毎年のことながら、11月も半ばを過ぎると年末商戦だの正月休暇確保といった日本側の都合によって私の仕事(本業)が急に忙しくなってきます。
俗にいう「年末進行」というやつですが、香港・台湾側はクリスマスでひと波きたあとに日本サイドが休暇を満喫しているお正月期間は通常勤務(元日だけ公休日)。ピークは旧正月にやってきます。
……ええ、割を食うのはいつも私ひとりだけです。日本側の「年末進行」に付き合って疲労困憊で迎えるお正月期間には香港・台湾側から入ってくる仕事を泣く泣く片付け、息つくヒマもなく今度は旧正月を控えた香港・台湾側の「年末進行」、これには副業(週刊誌の中文コラム)も巻き込まれます。
そして連中が旧正月の休みを満喫している間、日本側は正月気分も抜けて通常勤務のため私は、私は……。orz
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要するに本格的に忙しくなってきたと言いたいのです。
ところが中国は農閑期の関係もあってただでさえ農村部が不穏になりがちなのに、「都市暴動」やら「お犬様デモ」やら「黄菊」やら急に雲行きの怪しくなった「中印関係」やら今回の「キティ」やら……どうも最近は材料が豊富で、時間的余裕のないこちらは消化するのが難しく、つい後ろから追いかける形になってしまいます。
もう私の方がプカリと浮上したいですキティホーク後方8kmに。いやもちろん沖縄近海指定で。色々なモノがプカプカしていて栄養満点な珠江だけは勘弁。黄埔江や蘇州河も嫌です。上海の方は喧嘩に負けた罰ゲームで陳良宇や黄菊に泳いでもらいましょう。すでに腐海状態の渤海湾はもちろん地元の温家宝、お前が担当だ。SK-IIを重金属扱いした祟りだと知れ。
閑話休題。
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●中国潜水艦が追跡 射程圏内も米空母気づかず(Sankei Web 2006/11/15 02:02)
http://www.sankei.co.jp/news/061115/kok003.htm
【ワシントン=山本秀也】沖縄近海の太平洋上で10月末、米海軍空母「キティホーク」が中国海軍の通常型潜水艦の追跡を受け、魚雷などの射程圏内に接近されても探知できなかったことが14日までに分かった。米太平洋軍のファロン司令官が、米メディアの報道を確認した。中国海軍は軍備の拡充を急速に進めてきたが、米空母を狙った今回の挑発的な行動は、ガス田開発の進む東シナ海や台湾海峡など、日本周辺で不測の事態を招く懸念を浮き彫りにした。
AP通信によると、クアラルンプール訪問中のファロン司令官は14日、沖縄近海を航行していたキティホーク戦闘群が中国潜水艦の接近を受けたことを確認。(中略)
13日付の米紙ワシントン・タイムズは、米国防総省当局者の話として、キティホークが先月26日、中国潜水艦の追跡を受けた末、哨戒機が後方約8キロの水上に浮上した潜水艦を発見するまで探知できなかったと伝えた。(後略)
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上の記事は11月15日のものですけど、香港や台湾では『ワシントン・タイムズ』紙の報道を受けて13日夜にはネット上で第一報が流されています。例えば香港紙『明報』の電子版。
http://hk.news.yahoo.com/061113/12/1wbg7.html
事の次第は上の通りです。「キティホーク戦闘群」というからには護衛艦艇が随伴し、上空には直衛戦闘機や対潜ヘリが飛んでいて、あるいは攻撃型潜水艦まで連れていたかも知れません。
その後方わずか8kmに中国潜水艦がいきなり浮上するというのは、気付かぬフリをしてわざと泳がせていたのでなければ、潜水艦の兵装からしてその射程圏内に入ってくるまで接近を探知できなかったということで、米海軍の大失態ということになります。
ちなみにこの潜水艦は原潜ではなく通常動力型の「宋級」と呼ばれるタイプ。名前からすると騎馬民族に弱そうですね(笑)……それはともかく、当の米軍関係者(ファロン司令官)が認めているのですから実際に発生した事態なのでしょう。
ところがです。どうやらこの「事件」をスルーしたい筋、ひいては「なかったこと」にしてしまいたい筋、逆に殊更に騒ぎ立てたい筋とこっそりVサインをしてみせる筋などがあって、何やら複雑な様相を呈しています。
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「米空母を狙った今回の挑発的な行動」
をスルーしたいのは、まずは対中軍事交流促進(具体的には米中合同海難救助演習の下準備)のため訪中している米太平洋艦隊司令官のゲリー・ラフヘッド大将でしょう。打ち合わせ中に当の相手から挑発行為をされてはメンツ丸潰れです。
例えば米軍内部において、中国の軍事的台頭という状況について強硬派と穏健派がいるとすれば、合同演習といった軍事交流促進の旗振り役といった役どころのラフヘッド大将は、さしずめ穏健派サイドといったところでしょう。
それが人民解放軍のゲストとして訪中している真最中にこんな事件を起こされては、個人的に恥をかかされたも同然ですし、反対派を勢いづかせることにもなります。その交流促進路線にもヒビが入ることになりかねません。
ヒビ割れるのを避けるためには、ノーコメントでスルーするしかありません。中国側と握手しつつ、何事もなかったかのように引きつった笑顔を保ち続けなければならないのです。それを代弁するかのように中国外交部から声明が出ています。ラフヘッド大将へのエールとみてもいいでしょう。
●米軍高級将官の訪中は両軍の信頼関係向上に寄与する(新華網 2006/11/16/19:33)
http://news.xinhuanet.com/world/2006-11/16/content_5339287.htm
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ゲストに恥をかかせる非礼=自らの手落ち、とされるうえ、対中警戒論の台頭を何としても回避したい中共政権は、さらに一歩踏み込んで、米軍側が事実と認めている事件を「なかったこと」にするというパワープレイに出ました。11月16日の外交部報道官定例会見でのことです。
担当は姜瑜報道官(♀)。熊のような猛々しい前髪に気魄を感じさせる鋭い眼光、そして近藤勇を彷佛とさせる岩をも砕かんばかりのがっしりとしたアゴ。……と非の打ち所のないパーツを揃えているのですから、いくらスカーフをあしらっているとはいえ胸元の開いたスーツで肌を見せるのは逆セクハラではないかと。
ともあれその会見における肝心の部分です。
記者「中国潜水艦が米空母『キティホーク』戦闘群を追跡した状況について確認をとりたい。この件について中国側から最新状況を説明してもらえないだろうか。また中国海軍はなぜこのような挙に出たのか?」
姜瑜「われわれは『ワシントン・タイムズ』の関連報道が事実ではないと理解している」
……はい撤収。斬って捨てたようなこの一言でおしまいにできる面の皮の厚さはさすがに中共ならでは、としかいいようのない力技です。要するに「なかったこと」だと強弁した訳ですね。
それに続いて、ラフヘッド大将がいかに友好的に訪中日程を消化してきたかという質問されていない余計な話(上述の「米軍高級将官の訪中は両軍の信頼関係向上に寄与する」)をして、ゲストである同大将と招待主である人民解放軍ひいては中共政権のメンツを守った形での強引な幕引きとなります。
●「外交部ウェブサイト」(2006/11/16)
http://www.gov.cn/xwfb/2006-11/16/content_444863.htm
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もっとも、同じ中国でも「特別行政区」である香港ではファロン司令官が事件を事実と認めたとするAP通信電が間を置かずに報じられており、
「今回、空母戦闘群は対潜戦闘演習を含まぬ訓練を行っていた。もし対潜戦闘訓練中に中国潜水艦を発見していれば、いつ不測の事態にエスカレートしてもおかしくない状況だっただろう」
というファロン司令官のコメントまで添えられていました。
●明報電子版(2006/11/14/14:05)
http://hk.news.yahoo.com/061114/12/1wdf2.html
それが外交部報道官定例会見の2日前ですから、中共政権のトボケっぷりもなかなか見事なものです。もっとも外交部が、
「われわれは『ワシントン・タイムズ』の関連報道が事実ではないと理解している」
という一言で済ませたのは、それ以上に言葉数を費やせばいよいよ道化役めいてくることを自覚していたからかも知れません。
(「下」に続く)
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