ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司「追憶のカシュガル」

2011-10-01 14:38:49 | Weblog
 図書館の書架で、この本を見つけ「わーい!御手洗シリーズの最新作だ」と喜んで借りて読んだが…
 読んでも読んでも、殺人事件が起こらない。とうとう最後まで読み終えてもノー殺人事件!

 あったね。以前こういう事が!
 ずいぶん前、アガサ・クリスティの「春にして君を離れ」だったけ、それを読んでも読んでも殺人事件が起こらず、それどころか、ポアロもマープルもエジプト考古学もスコットランド・ヤードも出てこず、中年女の過去の思い出と愚痴話がえんえんと続き、何これ?本当にアガサ・クリスティ?と怪しんだ事があったのだ。

 まあ、この「追憶の~」はタイトルの横に、進々堂世界一周という副題が付いているので、御手洗シリーズの番外編というかサイドストーリーということが判る。

 
 時は1974年、京都大学医学部に在籍していた御手洗は、毎日、珈琲店・進々堂に現われた。その御手洗を慕って、同じ時刻に来るサトルという予備校生がいた。
 放浪の長い旅から帰ったばかりの御手洗は、世界の片隅で目撃した光景を静かに話し始める…。

 ミステリではないが、レトロのいい雰囲気で始まる。全部で4編。最後の表題作「追憶のカシュガル」が、いままでの島田荘司と少し変わっている。

 カシュガルという中国最西端のシルクロード時代からの町で、ウイグル族の老人が、第二次世界大戦の前にここにやって来たアキヤマという日本人の事を思い出して、御手洗に語り始める。
 アキヤマは日本軍の諜報部員だろう、彼は言った「ぼくも君も同じアジア人だ。これからはアジアの同胞同志、力をあわせて列強の圧力に対抗していかなくてはならない。今、アジアは未曾有の難局に直面している。白人たちに故郷が蹂躙されているんだ」

 そのアキヤマを、なんと島田荘司は肯定的に書いているのだ。こんな事って、いままであったっけ?  

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