la princesse au bois dormant

~いくつになってもお姫様 眠い姫の独り言~

mixiプロフィール画像について説明

2008年06月17日 | 眠り姫の独り言
 ※タイトルの「mixiプロフィール画像」というのは、2008年6月17日23:30の時点で表示されてた文字だけのものを指します。(「県の教育委員に会ってきます」といった内容です。)


 最初におことわりしておきますが、「会う」と言っても、「私の大事な(あるいは大事だった)母校の校風を潰すようなことをこれ以上するんじゃねえぞコラ」という話をしにいくとかではなく、あくまで大学の時のサークルのOB会の集まり(その教育委員さんも同じサークルのOBで、その集まりのときに講演にくる)なので、「顔を合わせる」程度です。
 一対一で話す機会が持てるかどうかもわかりません。
 ただ、せっかくの機会なので、なんとか世間話くらいはしつつチクっと一言くらいは言えたらいいなぁと思います。
 だからもし、埼玉県教育委員に言いたいことがある方がいたら、コメントでもメッセージでもメールでも電話でも直接でも、私に言ってください。(事情は上記の通りなので、伝えられるかどうかはわかりませんが…伝える努力はします)。
 ただし、私の出身高校を知っている人で、その高校の生徒会の意義を会則をふまえて語れる人に限ります。自分の言葉で語れればいいので、内容が私と一致する必要はありません。


 10年前の私が赦してくれるかどうかはわかりませんが、赦してほしいとも思いませんが、今の私にできるのはその程度です。

月隠れ君に椎の花ちっている

2008年06月08日 | 17
 原句『ふたりに月がのぼり椎の花ちっている』橋本夢道 句集『無禮なる妻』
 なんかぜんぜん五七五じゃないですが、自由律俳句とかいうものだそうです。
 ことばでの表現というものに関してほんとに才能も情熱もある人ならそれでもいいのでしょうけど、私はそうではないので、やはり俳句は五七五におさめたい、というわけで、タイトルの俳句になったのでした。
 「月」と「椎の花ちっている」が使いたかったんです。それだけです。
 でも椎の花って見たことないです。


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月隠れ君に椎の花ちっている

 その公園には、桜の木のほかに、椎の木もあって、毎年、桜の花と交代するかのように、薄い黄色の穂のような小さい花を咲かせる。
 純也の髪と左の瞳と同じ色。
 金色の瞳は生まれつきだったらしいが、髪の色は毎晩のように酔った父親に頭からビールをかけられるからだと言っていた。
 当時はまだ、親の虐待が社会的に取り上げられることもあまりなく、だから13歳の私は、児童相談所なんて言葉も知らなかった。
 「警察に言ったって、『家庭内の問題だから』って、取り合ってもらえないんだ」と言われれば、ああ世の中はそういうものなのかと思うしかなかった、無力な13歳。
 ただ、小さな花の舞う木の下で、彼の背中をずっとなでるしかできなかった。
 月の光の下、夜風に舞い、土に消えていく小さな花のような恋。
 あんまりにも短い恋だった。
 ある日突然、純也は消えた。
 母と二人の妹と一緒に、父親の拳の届かない、どこかの町に行ってしまった。
 この町の誰にも、もちろん私にも、行き先は告げずに。

「どうして?」と、何度も心の中で叫んだ。
 声に出してたら、きっともう、喉は潰れてる。
 行き先を知らされなくてよかったと、今は思うけれど。

 純也の父親は、少なくとも見た目には、きちんとした、人当たりのいい人だった。
 純也がいなくなって数か月たった頃、私を訪ねてきたことがある。
 きちんとスーツを着て、膝をつき、私に頭を下げた。
「純也の居場所を、教えていただけませんか。」
 いなくなって、家族の大切さが身にしみてわかった。いるだけでいい、大事な存在なんだと。もう決して暴力を振るったりしない、酒も飲まない。もう一度、やり直したいんです。それができないなら、自らこの命を絶ってしまったほうがマシです。そう言って、静かに泣いた。
 もし居場所を知っていたら、教えていただろう。そのくらい、真剣な態度だった。
 その様子を見ていた私の親も、「本当に知らないの?まさか知ってて教えないなんてことはないんでしょうね?」と私に詰め寄ったくらいだ。
 あんな、自分に酔いしれた態度も、大ざっぱで聞こえだけがいい言葉の羅列も、自殺のほのめかしも、いかにもDV加害者がやりそうなことじゃないか…なんて、そんなことがわかるのは、私がもう26歳の一応大人で、なおかつ今はその頃よりもDVについての知識が一般的にも広まっているからだ。
 彼の父親は、この間、死んだらしい。
 酒なんか当然やめてなくて、酔いつぶれて吐いたものが喉につまっての窒息死だったと、人づてに聞いた。
 あれから10年以上たち、その間には他の人と一緒になったりもしたらしいが、結局逃げられて、最後は一人で、酒びたりの日々を送っていたらしい。
「誰も、看取ってくれる人がいなかったなんて、悲しいわね。」
 そう、私の母は言った。
 それは確かにそうだろう。
 だけど、そんな人間を親に持ってしまったという事実の方が、はるかに悲しい。
 自分の遺伝子の半分が、そんな人間から受け継がれたものだという思いが、考えの根底にあり続けることの方が、はるかに悲しいはずだ。


「そこまでわかるなら、ジュンヤくんとやらが、何も言わずにいなくなった、もう半分の理由も、わかるんじゃないの?」
 その栗色の髪に、散りそそぐ椎の花を絡ませながら、深紅(「ミク」と読むのだそうだ)は言った。
「え?何が?」
 私が問い返すと、深紅は笑った。
「お父さんに絶対に居場所を知られてはいけなかった、以外の理由だよ。」
「そんなの、ある?そんな大事なこと以外の理由なんて。」
「その頃ここで、ドングリ拾いながら、どんなことを話してたか、思い出してみなよ。」
 深紅は何故か、楽しそうだ。月に照らされた椎の花のように、ひらひらとでたらめに舞っている。
「中学生とか高校生ってさ」
 ひらひら舞いながら、深紅は続ける。
「夢ばっかり見てるけど、真剣に夢を考えてるよね。それこそ、好きな人と子供つくるところまで、真剣に。」
 その言葉に、うんざりするほど遠ざかっていた記憶が、古いけど保存状態のいいカセットテープみたいに、蘇ってきた。
―――やっぱり子供は欲しいよね。
―――そうだね、最低2人は。
―――最低2人?でも2人超えるとちゃんと目が行き届かなくならない?全員とちゃんと向き合える?
―――じゃあ早くに2人産んで、ある程度育ったあたりでまた2人。
 ―――どれだけ体力必要なんだろう?っていうか、産むのお前だけなのわかってる?どんなにがんばったって、俺はかわれないんだからな。せいぜい付き添いくらいしかできないんだから。
 蘇る笑い声の記憶。すっかり忘れていた。
 確かに当時は、子供はいずれ欲しいと当然のように思っていて、純也ともそんな話をしていた。
 今では子供が欲しいなんて、1%も思えない。産むのも大変なら、まともな教育も医療も食も、安全さえも与えるのが大変な世の中なんだもの。
 だけど、純也の子供なら欲しいと、今だって思う。「世の中はどうしようもないけど、捨てたものでもないよ。捨てたものでもない、大事にとっておきたい瞬間もあるよ。」と、他の誰でもない、純也の遺伝子に教えるために。
 だけど、純也は?
 ―――でも俺、自分の子供、殴っちゃったらどうしよう?
 私はその言葉に、なんて答えたんだっけ?
 思い出せない。
「君の子どもを、殴りたくなかったんだよ。」
 深紅は言った。
「もしもそのまま君と付き合って、結婚して、子どもができて、その子どもを殴ってしまったらどうしよう、って、怖かったんだよ。」
 ひらひらと、椎の花が散る。
「純也のこと、知ってるの?」
「知ってるよ。と、知らない、でたらめで言ったの。と、どっちがいい?」
 深紅に椎の花が散る。あの頃純也の髪に散っていたのと、同じ花が。
「じゃあ、知ってる、にしておくよ。」
 泣きたい気持ちと笑いたい気持ちが半分になる。だからどっちも選ばないことにした。
「今なら、だいじょうぶだよって、言えるのにな。」
 親に殴られたから子を殴ってしまう人と、親に殴られたから決して子を殴らない人。純也は後者だと、私は信じてる。
 学校で売られたケンカは買ってたし、殴られたら殴り返してたけど、誰かに命令されてしぶしぶ来た小学生には手を出さずに「帰れ」と、どなりつけて追い返していた。
 自分より弱い人間を殴るなんて、できない人だった。
 そんな純也を、ちゃんと見てたはずのあの頃の私は、ちゃんと「大丈夫。純也は子供殴ったりしないに決まってるじゃない。」って、言えたんだろうか?
 一番言うべきで、言う場所も機会も与えられていた言葉を、ちゃんと言えたんだろうか?伝えられたんだろうか?
 思い出せない。
「だいじょうぶなのにね。」
 ばかだねぇ…という呟きが、涙のかわりにこぼれた。
 誰がばかなんだろう?

 帰ってきてよ。子ども連れてでもいいから。
 元気な顔を見せてよ。
 椎の花の色の左目を見せて。
 もう、お父さんもいないよ。
 もう、だいじょうぶだから。
 だいじょうぶなんだから。


 月が雲に隠れ、深紅の姿が暗闇にとけて、見えなくなった。
 椎の花が、終わりなんかないみたいに、ちっていた。

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