してくれました。

 で、「令和5年版社会保険労働保険手続便覧」。
ずっと前からうちの担当者にこれを持っとけ、購入しておけと、アドバイスしていながら、「ネットで手続きはわかるので」って買っていなかったが。
いやいや、このアナログの便覧でちゃんと確認すれば、この手続きは『どういうことか』ってわかった上での手続きに繋がるよ」って改めてアドバイスした。
そうすると、「はい!買います!」ってことにようやくなった。
今回の件の成功報酬として、+①で自分の分も買ってもらいました❗
これ、書店では売ってなくて「株式会社 創新社」から銀行振込か代金引換で購入しないといけないから面倒くさかったのよ。
と言いうわけで、平成26年版から、9年ぶりに最新のに更新…とほほ😅

社会保険の手続きがひとりでミスなくできる本 [ 宮武 貴美 ]

初心者からベテランまでフォロー。
 必要な情報がすぐ探せる! 事務処理能力がぐんぐんアップする!
社会保険の手続きは、総務担当者にとって避けては通れない基本業務のひとつ。
とはいえ、専門家を目指すわけでもない限り、一から十まで社会保険のすべてを知る必要はありません。たくさんの情報をアレもコレもと頭に詰め込み過ぎると、本当に覚えておくべき内容が身につかないこともあります。
そこで本書は、「頻繁に行う手続き」から「特別なタイミングで行う手続き」まで、重要かつ必要な情報を厳選。
実務経験に乏しい人が、自力でスピーディーに手続きできるように、ベテラン社員さんが普段している「ムダのない正しい事務のやり方」を、先輩社員・後輩社員の会話形式も取り入れながら、わかりやすく解説しています


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【数字メモ】企業規模別の法定外福利費・2024年3月卒求人倍率

2023-09-18 | 書記長社労士 労務管理
 興味深い数字を見つけたんでメモしておこう。
これってめっちゃ深くて、求人戦略の一考になるかも❗
ってことで使える数字。

福利厚生関連費用の推移
法定福利費 46456円(H18)⇒44770円(H22)⇒47693円(H28)⇒50283円(R3)
法定外福利費 27517円(H18)⇒20813円(H22)⇒18834円(H28)⇒15955円(R3)
退職給付費用 9555円(H18)⇒8316円(H22)⇒6528円(H28)⇒4882円(R3)

法定外福利費 企業別推移
1000人以上 13670円(H18)⇒13042円(H22)⇒9237円(H28)⇒5639円(R3)
300~999人 8745円(H18)⇒7012円(H22)⇒5858円(H28)⇒4567円(R3)
100~299人 6496円(H18)⇒5579円(H22)⇒4963円(H28)⇒4546円(R3)
30~99人 5707円(H18)⇒4587円(H22)⇒3883円(H28)⇒4414円(R3)
※厚生労働省「就労条件総合調査結果」

2024年3月卒従業員規模別求人倍率
全体/1.71倍 5000人以上/0.41倍 1000~4999人/1.14倍 300~999人/1.41倍 300人未満/6.19倍
※リクルートワークス「第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)」https://www.works-i.com/research/works-report/item/230426_kyujin.pdf


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令和4年10月に、短時間労働者の適用要件の1つである「勤務期間1年以上見込み」の要件が撤廃された。

2023-08-29 | 書記長社労士 労務管理

 この図を使って「令和4年10月に、短時間労働者の適用要件の1つである『勤務期間1年以上見込み』の要件が撤廃された。
これにより短時間労働者の勤務期間要件は一般の被保険者と同様になり、雇用期間の見込みが2か月超の場合などは適用対象となった。」という説明をとある会議でしたら…
「勤務期間要件は一般の被保険者と同様」について、どういうこと?と問われた。

 健康保険・厚生年金では、適用事業所に使用されている人は、国籍・性別・年齢・賃金の額などに関係なく、次の「適用除外」に該当する場合を除いて、すべて被保険者となるが、以下の労働者は、除外されている。

〇日々雇い入れられる者で1か月を超えない人
〇2月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの
〇事業所又は事務所で所在地が一定しないものに使用される者 ⇦サーカスなど
〇季節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除く。) ⇦清酒の醸造、製茶、製氷など
〇臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6月を超えて使用されるべき場合を除く。) ⇦博覧会やイベントなど

 したがって、2か月を超える雇用期間であって、◎週労働時間20時間以上、◎月額賃金8.8万円以上、◎学生でない、の方は、健康保険・厚生年金保険の適用対象となる。
また、雇用期間が2か月以内であっても、
◆就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
◆ 同一事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合
のいずれかであれば、適用対象となる。

 ちなみにバス・タクシーの運転者は、「常時選任運転者」でないとだめだ、となっているが、これはパートやアルバイトはダメということではなくて、以下の4条件に該当しなければ、有期雇用でも、短時間勤務でも、アルバイト・パートでも、バス・タクシーの運転者になれる。

旅客自動車運送事業運輸規則
第三十六条 旅客自動車運送事業者(個人タクシー事業者を除く。次条第一項、第二項、第五項及び第七項において同じ。)は、次の各号のいずれかに該当する者を運転者等として選任してはならない。
一 日日雇い入れられる者
二 二月以内の期間を定めて使用される者
三 試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至つた者を除く。)
四 十四日未満の期間ごとに賃金の支払い(仮払い、前貸しその他の方法による金銭の授受であつて実質的に賃金の支払いと認められる行為を含む。)を受ける者



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厚生労働省 賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)を公表

2023-07-31 | 書記長社労士 労務管理
 自社で働いてくれている人たちの健康を守り働いてくれた時間に適正に賃金を払い、法令を守り、商慣習を遵守し、まじめにやっている会社。
働いている人のやる気を搾取しこき使い、働いた時間で支払わなくてはならないはずの賃金を支払わず、法令を守らず、商慣習を逆に悪用する会社。
両社が同じ土俵で商売すれば、後者が勝つに決まっている。
今、話題のビッグモーターしかり、電通での若い女性社員の過労自殺であったり、北海道のベルコ事件であったり、アリさんマーク引越社「追い出し部屋」事件であったり、ロイヤルリムジンの金子健作であったり、そのほかいろいろあるが、ちゃんとしていない会社が勝ち組になり、働く人の犠牲でもって、その経営者や役員たちが私腹を肥やすことは許されない。
「悪貨が良貨を駆逐する」ってのはあり得ない、フリーライダーに負けたくない。
あかん会社は、全部、すみやかに各業界から退出、撤退、解散、清算していただくように、そして経営者らは立件して司法の場で断罪されるように、監督官庁にはビシバシとしっかりやってもらいたい!
 
 7月27日、厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめ、監督指導での是正事例や送検事例とともに公表した。⇒https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34397.html
 この公表は、これまで、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計してきたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計することとし、これに伴い、集計内容を変更している。


1 令和4年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額
 ⑴ 件数 20,531 件
 ⑵ 対象労働者数 179,643 人
 ⑶ 金額 121 億2,316 万円
2 労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案(上記1)のうち、令和4年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況
 ⑴ 件数 19,708 件(96.0%)
 ⑵ 対象労働者数 175,893 人(98.0%)
 ⑶ 金額 79 億4,597 万円(65.5%)
※1 令和4年中に解決せず、事案が翌年に繰り越しになったものも含まれる。
※2 倒産、事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも含まれる。
※3 不払賃金額の一部のみを支払ったものも含まれる。


 厚生労働省は、「『パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について』(令和3年12月27日閣議了解)などに基づき、賃金不払が疑われる事業場に対して、迅速かつ的確に監督指導を実施するとともに、度重なる指導にもかかわらず法令違反を是正しないなど、重大・悪質な事案に対しては、送検を行うなど厳正に対応」としている。

パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について
3.労働基準監督機関における対応
(2)賃金不払をはじめとした基本的な労働条件の履行確保を図るため、労働基準監督機関による定期監督(年間 10 万事業場以上に実施)において、賃金引上げの意向や労働条件の改善状況を確認するとともに、労使において賃金の引上げを行うとの取決めを行ったにもかかわらず、賃金支払が履行されず、労働基準監督機関による度重なる指導でも是正しない事業場や、定期賃金や割増賃金を適切に支払わず、同様の法違反が繰り返される事業場については、司法処分(※)を含め厳正に対応する。

(※)事業主が労働基準関係法令に違反し、これが重大または悪質な場合に、労働基準監督官が刑事訴訟法(昭和 23 年法律第 131 号)に基づく司法警察員として捜査を行い、検察庁に送検すること。


 監督指導による是正事例としては、
〇「労働時間の適正把握の阻害」(労働時間は、労働者自身が始業・終業時刻等をパソコンに入力する方法(自己申告制)により把握していたが、パソコンの使用記録や製造機械の作業記録と自己申告で残業時間として申請された時間に乖離が認められた)
〇「労働時間記録と労働実態の乖離」(労働時間は、出退勤時刻を勤怠システム、残業時間は自己申告により把握していたが、勤怠システムによる出退勤時刻の記録と自己申告により残業時間として申請された時間に乖離が認められた)
〇「労働時間記録と労働実態の乖離」(労働時間は、タイムカードにより出退勤時刻を把握し、残業時間は残業申請により把握していたが、聴取調査において、管理者が出退勤時刻と残業申請の時刻に乖離があっても労働者への確認が不十分なまま黙認していた)
〇「労働時間の適正把握の阻害」(労働時間は、出勤簿に始業終業時刻を記入し、残業時間は残業申請書により把握していたが、出勤簿に記録されている始業時刻前や終業時刻後に、パソコンの使用記録があり、労働者から聴取したところ、労働時間記録とパソコンの使用記録との乖離が認められた)
が示されていた。

 送検事例としては、
◆「月20時間を超える時間外割増賃金を支払わなかった疑い」(事務所が時間外労働の把握のために使用していた「勤務記録書」上の労働時間と、業務で使用していたPCの使用記録との間に、大幅な乖離があることが確認された。さらに、事務所では、時間外割増賃金を支払う上限を月20時間までとする制度を運用。一方PC等の記録等の分析では、毎月50時間~80時間程度の時間外労働を行っている実態が確認されたが、月々の時間外割増賃金は一律20時間分にカットして支払っていた)
◆「時間外割増賃金を支払わず、監督官に虚偽の陳述をした疑い」(36協定による限度時間を超えて、月に113時間から123時間の時間外・休日労働の実態があり、時間外・休日労働の割増賃金約300万円を所定期日に支払っていないことが疑われた。さらに、前回の監督指導でも同様の実態があり、繰り返し違反が疑われた。また、事業主は、臨検した労働基準監督官に対し、労働時間の内容など虚偽の陳述をし、虚偽の内容を記載したタイムカードや賃金台帳を提出していた)
が示されていた。


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健康保険・厚生年金における永年勤続表彰の金銭の取扱いがようやく明確になった❗

2023-07-20 | 書記長社労士 労務管理

 これまで、長期勤続者に対して、表彰金や報奨金等を支払う場合の金銭が、報酬等に該当するか否かがこれまではっきりしなかった。
しかし、このたび「「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに 関する事例集」の一部改正」によって明確にされた。
➡事務連絡(令和5年6月27日) https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T230629T0010.pdf

問1「報酬」・「賞与」にはどのようなものが含まれるか。
(答)「報酬」及び「賞与」(以下「報酬等」という。)は、健康保険法第3条第5項及び第6項(厚生年金保険法第3条第1項第3号及び第4号)において「労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」と規定されており、労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのものを包含するものである(『健康保険法の解釈と運用』(法研)より)。

問3 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
(答) 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
≪永年勤続表彰金における判断要件≫
① 表彰の目的 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準 勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態 社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。


 ちなみに、労働保険は「年功慰労金」、「勤続褒賞金」は賃金としないものとされているが、源泉所得税の関係では、少し取り扱いが違うので注意が必要だ。

タックスアンサー(よくある税の質問) No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき
 創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰に当たって支給する記念品などは、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。
なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。
 永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用
(1)その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
(2)勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
(3)同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。


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岡崎教行弁護士「基本がわかる!人事労務管理のチェックリスト まずは簡単な自社診断からはじめよう!」

2023-03-23 | 書記長社労士 労務管理

 コロナ禍で、ずいぶん長いことお目にかかれていないが、友人の(だと思っている)岡崎教行弁護士が出版され、わざわざ私にも献本してくださった「基本がわかる!人事労務管理のチェックリスト まずは簡単な自社診断からはじめよう!」。
同封されていたお手紙には「この書籍が届きましたら、是非とも、皆様方の通勤のバッグに入れていただき、カバーをしないで電車の中で読んでいただければありがたいなと思います(笑)」と書かれていたが、ごめんなさい、私は事務所で仕事の合間に息抜きとして読ませていただきました(汗)


 この書籍について、「今回の書籍のコンセプトは、人事労務の問題を深掘りするというものではなく、幅広く、労務リスクを洗い出すことにあります。」「注意してほしいのは、この一冊で労務管理ができるものではないという点です。この書籍はあくまで、労務管理に取り組むに当たっての導入に過ぎません。自社に何が足りていないのかをあぶり出すためのものです。」と岡崎さんが書かれている通りで、
全部を読んでみて、
自社や相談者の就業規則などの規定を、この本と突き合わせてみて、その突き合わせた就業規則などの規定に、ちゃんと書かれているか、違うことが書いてあるのか、違うならなぜ違うのか、足りていないのか、足りていないなら足したほうがいいのか、そういった使い方をすればいいなと思う。
岡崎教行弁護士ブログのこの本に関する記事⇒基本がわかる!人事労務管理のチェックリスト

 細かくは書けないが、自分がマーカーした箇所を【メモ】しておくけど、「なんのこっちゃ?」ってなった方は、ぜひ、本書を手に取って読んでみることをお勧めします。

1. 募集・採用
〇リファラル採用 従業員に対して、賃金、給料その他これらに準ずるものを超えて、「報酬」を与えられたと評価されると違法になるので、「報酬」と評価されないために、給与明細に明示して「賃金」として扱う、賃金規定にリファラル採用が成功した場合に支払う金額を明示する方法も考えられる。
その被用者で当該労働者の募集に従事するものには該当しないと、賃金として支払う、とは評価できないことになる可能性もある。
〇入社前研修 基本的には義務とすることはできず、また、不参加であったからといって不利益を課すこともできないため、労働時間には該当しないと評価してよい場合が多いと思う。

2. 試用期間
〇募集時における試用期間の明示 平成30年1月1日の改正職安法により追加。
〇使用者が都道府県労働局長の許可を得た場合には、最低賃金の減額の特例が認められる。(最長6か月を限度に、減額率は当該労働者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定め、上限は20%)
〇試用期間の延長 試用期間延長後の勤務状況に問題がなかった場合、試用期間延長前の事由のみをもって本採用を拒否することはできないという点に留意。
〇有期契約労働者に対して試用期間を設けることの是非 通常の解雇よりハードルが上がってしまい、試用期間を設ける意味が実質上ないということになりかねない。

3. 就業規則
〇就業規則の記載事項 使用者の守るべき規律を記載するべきものではない。
平成10年の労働基準法改正により今では、どのような事項でも別規程とすることが可能。
〇過半数代表者の適格性 ❶適式に選出されたとはいえない過半数代表者が記載した意見書は無効 ⇒ ❷就業規則の作成あるいは改定における過半数代表者からの意見聴取をしていないという取扱いになり、罰則(30万円以下の罰金」の対象となる ⇒ ❸過半数代表者が適式に選出されないと、労使協定も適式に締結されていないということになってしまい、例えば36協定では、違法に時間外労働、休日労働をさせたとして罰則の対象となる ⇒ ❹変形労働時間制や事業場外みなし労働時間制を労使協定で導入している場合には、それが否定され、未払い賃金が発生してしまう事態も想定される
〇就業規則の周知 留意が必要なのは、「事業場」ではなく、「各作業場」とされている点。例えば、一つの事業場に建物が二つあった場合には、建物ごとに就業規則の提示などをする必要がある。
就業規則の周知がなければ、当該就業規則の内容をもって従業員を拘束することはできない。

4. 賃金
〇賃金支払いの5原則 令和5年4月1日以降、一定の要件を満たした場合には、従業員の同意を得た上で、賃金移動業者の口座への賃金支払いが認められることになるが、仮想通貨での賃金支払いは認められていない。
〇給与明細 労働基準法には定めがないが、所得税法が、給与を支払う者は給与の支払いを受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないと定めている。
〇賃金控除協定の締結 実務上、退職金からの控除を定めていない例があるので、それも規定しておく必要があるだろう。
〇固定残業代制度 ❶残業代の趣旨で支給されていること(対価性)、❷残業代部分と通常の賃金とが判別できること(明確区分性)、❸不足額を清算する合意ないし取り扱いの三つの要件とされそうだが、現在の裁判所の扱いは、❸は要件とせずに、❶および❷のみを要件としているといわれている。
固定残業代が無効と判断されると、残業代の単価が大きくなることにより、支払わなければならない金額が膨れ上がるというリスクがある。
賃金規定に固定残業代として手当を支払うと書いてあったとしても、それだけでは認められず、結局は、実態を見られる、つまり、それが本当に残業代の趣旨で支払われているか確認するということになる。
〇退職金 退職金規定には、自己都合または会社都合がどういった意味の概念なのか明記しておいたほうが無用な紛争を招かない。

5. 労働時間・休憩時間
〇事業場外労働 みなし労働時間を定めるにあたり、労働時間の全部を事業場外で勤務した場合と一部を事業場外で勤務した場合とで、明確に分けて定めておいたほうがよい。

6. 休日・休暇、時間外・休日・深夜労働
〇年次有給休暇の付与 客観的要件充足によって当然に成立する年次有給休暇の権利と、その目的物を特定するための時期指定権とは、相互に明確に区分される。
〇管理監督者 部門全体の統括的な立場にあるか否かという観点からの検討がされる傾向にある。

7. 降格、異動・出向

8. 有期労働契約
〇令和4年3月に公表された「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告」では、有期契約労働者の無期転換権に関し、使用者に、無期転換申込権の要件を満たす従業員に対して無期転換申し込みの機会を通知するよう義務づけることが適当とされ、今後、改正により追加される可能性がある。

9. 育児・介護

10. 懲戒処分
〇懲戒事由をまとめて包括的に定め、懲戒処分の種類とは対応させないで定める方法が、実務上運用しやすく、また適切。
〇形容詞・副詞を懲戒処分の規定に用いることは、訴訟の場では、懲戒処分が有効となるためのハードルを上げてしまうほか、無用な争点を生み出してしまう。
〇まれに、懲戒事由の一つとして、「服務規律に違反したとき」が抜けていることがある。
〇まれに、犯罪行為に関する事項として、「刑罰法規に違反し有罪が確定したとき」と定めているものを見掛ける。無罪推定の原則をそのまま具現化したものと思われるが、こうした表現は避けたほうがよい。
〇懲戒処分前の自宅待機 従業員の賃金請求権が消滅するのは、例えば、自宅待機としなければ、事故の発生や不正行為の再発の可能性が高い場合等、当該従業員の就労を許容しないことについて実質的な理由が認められる場合等に限られると解されている。(京阪神急行電鉄事件 大阪地判 昭37.4.20、日通名古屋製鉄事件 名古屋地判 平3.7.22)
〇懲戒処分に当たっての手続き上の留意点 会社は、懲戒処分を行うに際して、就業規則、労働協約等で定めた手続きに拘束され、その手続きを履践しなければ、懲戒処分は無効と判断されることになる。
 それでも、懲戒委員会を設置するという場合、❶懲戒処分を決定する機関なのか、懲戒処分についての意見を具申する機関(諮問機関)なのかを明らかにしておく、❷懲戒委員会の構成員、構成員が出席できない場合の対応、招集手続き、決議方法については少なくとも定めておく。
〇懲戒処分通知書の作成の留意点 適用される条項についても、記載を間違ったり、漏れがあったりすると、懲戒処分が無効ともなりかねないので、慎重に確認の上、記載しなければならない。
〇懲戒処分の公表に当たっては特段の配慮が必要。

11. ハラスメント
〇ハラスメントが発生した場合の法的リスク ❶損害賠償責任、❷労災、❸レピュテーションリスク(会社に関するネガティブな情報が世間に広まり、会社の信用やブランドが毀損されることによって生じる損失リスク)、❹進退両難の地位に陥る

12. 休職
〇私傷病休職 欠勤を休職要件とする場合、その期間をどの程度にするか、欠勤期間中の休日の取扱い、欠勤が断続的な場合の取扱いに留意。就業規則に休職期間を延長できる旨の定めを入れておくべき。

13. 定年退職・定年退職後再雇用
〇定年退職後再雇用者の処遇 X運輸事件(奈良地判 平22.3.28)、トヨタ自動車ほか事件(名古屋高判 平28.9.28)、九州総菜事件(福岡高判 平29.9.7) 高年齢雇用安定法の観点からは、無年金、無収入の期間の発生を防ぐという趣旨から、本来もらえることが想定されていた年金額を賄えるだけの賃金であれば、無効とは評価されないと解釈すべきと考える。

14. 退職・解雇
〇就業規則の退職事由の一つに、行方不明になった場合を入れておく必要がある。
〇普通解雇の手順 「やれることはやった、手を尽くした」と評価できるかどうかがポイント。
〇解雇理由証明書 解雇の理由を明示するものであり、極めて重要な書類で、解雇事件の帰趨を決めるといっても過言ではない。

15. テレワーク

16. その他
〇労災申請手続き まれに、使用者としては、労働災害ではないと考え、申請手続きには協力しないという対応を取ることがあるが、これは厳密には問題のある対応。
事業主証明でも、労働災害ではないと考え、事業主証明をしないという対応を取ることがあるが、これも厳密には問題がある。使用者は、事業主証明に当たって、証明できる事実は証明し、証明できない事実は証明しないという対応を取るべき。


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【メモ】副業・兼業の場合の留意点(副業・兼業の促進に関するガイドライン)

2023-03-07 | 書記長社労士 労務管理


連合 2023春季生活闘争
政策・制度 要求実現3.7中央集会
くらしをまもり、未来をつくる。

@日比谷野外音楽堂

 ところで、うちのような公共交通産業の現業では、長時間・不規則勤務になりがちで組合員の健康管理が重要で、そして過労は利用者の安全・安心に影響もしてしまうので、「副業・兼業」を認めることにはかなり消極的ながら、ただ、労務管理上の課題でもあるので、以下、メモしておく。
だから、自分の立場では「副業・兼業」については慎重な対応が必要であることは重要だ。


〇副業・兼業については、従来、多くの企業の就業規則に全面禁止や許可制の旨を定め、違反した場合には懲戒処分を行うなどの対応がとられてきた。
〇近年は、労働者が就業時間以外の時間をどのように使うかは基本的自由であり、就業規則などによって一方的な禁止は適切でないという考え方が主流となってきている。
〇社会全体としても、副業・兼業に対する機運が高まっている。
〇制度導入の狙いは企業によってさまざまながら、本業での成長やキャリア開発につながるよう、従業員のスキルアップを目的に容認する企業の事例が増えている。

〇副業・兼業の場合の留意点(副業・兼業の促進に関するガイドライン)
◎安全配慮義務
 ⇒ 副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っている。
◎秘密保持義務
 ⇒ 自ら使用する労働者が業務上の秘密を他の使用者の下で漏洩する場合や、他の使用者の労働者が他の使用者の業務上の秘密を自らの下で漏洩する場合が考えられる。
◎競業避止義務
 ⇒ 使用者は、競業避止の観点から、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるが、使用者は、労働者の自らの事業場における業務の内容や副業・兼業の内容等に鑑み、その正当な利益が侵害されない場合には、同一の業種・職種であっても、副業・兼業を認めるべき場合も考えられる。
◎誠実義務
 ⇒ 誠実義務に基づき、労働者は秘密保持義務、競業避止義務を負うほか、使用者の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動することが要請される。
◎副業・兼業の禁止又は制限
 ⇒ 副業・兼業に関する裁判例においては、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるが、 ①労務提供上の支障がある場合、②業務上の秘密が漏洩する場合、③競業により自社の利益が害される場合、④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、のいずれかに該当する場合には、例外的に、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができる。
◎懲戒処分
 ⇒ 副業・兼業に関する裁判例においては、就業規則において労働者が副業・兼業を行う際に許可等の手続を求め、これへの違反を懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていない。
◎労働時間管理
 ⇒ 労基法第 38 条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む(労働基準局長通達(昭和23 年5月 14 日付け基発第 769 号))とされている。
 ⇒ 労働者が、事業主を異にする複数の事業場において、「労基法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合に、労基法第 38 条第1項の規定により、それらの複数の事業場における労働時間が通算される。
 ⇒ 休憩(労基法第 34 条)、休日(労基法第 35 条)、年次有給休暇(労基法第39 条)については、労働時間に関する規定ではなく、各事業場の定めが適用される。

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【メモ】新たな労働時間規制と残された課題 寺田一薫東京海洋大学大学院教授

2023-01-27 | 書記長社労士 労務管理

 社会保険労務士連合会の機関誌に、労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会で、労働者代表としての委員の私とともに、公益代表として委員を務めておられた、寺田一薫東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科教授が、改善基準の見直しに関して寄稿されていた。
その中の「新たな労働時間規制と残された課題」の部分についてメモしておく。

「そのような中、2018年に一般労働者を対象とした働き方改革関連法が交付された。その衆参付帯決議において、自動車運転業務に関し、2024年4月以後の時間外労働を年間960時間に制限することが定められた。一般産業の働き方改革において、インターバルが議論されるという追い風を受け、自動車運転者の休息期間の問題が改めて俎上に載せられることになる。これらを受け、労総政策審議会労働条件分科会に専門委員会が設置された。
 年間総労働時間の文脈から導かれた時短は、1日当たり必須の時間にすると長くない。一方、1日の拘束時間・休息期間の現状と一連のあるべき状態のギャップは3時間に及ぶ。年間の労働時間と1日の労働時間を次元の違う物差しで決めなくてはならないことが今回の議論を難しくした。専門委員会は約3年の議論を経て、2022年9月に改善基準告示見直しに関する最終とりまとめを発表した。改善基準告示変更のポイントについては、既に政府や関係団体から説明が行われていると聞くが、念のためその骨子をまとめると、以下の表のとおりである。
 結局、問題の拘束時間短縮、すなわち休息期間延長は、勤務の長い日に概ね1時間となった。端数をつけることによって労使間で確定した時間を定めることができたかもしれないが、その形では合意に至らず、限度としての1時間の変更と、努力目標としての理想値を併記する形となった。
 確定的に時間を定めることで規制と現実が乖離し、かえって労働時間規制が形骸化してしまうかもしれない。努力目標型規制によってそれを防ぐことができる可能性も否定できない。しかし、現実を努力目標である「基本」に近づけるためには、政府と労使の協力、持続可能で、運転者の安全や健康を確保するための対策に積極的に取り組む道路運送産業を作り上げようという意識の共有が欠かせない。
 また専門委員会の審議に参加した印象からすると、労使間で1日の拘束時間・休息期間の1時間を超える変更を一気に合意することは難しい。専門委員会最終とりまとめにおいて3年後を目途に再調査を行うことが付帯決議されたが、この種の議論と審議には数年かかることをふまえると、今後は少なくとも10年毎位の見直しを継続する必要があろう。」


2024年(令和6年)4月1日以降の自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)の改正内容について厚生労働省からの告知ページ⇒https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html


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協会けんぽ「傷病手当金」の新書式では「受取代理」の欄がなくなったが、今後も受取代理は妥当な理由があれば「受取代理利用申出書」を添付することにより対応する。

2023-01-10 | 書記長社労士 労務管理

 協会けんぽの「健康保険傷病手当金支給申請書の書式が今年になってから変わって、そこで、うちの地方組織から相談があった。
これまでは申請書には「受取代理の欄」というのがあり、ここを本人の承諾のもと振込先を会社にしておけば、会社が被保険者(本人)に代わって傷病手当金を受け取ることが出来たが、この欄が2023年1月からの新申請書からなくなったことによって、混乱を起こしている労使があるとのこと。

 で、自分が問い合わせた東京支部では基本的に1月から旧書式では受け付けないと言われたが、別の支部では9月まで旧書式でうけつけるので9月までは受取代理を認める、どこの支部かは未確認だが、支部で独自の受取代理申請書を作成し対応するところもあると、協会けんぽの支部によって、対応がまちまちであるのが年末現在の状況だった。
ということで、とある国会議員事務所を通じて、厚生労働省に問い合わせをしたところ、以下の通りの回答があった。

日頃より大変お世話になっております。厚生労働省保険局保険課の〇〇と申します。
返信が遅くなりまして大変申し訳ありません。
いただきましたご照会の件につきまして、下記の通り回答させていただきます。
ご不明な点等ございましたら、お電話等ご連絡いただければと存じます。

【ご照会内容】
健康保険の傷病手当の「受取代理」の欄廃止について、以下の問い合わせがあり、また各都道府県支部で対応がまちまちのようですが、厚生労働省としての見解をお教えください。
また、組合員の生活費を確保する観点でも、受け取り代理を可能とする方法はほかにありますか。

(回答)
1.令和5年1月の協会けんぽの業務システム刷新に伴い、傷病手当金等の現金給付の申請書について、加入者の利便性向上等を目的に様式の変更を行いました。
その際、傷病手当金の申請書について、受取代理人欄を様式から削除しましたが、理由としては、受取代理人口座への振込が全申請件数の1割にも満たないこと
等を踏まえたものです。

2.傷病手当金等の現金給付については、被保険者(申請者)への支払を原則としますが、預貯金口座を持っていない等被保険者(申請者)に振込が出来ない場合や
入院等により被保険者(申請者)が引き出しできない場合については、引き続き受取代理人の口座へ振込を行うこととしており、その場合は、事前に受取代理を必要とする理由を確認し、
妥当な理由であれば、「受取代理利用申出書」を添付いただくことにより対応することにしております。
「受取代理利用申出書」が必要な場合は、お勤めの事業所を管轄する各都道府県支部にご連絡をお願いいたします。

3.なお、新様式への切り替えについては、令和4年11月から各支部のホームページ等にて積極的に周知を行っており、今後も新様式での申請を促進していきますが、引き続き旧様式での申請も受付可能です。
支部ごとでの周知にかかる表現は異なっているものの、取扱いについては全支部共通の対応となっております。

以上、どうぞよろしくお願いいたします。

>>>>>>>>>>>>>>>>>
厚生労働省保険局保険課
全国健康保険協会管理室


 うちの加盟組合では、組合員の月々の生活費を償えるように、以下のように恩恵的な対応をされている労使が多く、これを労働協約で明確にしていたり、規約にはしていないが労使慣行としている。

 私傷病で休んでいる組合員が、
①給与計算期間単位で申請書を会社に提出した場合、受取代理を会社にしてもらった上で、会社が協会けんぽへの申請をおこなう。
②給与支給日には傷病手当金相当分から社会保険料・雇用保険料、その他共済金などの天引き額を控除した上を、残りを会社が組合員に立て替えて支給する。
③後日、協会けんぽから、会社に傷病手当金を振り込まる。

 しかし会社が「受取代理」することが不可能となると、会社としても立て替え払いが回収できないリスクが高くなってしまい、そうなると会社が立て替え払いを忌避する可能性があり、現に会社立て替え払いを見直すという会社申し入れがあった労働組合があっての、今回の相談だった。
とりあえずは、組合員の生活を守られると言うことで、なんとか上手くいきそうだ…(ただし協会けんぽの支部毎の対応の温度差で混乱がしばらく生じそうなのが心配だ)。

 一方で、悪質な会社は、会社が立て替え払いしざるを得ない社会保険料や雇用保険料などを取りっぱぐれないよう、従業員に「受取代理を会社にしなければ休業の証明を書かない」など、強制したりすることが問題になっていたことがあり、そもそも健康保険の給付は、担保や差し押さえが出来ないことが前提だから、そういった行為は違法性があるのではないか、という指摘もある。
今回の書式変更は、これも影響しているのかと思ったが、それについては厚生労働省の回答では直接触れられてはいない(「傷病手当金等の現金給付については、被保険者(申請者)への支払を原則としますが」との言及はあったが)。

【孫1号9歳がリフティングの練習を始めた⚽じいじ57歳はいままでやったことがないが100日で100回目標チャレンジ😅 2023/1/10 5日目6回】

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