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●森達也さん「組織全体の病理と民意の後押し」

2010年10月02日 05時06分42秒 | Weblog

THE JOURNAL(http://www.the-journal.jp/)に森達也さんのコラムのリンク(http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/09/post_664.html)が貼ってありました。『内憂外患』というコラムの「「特捜部」体制を支えるのは絶対服従の精神?」(http://opinion.infoseek.co.jp/article/1045)です。

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森達也 「「特捜部」体制を支えるのは絶対服従の精神?」

 いまこの原稿を書こうとしている9月27日の段階で、大阪地検の前田恒彦主任検事が証拠を改ざんした事件についての報道は、急激に少なくなっている。
 ・・・・・・。
 でもすべての事件が時間の経過とともに忘れ去られてよいわけではない。起きた事件を端緒にして、取材や調査をさらに重ねなくてはならない事件はたくさんある。
 大阪地検の証拠改ざんは、まさしくそんな事件だ。
 なぜならばこの事件の根は深い。逮捕された前田検事や大阪地検特捜部の問題だけに矮小化される事件では絶対にない。・・・。
 あってはならないあきれた行為であることは確かだけど、そのあってはならないあきれたことを、検察庁業務として頻繁に行ってきたことは確かだ
 三年前に『死刑』(朝日出版)を出版したとき、多くの冤罪について取材した。そしてつくづくあきれた。ほとんどの冤罪の背景には、検察官による証拠の改ざんや捏造があった描いたストーリーに供述を合わせるため、強引で暴力的な取調べがあった。勘違いやケアレスミスのレベルではない。明らかに恣意的であり、悪質で意図的だった
 ・・・・・・。
 ・・・・・・殺人事件の件数は毎年のように戦後最少を更新しているのに、人口比においては世界で最も治安のよい国といえるのに、メディアの過剰な事件報道によって体感治安が急激に悪化し始めたのはこの頃だ。街には監視カメラや特別警戒実施中などの掲示が増殖し、自警団や市民パトロールの数は急激に増え、厳罰化が進行し始めたのも同時期だ。
 こうして悪を許すなとの世相に背中を押されながら、検察権力は加速する。露骨な国策捜査が多くなったのもこの頃だ。
 ・・・・・・。
 こうして少しずつ感覚が変わってくる。つまり環境に馴致される。
 ・・・・・・。「一人の検察官が、先輩の○○さんが最近、死刑の判決を取ったらしいぞと言ったときの場の雰囲気が、本気で「いいなあ」とか「やったね」みたいな感じなんだ。ほとんど営業ノルマ達成みたいな。いくらなんでもそれはないだろうと思ったんだ」
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 この法廷でアイヒマンは自らの行為を、「命令に従っただけだ」と何度も主張した。おそらく嘘や言い逃れの言葉ではない。アイヒマンは実際に、これは命令なのだと自分を正当化しながら、何百万人ものユダヤ人を殺戮する行為に従事していた。
 絶対的な組織への服従と蛮行を合理化してしまうこのアイヒマンの心理は、アメリカの心理学者スタンリー・ミルグラムによって、人類にとってとても普遍的な心理現象であることが明らかにされている。
 念を押さねばならないが、今の検察とナチスを同列に置くつもりはない。でも心理として共通する要素はある。いくらなんでもそこまではしないだろうと普通は思う。でも内部に入ったとき、実際にそこまでする。摩擦や葛藤は働かないし呵責も起きない。正義を体現するのだと彼らは本気で思っている
 何度でも書くが、検察官一人ひとりを断罪しても仕方がない。大阪地検特捜部だけの問題でもない。組織全体の病理なのだ。そしてこの病理を進行させた背景には、危機意識に火がついたこの国の今の民意が、とても強く働いている
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