感染症内科への道標

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Streptococcus pneumoniae:肺炎球菌

2010-04-20 | 微生物:細菌・真菌
概論
・グラム陽性の双球菌で、中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、髄膜炎の代表的な起炎菌となる。
・成人男性の5-10%、小児の20-40%で口腔内に常在しており、反復する培養で小児の40-60%以上陽性となる。1)
・小児では平均4カ月定着している8)が、個々の肺炎球菌の定着は成人では2-4週間である。2)
・肺炎球菌のもつ侵襲性又はhostのdefenseの低下により感染が成立しうる。
・免疫不全はリスクとなるが脾機能不全は極めて高いリスクとなる。3)
・肺炎において大葉性肺炎を呈するが、toxic damaging substanceを産生しないため肺化膿症は殆どきたさない。きたした場合は嫌気性菌の混在、気管支閉塞、肺癌、肺梗塞等の解剖学的異常を疑うべきである。4)  胸水貯留は40%で認められるが、膿胸は2%程度である。9)
・グラム染色陽性で培養陰性の場合は症状があれば肺炎球菌を疑うが、グラム染色陰性で培養が陽性の場合には肺炎球菌はコロニーしているだけと考えられる。Mandell
・グラム染色と培養で肺炎球菌肺炎の85%は診断が可能である。 

尿中肺炎球菌抗原
・尿中に排泄される共通の莢膜抗原と反応、抗菌薬開始後でも検査可能。
・肺炎球菌性肺炎の約80%で陽性となり、偽陽性は10%以下である。6)
・発症後約3日後より陽性となる。
・保菌やStreptococcus mitisの感染、ワクチン接種後2-5日間で陽性となることがある。
・陽性期間は数日間~数か月間となる。15)


抗菌薬治療
薬剤耐性
Βラクタム
→ペニシリン結合蛋白(PBP 2B 低レベルの耐性、PBP2X 高レベルの耐性)

マクロライド系 5)
→高レベルの耐性erm(B)リボゾームポケットの変異
→低レベルの耐性mef(A)排出ポンプをコード、十分量使用することにより効果あり
 erm(B) をもつ株はclindamycinにも耐性となる。 

・適切な抗菌薬投与後4-5日目でのlow gradeであっても発熱や、白血球上昇は膿胸の可能性を疑うべきである。Mandell
・静注治療においては非髄膜炎であればΒラクタム系で治療可能。キノロン系の感受性は極めて良好。 
・日本においては他国と比較しマクロライド耐性株が非常に多い。(>70%)。アジスロマイシン2g1回製剤でのマクロライド耐性肺炎球菌に対する有効性がメーカー(ファイザー)より示されているが数も少なく現時点での評価は不明である。
・経口製剤において日本においては成人の高用量アモキシシリン(1g 2回~3回)は保険で認められていない。アモキシシリン+アモキシシリン/クラブラン酸でアモキシシリン含有量は1500mgとなる。薬物動態についてはアモキシシリン参照。第3世代の経口セフェムは日本の重症量・難治性疾患の量において高用量アモキシシリンと同等に熱病に記載されているが経口吸収・血中薬物動態の観点から有効性、耐性誘導については疑問がある。
・Mandell推奨 7) :Parental Penicillin(non-CNS) S, I: MIC≦4μg/ml(ほぼ全ての肺炎球菌が含まれる)であればPenicillin 100万単位6時間毎、Ampicillin 1g 6時間毎、ceftriaxone 1g 24時間毎で治療可能
・CLSI 推奨(非髄膜炎)Penicillin感受性、MIC≦2.0μg/mlの場合にはPenicillin 1200万単位、2.0μg/ml≦MIC≦4.0μg/mlの場合には1800-2400万単位で治療を行う。
・EUCAST 推奨:肺炎においてPenicillin MIC≦0.5μg/mlであればBenzyl Penicillin 1.2g×4, MIC≦1.0μg/mlであれば2.4g×4, MIC≦2.0μg/mlであれば2.4g×6は感受性ありとみなされる。
・髄膜炎については別項にて記載。



               
CLSI

Oral Penicillin
S : MIC ≦0.06μg/ml I: 0.12μg/ml≦MIC≦1 R: 2μg/ml≦MIC
Parental Penicillin(non-CNS)
S : MIC ≦2μg/ml I: MIC=4μg/ml  R: 8μg/ml≦MIC
Parental Penicillin(CNS)
S: ≦0.06μg/ml R: 0.12μg/ml≦MIC
Amoxicillin(non-CNS)(Ampicillinも同様)
S : MIC ≦2μg/ml I: MIC=4μg/ml  R: 8μg/ml≦MIC
Ceftriaxone or cefotaxime(nonCNS)
S : MIC ≦1μg/ml I: MIC=2μg/ml  R: 4μg/ml≦MIC
Ceftriaxone or cefotaxime(CNS)
S : MIC ≦0.5μg/ml I: MIC=1μg/ml  R: 2μg/ml≦MIC
Meropenem
S : MIC ≦0.25μg/ml I: MIC=0.5μg/ml  R: 1μg/ml≦MIC
Vancomycin
S : MIC ≦1μg/ml
Azithromycin
S : MIC ≦0.5μg/ml I: MIC=1μg/ml  R: 2μg/ml≦MIC
Clindamycin
S : MIC ≦0.25μg/ml I: MIC=0.5μg/ml  R: 1μg/ml≦MIC
Levofloxacin
S : MIC ≦2μg/ml I: MIC=4μg/ml  R: 8μg/ml≦MIC
Moxifloxacin
S : MIC ≦1μg/ml I: MIC=2μg/ml  R: 4μg/ml≦MIC
Rifampin
S : MIC ≦1μg/ml I: MIC=2μg/ml  R: 4μg/ml≦MIC
Linezolid
S : MIC ≦2μg/ml






経口セフェム
Cefaclor
S : MIC ≦1μg/ml I: MIC=2μg/ml  R: 4μg/ml≦MIC
Cefdinir
S : MIC ≦0.5μg/ml I: MIC=1μg/ml  R: 2μg/ml≦MIC
Cefpodoxime
S : MIC ≦0.5μg/ml I: MIC=1μg/ml  R: 2μg/ml≦MIC


EUCAST

penicillin, ampicillin, amoxicillin and piperacillinでは殆どMIC値が変わらない。
Penicillinが完全に感受性株であればΒラクタマーゼ阻害薬の有無に関わらず、上記他もSと判定する。
薬物動態が加味されており経口剤の感受性はEUCASTは厳しい。
CLSIではMEPMは恐らく髄膜炎想定だけであるが、EUCASTでは二つに設定されている。

Cefaclor
S : MIC ≦0.03μg/ml R: 0.5μg/ml≦MIC
Cefpodoxime
S : MIC ≦0.25μg/ml R: 0.5μg/ml≦MIC

Meropenem(髄膜炎)
S : MIC ≦0.25μg/ml R: 1μg/ml≦MIC
S : MIC ≦2μg/ml R: 2μg/ml










肺炎球菌ワクチン
1)23価肺炎球菌黄膜ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス 万有製薬)
・2歳以上用の肺炎球菌ワクチン
・肺炎球菌の莢膜多糖体成分でできた成分ワクチンであり,23価の血清型は1,2,3,4,
5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 10A, 11A, 12F, 14,15B, 17F, 18回転 19A, 19F, 20, 22F, 23F, 33Fである.日本における成人の肺炎球菌の85-90%をカバーする。12)
・T細胞非依存性にIgG2サブクラスを誘導することから、ブースター効果がかからない。
・日本において原則自費であるが、一部において公費による補助が得られる。
・55歳以下では5年でも85%で感染予防効果があるのに対し、85歳以上では3年未満46%、5年以上で0%と免疫能が低下している高齢者では抗体価が持続しにくい。15)
・年次で抗体価が下がっていく事から、海外では一般的に5年毎の投与が推奨されていたが、日本では昨年ようやく再接種が認可された。
・最近日本でも肺炎球菌ワクチンの再接種が保険適応外ではあるが、容認された。長期療養施設において日本でも肺炎球菌肺炎の発生率を2.8% vs 7.3%と有意に減少させた報告がなされている。11)
・肺炎球菌には84種類以上の莢膜血清型が存在。ある一つの莢膜血清型の肺炎球菌が起炎菌の場合、その莢膜血清型の抗体を産生・保持していても、他の莢膜血清型の肺炎球菌による肺炎は予防できないため肺炎球菌罹患者でも接種がされる。

わが国における23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチンの接種対象者
2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い次のような個人および患者
(1)脾摘患者における肺炎球菌による感染症の発症予防
  (脾臓摘出後の2歳以上の場合のみ保険適応)
(2)肺炎球菌による感染症の予防
 1)筆墨赤血球疾患,あるいはその他の原因で脾機能不全である患者
 2)心・呼吸器の慢性疾患,腎不全,肝機能障害,糖尿病,慢性髄液団扇の基礎疾患のある患者
 3)高齢者
 4)免疫抑制作用を有する治療が予定されている者で治療開始まで少なくとも14日以上の余裕のある患者




再接種対象者 10)
初回接種から5年以上経過した次に示すような肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険性が極めて高い者及び肺炎球菌特異抗体濃度が急激に低下する可能性のある者を対象*とする。
1)65歳以上の高齢者
2)機能的または解剖学的無脾症(例 鎌状赤血球症、脾摘出)の患者
3)HIV感染、白血病、悪性リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、全身性悪性腫瘍、慢性腎不全、またはネフローゼ症候群の患者、免疫抑制化学療法(副腎皮質ステロイドの長期全身投与を含む)を受けている患者、臓器移植または骨髄移植を受けたことのある者

2)7価肺炎球菌ワクチン(プレベナー ワイス)13)
・2010年2月24日より発売
・2カ月齢以上9歳以下の小児用の不活化ワクチン、任意接種
・23価ワクチンがT細胞非依存性のため小児で免疫がつきにくいという欠点を、莢膜多糖体をCRM197という毒性のない変種のジフテリア毒素と結合させることにより12), T細胞を関与させ、抗原性、免疫原生を高めたワクチン。4,9V, 19F, 23F, 18C, 6Bをカバー
・成人においてはカバーする価が少ないこと、反復により逆に抑制される可能性より推奨されていない。
・米国において菌血症の86%, 髄膜炎の83%, 急性中耳炎の65%をカバー。日本においては、侵襲性肺炎球菌感染症の70~80%を、急性中耳炎の約60%をカバー。耐性株による感染症に関してはカバー率がさらに高く、侵襲性肺炎球菌感染症の約90%、急性中耳炎の約80%をカバーする。
・生後2カ月以上7カ月未満の小児に対して、1回用量0.5mLを、27日間以上の間隔をあけて3回接種し、初回免疫が完了します。追加免疫は、3回目接種から60日間以上の間隔をあけて1回接種します。すなわち、計4回を接種。
・十分に高い抗体価が獲得できるとともに、初回免疫後の追加免疫によるブースター効果も確認されている。
・問題点としてはプレベナーにおいてカバーされない19Aの莢膜多糖体をもつ株が増加してきており、又その株はペニシリン感受性が悪い。14)




1) Dudley S, Ashe K, Winther B, et al: Bacterial pathogens of otitis media and sinusitis: Detection in the nasopharynx with selective agar media. J Lab Clin Med 2001; 138:338-342
2) Ekdahl K, Ahlinder I, Hansson HB, et al: Duration of nasopharyngeal carriage of penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: Experiences from the South Swedish Pneumococcal Intervention Project. Clin Infect Dis 1997; 25:1113-1117.
3) Wara DW: Host defense against Streptococcus pneumoniae: The role of the spleen. Rev Infect Dis 1981; 3:299-309.
4) Yangco BG, Deresinski SC: Necrotizing or cavitating pneumonia due to Streptococcus pneumoniae: Report of four cases and review of the literature. Medicine (Baltimore) 1980; 59:449-457
5) Smith AM, Klugman KP, Coffey TJ, et al: Genetic diversity of penicillin-binding protein 2B and 2X genes from Streptococcus pneumoniae in South Africa. Antimicrob Agents Chemother 1993; 37:1938-1944
6) Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, et al: Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis 2007; 44(Suppl 2)):S27-S72
7) Yu VL, Baddour LM: Infection by drug-resistant Streptococcus pneumoniae is not linked to increased mortality. Clin Infect Dis 2004; 39:1086-1087
8) Gray BM, Dillon Jr HC: Epidemiological studies of Streptococcus pneumoniae in infants: antibody to types 3, 6, 14, and 23 in the first two years of life. J Infect Dis 1988; 158:948-955
9) Light RW, Girard WM, Jenkinson SG, et al: Parapneumonic effusions. Am J Med 1980; 69:507-512
10) 肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン 日本感染症学会
11) Maruyama T, Taguchi O, Niederman MS,et al: Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004. doi:
12) 川上 健司, 大石和徳:肺炎球菌ワクチンの現状と今後の課題 臨床と微生物 VoL36 No.12009.1.
13) プレベナー公式サイトhttp://www.prevenar.jp/index-dr.html
14) Brueggemann AB, Pai R, Crook DW, et al: Vaccine escape recombinants emerge after pneumococcal vaccination in the United States. PLoS Pathog 2007; 3:e168
15) Marcos MA, Jimenez de Anta MT, de la Bellacasa JP, et al : Rapid urinary antigen test for diagnosis of pneumococcal community-acquired pneumonia in adults. Eur Respir J 21 : 209-214, 2003

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