帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (192)さ夜中と夜はふけぬらし雁が音の

2017-04-04 19:10:04 | 古典

             

 

                       帯とけの古今和歌集

                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 192

 

題しらず              よみ人しらず

さ夜中と夜はふけぬらし雁が音の きこゆる空に月わたるみゆ

題知らず               (詠み人知らず・男の詠んだ歌として聞く)

(さ夜中となって、夜は更けてしまったらしい、雁の声が、聞こえている空に、月が渡ってゆくのが見える……すばらしい夜中となって、共寝の・夜は更けてしまったらしい、かりする女の声が聞こえる浮天に、つき人をとこ、わたりゆく、見る)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「さ夜中と…すばらしい夜となって」「さ…小…美称…接頭語」「と…変化の結果を表す」「雁…鳥の名…鳥の言の心は女…名は戯れる。狩り・刈り・めとり・まぐあい」「ね…音…鳴き声…泣き声」「空…天…浮き天」「月…月人壮士…月の言の心は男…おとこ」「わたる…渡る…移動する…月は夜更けには西に傾くように移動する…(おとこが)行く・逝く」「見ゆ…見えている…見る」「見…覯…媾…まぐあい」。

 

西の空に渡り行く月、飛ぶ雁の鳴き声、秋の夜長のあけゆく風情。――歌の清げな姿。

夜更けに、女のかりする声が聞こえる浮天に、月人をとこの、わたり、逝くさま。――心におかしきところ。

 

歌は、はかない男の性(さが)にとっての、せつじつな願望を言葉にしたようである。夜更けにまたも見ることは、男の心に思う、はねうち交わす時の理想の姿だろう。

 

この歌は、万葉集 巻第九にある歌とほぼ同じで、弓削皇子(ゆげのみこ)に献上された、詠み人しらずの歌である。

さ宵中と夜は深去らし 雁が音 聞こゆる空 月渡見

(さ宵中と、夜は深まり去るらしい、雁が音、聞こえる空、月人壮士わたる、見える……さ宵中から真夜中へと、夜は更けゆくらしい、かりする女の声、聞こえる、浮天、つき人をとこ、わたる、見る)

「と…変化の結果を表す」「深去…深まり去る…更けゆく…明けが近づく」「雁…鳥…鳥の言の心は女…刈・苅…めとり…まぐあい」「空…天…浮天」「月…月人壮士…月の言の心は男」「渡…女の許へ行くこと…移ろい」「見…目で見ること…覯…まぐあい」。

 

宵から明け方まで渡り見る月人壮士の「渡見・性愛」の理想のかたちを詠んだ歌のようである。

藤原公任の捉えた歌の様(表現様式)は万葉集の歌にも適応している。心深いかどうかは歌によるが、「清げな姿」があり「心におかしきところ」がある。

 

古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)