始まりに向かって

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ユダの福音書・その3・・そしてユダは輝く雲の中に。。

2009-11-18 | 古代キリスト教
前回の記事の続きです。

この「ユダの福音書」は、エジプトで発見された写本は4世紀前半のものと考えられていますが、最初に実際に書かれたのは2世紀、正典の4福音書が書かれたのとほぼ同じ時代であることが分かっています。
(異端への反駁文の資料の年代考証から)

なるべくつながっている個所を選びました。
長い欠落部分は「・・・」で表します。

なおリンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入可能です。


        *****

    (引用ここから)

別の日、弟子たちはイエスに言った。
「先生、私たちはあなたを幻で見ました。
わたしたちは夜大いなる(未来の)夢を見たのです」

弟子たちは言った。
「大きな家があり、その中に大きな祭壇があり、12人がいて、かれらは祭司のようでした。

そして群集が祭壇のところで待っていると祭司たちが捧げものをし、受け取ります。
祭壇の前に立つ人々はあなたの名を唱え、自分たちの行いは不完全なのに犠牲は完全に行っています。」

そう言うと彼らは黙った。
心が騒いだからである。

イエスは言った。

「なぜ心を騒がせるのか?
本当にわたしはあなたがたに言う。

彼らは、わたしの名によって、恥ずべきやり方で、実がならない木を植えた。

あなたがたが見た捧げ物を受け取っていた人々、それがあなたがたの正体である。
それがあなたがたが仕える神であり、あなたがたが見た12人はあなたがたである。
あなたがたが見た、犠牲として捧げられていた牛は、あなた方が迷わせてその祭壇の前に連れていく人々である。

・・・はこのようにわたしの名を用いるだろう。
そして代々の信仰深い人々は彼に従い続けるだろう。

彼ののち、淫らな者たちから別の人が立ち、また別の一人が子殺したちの中から立ち、また別の一人が「私たちは天使と似ている」と言う人々から立つだろう。
彼らはすべてを終りに導く星である。」


イエスは弟子たちに言った。

「あなたがたが祭壇の上に・・したものを犠牲に捧げてはいけない。
それらのものはあなたがたの星と天使の上にあり、そこですでに終わっているからだ。
だから彼らをあなたがたの前で罠にかからせ、去らせなさい。
パンを焼く者一人で天の下なるすべての者に食物を与えることはできない。」

イエスは言った。

「わたしと争うのはやめなさい。
あなた方おのおのに自分の星があり、すべての人の中に来た者の泉・・その木のために・・このアイオーンの時のために・・だが彼は潤すために来た。
神の楽園を、そして続いていくだろうその世代を。
なぜなら、彼はあの世代の生の歩みを汚さないからである。」

ユダは言った。

「先生、やはりわたしの種は支配者たちの掌中にあるということなのですか?」

イエスは答えて言った。

「来なさい。わたしは・・だが王国とその世代のすべての人々を見れば、お前は深く悲しむことになるだろう。」

これを聞いて、ユダはイエスに言った。
「わたしがそれを知ると、どんなよいことがあるのでしょうか?
あなたはあの世代のためにわたしを特別な存在にしたのですから。」

イエスは答えて言った。
「お前は13番目となり、後の世代の非難の的となり、そして彼らの上に君臨するだろう。
最後の日々には、聖なる「世代」の元に引き上げられるお前を、彼らはののしることだろう。」

イエスは言った。

「来なさい。
いまだかつて何びとも目にしたことのない秘密をお前に教えよう。

それは果てしなく広がる永遠の地だ。
そこには天使ですらその広がりをとらえられない御国があり、
そこには、偉大な見えざる霊が存在する。
そこは、いかなる天使でさえ見たことがなく、
いかなる心の思念によっても理解されず、
いかなる名前でも呼ばれたことがない。」


そしてそこに輝く雲が現われた。
大いなる天使、照り輝く神なる、自ら生まれた者が雲の中から現れた。

アダマス=アダムは天使たちですら見たことがない第一の輝く雲の中で神と呼ばれる者たちに囲まれていた。


ユダはイエスに言った。
「人間はどれほど長く生きるのでしょうか?」

イエスは言った。

「お前はなぜそのことを思い患うのか?
アダムが彼の世代とともに、王国を受け取った場所で、その支配者とともに末永く生きたということを。」

ユダはイエスに言った。
「人間の霊は死ぬのでしょうか?」

イエスは言った。
「(この世の)神がミカエルに、人々に霊を質として与えて、奉仕させるよう命じたのはそのためである。
しかし大いなる者はガブリエルに、誰にも支配されない大いなる世代に霊と魂を与えるように命じた。」

「・・光・・のまわりに・・あなたがたの内にある霊を天使たちの世代の間でこの肉に住まわせよ。

しかし神は混とんと冥府を司る王たちがアダムとその一族に対し横暴にふるまったりしないようにアダムらに知識を与えた。」

ユダはイエスに言った。
「では、あれらの世代はなにをするのでしょうか?」

イエスは言った。

「本当に私はあなたがたに言おう。

彼らすべてにとって、星星が事物を成就させるのです。
サクラス(愚か者)に割り当てられた時間が終了すると、最初の星があれらの世代と共に出現し、彼らは約束したことを成し遂げるのです。

それから彼らはわたしの名において姦淫し
彼らの子ども達を殺し、
・・彼らはそして・・あなたの星を13番目のアイオーンの上に・・だろう。」

その後イエスは笑った。

ユダは言った。
「先生、なぜわたしたちを笑っておられるのですか?」

イエスは答えて言った。

「わたしはお前を笑ったのではなく、星星の過ちを笑ったのだ。
この6つの星星はこの5人の闘士たちと共にさまよい、そのすべてが、そこに生きる生き物たちと共に滅ぼされてしまうからである。」

イエスはユダに言った。

「だがお前は真のわたしを包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを超える存在になるだろう。

すでにお前の角はたちあがり
お前の憤りは燃え上がり
お前の星はあかるく輝き
お前のこころは強くなっている
本当にお前の最後の・・となる。
なぜなら彼は滅ぼされるからだ。

そしてその時、アダムの大いなる世代の像は高みに上げられる。
なぜなら天、地、天使たちが存在する前に、永遠の王国からやってきたあの世代が存在するからである。


さあ、これでお前にはすべてを語ったことになる。
目を挙げ、雲とその中の光、それを囲む星星を見なさい。
皆を導くあの星がお前の星だ。」

ユダは目を挙げると明るく輝く雲をみつめ、その中へと入っていった。
地上に立っていた人々に、雲の中から声が聞こえた。
声は言った。
「大いなる世代・・(以下欠落)」


大祭司たちは不平を言った。
イエスが部屋に入って祈りを捧げていたからである。
しかし何人かの立法学者たちはそこにいて、祈りの間に彼を捉えようと注意深く見張っていた。
イエスが皆から預言者とみなされ、大祭司たちは民衆を恐れていたからである。


大祭司たちはユダに近づいて言った。
「おまえはここで何をしているのか?
お前はイエスの弟子ではないか?」

ユダは彼らの望むままに答えた。
そしていくらかの金を受け取り、彼をかれらに引き渡した。

「ユダの福音書」終わり
          (引用ここまで)


    *****


「ユダは大祭司たちにイエスを売り渡した」、という現代のドラマのようなあっさりとした描写で、この福音書は終わります。

その後のはりつけも、復活もありません。

これほど大胆不敵な「福音書」があろうとは、、という印象です。


この「福音書」に登場するイエスとユダは、“イエスの肉による復活”というキリスト教の信仰告白をまったく無視しています。

焦点は“肉体の復活”ではなくて、霊的世界への帰還に当てられているようです。

そして以下のように、イエスがするかのごとく、ユダが、人々の眼前でその帰還をなしとげる様が書かれているのは圧巻です。

    ・・・

ユダは目を挙げると明るく輝く雲をみつめ、その中へと入っていった。
地上に立っていた人々に、雲の中から声が聞こえた。

    ・・・


笑うイエス、昇天するユダ、、なかなかいいんじゃないかと思います。
史的イエスも、おそらくこうした無頼派のような人だったのではないかという気がします。

その何者をも恐れない大胆不敵さこそが、人間の心を動揺させ、いわゆる人間の暗部の象徴のような“ユダ”のドラマが生まれ、そして“復活”というどんでんがえしのストーリーが必要だったということだろうか、と思ったりします。

“わたしは神であると名乗る人間が、人間を名乗る神である”というパラドックスが、キリストのストーリーであるとすると、そのパラドックスを生きるのは相当なエネルギーを必要とするのではないかと思います。

そのパラドックスを生きるのがキリストの信仰であると、わたしは思う者ですが、この「ユダの福音書」はグノーシスの資料でありキリスト教とは関係がない、とも言い切れないように思います。

この“ふっきれた”雰囲気のイエスと、彼の友ユダというストーリーは、「いわゆるキリストのストーリー」のちょうど反対側に位置し、「いわゆるキリストのストーリー」が内蔵する緊張のエネルギーのガス抜きをする役回りをしていると言えるかと思います。

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