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●『「粗にして野だが卑ではない」――石田禮助の生涯』読了(2/2)

2009年09月27日 09時51分51秒 | Weblog

城山三郎著、『「粗にして野だが卑ではない」――石田禮助の生涯』
 「権威をかざすのも、ひとつの「」。その卑に屈しなければならぬとあっては、石田としてはやり切れぬ思いがしたのであろう」(p.210)。「数え八十四歳という年齢を思えば当然といえるが、しかし、その離任は国鉄の内外から惜しまれた。/まず新聞記者たち。/石田は記者たちに一席設けるというようなことを、ほとんどしたことがない。あしらいも率直というか、ぶっきらぼうであった。/にもかかわらず、敬愛された。/ある記者は、私に語った。/「閥をつくらぬし、あんなに敬愛できる人はいない。総裁を天職と信じ、生き方に自信があった。人間のスケールが違っていた」/・・・社会党の国会議員たちも石田との別れを惜しみ、わざわざ「石田総裁を励ます会」を開いた。/・・・野党議員が集まって政府委員をごちそうするなどというのは、例のないことであった」(pp.214-216)。もちろんお返しの席を。「石田は個人小切手を切った」。
 「石田が国鉄を去る日、廊下から正面玄関にかけて職員や女子職員の人垣で埋まり、さらに道路にも、その先に当時設けられていた歩道橋にも人々が鈴なりになっていた。/いつもと同じ蝶ネクタイ姿の石田は、その中でもみくちゃにされながら、手をあげて歓送に応えた。/それは、「匂いのいい仕事」を終わった男にふさわしい花道の姿であった」(p.217)。
 「石田を喜ばせた退職の記念品が、二つある。/ひとつは、東京駅長の帽子。・・・/いまひとつは、青函連絡船の「船員一同」から贈られた連絡船のモデルシップ。/・・・二つの記念品は、いずれも石田家では最高の場所にいまも置かれている。石田にとっての何よりの勲章として」(p.217)。これこそ、「マンキーにふさわしい勲章

 「死後、政府から勲一等叙勲の申し出があったが、これも未亡人つゆが頑として受けなかった。/・・・石田には、既に国鉄総裁在任中に勲一等にという話が持ち出されていた。/・・・「社会主義者でもあるまいし、ぜひ」/と、すすめたのだが、石田は吐きすてるように、/「おれはマンキーだよ。マンキーが勲章を下げた姿が見られるか。見られやせんよ、キミ」/・・・ただし、ただのマンキーではない。/国鉄総裁になり、はじめて国会へ呼ばれたとき、石田は代議士たちを前に自己紹介した。/「粗にして野だが卑ではないつもり」/・・・石田は長い生涯を、ほぼその言葉通りに生きた。/・・・勲一等だからといって、マンキーをやめるわけには行かない。それでは「マンキーを汚してしまう。/粗にして野だが卑ではない―――この会心のライフ・スタイルを、石田は死後といえども変えさせなかった」(pp.10-13)。
 「「〝なにとぞよろしくお願いします〟と〝申しわけございません〟の二言さえあれば」/・・・とにかく平身低頭の姿勢で通さなくては。/ところが、総裁就任の挨拶にはじめて国会へ出た石田は、背をまっすぐ伸ばし、代議士たちを見下ろすようにして、/「諸君」/と話しかけた。「先生方」ではない。/質問する代議士にも、「先生」とは言わず、/「××君」/・・・いずれにせよ、この初登院のときの石田の挨拶は堂々たるものであった。/「嘘は絶対につきませんが、知らぬことは知らぬと言うから、どうかご勘弁を」/とことわり、さらに、/「生来、粗にして野だが卑ではないつもり。丁寧な言葉を使おうと思っても、生まれつきでできない。無理に使うと、マンキーが裃を着たような、おかしなことになる。無礼なことがあれば、宜しくお許し願いたい」/・・・顔を見合わせる代議士たちに向かって、さらに石田は正確だが痛烈な文句を口にした。/「国鉄が今日のような状態になったのは、諸君たちにも責任がある」/・・・石田が財界の表舞台を退いて、すでに十五年余り経っていた。忘れられたというより、消えていた一老人が突然、鞍馬天狗のように現れた感じであった。/この爺さん、いったい何者なのか」(pp.32-34)。「国鉄総裁職。/・・・スタンスは既に決まっていた。/粗にして野だが卑ではない。正々堂々とやる―――。/私心といえば、そうすることで「天国への旅券(パスポート・フォア・ヘブン)」を得たいという願いだけ。こわいもの知らずでもあった」」(p.143)。

 表紙の写真が素晴らしい、まさにマンキー。国会議員を睥睨した「粗にして野だが卑ではない」姿そのもの。
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