かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠 26(韓国)

2013年09月12日 | 短歌1首鑑賞
                          【白馬江】『南島』(1991年刊)P77

日本書紀では白村江(はくすきのえ)。天智二年秋八月、日本出兵して
    ここに大敗したことを太平洋戦争のさなか歴史の時間に教
         へた教師があつた。その記憶が鮮明に甦つてきた。

261 旅にきく哀れは不意のものにして宮女三千身を投げし淵


(レポート)2010年12月
 敗れた側の百済王宮の女性たちは、追いつめられて、死を選んだと思われる。どのような心の状態だったのだろう。敵軍に辱めを受けないためであろう。その数※三千とは誇張されていようが、当時もチマチョゴリに近い民族衣装をまとっていたのか。そうならば淵へ身を投げて、風をはらんではなびらが散るようではないか。哀れは三千という数と共に落花そのものの遠景が見える。

 ※三千 ①数の多いことを表す語。李白の白髪三千丈など  ②白居易の「長恨歌」から、特に
     後宮の女性の数多いこと
      (渡部慧子)


(記録)2010年12月
 ★13世紀になってはじめて韓国では「三国遺事」という史書が書かれた。しかし、この書に
 も「日本書紀」にも宮女三千が身を投げた話は載っていない。(佐々木実之)
 ★詞書きからすると、この歌には沖縄戦の折、断崖から身を投げた多くの日本女性の姿が重ねら
  れているのだろう。そう考えると、百済の宮女たちも、レポーターの言うように「追いつめら
  れて死を選んだ」かどうかはあやしい。飛び込んだ断崖を後世のひとが「落花岩」と美化して
  呼んでいるのだが、水死はことさら苦しいもので、私には身を投げたひとりひとりの恐怖が思
  われる。「不意のものにして」と詠っているから、作者はガイドの説明などによって現地では
  じめてこの話を知ったのだろうか。(鹿取未放)