日本の建物づくりを支えてきた技術-1・・・・はじめに

2008-08-02 16:29:45 | 日本の建物づくりを支えてきた技術
[文言追加 8月3日16.58]

はじめに

最近、「日本の木造住宅の寿命は、欧米に比べ著しく短い」とよく言われます。あるいはまた、「木造住宅は、きわめて地震に弱く、耐震補強が必要である」とも言われます。
この場合の木造住宅とは、昔ながらの「垂直の材:柱」の上に「横に渡す材:梁(はり)・桁(けた)」とで組立てるつくり方による建物を指すのが一般的で、このつくり方を「軸組(じくぐみ)工法」と呼んでいます。
「軸組工法」は、洋の東西を問わず、建物を木材でつくる地域では普通に行なわれるつくり方です。日本でも昔から「軸組工法」でつくるのが普通で、柱と梁・桁でつくられた枠組:これを「軸組」と言います:に屋根を架け、軸組の間に、壁や開口部をはめこんで空間をつくります。

   註 「東大寺・正倉院」のような「校倉造(あぜくらづくり)」も
      ありますが、数は限られています。
   註 「梁」と「桁」は架けられる方向による呼び方で、英語では
      両方とも beam です。

ところが、厄介なことに、今の日本には「軸組工法」が二種類あるのです。

一つは、長年にわたり培われてきた工法、一般に「伝統的な工法」と呼ばれています。もう一つは、「建築基準法が規定している工法」です。現在は、原則として、後者つまり「建築基準法の規定する工法」でなければつくることができません。

そしてさらに厄介なことに、今世の中では軸組工法のことを指して「在来工法」あるいは「在来軸組工法」という呼び方がされることです。
その場合、「建築基準法の規定する工法」と、いわゆる「伝統的な工法」の「差異」についての認識は極めてあいまいで、あるいは、「差異があることを認識しているかどうか」さえあいまいです。
これは、下記の記事で挙げた「軸組工法の捉え方」に如実に現われていますので、参照ください。

   註 「『在来工法』はなぜ生まれたか-2の補足・・・・『在来工法』の捉え方」

      なお、「在来」という語は誤解を招きますので、
      ここでは使いません。
      その理由については、先回(7月31日)の註をご覧ください。


さて、先の「日本の木造住宅の寿命は、欧米に比べ著しく短い」あるいは「木造住宅は、きわめて地震に弱く、耐震補強が必要である」という《発言》を聞くと、何となく、「軸組工法はすべてダメ」かのように聞こえてしまいますが、この《発言》自体も、その拠って来たる根拠自体が極めてあいまいです。

先ず、「寿命の短い木造住宅が増えたのは『最近』のことだ」ということを知る必要があります。
現在、各地域に、「軸組工法でつくられ、百年はおろか数百年も使い続けられた建物」が数多く現存しています(社寺もあれば住宅もあります)。
また、阪神・淡路地震の際、大正~昭和のはじめに建てられた(つまり、築後100年程度の)「軸組工法」の建物で、無事だった例が数多くあります。
しかし、この事実については、「震災調査報告書」等では、一切触れられていません(この点については、「地震への対し方-1・・・・『震災調査報告書』は事実を伝えたか」「地震への対し方-2・・・・震災現場で見たこと、考えたこと」参照)。[文言追加 8月3日16.58]

当然ながら、それらはすべて、現行法令の規定する工法ではなく、いわゆる「伝統的な工法」による建物で、たとえば、「筋かい」はなく、基礎に固く取り付ける:「緊結(きんけつ)」と呼びます:こともせず、補強金物の類も使っていません。
その意味では、これらの寿命の長い建物は、どれも、現行法令の規定から見れば、「違反建築」ということになります。
しかし、これらの建物は、おそらくその経過した年月の間に、一度か二度は大きな地震や台風などに遭っているはずですが、致命的な損傷を蒙ることはなかったのです。
つまり、「違反建築」でありながら、長い年月無事だった、ということになります。

この「事実」の意味することは重要です。
すなわち、「伝統的な軸組工法」によっても、数代にわたって使え、暮せる建物をつくることが可能である、ということを示しているからです。
そして、むしろ、「建築基準法の規定する工法」に拠るようになってから、寿命の短い建物が増えた、ということを示しているのです。

つまり、先の《発言》は、正確に言うと、「『最近』いいかげんなつくりが増えた」「『最近』、消耗品扱いされる建物が増えた」あるいは「ほんとは長く使いたいのだが、諸般の事情で使えなくなる例が多い」・・・・ということになるはずです。
「最近」とは、大部分の建物が「建築基準法の規定する工法」に拠るようになってから、のことを意味します。
このあたりのことについては、すでに触れています(「住宅の低寿命化はなぜ起きたか」参照)。


最近多い「いいかげんなつくり」についても、再三書いてきました。

そして、わが国で従来行なわれてきた建物づくりの方法、すなわちいわゆる「伝統的な工法」は、決していいかげんなものではなく、むしろ、「日本の環境、すなわち多雨多湿、地震頻発、台風多発・・・といった環境のなかで鍛えられた、その環境に適合した技術」であったことも再三触れてきました。

しかし、先日書いたように、この「厳然たる事実」「厳然たる歴史」の認識をまったく欠いたまま進められてきたのが現行の教育、建築法令であり、それを支えてきたのが一握りの学者先生方なのです。

その結果、世の中には、「昔から筋かいを使っていた」あるいは「昔ながらのつくりかたはダメだ」かの如き誤った《理解》が蔓延してしまったのです(先ほど註で記した「在来工法の捉え方の実態」がその例です)。

前置きが長くなりましたが、これ以上、日本で培われてきた建物づくりの技術に対する誤った理解が蔓延しないように努めなければならない、と私は考えます。

そこで、多少でも、「誤解」蔓延の防止になれば、と考え、ここしばらく、先の「日本の建築技術の展開」シリーズを、「つくる立場」により近く立って、説明しなおしてみようと思います。

なお、図版類の編集・作成のため、多少掲載間隔があくと思います。


次回へ続く

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