日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





シリーズ:攘夷運動2008【3】へ)


 いやーお見事としかいいようのない芸を見せてくれました。
フランスの特使派遣です。

 パリでの聖火リレーがチベット弾圧に対する抗議活動で荒れに荒れたのは記憶に新しいところですが、当局の張った
「結界」(報道管制、思想統制、印象操作など)にコロリと騙されてしまった中国国民……というより中国の総人口の9割以上を占める漢族は、チベット弾圧こそ正義と考えているため抗議活動には一大反発。

 欧米メディアの「偏向報道と偏見」(笑)を煽り立てる当局の宣伝もあって、とうとう中国国内各地に多数出店しているフランス系スーパー・カルフールに対するボイコットを呼びかける声が例によってネット上であがり、19日(土)、20日(日)とデモを含む抗議活動が全国で展開されました。

 2005年の反日騒動以来といえる規模と内容をもつ春の嵐です。香港の最大手紙『蘋果日報』をはじめ各紙の報道を総合すると、20日に抗議行動が行われたのは
北京、上海、青島、済南、ハルピン、大連、合肥、武漢、西安、昆明、広州、深センの12都市。市内に複数出店している街もありますし、他に武警(武装警察=内乱鎮圧用の準軍事組織)で固めた北京のフランス大使館前を抗議の車列が通ったりしたようです。

 とはいえ月曜からは社会人は仕事、学生は授業があるのでデモはまずあるまい。……と私は楽観視していたらあにはからんや。今朝(2008/04/22)の香港紙『蘋果日報』及び『東方日報』の報道によると、その月曜である昨日(21日)も全国9カ所でカルフール前での抗議行動が行われ、このうち河南省・鄭州市の店ではちょっと荒れたらしくで臨時休業に追い込まれた模様。

 ニートや失業者が主役だったのかどうか詳細は不明ですが、土日の勢いをひきずって月曜日にもデモが実施されたというのは何やら剣呑ではありませんか。という訳でこの問題に関するエントリーは
【攘夷2008】というカテゴリーに分類することにしました(笑)。

 中国ですから「義和団」でもよかったのですが、今回の動きはひょっとすると
「倒幕」の端緒となりかねない要素を含んでいるため「攘夷」にこだわった次第。また、「中共人」という「異民族」による統治に対する庶民の反発、つまり中国社会最大の対立軸といえる「官vs民」フラグが立つかも知れない、という含みもあります。

 ――――

 ともあれ中国人の目の敵となってしまったおフランスですが、植民地をたくさん持っていた時代からの蓄積があるので危機管理はお手のものなのでしょう。まずは前回報じたように、在北京のフランス大使に巧みな答弁をさせて事態が深刻化するのを防ぐ一方、すぐさま本国から特使を派遣。

 中国人にとって屈辱の記憶となったパリの聖火リレーといえば、身を挺してトーチが奪われるのを防いだとされて正義のヒロインとなった観のある車椅子の聖火ランナー・金晶がもてはやされていますが、パリからの特使は直接上海入りして中国に着くなりその金晶のもとへ直行。彼女の「勇気ある行動」(襲撃者は中国当局の工作員で要するに自作自演という説もあります)に敬意を表するとともに、サルコジ大頭領からの親書を手渡すという実に心憎いアクションをみせました。

 この親書の内容がまたお上手で、大統領は金晶が襲撃された事件に
愕然とするとともにその卑劣な行為に義憤を発したとのこと。そして金晶がその場でとった勇気ある行動に敬意を表する一方で、「あなたの行為は祖国の栄誉」と賞讃。また事件を激しく非難した上で「中国人民の怒りは理解できる」とし、襲撃者は「ごく少数」の輩によるものゆえ中仏両国人民の友好関係にはヒビが入らないと確信している、と表明しました。

 そして親書の末尾には是非フランスに招待したいというプレゼント付き。国内の混乱悪化はどうしても避けるべく
「火消しモード」に入っている中国当局はさっそくこれにとびつき、

「来るのが遅くなったお見舞いではあるが、やはり歓迎に値する」

 と国営の新華社通信が美談に仕立て上げました。さすがに欧州はしたたかなものだ、私は感嘆してしまいました。中国当局が気付いているかどうかは知りませんが、フランス大統領からのこの親書には
謝罪を示す言葉が全く登場しないのです。いやーお見事(笑)。

 ――――

 これが19世紀であれば軍艦を派遣するところでしょうが、時代は21世紀ゆえ平和的な微笑み特使外交という訳です。一方でフランスのこの迅速なリアクションからは、当ブログが再三指摘しているように
中国が国際社会において存在感を強めている=いざというとき平然と居直ることのできる条件を持ち始めた、という状況が垣間見えるように思います。

 付言するなら、
19世紀に欧米列強が行った「砲艦外交」をこの21世紀に無理矢理やってしまおう、というのが中国のスタンス。「中華民族の復興」という言葉には「やられた分だけ今度はやり返してやる」というニュアンスが含まれていることは覚えておくべきでしょう。

 中共政権によるチベットをはじめとする様々な人権弾圧、そしてそれを国際社会が非難することでドタバタになってしまった聖火リレーは、つまるところ「微笑み特使外交」と「砲艦外交」という
現状認識や価値観が全く異なる者同士の衝突といえるかと思います。時代錯誤を承知の上で横車を通そうという中国は、やはりオリンピックの開催国になるには余りに不適格というほかありません。

 その中共政権に統治される中国国民もまた、武力を背景に押しつけられ叩き込まれる時代錯誤な「中共史観」で煮詰められているため、国際社会、少なくとも先進諸国のデ・ファクト・スタンダードを受け入れるレベルには程遠い民度で据え置かれています。

「私は『香港人』であって、『香港に住んでいる中国人』ではない。大陸の連中と一緒にされては迷惑だ」

 と自己を規定する30~50代の香港人(英国植民地時代の教育を受けて成人した世代)あたりがその「やるせなさ」を最も痛切に感じていることでしょう。

 ――――

 余談に流れてしまったので軌道修正。悪者にされたフランス政府は自国のビジネスに影響が出ぬよう、いま現在で打てるだけの手を打って「反仏」の鎮静化を図ったところです。一方の中国当局は、これまで先頭に立って西側諸国や特定メディアに対し、

 ●偏向報道だ。
 ●中国への偏見だ。
 ●ダライ集団と手を結んだ敵対勢力。

 などと痛烈に悪罵を放ち続けてきました。そうすることで国民の意思統一を図ろうとしたのでしょうが、薬が効き過ぎて排外的ナショナリズム、つまり「攘夷」運動という火の手が全国各地から上がってしまい、慌てて方向転換したばかり。それがいわゆる「火消しモード」で、19日、20日、21日の3日間は国内各メディアを総動員して、

 ●愛国には激情よりも理性が必要。
 ●自らの本分を尽くすことこそ最高の愛国活動だ。

 といった論調の記事をガンガン流すことで事態収拾を試みています(←いまココ)。しかし前回紹介した通り、今回の「火消しモード」は2005年の反日騒動に比べれば明らかに不徹底でスキだらけ。

 とりあえず「ダライ集団」は引き続き断固として指弾していかなければなりません。となると「ダライ集団」を支持する国家やメディアについても手を緩める訳にはいかないため、俯瞰してみると
「火消し」の一方でいまなお「煽り」(燃料投下)が行われているという泥沼状態。いま「新華網」(新華社電子版)をのぞいてみたら、

「来るのが遅くなったお見舞いではあるが、やはり歓迎に値する」

 という例の記事が相変わらずトップニュース。これは「火消し」ですね。では『人民日報』電子版の「人民網」は?と飛んでみたところ、

「たとえ『国際問題化カード』を切っても『チベット独立の夢』を実現することはできない」

 という論評記事がトップに躍っていました。これはどうみても「煽り」でしょう。しかも、たとえ国際社会を敵に回しても断固として許すまじ、という気魄に満ちた戦闘的な標題(笑)。

 「火消しモード」を発動させても「事態鎮静化」の願いはかなえられない、てなところでしょうか。

 ――――

 そもそも「火消し」を必要とするほど荒れているか?ということから考える必要があるように思います。

 ●適当に官製デモを何度か打つ。
 ●民衆を適度に荒れさせる。
 ●国民の不満のガス抜きとなる。
 ●社会から剣呑さがなくなる。終了。

 といったような観測が日本国内でも出ていますけど、胡錦涛政権と中国社会にそんな高等戦術を使えるだけの余裕があるのか?という疑問が第一。……という以前に、土日のデモで参加者は本当に「荒れた」のか?本当は不完全燃焼ではなかったのか?といったあたりを私は疑っています。

 するとうまいことに、コメント欄に「ケイズ」さんが現場映像をタレ込んでくれました(「ケイズ」さん、ありがとうございます)。

 ●中国人によるカルフールボイコットの様子in中国・安徽省(ニコニコ動画 2008/04/20)

 YouTubeでも同じものを観ることができます↓。何とデモ隊が安徽省・合肥市のカルフール店内に乱入した模様。



 日本の新聞報道はこちら。

 ●中国:反仏デモ拡大 カルフールに1000人乱入(毎日jp 2008/04/21/00:59)
 ●1000人が一時店内に乱入 安徽省のカルフール(MSN産経ニュース 2008/04/21/01:26)

 ……で、動画をみた私の感想ですが、
「何これ?全然荒れてないじゃん」です。だって商品が強奪されていませんし、現金が入っているであろうレジが破壊されてもいません。焼き打ちの気配もなし。これでは暴れた内に入らないでしょう。

 当ブログが過去に紹介してきた数々の都市暴動、それに2005年春の反日騒動を思い出してみると、この種の騒乱には
「破壊・略奪・放火」の三種の神器はまず欠かせないところ。それなのに乱入してシュプレヒコールを叫ぶだけ、というのは中国基準に照らせば余りに平和的です(笑)。サクラを動員したヤラセ映像?という可能性すら考えてしまいます。


「下」に続く)




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コメント
 
 
 
■チャイナチスが中国分裂を加速する-北原白秋がヒトラー・ユーゲントの歌を? (yutakarlson)
2008-04-22 15:38:48
こんにちは。北京オリンピックの壊れ具合ますます酷くなってきました。最近チャイナチスという言葉ができたのをご存知ですか、もちろんチャイナ+ナチスの合成語です。最近の中国人のデモをみていると、ヒトラーが政権をとる直前の突撃隊(SA)を想い出してしまいます。SAはドイツ国内でしょっちゅう、このような破壊活動を扇動していました。しかし、後にはSAはヒトラーにつぶされてしまいます。首謀者のエルンスト・レームはもちろん死刑になりました。彼らの末路もあのようなことになるのでしょうか?これから、始まる「中国崩壊」の壮大なレクイエム。中国のエルンスト・レームは誰になるのでしようか。私のブログでは、ナチス・ドイツの突撃隊の末路を掲載しました。是非ご覧ください。
 
 
 
Unknown (民主化記者団)
2008-04-22 18:16:33
日本で聖火狙うならパラリンピックの女子選手が一番だな、しっかり消せるように消火器持っていくか。
 
 
 
第一次上海事変 (muruneko)
2008-04-23 12:06:34
御家人さん、お久しぶりです。暫くROMっておりました。


無理やり文脈繋げる感が有りますが、第一次世界大戦後の第一次上海事変の際には、大戦で疲弊した英独仏が怒れる漢人共を制圧して頂戴と日本に泣き付いてきたので、帝国海軍陸戦隊が派兵され、そのまま(第二次上海事変で陸軍の上海派兵軍に取って代わられるまで)治安を守っていたんですよね。

さてさて、この度は、いつ頃武警投入かなーと。
 
 
 
murunekoさんへ (御家人)
2008-04-23 19:47:55
 こちらこそ御無沙汰してしまい申し訳ありませんでした。m(__)m

 正直,余りにもお約束な展開で呆れてしまっています。セオリー通りネット署名運動がスタートしてしまいました。

 経済はmurunekoさんの御専門ですから釈迦に説法になってしまいますが、2005年春の反日騒動当時に比べると都市部の諸状況は確実に悪化していると思います。騒ぎたい人たちが、たくさんいると思うのです。

 武警投入ですか。今度は都市部ですから海外メディアなど衆人環視の下でということになります。下手をすると本当に北京五輪が吹っ飛びかねませんね。
 
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