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会社更生(民事再生)法適用と詐害行為取消権について

2008年04月09日 22時37分25秒 | 法関係
遅くなりましたが、先日のコメントで問題提起(→会社更生又は民事再生手続と過払金返還請求について)されておりました詐害行為取消権について書いてみたいと思います。何度も申し上げて恐縮ですが、私は法学部出身でもなければ、法学的基礎教育を受けたことはありませんので、経済学同様あくまで素人考えですので、それを考慮してお読み下さい。


問題とされましたのは、貸金業者等の返還すべき過払金が発生する可能性のある会社が事業を売却・清算したり、会社更生又は民事再生法の適用を受けようとする場合に、過払金返還請求があることをどう処理するか、仮に売却・清算・更生・再生手続を受けたとしても詐害行為取消権を行使するべく提訴されてしまう可能性をどう考えるか、ということです。

1)基本的な考え方

前回書いたように、会社更生(民事再生)法適用後に過払金返還請求がある場合には、
・共益債権として取り扱う
・払えるものは随時弁済
・払えないほどに多額であれば裁判所の判断に従う
ということになるかと思います。

存続会社があり、事業継続ということであれば、その会社が支払うことになるでしょう。保有債権を別な会社に売却したとして、その債権に係る返還請求に関しては購入した会社が返還することになり、それ以外の返還請求―例えば現在残高のない完済者の場合―については、元々の貸金会社が支払うことになると思います。返還が多額になり過ぎて元々の貸金会社が倒産するのであれば、破産手続きに従うものと思います。


2)詐害行為取消権とは

問題となるのは、売却・清算・更生・再生等の手続後に、各完済者等が過払金返還を求める為にそれら手続を詐害行為として取消訴訟を提起してきたらどうなるのか、ということです。

まず民法の条文で「詐害行為取消権」をみますと、次の通りです。

○第424条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

つまり、過払金返還請求者(面倒なので以下、単に「元借り手」と呼ぶ)も債権者であり、この債権者を害することを知っていながら各種手続を行ったのだから、取消を求めることができる、という主張ですね。利益を受けた者や転得者が元借り手の過払金が含まれていたことを知らないはずがない、不当利得が混ざっていたことを知っているだろう、だから詐害行為なのだ、という理屈かと思います。確かに一理あるかもしれません。これが適用になれば、たとえ会社更生法、民事再生法や清算等の手続を経ようとも、それらを取り消しできることになり、債権者への分配を改めてやり直さざるを得ないということになってしまいます。パラパラと提起される詐害行為取消訴訟の度に配分やり直しをすることになる、ということですね。それが妥当であるかどうかを、次に検討してみます。


3)会社更生法適用は詐害行為なのか?

各種手続を行った後から元借り手が詐害行為取消権行使の為に提訴するとして、これが妥当なのか否かということですね。通常であれば、会社更生法申請に伴い債権届出せねばなりませんが、この時点では漏れていて届出をしていなかった元借り手の方々が訴えるということになります。会社更生法適用が決定され、既に更生手続開始となっている会社に詐害行為取消権の請求について考えてみます。

根本的に会社更生法申請は、債権者を害する行為なのでしょうか?民法424条規定のごとく、債権者を害するかどうかです。普通に考えれば、裁判所が認定するものですから、債権者を害するものであることは少ないでありましょう。本当に債権者に不利になるのであれば、会社更生法は適用にならないからです。また、詐害行為取消権には民法に次のような留保があります。

○第425条
前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。

会社更生法を取り消すことが果たして「すべての債権者の利益」といえるでしょうか?そもそも会社更生法を申請するということは、多くの債権者に損害が及ぶことになると考えられるからであって、多くの債権者の利益保護をも考慮するものであるはずです。つまり、会社更生法申請が裁判所に認められ、適用となるのであれば、それは「債権者の利益」にかなうものであるはずです。従いまして、425条規定により詐害行為取消権が効力を生ずることはなく、更生開始後に過払金返還請求を行う元借り手の提訴があっても、会社更生法を取り消すことはほぼ困難ではないかと思われます。これは民事再生法適用後であっても同様かと思います。

また、詐害行為取消権の請求は時効消滅規定があるので、無際限に請求可能なわけではありません。

○第426条
第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

この「債権者が取消し原因を知った時」というのは、裁判所の判断を聞いてみないと何とも言えないかもしれませんが、普通に解釈すれば会社更生法申請後の債権届出公告の時とか、更生開始決定の時といったことになるのではないかと思います。


4)会社更生法や民事再生法以外ではどうか

倒産、清算で処理を終了した後になって、元借り手が詐害行為取消権を請求してきたらどうなるのか?
また分配をやり直さねばならないのだろうか。そうなると、倒産会社の資産を配分して処理したのに、毎回毎回それをやり直すことになってしまいます。

それが妥当なのかと言われると、そうではないだろうと思います。あまりに実際的ではないからです。
では、法的にはどう考えたらよいかということになりますが、私の考えたのは民法規定です。

○第491条
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2  第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。


この491条2項規定がポイントではないかと思いました。破産や清算等の手続終了後に元借り手が返還請求するわけですから、「全部の債務消滅には足りない給付をしたとき」ということになるかと思われます。元借り手の債務が残っていた、ということになると思うので。債務者(貸金会社)が複数(数個)の債務弁済をする場合であるので、この491条適用は可能かと思います。すると2項の適用を考えることになりますが、489条の準用となっていますので、489条を見る必要があります。

○第489条
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一  債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二  すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三  債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四  前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

会社の破産や清算手続を行う時点では、元借り手は債権の請求を行っておらず、債務者(貸金会社)も弁済を考えてはいなかったので、ここにある弁済充当の指定のないものと考え、法定充当を適用するべきと思います。この法定充当が認められるのであれば、1号規定のごとく弁済期にあるものと弁済期にないものでは「弁済期にあるものに先に充当」というのは合法と考えられ得るのではないでしょうか。過払金返還請求は請求がなければ「弁済期にない時」ということになるものと考えれば、「法定充当は合法」と思います。更に債務者(貸金会社)にとっての弁済利益が異なるわけではないので、過払金返還請求より先に債権者が存在していた(倒産や清算手続時点での債権者たち)のであるから、3号規定の如く「弁済期が先に到来したもの」に該当するものとも考えられ、法定充当を適用することには問題があるとも思われません。

よって、会社存続とか事業継続などにより過払返還請求が共益債権として処理可能である場合と、それが困難であって倒産や清算等手続後になった場合では取扱いに差異が生じたとしても止むを得ないのではないかと思います。詐害行為取消請求を行ったとしても、法定充当であったのであれば「詐害行為」と認定することは困難なのではなかろうかと思います。

喩えていえば、死亡した債務者が存在するとして、債権者が死亡したのであれば本人に債権請求はできません。債務者の相続権者たちに消滅時効の2年経過後(詐害行為取消権行使の原因認知から2年という意味)に事後的に債権請求するようなものであり、相続財産の処理が既に済んでいるとか、相続権放棄などで処理が確定してしまっているのであって、その後に債権の申立を行うとして個々の取消請求が有効に機能するとは思えません。会社倒産(清算)は法人の死亡のようなものという印象があるので、死亡後であっても無際限に請求が可能ということは考えられない、ということです。




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4 コメント

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業務撤退できないリスク (吉行誠)
2008-04-10 09:19:33
私の説明に対して、ご検討いただき恐縮しております。

以下法の理解です。

詐害行為取消権は、実体法の権利で、破産法、会社更生法が適用になりますと、否認権になり、債権者を害意して、特定の債権者を優遇したりすれば、その取引、譲渡は、管財人(債権者ではない)により否認権行使され、財団資産に組み入れられる。否認は、信用危機時のドサクサにまぎれて朝駆けしてとるような場合も含めて、危機否認がありますが、詐害性があるような否認にもあり、分類されます。

したがって、救済手続きにおかれた場合には、裁判所が入り、破産、更生、再生処理されることになりますので、債権者への分配について、詐害行為の恐れがあることは理論上ありえません。

債権者による詐害行為取消し訴訟は、そうした救済法理適用時ではありません。
CFJを考えてみましょう。
買収において、だれも、完済した債権を買いたいひとはいない。残高がゼロなのに、過払い請求が出てくる恐れがあるから。そうすると、現存する債権があるものだけを譲渡する。これは、買収ではなく、債権譲渡となる。もし株式移転したり、合併などしてしまったら、ゼロ円口座リスクを承継してしまうので、そのリスクも見積もって、割り引かなければならなくなる。
現存する口座数を上回る完済口座があるとしたら、どうされますか。

そこで、業務撤退しようとして、高い価格で売却して、資金を借りている債権者に返済しようとすれば、現存債権を譲渡して、経済的に妥当な対価を得るとする。得た資金で債権者に分配をする。そのことじたいは、詐害行為にはならない。
しかし、現状は、貸付債権総額1000としたとき、過払金引当300、貸倒引当100とし、株式資本100、負債800となっている。債権譲渡して、500で売れたとします。債権者に分配して、会社を清算するとしても、債権者には300足りません。そうなると債務超過なので、どれか救済手続きすることになりますが、債権者の数が少なければ、債権放棄してもらったほうが迅速で費用もかからない。そこで、300を債権放棄してもらう。課税利益となる債務免除利益が300でますが、債権譲渡の売却損400(引当後900-500)でますので、赤字で、課税利益はありまえん。そして会社を通常の方法で結了する。
しかし、完済債権には、過払い金返還請求権社が、50いたとしましょう。会社は債務超過、支払不能にはなっていませんので、通常の清算では、裁判所が任命する管財人も裁判所がかかわっていません。完済債権者は、返還を求めて、平等分配を主張し、会社資産に繰り戻す詐害行為取消しを主張する。
こうして会社は、債務超過にして、いずれか救済法理のもと、裁判所のもと手続きをするほかありません。弁護士らは、業者は完済客に過払い金が発生することは知っている事実で、取引履歴から計算すれば、返還額は分かっており、それをしないで清算するのは、知れたる債権者に通知もしないですることになるといって、清算を差し止めることになる。

しかしCFJやレイクが債務超過にしたいと考えるでしょうか。債権者は、CitiやGEなのですから、債権放棄すればすむこと。クレディア、アエルのように、民事再生やその他の方法を使うのでしょうか。金融機関のイメージが崩壊してしまう。
そうすると、知れたる完済した過払い債権者に通知をして、一般の債権者と平等分配を目指せば、現存債権譲渡の売却金では足りなくなり、10-20%しか戻ってこなくなるでしょう。

手仕舞いができない困った状況とはこういうことを言います。

さらに、余計なお世話ですが、Citiは、売れなければ、銀行が引き取り、資産にするという方法を考えるとも言われています。
銀行が買い取るとなれば、回収のために、金利引きなおして、元本債権を再計算することになるでしょう。かつ金利は18%しか取りにいけない。あったはずの債権は、30%残るでしょうか。
どうやって、業務撤退したらいいのか。


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Unknown (まさくに)
2008-04-10 19:48:43
記事中でも述べましたが、清算などで既に分配後であれば、民法491条適用とし、同条2項規定で489条準用ということから詐害行為取消請求は多くが困難になると考えます。
事業の譲渡先が見つけられないのであれば、それは親会社であれ銀行であれ責任を負うべきものであり、それが資本主義原理でありましょう。今のCDOみたいに早く売りたいのに誰も買い手が付かなければ売れないばかりか、持っているだけで損失が拡大していく、みたいなことですね。みんな撤退したいけど、撤退できない、と。それがルールなんですね(笑)。

儲かると思って貸金会社を買ったり、株式を保有したり、資金融資を行うわけですから、それらの責任は彼らの自己責任と言われても仕方がないでありましょう。今更、売るに売れない、処分に困るなどという泣き言をいわれても、彼らを救済する為に資本主義原理があるわけではありませんので。

心配には及びませんよ。例えばGEにはリーガル部隊がごっそりいますから、きっと何かいい法的枠組みでも考え出せるでしょう。その為に高給を貰っているんでしょうから(笑)。無駄に頭数を揃えているわけでもありますまい。この期に及んで、撤退できないからどうしようとか、売るにも買い手がつかないからどうにかしてくれ、とも言えんでしょう。ロビイングを頑張ったのと同程度に、撤退作戦も必死に頑張ればいいだけです。
返信する
失権する未届出の過払金返還請求権 (吉行誠)
2008-04-11 05:42:55
債務超過でない会社を清算する場合に、官報での公告とともに、知れたる債権者にも通知することになります。特別清算など、裁判所が関与する場合には、その判断に従うことになりますので、完済した客が、知れたる債権者にあたるかどうかの法的性質決定は、管財人によって、事実上裁判所の監督もと行われるから、それに従えばよい。
しかし、そうでない通常に清算する場合、債権者として、知らされていなかったと、終了後に申し出ることになる。現実的には、GEもCFJも、そうした方法をとると社会的に大事になるでしょうから、清算が終了する前に、申し出をする機会があるものの、知識のない完済者は、知らずして終わる。
弁護士は、知れたる債権者に通知を求め、清算差し止めを求める結果となる。

会社法人格が消滅してしまったあとは、訴えの先がない。完済した過払い債権者は、そのとき、株主を訴える法的根拠を持たない。唯一使えるとして、平等分配がなされなかったとして、優先的扱いを受けた債権者に受けた財産を償還するように求めようとしても、返還する先がすでに消滅して存在していない。詐害行為取消権では、平等分配を主張して、直接回収するわけには行かない。

清算後に分配を受けた債権者に責任を求める法理がなければ、完済者の訴権はない。出資額を上限とする有限責任法理を貫こうとすれば、株主責任もそれに限定される。知れたる債権者という主張をするのであれば、清算事務を進めた取締役の注意義務違反を問うことになる。

489条、491条は、実体上の権利を規定するものではなく、訴えの法的根拠ではありません。弁済いに関する一般的任意規定で、債権消滅の方法について規定する。契約上、定めをおけば、それに従う。過払い金返還がなされていない限り、発生している債権は(権利行使されることがなく、失権することはあっても)消滅していない。
詐害行為取消権、債権者代位権は、それにもとづく要件がととのっており、権利が発生していれば、裁判上権利主張できる。
法人が債務者である場合、清算をしてしまったあとに、忘れられていた債権者の権利はどうなるか。あるのか、有効に成立していたのか。それとも消滅してしまったのか。その法的性質決定を求めることになる。

ここで、国保や自治体が未払い保険料や税金を取り立てるのに、債権者代位権を行使する場合を考える。もし過払い金返還請求権が、業者との間で争われることなく、すでに発生し、存在しているならば、債務者の意思表示の有無にかかわわらず、請求することができる。完済者の過払い返還請求権は、第三者(完済者の債権者)による執行手続きを認めることのできる財産権である。自治体や国保が、未払い者が貸金で完済履歴があることをしれば、申し出れば、返還される債権ということになる。
しかしながら、民事再生手続きにおいても、完済者の過払い金返金について、裁判所は、業者にとって知れたる債権者として扱っていない。金利ひきなおし計算を命じれば、返還額は確定できるが、その義務はないようだ。債権者から申し出がない限り、支払う義務がないという態度をとっているかにみえる。
清算前に届出しなければ、救済法理適用時と同様に、不当利得返還請求権も失権するとすれば、特に問題は起こらないとも考えられる。

GEのケースでは、1年以上にも及びます。その間に、完済債権の問題が無視できない規模になってきた。2006年末には、さして重大な問題でもありませんでしたが。クレサラ弁護士が騒がなければ、権利は失権しておしまいにすぎません。
しかしM&Aの現場では、そのリスクをどのように経済価値に引きなおし計算するかが、課題になる。現存債権譲渡以外に決着点を見出せなくなる。
返信する
Unknown (まさくに)
2008-04-11 19:40:45
また記事に書いてみました。
返信する

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