“THE MEDIEVAL HOUSES of KENT”の紹介-3

2014-12-11 11:39:29 | 「学」「科学」「研究」のありかた


今回は、1.historical background の章を紹介します。全体は次の節・項目からなっています。
 1. Geology and Topography
 2. The regional distribution of wealth
     a) Late 13th and 14th centuries
     b) 15th and 16th centuries
     c) Population trends
     d) Landholding and tenure
       (1)Tenure
       (2)Landholding
 3. The gentry of kent
     a) Emergence of the gentry
     b) Distribution of the gentry

前回:Introduction 序章は、分割すると分りにくいと考え、全部を通して紹介ましたが、今回からは、節・項目ごとに分けて紹介することにいたします。

先ず、「地域の地勢・地形的な状況」についての章 Geology and Topography から
  ケント地域の概要については、第一回に百科事典の引用を載せましたが、ここでは、地理・地形、地質の視点から、詳しく解説されます。
なお、ケント州の大きさ:転載の地図の範囲は、日本で言うと、四国の徳島県域にほぼ相当する大きさです。

     *************************************************************************************************************************


1.HISTORICAL BACKGROUND (ケント地域:州:の)歴史的背景・・・・その1
A.地質(geology)と地形(topography)
ケント地域は、figure3(下図、再掲)の示すように、域内を東西に延びる何本もの幅の狭い「地質・土質帯」で構成され、地帯間の変移が著しいので、その違いが明白である。

  凡例邦訳:再掲
  Marshland : 沼沢地
  Northern uplands :直訳すれば「北部高地」となりますが、次の「地勢図」で判るように、標高は数十メートルに過ぎません。
            それゆえ、marshland と比べての相対的呼称で、「台地」と呼ぶ方がふさわしいのかもしれません。
  Downs(chalk):白亜質の草原地帯(樹木が少ない)。
  Clay-with-flints :礫混じりの粘土。
  Vale of Holmesdale :Holmesdale谷、Holmesdaleは、同名の大学などがあるので一帯の総称地名と思われます。日本の「等々力渓谷」などにあたるか?  
  Chart hills :Chart hills という名のゴルフクラブがあるようですから、これも一帯の総称地名と思われます。日本で言えば「多摩丘陵」などにあたるか?
    Vale of HolmesdaleChart hills ともに、図から想定して、台地状の地形ではないかと推察します。多分、河岸段丘か?
  river valleys :河川筋
  weald :粘土、砂岩、石灰岩、鉄鉱石などからなる粘土質の地層。Low weald、High weald は、標高の差か。
      英和中辞典には、Weald地方=「Kent,Surrey,East Sussex,Hampshire の諸州を含むイングランド南東部;もと森林地帯」とあります。



北の海岸沿いから第三紀の堆積物から成る沼沢地が拡がり、その london craybrick-earth砂や細かい砂利などのつくる土壌は、耕作、牧畜に適したケント北部の平野部を形成している。
   註  london cray : 地名が「土」の種類・質を示す固有名詞になっているようです。荒川下流域の産の「荒木田土」の如しか?
      wikipediaに次のようにあります。
      The chalk basin has been infilled with a sequence of clays and sands of the more recent Tertiary Period (1.6 to 66.4 million years old).
       Most significant is the stiff, grey-blue London Clay, a marine deposit which is well known for the fossils it contains and can be over 150 metres thick
      beneath the city.
      This supports most of the deep foundations and tunnels that exist under London.
      brick-earth :沖積土・粘土の中でも、特に煉瓦焼成に適した土質の土の意のようです。
               河川の中流~下流の堆積粘土が好適。例えば、利根川と荒川の中流域にあたる埼玉深谷は、瓦、煉瓦の一大生産地。

North downs の急斜面が北岸に向って広がっているが、低地部は Chalk :白亜層の上が粘土と砂からなる良好な土壌に被われ、 Downs を横切る三本の河川(西から DARENTH 川、MEDWAY 川、STOUR 川:上掲 figure4 参照)沿いも同様である。
   註  North downs :上掲の地域図にある「ノースダウンズ丘陵」  
大部分が砂利混じりの粘土に被われた Chalk Downs には、幾本もの涸谷(かれだに)が刻まれていて、そこは、現在の重機が登場するまでは開墾不能で、荒れた牧草地、放牧地、森林のままであった。 Chalk Downs の南面は HOLMESDALE の谷間に向って急峻な崖をなして落ちこんでいる。 HOLMESDALE は、chalk:白亜層から Greensand までの地層が現れる浅い谷状の地形で、多様な質の土壌(その多くは肥沃である)を生み出す Gault clay の層もところどころにある。
   註 Greensand :地学・地質学用語。Greenstone (玄武岩)の変質した砂のようです。ゆえに緑色を帯びているらしい。
     Gault clay :地学・地質学用語。粘土の種類のようです。
     いずれも、イギリス南東部に顕著な地質のようです。
    このあたりについて、詳しい方ご教示ください。 
南側には、 Greensand の層が、 Chalk Downs ほどではないが、丘陵をつくっている。Chart Hills あるいは「砂岩 ragstone の丘」ととして知られる一帯である。それは、MEDWAY 川の西側、東側どちらの谷にも広く拡がっていて、上流に向うに連れて狭くなる。
その北端部には、Heath :ヒースに被われた砂岩の風化した軽石混じりの土壌の地が拡がり、南にはケント砂岩と呼ばれる砂質の石灰岩からなる Hythe Beds と呼ばれる地層になるが、この地層は、西にゆくと、より軟質の砂岩に変ってくる。
Hythe Beds とその南側の Artherfield Clay と呼ばれてる肥沃な土壌の地帯も、狭いながらもこの地域の西から東へ横切っている。
   註 ヒース heath イギリスの荒地に多く見られるツツジ科の常緑低木。
     Hythe BedsArtherfield Clay :いずれも、日本の「関東ローム」などに相当するイギリスの地質に関する用語と思われます。
Chart Hills の砂岩の急峻な崖下には広く平らな Low Weald または Vale of Kent と呼ばれる谷間が展開する。ここは、大部分が厚く粘土で覆われている。そこは、冬は湿地に、夏は乾燥し、18世紀に有料道路が造られるまでは、横断不可能な場所であった。この厚い粘土の地域は、排水の悪さも重なって、一帯は、よい耕作地には程遠い。しかし、中央部には、MEDWAYとその支流がつくりだした沖積層とbrick-earthに被われた肥沃な場所がある。それより南は、急な High Weald 地帯となる。そこでは、粘土と砂からなる地質で、多くの小さな急流に刻まれ狭い谷が形成されているが、ここは、地形も土質も、農耕向きではなく、森林が広がり平地が少ない。この Weald 地帯の南東部には、広大な Romney Marsh が拡がっている。そこは、変化に富む海岸線と沖積土が素晴らしい牧草地をつくる一方、湿地:沼沢地にもなっている。
   註 Romney Marsh:この一帯の固有名詞のようです。
以上触れてきたように、この地域一帯の土壌の種類はきわめて多様であり、それがこの地域独特の地域色をつくりだしている。
ただ、「地質図」からは、この地域の南北の境界は、明確には分らない。
一方、「土地利用図」を調べると、西部地域、中央部、そして東部地域の違いが明らかである。
先ず第一に、MEDWAY川の西側には、東側に比べ、よい土地が少ない。
Weald地域は、三地区に区分できる。一つは、MEDWAY川に沿った一帯、HEADCORN を通り SMARDEN から東側を分ける区画線に沿う一帯、そして、この地区の中央部である。 MEDWAYから HEADCORN にかけての土地は、他に比べ土地の利用度が高い一帯である。
とりわけケント地域の東部、Romney Marshは、他のどこよりも良好な土地が拡がっている。
   註 HEADCORNSMARDEN はいずれも町の名前のようです。
     手元の地図には載っていないので、このあたりの文意に確信が持てません。ご了承ください。
     要は、MEDWAY川は、中流より上で東西に分かれますが、その東側の流れの流域に豊かな土地が拡がっている、ということでしょうか。
   註 また、marsh は、辞書では「沼地、湿地(帯)、沼沢地(帯)」とありますが、
     こういう地形・地勢は、日本では、河川中・下流域にに形成されるのが普通だと思います(山地の縁、あるいは河口近く:いわゆる扇状地)。
     しかし、figure4の地図を見ると、Romney Marshと呼ばれる一帯は、大きな河川のMEDWAY川、STOUR川の上流域にあり、
     この一帯にあるのは、小河川のようです。
     ゆえに、この一帯は河川による形成ではなく、海成・隆起して生まれた平地ではないでしょうか。海抜0m以下の地域もあるようです。
     この地域の地図上の小河川は、平地の溜まり水のはけ口:排水路として自然に生まれたもので、耕地化のための人工の排水路もあると思われます。
        ちなみに、ドーバー海峡の沿岸部を成す白亜層( chalk )の陸地は、隆起に拠るようです。
     また、MEDWAY川、STOUR川が、大地を刻むように流れていることから察して、figure3の右下のRomney MarshLow WealdChart Hills の間には、
     かなりの標高差があることになります(figure4では、その辺の詳細が分りません。等高線の入った地図が欲しい・・・)。
     このあたりについて、詳しい方居られましたらご教示下さい。

この地域の現在の土地利用が、中世の土地利用状況を反映しているとは断言できないが、考察する上の一つの指標であることは間違いない。なぜなら、これは、
地域内の大部分が、早い時代に大農地・牧羊地化され( enclose ) 、中世の景観が広い範囲にわたり遺っているケント地域:州ならではの特徴だからである。

このように、中世の建物の状況を知る上で、「地形・地勢」と「現在の土地利用状況」を対照してみることはきわめて重要なのである。
   註 enclose :英国では中世~近世にかけて、小農地などを大農地・牧羊地にする「囲い込み:enclosure 」が行なわれた。(研究社「英和中辞典」による)
                                                                       [Geology and Topography の項、了]

     *************************************************************************************************************************


   筆者の読後所感
   思いがけず、英国の「地理」「地質」についてを学ぶことになりました。それも、日本の教科での単なる「地理」「地質」ではありません。
   ここでは、次の考え方が、一般に広く理解されるべく、丁寧に説かれています。
      文体も、いわゆる「研究報告」スタイルではなく、いわば口語体の成句も多く、読解に多々苦労しました・・・。
   すなわち、「人は、それぞれの 『土地のありよう』 に応じて暮すのであり、その 『暮しのありよう』 が 『住まいのありよう』 を形づくる」 という考え方です。
   だからこそ、先ずはじめに『土地のありよう』を知らなければならない、それを「地理・地勢学」「地質学」から学ぶ、ということになるのです。
     これは、(人にとって)「学問」とは何かということです。
   したがって、ある時代の、例えば 『中世の建物』 を学び知るためには、先ず 『中世の人びとの暮し』 を知らねばならず、そしてそのためには、
   『中世の人びとが暮した場所・土地について知らなければならない』
 ということになるのです。

   ここでは、読者がその地での人びとの暮しのありようを想像できるように、ケントという地域の「地理」「地勢・地質」が「活き活きと」語られています。
   「地理学」「地質学」(を学び知ること)の意味が、伝わってきます。
   その「熱気」に圧倒されました。

   これは、日本のいわゆる 「民家研究」「住居学」 ひいては 「建築史学」 に最も欠けていた視点だったように私には思えます。
   第一、わが国の一般向けの書には、こういう視点をも盛り込んだ解説書の類は皆無と言ってよいでしょう。
   彼我の「学問」「研究」することの意義についての理解、そして「学者・研究者のありよう」についての理解に、大きな違いがあるのかもしれません。  
 

    
     誤訳・誤読のないように十分留意したつもりではありますが、至らない点があるかと思います。ご容赦ください。
     不明、不可解な点がありましたら、コメントをお寄せください。   

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12月8日 | トップ | この道は・・・・? »
最新の画像もっと見る

「学」「科学」「研究」のありかた」カテゴリの最新記事