ひまわり博士のウンチク

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小林正樹監督『東京裁判』

2010年08月09日 | 映画
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 ミズーリ艦上で降伏文書に署名する重光葵外相。
 
 映画『東京裁判』(1983年公開)をCATVの放送で観た。これまで存在は知っていたが、4時間半以上の長丁場に全編観通す決心がつかなかった。テレビで放映されることもめったにない。ならばこの機会にと意を決して(?)初めて観た。
 
 米国公文書館に保存されているフィルムを中心に、関係各国の記録を5年かけて編集したもので、ドラマではなくすべて実写である。
 つまり、実際にそこで起きたこと、実際に語られた言葉がそのまま表現されているということである。
 
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 被告人席で東条英機のあたまを叩く大川周明。このあと大川は、精神鑑定のうえ松沢病院に送られることになる。この行為が狂言であったかどうかは不明。
 
 梅津美治郎の弁護人、ベン・ブルース・ブレークニーが、「戦争は合法的な行為である」「したがって、そこで行われる殺人も合法的殺人である」「広島に原爆を投下した機長は殺人罪を意識したか」という、衝撃的な発言をしている。しかしこの発言は通訳されず、被告や日本人の弁護団にはほとんど伝わらなかった。日本語の記録文書にも、通訳無しとして記録されていない。
 アメリカの弁護人が東京裁判で原爆に言及したということは知っていたが、そのことがパール判事の判決文と同様、東京裁判に否定的なグループの間で利用されて来たことと、手元にある東京裁判関連の文献にはほとんど触れられていないということもあり、これまであまり意識していなかった。
 戸田由麻の『東京裁判』と粟屋憲太郎の『東京裁判への道』をざっと見渡したが行きつけなかった。
 しかし、実際の発言を聞いて思うことは、右翼が言うように、「だから罪がない」ということではない。第二次世界大戦以前には戦争を違法だとする国際法がなかった、だから法律をもって裁くことが出来ないという意味なのだ。
 この裁判を契機として、侵略戦争(すべての戦争ではない)についての定義とその違法性が国際法に加わり、侵略戦争が犯罪であると規定されたことは、ブレークニーの発言が少なからず影響していると思う。だがこの時点では戦争そのものを犯罪とする国際法は存在していなかった。
 つまり、東京裁判が侵略戦争の犯罪性を問う裁判だとするならば、被告は「事後法」によって裁かれたことになる。
 事後法の有効性については、戸谷由麻の『東京裁判』に詳しいのでここでは言及しない。
 
 結局、ブレークニーの発言は、右翼が言うように日本の「無罪」を訴えたことよりも、アメリカの無差別攻撃、つまり、大空襲や原爆投下の犯罪性をクローズアップしたことになる。それが、通訳されなかった理由だ。
 重ねて言っておくと、東京裁判の被告には罪がないのではなく、その時点での国際法では裁くことが出来ない、もし裁くならば、原爆を投下した飛行機の機長や命令した人間も同時に裁かれなければならないということである。これは裁判をリードするアメリカとしては大変困る発言だ。
 ブレークニーの真意は「被告は法律的には無罪であったとしても、人道的には有罪である」というところにあることを、くれぐれも確認しておきたい。
 
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 罪状認否で無罪を主張する東条英機。
 
 ドラマではなく実写であることをすでに述べたが、ナレーションは後からつけたものである。したがって、監督の思い入れや思い込みもあるだろうから、その点は割り引いておかなければならない。
 粟屋憲太郎は『東京裁判への道』のなかで、「通説」の誤りをいくつか紹介している。その中に、この映画『東京裁判』にも誤りがあることを指摘している。
 被告席があらかじめ28席と決められていたというようなことはなく、そのためにソ連側検事の意向を反映して阿部信行と真崎甚三郎を除外し、そこに重光葵と梅津美治郎を加えたというのは、事実として甚だしい誤りであるという。
 
 それはともかく、この映画は資料的な価値がすこぶる高い。これまで観ていなかったことをやや後悔した。
 いずれ、DVDを買っとこうと思う。
 
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