帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (200)君しのぶ草にやつるゝふるさとは

2017-04-13 20:10:36 | 古典

            

 

                      帯とけの古今和歌集

              ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 200

 

(題しらず)               (よみ人しらず)

君しのぶ草にやつるゝふるさとは 松虫の音ぞかなしかりける

(詠み人知らず、女の詠んだ歌として聞く)

(君偲ぶ、忍草のように忍びやかに、みすぼらしくなりゆく秋の古里は、松虫の声ぞ、哀しいことよ……貴身を恋慕うおんな、忍草のように、やつれゆく古さ門は、貴身待つおんなの虫の、忍ぶ本音ぞ、悲しいことよ)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「君…男…貴身…おとこ」「しのぶ…偲ぶ…恋慕う…乞い求め…忍ぶ…した隠しにする…堪え忍ぶ」「しのぶ草に…忍ぶ草に…秋の忍草のように…厭きられた忍ぶ女のように」「草…言の心は女…おんな」「に…のように…比喩を表す…にて…場所を示し」「やつるゝ…やつれゆく…衰えゆく…みすぼらしくなりゆく」「ふるさと…古里…古妻…古さ門…古おんな」「さ…接頭語…美称」「と…門…身の門…おんな」「松虫…鳴く秋の虫の名…待つ身の虫…松・待つの言の心は女…鳴く虫の言の心も女」「むしのね…虫の音…虫の声…細々とした声…忍ぶ腹の虫の本音」「かなし…哀しい…悲しい」「ける…けり…詠嘆を表す」。。

 

君を偲ぶ、忍草のように、みすぼらしくなりゆく、秋の古里の風情は、松虫の鳴き声ぞ、哀しいことよ。――歌の清げな姿。

貴身を乞い求める、忍ぶ女に、やつれゆく古さ門は、貴身待つ身の虫の泣く声ぞ、悲しいことよ。――心におかしきところ。

 

厭き風吹かせ離別した君、偲び、忍ぶ女の、やつれゆく古さ門の本音を、清げな秋の風情に付けて、言い出した歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)