ネット上に公開されているエスペラント版シャーロック・ホームズはあまり読みやすくはない。例えばこんな調子である。
“Al la amanto de la arto pro gxia bono mem ofte estas per la plej malgrava kaj plej humila manifestado ke oni derivas la plej fervoran plezuron."(「La Aventuro de la Sangofagoj:ブナの木屋敷」の冒頭部分)
単語の選択も普通ではないが、文章自体もどこが尻尾で頭やら、である。主語・述語動詞がどれなのかもわからない。
(芸術のために芸術を愛するものは、芸術の些細な、ごく卑近な現れに、しばしば無上の楽しみを見いだすものだ:鮎川信夫訳)
しかし分かりにくいのはおおむね冒頭部分のみで、ストーリーが始まればなんとか読めると思う。
「La Aventuro de la Dancantoj:日本語版では(踊る人形)」という作品がある。ここではごく初歩的な暗号文の解読がテーマである。いろんな形の人型の絵にアルファベットが当てはめてある。これをとくに何の手がかりもなしに解読する。原作では、まず英語では「e」が最も多く使われるという事実から始める。
普通この暗号文は他の言語には訳しにくい。日本語版でもここだけは英文である。ところが Darold Booton 版ではこの暗号文もエスペラント訳されているから、当然ながら原作に従って謎解きすることが出来ない。そこで解読の手がかりを「5文字からなる単語で多いのは estXs である(X は a, i, o, u のどれか)ということから始めている。この部分は翻訳ではなくて訳者の全くの創作である。
ともあれ、エスペラントでは語尾が規則的だから、アルファベット文字を置き換えただけの単純な暗号は解読しやすいかもしれない。
写真はベトナム・ハノイのホアロー収容所で実際に使われていたギロチン