1か月ぐらい前、
プーチンはアメリカ右派の希望の星なのか
という記事を書いた。その後も、アメリカの共和党系孤立派は、相変わらずプーチンおよびロシアに拘っているし、引き続き好意的ではある。ウクライナの事件も、90年代のNATOの東方拡大問題こそ間違いだったのだといった悔恨モードに入っている。
それに対して、イギリスでは、もっと今に直結した問題でプーチン登場。
英国独立党(UKIP)党首のファレージ氏が、先週行われた英国自民党のニック・クレッグとの討論で、プーチンのシリア危機の手腕は見事だったと褒め、「人間としてではなくて、運営者として」プーチンを最も敬服するリーダーだ、と言って大騒ぎになった。
Brilliant Putin is the leader I most admire, says Nigel Farage
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/vladimir-putin/10733446/Brilliant-Putin-is-the-leader-I-most-admire-says-Nigel-Farage.html
しかし、プーチンを賞賛するか否か以上に、UKIPは間接的にプーチン率いるロシアを大きく支援している、と私は思う。それは、彼らがEU否定派で、現在の事情からすればともあれEUの拡大は悪だと大越声で騒ぐ人々だから。
そもそもUKIPは、EUに外交方針から国内法の制定まで、なにからなにまでリードされて、国のコントロールを自分の統治権で行えなくなっている、こんなの英国じゃない、これを止めよう、ということで、UKのIndependent Party 独立党、という党なので、EUの無茶振りはなんでもネタになる。
そこで、ウクライナの問題が登場。ファレージの見解は、そもそもEUの拡大一辺倒の外交方針があったからこそこんな問題が起きたんだ、ということ。この見解は、ウクライナ以前に、ルーマニア、ブルガリアといった、はっきり言って欧州なのかそこは?という地域で、しかも経済事情、収入レベルが圧倒的に違うところをEUが特に民主的なプロセスも経ず勝手に吸収するたびに大量移民に困惑させられ続けている一般大衆にとっては、ロシアがどうしたというよりも、さらなる移民の流入を許すか否かの問題として映っている。しかも、その拡大の手続きがおかしいとなったら猶更、EUはおかしい!となる。
へんなおじさん? (ファレージさん)
4月2日のBBCの討論でファレージ氏が語ったウクライナ問題の説明はこんな調子。
ウクライナで起こっていることを見てみれば、私たちは過去10年間ずっとこんなメッセージを送ってきました。これはEUだけの問題じゃないです、デビット・キャメロン(首相、保守党)、ニック・クレッグ(副首相、自民党)、そして多分エド・ミリバンド(労働党党首)もうそうじゃないかと思うんだけど、私たちはみんなして、ウクライナの人々に「ねぇ、欧州連合に入らない?」、だったらほら、「NATOにも加盟しない?」と言ってきました。
これは、ロシアのプーチン大統領からみれば、深刻な挑発的な行動にみえるわけです。私たちは西ウクライナ人たちに、虚偽の希望を与えてきました。彼らがEUの旗やらバナーを持っていたのを見ましたか?(注:申し込めばすぐに加盟できるというわけではないから)。
彼らは、民主的に選ばれたリーダーを現実に転覆させてしまったわけです。そうです、私はウクライナが腐敗していることをよーく知っていますし、全然ちゃんとしていない。そして彼らはリーダーを転覆させたんです。私はますます明白になるEUの拡大外交方針の肩を持ちたくはないです。私はこれは平和にとって危険なことだと考えています。
Farage on Ukraine crisis: EU foreign policy ‘danger to peace’ - video
これに対して、EU拡大推進派のニック・クレッグは要するに、ロシアの独裁者の肩を持っているといってファレージを攻めてみたり、新しい世界では世界は密接に絡み合い、とか、英国は孤立するわけにはいかない、移民してきた人々がイギリス人を雇用し税金を払い、イギリス人だってEU内で働いている云々というどっかで聞いたことを言い続けるのだが、まぁその勝ててない。危機感が違う。
実際、今回の討論もファレージが68% vs 27%と大勝している。
Farage v Clegg: Ukip leader triumphs in second televised debate
http://www.theguardian.com/politics/2014/apr/02/nigel-farage-triumphs-over-nick-clegg-second-debate
さすがにこの騒ぎが2週間続くのはまずいと思ったのか、デビット・キャメロン首相が、二人ともEUについて極端すぎると割って入っている状況。
ウクライナについていえば、政変部分をすっ飛ばして議論することにしているアメリカでは、今にもロシア軍が侵攻を始めるか、みたいな嘘ニュースで大騒ぎしている。まるで1937年の日本を叩くアメリカのようだと毎日思ってる(衝突に至るまでの原因を全部無視して、衝突のところから話すから話がおかしいのだ)。
しかしイギリスでは、EUの拡大方針は現実の課題なので、そんな話で終われるわけはない(一応、BBCはできるだけワシントンの方針に沿って報道する、という姿勢を取っている感じはするが)。
イギリス庶民にしてみればEUをルーマニア、ブルガリアまで拡大してることだけでも問題なのに、その上ウクライナなんて冗談じゃないし、さらに、軍事同盟であるNATOに、EUに入ったら今ならNATOもついてます、みたいな安易な拡大を推進している現在のEU/NATOって何なのよ?という疑問がわかないわけはない。
EUの拡大には賛成だったけど、NATO拡大は反対という人もいる(当然)。
いや、その前にやっぱりイギリス全体で考えたら、EUの東方拡大については、現在の経済云々以前に懐疑的な人の方が多いのではないか、などとも思う。
だって、ウクライナ問題なんて、歴史的にみれば、ドイツ系住民のスラブ系領地への侵入なんだもの。それをなんでイギリスが支援しないとならないわけ?だから。
UKIP支持者と思しき人々が、EUは「大西洋からウラルまで」拡大する気だ!とよく言うんだけど、これは、EUはヒトラーだと言っているも同然なのだ。
そういうわけで、イギリスでは、EU拡大に非を唱えることによって、EU/NATOの東進を阻止したいプーチンのタスクを助ける、という事情が生まれつつある。責任ある立場の人に尋ねれば、そんなことありませんよ、そういう意味ではないですよ、とそりゃいうだろうけど。