最近ちょっと気になっていること。田中宇さんが、アメリカは覇権を放棄していく政策を故意にやっていると言い張っている。
リベラルとトランプ
【2017年7月15日】 ブッシュ政権は、強制民主化(政権転覆)、単独覇権主義(同盟国不要論)など、リベラル軍産の戦略を過激にやって失敗しただけだったが、トランプはその戦略をバージョンアップして、リベラル軍産の戦略そのものを否定し、就任後、最初のG7やG20のサミットで、ドイツを筆頭とする同盟諸国が「トランプの米国とは一緒にやっていけない」と表明する事態になった。トランプの覇権放棄策・多極化策は成功している。
前からこの方は、多極主義のアメリカと単独覇権のアメリカがあって、という分け方をされているが、その流れで、最近は多極主義が勝ってきて、それがトランプの作戦なのだ、わざとやっているのだ、とお考えの由。私はそっちょくにいってそうは思わん。
で、ここには2つの大きな間違いがあると私は思ってる。
一つは、別に故意にやっているのじゃなくて、むしろ崩れてこうなってるだろうという点。
アメリカって国というより大きな利益グループの利益共同体みたいなものなので、やたらに欲張りな奴が無暗にやって、それを失敗する、その失敗を見て次の穏健派というか冷静派が支配圏を握る、みたいな感じでものごとが進んでいるんじゃないっすかね。だから1回目のアタックは半分ヤラセとも言えるだろうが、それは別にヤラセじゃない。
もう一つは、こうしてあちこちで試行錯誤を繰り返し、一時的にアメリカの地位は確かに落ちるが、それで黙っていようという気もなかろう、という点。なんとかして、金融と資源のコントロールを、軍事とメディアを使って各国を脅し上げて、アメリカ優位の体制に持ち込みたいと思ってるっしょ。
田中さん的な枠組みからは、この2つ目が落ちてしまう。これは危険だと思うなぁ。
あの人たちはあくなき、東インド会社的な人々なわけだから、相手が緩んだと思ったら一気に裏切る気でいるのがむしろ常態。
あと、アメリカ合衆国とアメリカという集合体って同じじゃないですから。合衆国を心配するのはアメリカ合衆国の国民の務めであって、他国民にとって問題なのは、アングロ・シオニスト・アメリカという悪の連鎖みたいなメカニズム。ここを間違えてはいけない。アメリカ国民の心配と私たち他者の心配は同じじゃないっす。
で、そのあくなきアングロ・シオニスト・アメリカにとっての現在のハードルは、過去200年との比較において、相手がそれを国民を含めて理解してしまっていること。そして、周辺民ももう、彼らの欲の突っ張り方に辟易しちゃってることかしら。
ロシアは過去の体験から学んだし、不思議に見えるかもしれないが実はドイツもそう。そしてチャイナは全体としてみれば金儲けができればそれでよし人口が劇的に多い集合体ではあるけど、だからといって頭から the West の優位性を認めている地域でもないので、東インド会社的アメリカ、あるいは、アングロ・シオニスト・アメリカを信じてもいないでしょう。
ということなので、相手が緩んだら一気に攻めるという戦略が取れない上に、昔やったソ連と中国を離して攻略するという分断作戦はロシアと中国が国境問題を解決したところから望み薄になってるし、それでも懲りずにイランを絡めてロシアを釣り上げて中国と離す、とかいう作戦もうまくいってない。ドイツとロシアを離そうという作戦もあんまり成功していない。
divide and ruleが、団結すべきだ、という隠然グループによって機能しなくなっていると考えると良いのではないなかろうか。
■ ポーランド、ペルシャ湾
とか思っていたら、イングダールの最新の記事を「マスコミに載らない海外記事」さんが訳してらした。リンクさせていただきます。
ワシントン新エネルギー戦略の致命的欠陥
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-0e47.html
で、イングダールは、現在のワシントンの戦略対象地域を、ポーランドと、ペルシャ湾からシリアへの地域に絞って解説している。いい記事。
これがポーランド。要するにドイツ・ロシアがノードストリームを中心に、ドイツをエネルギーハブにして(ウクライナ、ポーランドを通さず)中欧、東欧を落ち着かせようとしているのに対して、アメリカがポーランドをつついてポーランドにアメリカ産のLNGを買わせて中欧に、ぶっちゃけアメリカの植民地を作るっつー話だね。
現れつつあるのは、エネルギー、具体的には天然ガス・エネルギーという経済的な命綱を巡る新たな本格的なEU断層線だ。一方の側は、特にドイツだが、オーストリアやフランスや主にロシア・ガス供給でまとまっている他のEU諸国現在同士の枢軸だ。登場したのは、明らかに彼らと対抗する、ワシントンと提携したポーランド枢軸だ。今後数カ月、数年に、これがどのように進展するかが、ヨーロッパだけではなく、戦争と平和に大きな意味を持つことになろう。
戦争と平和にとって大きいのは、この構想にはNATOが絡むから。現代の盗賊集団ですからね、NATOは。
もう一つは、ペルシャ湾の話。
新ワシントン戦略の二番目の基軸は、イランとカタール両国の領海にまたがるペルシャ湾にある共有ガス田の世界最大の天然ガス埋蔵を輸送するために出現しつつある、カタール-イラン-シリア-トルコ天然ガス同盟の阻止だ。
最近も、もうムダな抵抗は止めろと誰でも思っているわけだが、まったく意に介する様子もなく、イラク、シリアに「仮の」基地を作ろうとしている気でいるのアメリカという奴。
What’s Behind the Pentagon’s Push to Build New Bases in Iraq and Syria?
https://sputniknews.com/military/201707151055580633-pentagon-wants-expand-syrian-war/
で、ポーランドの方は、イングダールが言う通り、そもそも米国産シェールガスそのものに問題があるので(採掘)、それが最も大きな危険因子なんだろうが、現代の東インド会社にとっては、ポーランド人が貧乏になろうが経済が壊れようが、そんなことはどうでもいいので、買わせるだけ買わせるぐらいのことにはなるでしょう。その後、それによって中欧が混乱したら、それこそ戦争の契機だから、それも良いアイデア!! でしょう。
というわけなので、別に何か、アメリカが小さく収まろうと思って何かをしているわけではないと私は思う。単純にいって、今まであまりにも無茶をしすぎてあちこちでまったく外聞の悪いことだらけになってるし、戦略的にも無茶苦茶になっているので、あちこち揺らしながら、次に向かって変容しようとしている、って感じじゃないですかね。ただ、その変容後が立派にできるかというと、多分できない、ってところが、結果的に、事実上多極化してる、とみえるかもしれないってこと。
で、日本はこの動きの中では、損する役回りでしょう。だって一番抵抗しないし戦略(と呼べるものがあったのなら)も失敗してるから。
この失敗の様子は、ドイツ頼みの三国同盟を思い出させるものがあるなぁとかも最近思う。
■ オマケ
そういえば、ロシアの原油掘削の話はワシントンが邪魔しているという噂がSouth China Monitoring Postに出てた。対露制裁を守れと日本に圧力をかけているらしい。そう。対露制裁ってこういう目的で使っているわけですよ。最初はクリミアについての制裁だったのに、いつの間にか米大統領選挙にロシアが介入したとかいう話でロシアの米資産を接収したりしている(大使館のダーチャをオバマが接収したまま)。
https://twitter.com/NATO/status/884769177906675712
https://www.youtube.com/watch?v=h5rQFp7FF9c
これを受け、「欧米はヒトラー主義の継承者だ。最早、ロシア人抹殺の野望を隠さなくなった。」という、書き込みも見られるようになりました。僕も前半部分については賛成です。
NATOがついにヒトラー賛美に走ってる趣ですよね、これ。知ってた、と私も思ってます。
ただ、卑怯者は常に嘘をつかねばならず、それは殆ど不可能なことだ、とも思ってます。ですので、こうやってバカみたいに曝したことのバックラッシュがあるんじゃないですかね、などとも思います。