ひろの東本西走!?

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秘太刀馬の骨(藤沢周平)

2005-08-31 21:45:00 | 本と雑誌
hidatiumanohone-1秘太刀馬の骨(文春文庫)
★★★★☆’~★★★★☆:85点~90点

素晴らしい小説である。

NHKのドラマで放映が始まっているが、これは未見。元々、著者の「隠し剣」シリーズなどの秘剣や剣術者ものが好きだったので、題材と”隠れた傑作”との評判を知って手に取ったのだが、あっという間に引き込まれ、またもや藤沢周平の世界を存分に堪能した。

剣の試合や決闘シーン・暗殺シーンはもちろんのこと、お家騒動(跡継ぎ問題)、派閥争い、夫婦の情愛あるいは心の乖離、美しい女性(ひと)に対する思慕・・・など、藤沢時代小説に欠かせない要素が見事に盛り込まれていた。そこに、秘太刀の遣い手探しというミステリー仕立ての味つけが加わって極上の仕上がりだった。

************ 以下、ネタばれあり ************

「秘太刀・馬の骨」とはどのような剣技なのか。その秘太刀は伝授されたのか。伝授されたとすれば、それは一体誰に?
家老・小出帯刀の命令で「馬の骨」の遣い手を捜す半十郎と銀次郎(帯刀の甥)。銀次郎は様々な策略をこらして「馬の骨」が伝わるという矢野道場の当主・矢野藤蔵と藤蔵の父の高弟5人を次々と命がけの立ち合いに引っ張り出す。真剣勝負に近い形で実際に剣(木刀)を合わせてみて、その相手が「馬の骨」の遣い手かどうかを知ろうしたのだ。銀次郎も相手も持てる技を全て繰り出して必死の戦いを挑む。そして、互いに手痛い傷を負うのだが・・・。
最初はいけすかない奴と思えた銀次郎だが、身体を張っての秘太刀探索に半十郎も読者も次第に引き込まれていく。

最後に明らかになった「馬の骨」の真の伝授者は?!

もう一人の重要な人物が半十郎の妻・杉江。長男を幼くして亡くし、長らく気鬱の状態に陥った彼女。半十郎にとっても、そんな妻との暮らしは気が重いものになっていた。そんな彼女が昔の自分を取り戻すラストシーンが素晴らしい。

文庫本の出久根達郎氏の解説が重要かつ秀逸。馬の骨の名前とその継承者についての別(?)解釈には驚いた。出久根氏の解説を読んで、読者は再度ページを繰り直すであろう。

他に気に入ったシーン

「まことに男らしい試合ぶりでござった。さすが権平どのは矢野道場の
籠手打ち名人、矢野の名を辱めぬ遣い手でござる」
半十郎がほめると、登美の目がさっと赤くなった。
半十郎は銀次郎をうながして膝を起こした。権平の妻女を気持ちよく
泣かせてやろうと思ったのである。

何気ないシーンのように見えても良いのですなあ、これが。

最近は山本一力氏の時代小説の心地良さに浸ることが多いのだが、藤沢文学の奥深さと文章の品格はまた全然別の味わいがあった。