たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

見えないリスク <西鉄バス元運転手 石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>を読んで

2017-09-30 | リスクと対応の多様性

170930 見えないリスク <西鉄バス元運転手石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>を読んで

 

いつの間にか9月も終わりです。紅葉シーズンで内外各地への旅行も盛況でしょう。いやそれどころではない、というのは選挙関係者でしょうか。それはともかく旅行に行く手段が多種多様になりました。それもバスや電車も高級化の動きがすごいですね。他方でバス業界はコスト競争が激化しているので、運転手の労働条件は適正化の動きと労働強化・賃金抑制とのせめぎあいが続いているように思えます。

 

地方に住んでいると、バスの車体や内装を豪華にしたりして、盛況なのは、所得格差の一つの表れかなと思ってしまいます。路線バスにしてもコミュニティバスにしても、公共交通機関の利用が進むことが望ましいと思うのですが、人気が今ひとつもあって、厳しい経営と労働条件にあるように感じます。

 

そんな中、今朝の毎日記事<西鉄バス元運転手 石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>は驚きです。会社が西鉄ということですから、路線バスなのでしょうか。路線バスの場合、昔は収入も少し高めで安定していて、勤務条件も緩やかだったと思います。だいたい運転手の中でも特にまじめな方が採用されていたのではないでしょうか。ところが、最近はいずれも厳しくなっているようですね。

 

バス運転手の作業環境という面では、有害排気ガスで充満していた70年代と違って、その後の規制強化で90年代後半以降は、交通状態があってもさほど厳しいものではなかったように思うのです。とはいえ、私などは、バスが従前ほとんど有害性の高いディーゼルエンジンだったので、その後を走るのは基本避けるか、相当距離をおいて走ってきました。最近はバスも以前ほど有害な排ガスを出していないようには思いますが。

 

それはともかく本筋に戻します。<石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>の記事によると、<西日本鉄道(本社・福岡市中央区)でバスの運転手として30年あまり勤務し、アスベスト(石綿)関連疾患の中皮腫を発症して死亡した佐賀市の男性について、佐賀労働基準監督署が今年5月に労災認定していたことが分かった。>

 

事実の詳細は見出しの記事が取り上げています。

 

<西日本鉄道でバス運転手として働き、石綿関連疾患の中皮腫になったとして労災認定を受けた佐賀市の河野志喜男(しきお)さん=昨年4月に83歳で死亡>

<河野さんは長崎県平戸市出身。国民学校卒業後、家業だった農漁業の手伝いなどを経て、1964年に西鉄に入社し、退職する97年までバスの運転手として勤務した。真面目な性格で無事故、無違反を続け何度も会社から表彰を受けるなど優秀なドライバーだった。>

 

死亡年齢から推測すると、33年生まれでしょうか、31歳頃から64歳頃(65歳?)まで勤め上げた方のようですね。

 

<退職から18年後の2015年8月、胸に水がたまるなどの体調不良に突然襲われ、石綿関連疾患の中皮腫と診断された。>というのですから、まさにアスベストの「静かな時限爆弾」性が如実にでていますね。恐ろしい危険物質です。

 

<長女は労災を疑い労基署に相談したが、「バス運転手の石綿労災は前例がなく、認定は難しいだろう」と言われたという。>そうですよね、労基署でなくてもほとんどの人にとって、バス運転手に石綿労災の労働条件があるとは想像できないでしょう。

 

でもアスベストに長年取り組んでいる人にとっては常識の一つだったかもしれません。

 

<長女らはインターネットで知った被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(東京)に相談。同会からかつてはバスのブレーキなどで石綿が使われていたことを教えられた。>たしかにバスのブレーキに石綿が疲れてきたことは確かですが、それなら他のバス運転手も相当曝露する可能性がありますね。ほかでそのような症例がないようだということも大きな壁になったでしょう。

 

この点、<同会の聞き取りに対し、河野さんは「毎朝、乗務前にバスの下に潜り込んで点検していた」と証言した。>

 

より具体的には<河野さんは生前、「毎朝運行前に作業用のつなぎに着替え、バスの下に潜り込んで約10分間、タイヤハウスやマフラーの周りをハンマーでたたいて点検していた」などと家族らに話していたという。河野さんの元同僚も同様の証言をした。>というのです。

 

バスの下に潜り込んで10分間も点検なんて信じられないと、私のような車の点検もいい加減な人間にとっては想定できないものです。しかし、鉄道系のバス運転手は、昔はそういう鉄道マンと同じくらい安全管理に自負をもち、しっかりやっていたのではないかと、この記事を見て思いました。この河野さんという方が、毎日、バスの下に潜り込み、冷たい床に横たわり、10分間もかけてタイヤハウスやマフラーの周りをハンマーでたたいて点検している姿を想像するだけで、これが本当のまじめで勤勉と言われた日本人の姿ではないかと思ってしまいます。適当に表面だけ見て大丈夫とか、見過ごしにできない実直な方だったのでしょう。

 

そうでなければ、毎日10分程度で、外気の触れているのに、アスベストを吸い込むはずがないです。真剣な眼でハンマーをしっかりたたいていたのでしょう。アスベストという見えない物質が飛散することも知らされず、そのまじめさがとても切なく感じます。

 

でもこの方の真摯なバス自体の安全管理の徹底という基本があるからこそ、無事故、無違反運転を続けることができたのでしょう。運転手の鑑とも言うべき人であり、人の生き方と誇るべき人生を歩んでこられたのではないかと思うのです。こういう方に、退職後おそった中皮腫の苦痛は気の毒です。

 

<西鉄は同労基署の調査に対し、バスのブレーキやクラッチなどに石綿含有部品が使用されていたことを認めた。同労基署は「1日の作業時間は短いものの、間接的に石綿ばく露を受ける作業に(病気休職の2年を除く)約31年間従事し、その結果、中皮腫を発症したと考えられる」として、労災認定した。>

 

西鉄も当時気づかなかったとは言え、今回の調査に誠実に答えたのは評価してもよいでしょう。ただ、この問題は河野さん一人だけではなく、アスベスト含有部品が現在残っているものはないか、また、アスベスト含有部品が使用された車両を運転等していた人への、診断の要否を検討するために、注意喚起、広報が必要ではないかと思います。今回のニュースは5月の労災認定についてですが、むろん西鉄は記者会見ないしそれに代わるニュースリリースもしていないように思われます。企業のコンプライアンスとして適切であったか、検討してもらいたいと思うのです。誠実なバス運転手の死を無駄にしないためにも。

 

ちょうど一時間となりました。このへんでおしまいです。