かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 144

2014年12月29日 | 短歌一首鑑賞

【非常口】『寒気氾濫』(1997年)76頁
            参加者:石井彩子、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
             レポーター:石井 彩子
            司会と記録:鹿取 未放

177 底のなきやわらかさ恋い朧夜のあかき空気に濡れてあゆめり

      (レポート)(2014年12月)
 朧月が遠くにかすみ、やわらかい夕闇に包まれると、行く手はおぼろとなり、浮遊しているかのような歩みとなる。その歩みは心地よく、赤みがかった春の夜気がしっとりと身体に触れてくる。ゆったりとなだらかな歌いぶりは、歩行そのものの様子を伝えて巧である。歩行を感覚で捉えている点では、ランボー一五歳のときの詩が想起されるが、与謝野晶子の「清水へ…」の作も叙述的ではあるが、景が鮮やかであり、人々のささめき、街の匂い、といった感覚が伝わってくる。(石井)

【参考作品】 
        Sensation アルチュール・ランボー
夏の青い黄昏時に 俺は小道を歩いていこう  草を踏んで 麦の穂に刺されながら
    足で味わう道の感触 夢見るようだ      そよ風を額に受け止め 歩いていこう
一言も発せず 何物をも思わず         限の愛が沸き起こるのを感じとろう
    遠くへ 更に遠くへ ジプシーのように   まるで女が一緒みたいに 心弾ませ歩いていこう                               ( 訳者不明)  

※清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき『みだれ髪』 与謝野晶子


      (意見)(2014年12月)
★しっとりした春の闇が身体に触れてくる感じ。松男さんの歌ってこうした情景を詠んでもその中
 に作者が入り込んでいるから、実感として読む方も味わうことが出来る。(鈴木)
★「あかき」は色彩の赤色ではなく「明き」と思って読みましたが、実態は結局どちらでもそれほ
 ど違わないですけど。(鹿取)
★「赤き」でもいいんじゃない、春の柔らかさが出ていて。(鈴木)(石井)
★「底のなきやわらかさ」を恋うというのが、朧夜がまるで女性みたいでなかなかなまめかしくて、
 包み込まれるような感じなんですね。真っ暗闇じゃない「あかき」空気の中をゆく身体感覚が
 気分良く味わえます。(鹿取)