花々楽しい日

布合わせを楽しみながら キュートで物語のある布小物を作っています

椿神社の雀さんへ

2006-06-08 | エッセイ

私は小学校3年~5年にかけての2年半、滋賀県に住んでいた。
父の転勤に伴い、新築の家を離れ田舎の社宅に住むことになってしまったのだ。
母の手作りの洋服を着て、ピアノが弾けて、どことなく言葉の違う、ちょっと都会の香りがする、小さくて元気な女の子は、「こいつ何者?」「ヨソモンや!」とちょっかいをかけられることが多かった。小さな学校だったので、上級生にまでからまれて帽子を田んぼに投げ入れられたり、別れ道で手を引っ張られたり…
最初は泣きながら帰る日もあった。

でも、そんな嫌なことを振り払うほど、楽しい世界がそこにはあった。
私は学校から帰るとランドセルを置き、バケツと網を持って外へ飛び出した。
小川にはメダカやフナが泳ぎ、ドブにさえザリガニがそこかしこにいた。
小さな古墳が点在し、子どもたちの秘密基地となっていた。
春にはつくしやふきのとうがニョキニョキ生えいて、バケツにいっぱい入れて持って帰ると母が佃煮にしてくれた。

私の幼い頃の思い出は、良いことも悪いことも、この「滋賀県の田舎時代」に凝縮されている。

特に4年~5年の時の担任のF先生との思い出は、私だけでなく当時のクラスメイト全員の一生の思い出となっていると思う。

「まったく、豆太ほどおくびょうなやつはない…」で始まる物語『モチモチの木』(斉藤隆介(文) 滝平二郎(絵))や『ベロ出しチョンマ』は先生が読み聞かせをしてくれた本の一つ。
色々な話が入っているのだが、私はプロローグの『花咲き山』が好きだ。今でも煩悩に取り付かれた時は、この話を思い出すようにしている。

学校から歩いて10分くらいのところに「椿神社」があった。
F先生は理科の本を片手に、生徒を連れ出した。(もちろん理科の本はカムフラージュである)
椿神社に着くと先生は、「11時だよ 全員集合!」と大声で叫び、みんなで「手つなぎ鬼」をした。
足の遅い私はいつも一番に捕まり、先生と手をつなぎ振り回されるように走らされていた。

雪が降るとよく1時間目が雪合戦になった。運動場が凍った日の「運動場スケート大会」は圧巻だった。喉が痛くなるほどキャーキャー叫んだ。

遊んだことばかり思い出されるが、ちゃんと勉強もしていたと思う。たぶん。

もうすぐ5年生が終わるという時、急に父の転勤が決まった。
「前の家に戻れる!」
すごくうれしかった。
「私、転校するの!」とウキウキしながらみんなに話した。
ところが、なぜかみんなが悲しんだ。それを見ていて、私もだんだん悲しくなってきた。
このクラス全員が、そのままあっちの学校へ行けたら良いのに…と泣きながら本気で考えていた。

それから10年後、私は大学の「初等教育科」に入学した。
「F先生のような先生になれたらいいな」と言う気持ちもあって選んだ学科だった。(結局先生にはならなかったけれども)
大学在学中に、年賀状のやり取りしかしていなかった先生から電話があった。
「大阪で会わないか?」という電話だった。

そして、10年ぶりに再会した。
先生は全然変わっていなかった。その時は中学校の先生になられていた。
帰り際に赤い包みを渡された。
そして、先生が言った。
「実は…10年前、引越しの日を1日間違えてなぁ…
君の家に行った時は、もう引っ越した後やったんや。
部屋が空っぽでなぁ…その時に渡そうと思ってたものなんだけど…」
驚いた!初めて聞いた話だった!年賀状にはそんなこと一言も書いていなかった!

F先生は、春休みに私に会いに来てくれたのだ。
それなのに、引っ越してしまっていて…
空っぽの部屋、渡そうと思っていた赤い包み…
涙が出そうになったので、想像力を断ち切り、その場では包みを開けないまま先生と別れて阪急電車に乗った。

電車の中でかばんの中から「赤い包み」を出してみた。
セロハンテープのセロハン部分が変色し、粘着力のなくなった粘着部分と分離していた。赤い紙をそ~っと開けてみると1冊の本が入っていた。

        
                       (↑私の宝物)

それは、『鮭のくる川』という本で、小学校高学年の推薦図書だった。
本のカバー(箱)のホッチキス部分が錆びていた。10年間「いつか渡そう!」と思って、ずっとずっと大事に持っていてくれたのだろうか。
そう思うと、涙が止まらなかった。
阪急電車の中で泣いた。
誰かにあげてしまえばいいものを、学級文庫に並べておけばいいものを、「いつか渡そう」とずっと持ってくれていたのだと思うと、熱い涙が次から次へと頬を伝った。

F先生とは、今年の4月にもお会いした。
何の前触れもなく「埼玉に来ているんやけど、会えないか?」と電話をかけてこられたのだ。
先生は今も滋賀県に住んでいらっしゃるので、めったにこちらへは来られない。だけど、そのわりには何度か会えている。

F先生と私には不思議な縁がある。
今、先生は私の母校(大学)の大学院で助教授をされているのだ。
信じられないような本当の話だ。
そして、ちょっと貫禄が付いていらっしゃるけれども、やはり、あの頃と変わっていないように思う。
と言ったら、先生に言われるだろうなぁ。
「そっちも変わってない!」って。

 

F先生のHNが『椿神社の雀さん』です。
いつも当ブログのご愛読ありがとうございます。

 

モチモチの木

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ベロ出しチョンマ

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10 コメント

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教師冥利 (椿神社の雀)
2006-06-08 09:14:12
いやはや…朝からブログを読んでほろっときてます。こんな教え子がいてくれるということは、「教師冥利に尽きる」としかいいようがありません。ドッジボールで当てられないよう必死で逃げてたOkkana2の表情まで浮かんできました。都会から突然舞い込んだ利発な女の子はみんなにとってまぶしかったと思います。オユミは地元で小学校の先生ですが、今の学校にはあの頃のような自由はない…。ダンディヒロシとは時々飲んでますが、雀よりもおつむが薄くなって哀しい…。時は移っても思い出は鮮やかです。こんなに見事に再現してくれてありがとう。しあわせです。今年の夏も埼玉で研究会があります。うまく再会できるとうれしいです。コメントじゃなくて何だか長い手紙になった…。
返信する
生徒冥利 (kana2)
2006-06-08 11:00:47
先生のコメント(手紙?)を読んで私もほろっときました。

私の「古き良き時代」です。(今も充分幸せですが)

先生「5年A組」の歌を覚えていますか?

(作詞は私と言っていましたが原案はほとんど母です)



    心をつなごう 手をつなごう

    けんかもするけど みんな 仲間さ

    デブも チビも ノッポも ガリも

    みんな仲間さ 友達なんだ



    力を合わそう 知恵合わそう

    いけずもするけど みんな 仲間さ

    ゲラも 泣きも ……忘れた……

    みんな仲間さ 友達なんだ



B組との対抗戦(AとBの2クラスしかなかった)の時に応援歌としても歌っていましたね。

私は今でも時々この歌を口ずさみます。



「椿神社」という、たった一つの言葉から 湧き水が溢れ出る様に あの頃のことが思い出されます。



お手紙ありがとうございました。 椿神社の雀の子より

返信する
感動・・・ (元滋賀の住人)
2006-06-08 15:00:46
小説のようなほんとの話があるのですね

心温まる師弟のお話に、久久振りに感動させられました

ありがとうございました
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元滋賀の住人さま (kana2)
2006-06-08 21:30:57
>心温まる師弟のお話に、久久振りに感動させられました



そんな もったいないお言葉をいただき、恐縮してしまいます。

でも、縁と言うのは本当に不思議なものですね。

「一期一会」という言葉をしみじみと感じたりする今日この頃です。

  ↑ うっちょっとババ臭かったかな?
返信する
kana2ちゃ~~ん (hiromi)
2007-10-26 22:20:49
いいね~。。。
先生はずーーっとkana2ちゃんのためにとっておいたんだ~。
ソレって、先生のココロの中にkana2ちゃんの指定席があったってコトだよね。。
うるうるしましたぁ。。
返信する
あっら~! (◆hiromiちゃんへ(kana2))
2007-10-26 22:54:43
本当にここまでコメントくれたんだ!
ありがとう。。。
これが噂の(?)私が書いた唯一ウルウルさせる文章です
でも、今読み返していたら、すごく違和感がある~!
今の私が書いたら、絶対「です・ます調」で書いていると思うもん
この頃の記事って、まだ試行錯誤していたから、「ですます」の時があれば、「である」の時があり…安定してないのよね

F先生は今でも突然携帯にメールが来ることがあったり、贈り物が届いたり…
いつも突然でビックリします
1年以上連絡がなくて…も珍しくないです
でも、私のココロの中にも先生の指定席があります
色々な意味で私とはとても縁のある先生です

我家に来てくれたときに、あの時の私と同じくらいの年齢の若を見て感動されていました
私にそっくりだそうです(笑)
姫は先生の奥さんにペッタリくっついていました
とても感慨深いものがありました

人の出会いって宝物ですよね
hiromiちゃん母娘もいい先生に出会っていますよね
パンカーラの今さんだったかな?
素敵な方ですよね
返信する
Unknown (Rika)
2009-03-24 20:28:36
こんばんは♪

kana2さんのブログは全部読んでいたような気になっていたけど、
この話は初めてです。

引越しの日を一日間違えて・・
ドラマみたいね。会えるとも会えないともわからないのに、ずっと本を持っていらして・・
先生とkana2さんが合うと決まった時、
先生は本を渡すことができると、
kana2さんよりずっとずっと嬉しかったでしょうし、心待ちにしていたでしょうね。

先生のために作られた、バッグの雰囲気、好きです♪
参考までに(笑)
返信する
こちらにありがとう (◆Rikaさんへ(kana2))
2009-03-25 00:56:24
Rikaさんは私の過去ログを半日かけて読んで下さったことがあったのよね
最初の頃は毎日更新していたから大変だったと思うわ
エッセイのカテゴリには、私が「残しておきたい気持ち」「エピソード」がたくさん収納してあるのよ~
私は物を作るのも、写真を撮るのも大好きだけど、文章を書くことも大好きなのよね
この話は心に残っていたいくつかのエピソードが、先生の「椿神社」という言葉をきっかけにあふれ出てきました
もっともっと書きたいこともあったのですが、それをぎゅぎゅっと凝縮しています
大切な思い出です

貴重な参考意見ありがとう
このレトロワッペンでバンクポーチを頼まれてていまひとつ作っています
続編も考えています
参考までに(笑)

もしかして銀座の話の記事を待ってる?
写真撮ってないからスル~しちゃうと思う
ごめんねごめんね~♪
返信する
そしてここにたどり着いた (HiroHiro)
2011-08-29 15:33:10
お久しぶりです^^

今日、カフェファリーナさんでフォトスタイリング講習を受けてきました

まみぃさんから『Kana2さんも土曜日来られてましたよ』と聞き、その様子を見たくておじゃましました
で、講習の記事を読ませてもらった後、関西1人旅の記事を見つけて読み、そしてこちらにたどり着きました^^

心温まるお話で思わず私もウルウルしてしまいました
素敵な先生ですね~

それにしてもkana2さんの文章、ホントにいいわぁ~
いつも引き込まれて読んでいます

あちこち飛んで大阪のおばちゃんの「ふ」まで読みました
めちゃ笑ったし(笑)
でも、こちらもホントに素敵なおばあちゃんですね^^


今更ですが、ブログをリンクさせてもらっていいですか?
「花々…」がいいのかな?「うらうら…」がいいのかな?
返信する
コメントありがとう! (◆kana2)
2011-08-30 11:52:30
フォトスタイリングレッスンに行ってきたんですね!目からうろこ落ちました?(笑)
そうそう、私久しぶりに関西入りしたんですよ!
今回は能勢電に乗る時間がなかったんだけど、阪急電車は「やっぱいいなぁ~」と思いながら乗ってきましたよ
関西は癖のある人が多いかもしれないけれど、そこがたまらなくよかったりしますね
ずっと関東にいる人が関西に住むと頭の線がキレちゃうんじゃないかな?って思ったりします
自分の人生の前半を関西で過ごせてよかったなぁってつくづく思いました。
おばちゃんの「ふ」 最高でしょ?
あれは関西人ならではの発想ですよね(笑)

私の文章は「読みやすい」ってよく言われます
でもそこからの進展があまりないんですよねぇ
でも一人でも「いいわぁ~」って言って下さる方がいると本当にうれしいです
写真に頼らない文章(エッセイとか)をもっと書けたらいいなぁと思っています
書くの好きなんですよ~
喋るのも好きだけどね(笑)

リンク大歓迎です
表の方は「ハンドメイド」と気合の入ったおでかけの記事がメイン うらうらは犬のこととか、ゆるい話題?とか・・・
どちらでも全然OKで~す  
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