帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (240)宿りせし人の形見かふぢばかま

2017-06-04 17:00:41 | 古典

            


                        帯と
けの古今和歌集

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現で、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、それらは埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 240

 

藤袴をよみて人に遣はしける          貫之

宿りせし人の形見かふぢばかま わすられがたぎ香ににほひつゝ

藤袴を詠んで人に遣わした・歌……淵端か間を、夜見て、女に遣わした・歌  つらゆき

(宿りした男の形見か、藤色袴、忘れられそうもない香に、匂い続けていることよ……や門りした、われが片見か、淵端か間よ、和すられそうにない、色香に染まったままだなあ・われは筒)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「やどり…宿り…泊まり…や門り…まぐあい」「と…門…身の門」「かたみ…形見…遺品…思い出となる品物…片見…中途半端なまぐあい…ひとり断ち」「見…覯…媾…まぐあい」「ふぢばかま…藤袴…草花(女花)の名…藤色の袴…淡い紫色の下着…ふちはかま…淵・端・彼・間…おんな」「わすられがたき…忘れ難き…忘れられそうにない…和すれ難き…和合できそうにない」「香…香り…色香…女の色香…おとこの色香」「にほひ…色に染まり…色づいて…ほんのり匂い」「つつ…続く…詠嘆の意を表す…筒…おとこの自嘲的表現…空洞…中からっぽ」。

 

 

宿った人の思い出の品か、藤袴草、忘れ難い人の香に、匂いつづけている。――歌の清げな姿。

やとりした我が片見か、淵端か間よ、未だ和合し難い色香に、染まったままだ、われは筒。――心におかしきところ。

 

歌のエロス(性愛・生の本能)は、女性が和合ならなかった微妙な情況のようである。おとこは、その極致で筒となる、持続力のないのは、おとこの性(さが)だろう。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)