ひまわり博士のウンチク

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へんな本 内田百閒・稲垣足穂

2008年04月29日 | 本と雑誌
 この前の日曜日、朝日新聞の読書欄で下のような記事が眼にとまりました。

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 川上弘美さんが「へ、へんなものを、み、みつけちゃったよ。と仰天し、狂喜した」作品だそうですが、「生まれてはじめて買った百閒」が『鶴』という川上さんも「へん」です。
 たいていの人はまず代表作から入っていくもので、だったら『阿房列車』あたりじゃないかと思うのですが…。
 *内田百閒の記事はここ

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 『鶴』は今では筑摩文庫の『冥途(めいど)』に収録されていますが、その元になった六興出版発行の版を蔵書していたので、それで読んでみました。
 (しかし、筑摩文庫ってなんであんなに値段が高いんだろう。この、『鶴』が収録されている『冥途』も1,103円もする)

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 後楽園を散歩していると鶴が人間のように自分と並んで歩いて橋を渡った、というような、なんともシュールな話で、たった4ページ。
 たしかに、へんなオヤジの内田百閒の作品としても、かなり「へん」です。実は『冥途』は岩波文庫でも出ているので、手軽さからそっちで読んでしまったものですから、掲載されていなかった『鶴』はこれまで気に留めていませんでした。
 
 話は変わりますが、ぼくが持ってる「へんな本」の最たるものは『一千一秒物語』(イナガキタルホ著)だと思います。

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 実はこの本、とんでもない売価がついていて、Amazonで84万400円! 日本の古本屋サイトで7万円~20万円。

 ばっかじゃなかろか。

 著者の稲垣足穂(1900~1977年)は、
 大正時代から昭和時代にかけて、抽象志向と飛行願望・メカニズム愛好と不毛なエロティシズム・天体とオブジェなどをモチーフにした数々の作品を発表。小説家になる前に前衛芸術家を志望していた経歴もあり、凝った装丁の本が多い。代表作は『一千一秒物語』、『弥勒』など。(Wikipedia)
 というような人で、ぼくはあまり興味のある作家ではありませんでしたから、蔵書しているのは何かの縁で入手したこの1冊だけ。

 しかし、この本に関しては、あまりのばかばかしさに、けっこう好きなんです。

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 短い文章ばかりで、こんなわずか数行で終わってしまうものや、長くてもせいぜい3ページ程度。
 やたら「お月さん」が登場します。しかも、話を振っておいてオチがない。
 (画像をクリックすると拡大されて読むことができます)

 たとえば、

〈或る夜倉庫の蔭で聞いた話〉
 「お月さんが出ているね」
 「何! 安物ですよ あいつはブリキ製ですよ」
 「ブリキ製だって?」
 「えヽ何(ど)うせニッケルメッキですよ」
    (僕が聞いたのはこれだけ)

 それでどうした、だからなんだ、という感じでしょう。
 予告編を見せられたのに本編がない映画みたい。
 「おい、どうしてくれるんだ!」という欲求不満感を読者は無理矢理楽しまされるのです。

 この本の中で、僕が好きなのはこれ。

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〈或る晩の出来事〉
 或る晩
 月の影さすリンデンの並木路を口笛吹いて通って行くと
 エイッ! ビュン! と大へんな力で投げ飛ばされた!
 それだけだった 話はね

 ギャ~~~~~ッと喚きたくなる無責任さ。
 ほっぽり出された読者がどうなろうと知ったこっちゃない。

 こんな原稿を若い作者が出版社に持ち込んだら、編集者から「出版社をなめるんじゃない!」と怒られること必定です。
 ところがこの本、結構なロングセラーで、新潮文庫や筑摩文庫で読むことができます。

 良かったら、ぼくの持ってるこの本、Amazonの中古の9割引で売りますよ。8万円でどうですか。
 ほしい人は気が変わらないうちにご連絡を。

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