うらはうらなりに ver.2

ばおばおのうらなり日記ブログ版。
あの時ワタシはこう感じたんだっ。

刑務所の中

2004-10-28 11:41:22 | マンガ
花輪和一というマンガ家がいる。その線では有名なマンガ家でもあるから知っている人は知っているだろう。しかし決してメジャーではない。いわゆるガロ系作家だ。

その花輪和一が出した単行本に「刑務所の中」と言う本がある。
こうした書き出しだと、ワタシはとても花輪和一のことを知っているような錯覚を与えるかもだが、実は、花輪作品で読んだことがあるのはこの「刑務所の中」だけである。しかも読んだのは昨日が初めてである。
つまりワタシは花輪和一という人の作風を知らないでこの作品を読んだのである。とはいえ、マンガ通のワタシのこと、もちろん名前自体は以前から知っていた。この作品が出来るきっかけになった、"銃砲刀剣類等不法所持火薬類取締法違反"で逮捕のニュースも当時リアルタイムでワタシの中に飛び込んできた。もう10年も前のことである。そして3年の刑期を終え出所した後に描かれたのがこの「刑務所の中」なのである。

ワタシはこれを昨日初めて読んだと書いた。奥付を見てみる。2000年7月25日初版第一刷発行とある。そしてワタシが先日ふらりと立ち寄ったいつも行く所とは別の本屋で購入したこの本はその次の行に、2004年2月25日第二十四刷発行と書いてある。4年前に発行され、そして人気がありここまで重版を重ねたことがわかる。
そう!もう4年も前の作品なのだ。新刊でもなんでもない。だから話題としてはもうとっくの昔に出尽くされているだろう。てんで手遅れなのである。だがどうしてもこの作品を紹介したかったのでここで取り上げてみた。

「刑務所の中」は、その名の通り、本人の獄中記である。獄中記と言っても、何も映画仁義なき戦い原作の元になったような本人の自伝的回顧録ではない。実録体験ルポマンガと言った方が正しいかもしれない。世のマンガ作品、その手の体験ジャンルもわりかし多いモノの、何しろこれは刑務所の中である。しかも取材でもなんでもなく、本当に本人が実刑判決を受け入所したのだからリアリティがある。しかし、刑務所と聞くとイメージされる陰惨な内容はどこにもこの作品からは見受けられない。むしろ、思わず自分も入ってみたくなりそうな危ない感情が芽生える所にこの作品の妙があるのである。

ワタシは初めて花輪さんの絵をじっくり見たが、この人はうまい。一見すると下手なように見えるが、ヘタウマとも違う、忠実なるうまさなのである。戦前戦後の月刊少年誌に隆盛を誇った連載絵物語ペン画風のタッチはこの作品に実によくマッチしている。花輪さんの観察力と記憶力のすごさがソコにはある。
そして、所々現れるギャグテイスト的戯画。それ故に、とても刑務所の中とは思えない、下手すると刑務所の中ってわりかし捨てたもんじゃないねと変な気分にさせるほどの力がソコにはあるのだ。しかし、そこはそれ、やはり刑務所は刑務所。異常なまでの規則正しい生活と厳しさ、娑婆の世界とはかけ離れた世界がソコにはある。誰も好き好んで入りたくはないだろう。そんな刑務所の日常を花輪さんは淡々と描写する。そして淡々とおもしろい。同じ受刑者でもきっと人それぞれ様々な思いを抱えて刑期を務めていたであろうが、花輪さんの目を通して我々が疑似体験した刑務所の中は、まさに花輪世界をもあっという間に体験させてくれる花輪和一の中でもあるのだ。

もしまだ読んでない人がいれば、ぜひ一度読んでみて欲しい。きっとあなたも不思議な読後感を味わえることだろう。ちなみにグラフィックデザイナーとして言わせてもらうならば、装幀デザインも作品に合わせて良い感じである。

発行元・青林工藝舎の紹介ページ:http://www.seirinkogeisha.com/book/065-7.html


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