リットーミュージックの「60’s BIZARRE GUITARS」は、それまで粗悪品と考えられ、顧みられることのなかった60年代の日本産エレクトリック・ギターを大量に集め、整理した。インターネットが普及する前の、ある意味それゆえに、と言うべきか、地道で丁寧な取材により、質・量ともに充実した内容となっている。「ビザール・ギター」という新たなカテゴリーも定着し、この本をきっかけにビザール・ギターの虜となった者も多い。
「だのじゃん」的にも、この本はダンエレクトロについて多くのページが割かれていて、資料として貴重なものである。例えば、カワイのギターを製造していた遠州工芸の杉浦陽吉氏、田中恒太郎氏のインタビューの中で、1967年の7月にダンエレクトロの工場を訪問したことが語られていたり、デヴィッド・リンドレーのインタビューでもテスコの話が大半ながらダンエレクトロについても触れられていたりする。
また、テスコ・デル・レイ氏によるダンエレクトロの年代記的な記事、宇賀田裕氏によるロングホーンの仕様変遷に関する記事、あるいはダンエレクトロの創業者ネイサン・ダニエルやその協力者でもあったヴィンセント・ベルへのインタビューなど、記事量が他のメーカーと比べても多い。その理由の一つとしては、当時、スティーヴ・ソーストやジム・ウォッシュバーンらによって結成されたダンエレクトロ・クラブがあり、その会報的なものとして「THE FEVER」が発行されていたことが挙げられるだろう。利用できるテキストが他のメーカーよりも多かったというわけだ。おそらくは1980年代後半くらいからアメリカのギターマニアの間でダンエレクトロのブームのようなものがあったのだろう。トラヴェリング・ウィルベリーズの「End of the Line」のプロモーション・ヴィデオがやたらダノ度の高いものになっているのもその反映なのかもしれない。
この本が発行されたのは1993年3月というわけで、すでに20年以上も前のことになるのだと、今さらながらに驚いた。古書価も高く、数年前までは復刊を望む声も多かったように記憶しているが、ビザールギター・ブームが終焉して久しい今となっては、例え復刊したとしてもそれほど売り上げは見込めないだろう。とはいえ、この本の価値は未だに失われてはいない。