ひろの東本西走!?

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欅しぐれ(山本一力)

2005-07-08 12:50:00 | 17:や行の作家

keyakishigure欅しぐれ(朝日新聞社)
★★★★☆’:85点

深川の老舗大店である履物問屋・桔梗屋のあるじ太兵衛と賭場の貸元・猪之吉。
ふとしたことで知り合った二人は交誼を結び、月に一度の語らいを楽しむ。商人と渡世人といった世間での立場など一切関係なし。友情というには軽すぎる。もっと深く、お互いが自分にはない素晴らしさを相手に認め、全人格を受け入れ、尊敬し、大事に思う。

太兵衛と猪之吉が出会い、重い病を煩っている太兵衛が店の大事を猪之吉に託す序盤。太兵衛が亡くなるまで様々な混乱がある中盤。猪之吉の下、一度はうまい儲け話に引っかかった番頭・手代・小僧、桔梗屋のすべての人々が心をひとつにして乗っ取りという店の危機に立ち向かう終盤。息も継がせぬ展開が素晴らしい。

実は私がこの作品で一番印象に残り、胸を強くうたれたのが頭取番頭・誠之助だった。太兵衛の後、店を仕切ることができるのは自分しかいないという自負。しかし、店の危機に際しては自負などかなぐり捨てて猪之吉に頭を下げて助力を請う。奉公人としてただ一人、主の重い病、店の危機、猪之吉のことといった秘密を知る誠之助は、時には太兵衛の胸のうちを思って涙しながらも自分の努めを精一杯果たそうとする。

猪之吉が差配した通夜の見事なこと。香典返しの桔梗屋特製の雪駄に込められた意地と絶対に負けないという強い意志。治作の脅しにも頑として口を割らない頭取番頭・誠之助。夫亡き後、気丈に振る舞いながらも店の者を思いやる太兵衛の妻・しず。すごい人たちである。

ラストの大団円でもっと凄い対決があると思っていたのが意外にあっさりで、そこが物足りず。せめてあと20ページくらいほしかったところ。また、本作も善人に比べて悪役が人間的魅力に乏しく迫力不足。その他の内容面でも消化不良といった欠点はあるが、人の思い・意志の強さを鮮やかに描ききった素晴らしさを堪能した。”偉大なマンネリ”に拍手。

猪之吉が船宿からくすねた湯呑み。そこに亡き太兵衛の思いが重なる余韻が絶品の味わい。

読後かなり日数が経ってしまいあまり細部を覚えていませんが、やはり”人”を描いた部分が非常に印象に残りました。
要再読の作品です。

参考ブログ:♪ウサギ・絵・花・本・写真・・・♪
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