日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 きのう8月1日は人民解放軍の誕生日たる「建軍節」。正確な由来は周恩来や朱徳らが1927年の8月1日、江西省・南昌で国民党に対して武装蹶起したことによります。

人民解放軍にとって一年における最大の節目がこの「八一建軍節」。節目の中の節目ですから、機関紙である『解放軍報』が必ず社説を掲載します。

 いわゆる「八一社説」、これが軍の所信表明のようなものと位置付けられており、プロのチャイナ・ウォッチャーはもちろん、私のような中国観察の真似事(チナヲチ)に興じる素人も必ず一読する重要文書です。

 ……と毎年書いていることを今年もコピペしました。気がつくと当ブログも満3年を越えて、4年目に入っています。皆さん、これからもどうぞよろしく。m(__)m。

 ――――

 当ブログでは2005年、2006年にもこの「八一社説」と組み打ちしています。

 ●兵隊さんが揺れてます。――解放軍報八一社説。(2005/08/03)
 ●今年は「科学的発展観」の連呼。――解放軍報八一社説。(2006/08/02)

 いずれも実にわかりやすい内容でした。一言でいえば「必死だなw」です。

 2005年の「八一社説」には、軍は「党の絶対的指導」に従え、という表現が類する文言を含めると何と23回も登場しました。2004年はたった4回。それだけ「胡錦涛同志を総書記とする党中央」ないしは「胡錦涛同志を主席とする党中央軍事委員会」に従わない勢力が軍内部には多かった、ということでしょう。要するに胡錦涛による軍権掌握が不十分であるため、「党の絶対的指導」を強調するのに必死だったということです。

 これが2006年の「八一社説」になると一変して、「党の絶対的指導」云々はわずか5回。軍権掌握が前年より進んだことを示唆しています。そしてこの年の「八一社説」の目玉は、胡錦涛の提唱する「科学的発展観」が文中で連呼されたこと。必死に強調されている以上、当時は「科学的発展観」が軍隊にまだあまり浸透していなかったのでしょうが、軍部、特に『解放軍報』を掌握している主流派、あるいは軍の大勢が一応胡錦涛擁護に回った、と感じさせる内容でした。

 ――――

 そして今年2007年の「八一社説」。

 ●新たな歴史のスタートラインにおいて再び輝きを生み出そう(解放軍報 2007/08/01)
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2007-08/01/content_904711.htm

 結論からいってしまうと、昨年、一昨年にみられた「必死だなw」型の傾斜が消えているのが第一の特徴。必死になる必要がさほどなくなったということで、胡錦涛と軍主流派による軍部の掌握にほぼ成功したことを示しているように思います。

 ただ同盟しているかのような胡錦涛と軍主流派の間の上下関係、つまりイニシアチブを握っているのはどっちか、というのは判然としません。胡錦涛は今年も昇格人事と予算の大盤振る舞いで軍部の心を引き寄せようとしています。一方で軍内部に対する会計監査に力点を置くといった表明が最近行われており、アメとムチで軍権掌握を進めようとしている気配がしないでもありません。

 会計監査や汚職摘発は政敵を葬るために常用される手段ですから、非主流派をこの方法で叩き潰したり、口うるさい老将軍を引退に追い込んで「若手抜擢」という大義名分で人事刷新を図りつつあるように思います。

 今年は建軍80周年ということで、自画自賛的な縁起のいい文言を散りばめた分だけ紙幅に余裕がなくなり、そのことも「八一社説」からある種の傾斜が失われている理由のひとつでしょう。

 ――――

 「党の絶対的指導」云々は今年も叫ばれていますが、連呼されている訳でもなく枕詞のようなものになっています。それからこうした節目節目の文章では必ず言及される一節、

「『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』などの誤った思想の影響を断固排除」

 という文言は今回も登場していて、

「『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』などの誤った思想観点を断固排除し、思想的にも政治的にも行動する上でも党中央と高度に一致し、一切の行動は党中央、中央軍事委員会と胡主席の指揮に従うことを自覚せよ」

 となっています。この「軍隊の非党化・非政治化」及び「軍隊の国家化」という言葉が示す具体的内容が私にはわかりません。

「党中央に従わない動き」

 を示す隠語なのか、具体的に何事かの動きが軍内部にあるのか。御存知の方は是非ご教示下さい。

 ――――

 ところで上述の、

「『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』などの誤った思想観点を断固排除し、思想的にも政治的にも行動する上でも党中央と高度に一致し、一切の行動は党中央、中央軍事委員会と胡主席の指揮に従うことを自覚せよ」

 の続きは、

「党が新たに創造した理論で全軍を武装し、科学的発展観を国防と軍隊建設の重要指導方針とすることを堅持し……」

 となっていて、胡錦涛イズム(科学的発展観)が大事にされていることがみてとれます。この「科学的発展観」が舞台の中央に躍り出たような印象を与えるのも今年の「八一社説」の特徴です。

 中共政権は毛沢東、トウ小平、江沢民ときて胡錦涛で4代目になります。前3代について「八一社説」は、

「毛沢東の軍事思想、トウ小平の新時期軍隊建設思想、江沢民の国防と軍隊建設思想」

 と、それぞれに指導理論があったことを示し、いずれも時代の変化に伴ってマルクス主義軍事理論を刷新してきたものだとしています。

 ――――

 では4代目の胡錦涛はというと、

「党の十六大(2002年の第16回党大会)以来、胡主席は内外の形勢の新たな変化を深く分析し、新たな状況下での国防と軍隊建設を強化することに関する一連の重要論述を行ってきた」

 とし、これが毛沢東、トウ小平、江沢民の指導理論を継承しつつ、より発展させたものだ、となっています。

 この「毛沢東、トウ小平、江沢民の指導理論を継承しつつより発展させたもの」が前述した「党が新たに創造した理論」であり「科学的発展観」で、現時点における軍隊のバイブルという訳です。

 どういうことかといえば、昨年の「八一社説」ではまだ不明確だった江沢民の指導理論のポジショニングを毛沢東・トウ小平と並べることで、いわば「過ぎ去った時代の古い指導理論」扱いにしているということです。

 この江沢民の指導理論と胡錦涛イズムの間に明確な線引きを行い、「江沢民」を過去に追いやったことも今年の「八一社説」の特徴かと思います。

 ――――

 さて、今年の「八一社説」には以前のような傾斜がみられないと書きましたが、その代わりに文章からにじみ出てくるのは一種の緊張感です。それはたぶん、今秋に第17回党大会、そして来年春には台湾の総統選挙が行われることに起因しているのでしょう。

 そもそも今年の「八一社説」のタイトルが、

「新たな歴史のスタートラインにおいて再び輝きを生み出そう」

 となっています。その「新たな時代」にふさわしいものとして胡錦涛イズムが強調され、江沢民の指導理論が押し入れにしまわれてしまった訳ですが、この「新たな歴史」つまり新時代における人民解放軍の使命について「八一社説」は、

「我々は新世紀の新段階における歴史的使命を忠実に履行し、国家の主権、安全、統一と利益の発展を維持かつ保護し……なければならない」

 とわかりやすく解説しています。要するに単なる国防だけではなく、台湾を統一し、尖閣諸島や南シナ海のスプラトリー諸島を奪取して完全に手中に収め、一方で海洋権益の保護と拡大に努める、ということです。……この、ちょっと外向きにメッセージを送るが如き内容も今年の「八一社説」の特徴のひとつに数えるべきだと思います。

 ――――

 その背景として、十数年にわたる軍拡路線によって人民解放軍が装備の近代化や情報化の進展に自信を持ち始めているということがあるでしょう。これは文章全体から漂ってくる気配でもありますが、一方で最近は軍の将官などによって「空母保有論」が公然と語られ始めてもいます。当の8月1日にもこの通り。

 ●中国は空母を建造する基本能力を具備している(新浪網 2007/08/01/11:47)
 http://mil.news.sina.com.cn/2007-08-01/1147457759.html

 この対外拡張志向ともとれかねない姿勢を明確に打ち出し、それが「八一社説」にも反映されたというところに私はキナ臭さを感じています。折から人民解放軍はロシアで共同軍事演習に入っており、一方で曹剛川・国防部長は、

「我々は台湾独立を制止する覚悟も能力も準備もできている」

 と語ったばかりです。

 ●「新浪網」(2007/07/31/19:43)
 http://news.sina.com.cn/c/2007-07-31/194313565925.shtml

 ここ数年は主として胡錦涛と軍部の力関係の目安として読んでいればよかった「八一社説」が、対外拡張志向をチラつかせるようになったことについて、私たちはこれを重大な変化と受け止め、危機感を持つ必要があるのではないか……と愚考する次第です。




コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )



« もっと、色々... 北京五輪は「... »
 
コメント
 
 
 
シナの空母 (車探偵長)
2007-08-02 18:42:34
空母の運用維持には莫大な費用がかかるとは思いますが、
こと軍事に関してはそれもお構いなしというところでしょうか。
正直羨ましいですわ。日本じゃ財政がもたんわ。
願わくは、運用不備で沈没してくれ、シナの空母よ。

大日本帝国海軍空母「信濃」より。
 
 
 
Unknown (侘助)
2007-08-02 20:08:48
ぶっそうな話ですねえ。あんな広い土地持ってるのに台湾みたいなちっさい島とってどないしますのやろ。ほんましょうもない国やで。
 
 
 
兵隊万葉集の発刊 (後塵)
2007-08-02 22:21:47
標記の図書が、幻冬舎新書として出ました。
ということを是非、伝えたくて・・・
 冒頭は「支那兵の 死に浮く水を 汲み上げて せつなけれども 呑まねばならず」から、始まり、「今一度 優し言の葉 征きて待つ 桜花咲く 靖国の庭」が、靖国神社を詠った一首でした。日支事変から年代順に編まれています。最後は、広島の「太き骨は 先生ならむ そのそばに 小さき頭の 骨あつまれり」で終わります。
 編者は、まだ、30代半ばの早坂隆氏です。あとがきに、「当時の日本人はみんな狂っていた。だから原爆を落とされても仕方がなかった。あれで日本人は洗脳から目覚めた。原爆に感謝しなければならない」と中学生時代に社会科の教師から言われたとあります。
 淡々と歌を紹介し、歪められた「あの時代」を心の眼で再現しようとしています。
 私よりふた廻り後の世代は、そんな酷い教育を受けていたのかと改めて驚くとともに、早坂氏のような人物がちゃんと時代を再現しようとしていることに感謝しました。
 ・・・こんな内容ですけど、御家人さん許してくれるよね。
 
 
 
さすが外貨準備高世界一 (CatSit1)
2007-08-03 11:31:19
空母を戦力として「運用」するには最低3隻必要ですねぇ。
ついでに空母自体は単なる「輸送船」なので護衛にあたる艦艇が3チーム・・。
フネから発進できる「艦載機」という特殊なヒコーキが・・。
こういった事を訓練するための教育・訓練施設が・・。

あー、おフランスは見栄で空母保有したためにその他の海軍艦艇のメンテすらままならなくなって
海軍の稼働率ガタ落ちとのこと。

フランスのGDP規模の3倍になるまで(なっても?)空母機動部隊の運用は延期したほうが・・。
長大な陸上国境線もありますし・・ねぇ?

ちなみに日本はこじんまりとヘリ搭載護衛艦(断じてヘリ空母ではない・・らしい)など建造中です。
あと、対艦ミサイルを最大12発搭載可能な哨戒機とかも・・(なんちゅー凶悪な哨戒機じゃい!!)
 
 
 
歴史は繰り返す (せは゜たくろう)
2007-08-09 03:31:44
中国が空母を建設するなんて、すごくいいニュースであります。ぜひ金かけて立派に建造して下さい。運用は日本にお任せ下さい。21世紀の「鎮遠号」としてキッチリ使いこなしてみせますです。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。