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Civilizations and Impressions

準文明の研究11(準文明の役割と未来)u

2022-07-03 11:24:00 | 論文

第五章 準文明の役割と未来

 

 ここからは、文明と準文明の役割と未来について、今までの考察を踏まえながら総括していく。ここでも命題を立てる形で考えていこう。

  

1 四文明が地球を支える柱であるとすれば、準文明はそれを包み込む屋根であろう。

 

 四つの文明とはヨーロッパ文明、イスラム文明、インド文明、中国文明としてきたが、これらの文明に共通していることは、これらの四文明はそれぞれ国際的な意味における「体系的モラル」:モラルシステムを持っているということである。そのモラルの中心にはその文明が持つところの「直観的倫理」のようなものがあるだろう。「直観的倫理」を中心にしたモラルの体系こそが「宗教」であり、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教、儒教がそれであった。そしてこれら宗教はコスモポリタン型文明、ローカル型文明といった文明の型式と関係し、ヨーロッパ文明とイスラム文明はコスモポリタン型文明として発展、膨張を続けたが、インド型文明と中国文明は膨張を試みる時代もあったが、概して、自己充足的であり、自己抑制的な時代が多かった。ヨーロッパ文明とイスラム文明がコスモポリタン型文明同士で交流や対立を繰り返していく過程で、ヨーロッパ文明において資本蓄積と軍事産業を結合させた文明が創生されたのだが、ヨーロッパ文明内部における対立によって、結果としてヨーロッパ文明は消耗、衰退していくこととなった。

 

 それに対して準文明とは、体系的なモラル(宗教)を持ってはいるが、ほぼ一国にとどまっていた文明であり、典型的には日本のような国に代表される文明である。イギリス国教会のイギリスやロシア正教会のロシアもこれに近いのかもしれない。イギリスやロシアは先の「文明の研究」の中ではヨーロッパ文明に含まれていたが、詳しく見ていくと、オセアニア、南米、東欧もそれだけでも独特な文明であり、先の定義でいうところの一国とは異なるが、これもまた準文明のカテゴリーに含めていいだろう。

 

  したがって準文明のもう一つの意味は、いわゆるモラルシステムすなわち、文明の周辺に位置し、原住民の独自の文明が強弱ありながらも存在してきた文明ともいえる。このように準文明は、単独性、周辺性という意味にも分けることができるが、準文明の中心にもなんらかの「直観的倫理」は存在しているのだが、どことなく雑種的な要素があるのかもしれない。土台が四つの文明のいずれかあるいは複数に大きな影響を受けていることも指摘できる。

 

2 準文明の四つの型、植民型、浸透型、辺境型、融合型は四文明(モラルシステム)と対抗関係にあったり、協調関係にあったりした。

 

 植民型(オセアニア、南米あるいは北米)、浸透型(アフリカ、ユーラシア)、辺境型(極東、極西)、融合型(東欧、東南アジア)準文明はそれぞれ独自の文明を形成してきたのだが、その近隣や遠来した「モラルシステム」の影響を強く受け、そこに住む人の中には大きく精神的にそうしたモラルシステムによって「属人的支配」を受ける人たちもいた。そのような状態になったのは、準文明は「文明」の支配もしくは影響下にあることが多かったからである。オセアニア、南米、アフリカは植民地であったことがあり、ユーラシア、極東、極西、東欧、東南アジアは四つの文明(モラルシステム)の影響をうけること、しばしばであった。

 

 準文明がどの文明に従属するかは、世界経済の問題であり、世界システムの問題であった。そしてこの問題は四文明が、それぞれの文明的課題を担う中においても、こうした準文明が四文明のどこを支持してきたかという、バランスの問題にも大きく関係していたことだろう。

 

 また準文明自体が文明へと成長していくこともあったかもしれない。現在までのところ、古来からのモラルシステムをメンテナンスしながら、保ち続けてきた文明は全て北半球に集中し、さながら数珠つなぎのようにつながっていたのであるが、準文明の多くはどちらかといえば南半球に集中しており、オセアニア、南米、アフリカ、東南アジアといった地域がそれであった。またこれらの地域は人種差別から多文化主義へと進化してきたという特徴を持っていた。

 

 それとは別に、辺境型準文明の中からは世界帝国へと発展した文明もあった。極西文明のイギリス、ユーラシア文明のモンゴル、ロシアなどがそうであろう。辺境であるがために、海洋に進出したり、草原に進出したりして広大な地域を支配、治めることができた。

 

3 近代世界システムを構築したのが、準文明の一つ、辺境型準文明であるイギリスであり、イギリスコモンウエルスは「妥協原則」「経済連携」でゆるやかな共同体を形成した事例といえる。

 

 近代世界システムを形成したのは辺境型準文明であったイギリスであった。しかしあらかじめ考えてなったわけではなかった。イギリスがインドに進出したのは、オランダとの商戦に敗れたから(アンボイナ事件)であり、インドで綿織物と出会い、これが輸入代替となり、やがて産業革命につながっていった。ルイ14世の侵略戦争のためイギリスはオランダとつながり、海洋国家としての道を決定的に歩みだした。そして名誉革命の過程で学習した政治手法は争いごとを解決する際の方法の指針となった。製品、海洋進出、紛争解決方法、こうした要素が重なることにより、イギリスは近代世界システムを構築し、そしてそうした重要な遺産が濃縮されて残ったものが、最終的に「コモンウエルス」となったといえるだろう。

 

  イギリス発であるところの「コモンウエルス」の面白いところは、一度加盟国が脱退しても戻ってくる、イギリス領でなくても参加したいという国が出てくるところだろう。EUのような厳しい制約はないが、もしかしたら、アセアンのモデルとなった組織体ではないか。極西準文明のところで述べたが、清教徒革命(イギリスでは内乱と呼ぶそうであるが)から名誉革命までの間で学んだこと、過激な左右は抑え込み、穏健派のみで妥協する、財産権尊重の政治手法は、イギリスの植民地からの撤退の際にも使われ、今では独立したかっての植民地にもこの考え方には賛同が多いようで、コモンウエルスの存続へと続いてきたようだ。

 

 こうしたイギリスのあり方は、必ずしも理念的なものではなかった。相手に応じて対応は異なったのだが、こうした点は他の辺境的でもある準文明、モンゴル帝国やロシアでも見られたかもしれない。しかしイギリスの場合、重要であるのは争点の中心に「財産と人権(生存)」の問題があり、この問題を解決するためには独裁と民主制(議会制)とではどちらがふさわしいかということであり、イギリスはどちらかといえば民主制(議会制)の側にいた。自国の重要な植民地(例えばインドやエジプト)については必ずしもこの原則に従ったわけではないが、最終的にはイギリスはこの形をとってきたのであり、清教徒革命から名誉革命にかけて勝ちえた英知といえるだろう。議会とは議員の選出の時点で、その時代への妥協であり、左右、穏健があぶりだされる時点で第二の妥協が成立する基盤を形成しているわけである。

 

 準文明間の連携における、もう一つのアプローチとしては、ネルーたちが行ったバンドン会議のアプローチがあるかもしれない。これは西側諸国や東側諸国に対して、第三世界が主張するために結集し、平和五原則などを発表したが、参加国の間に経済的な関係がなく、やがて内輪もめが始まり、発展する国とそうでない国と分かれてきて、自然消滅していった。しかしそうした名残は中国とアフリカ諸国の関係に見られるようにあるのかもしれない。

 

 こうした点から考えてみて、準文明の集合体が地球という神殿の屋根を形成するためには、準文明同士が経済的に相互依存関係を形成し、平和的に紛争解決ができる国際的な政治風土を構築することが必要であるようだ。そういう意味ではイギリスのコモンウエルスや東南アジアにおけるアセアンのような組織を、経済的相互依存関係で補完し、発展させていくような組織体が必要なのかもしれない。

 

4 四つの文明が、その強いモラルシステムのためにお互いに協力ができないとすれば、それをコントロールするための「バランサー」として準文明群による連合体を考えてみることも必要であろう。

 

 モラルシステムを歴史的に有してきた四文明は、もしそのどれかが経済的繁栄を勝ちえた場合、ヘゲモニーを握ろうとするかもしれない。経済的な力をつけてきた中国がしだいに自らの文明を誇示するようになってきたように、またかってヨーロッパ文明が繁栄によって自らの文化を「白人の責務」といって誇ったように、北半球に集中する四文明は、インド文明であれ、イスラム文明であれ、経済的繁栄を勝ち得た瞬間、自らの文化、モラルシステムが絶対であると誇示するようになっていくことは、現在の中国文明を見れば、十分に考えられることだろう。もうそろそろそうした奢りに基づいた、偏りがちになりがちなモラルシステムを人類は克服し、宇宙時代に向けて進化していくべきはないだろうか。かといって今まで培われたモラルシステムである宗教を無碍に捨て去ることは、それぞれ文明における人間性と美の喪失につながると考える人もいるかもしれない。

 

 問題は平和を維持したうえで、それぞれの文明や準文明が自らのモラルシステムであるところの神や宗教をそれぞれにおいて守り続けていけるかということであり、このためのバランサーとして、準文明であるところの南米、オーストラリア、アフリカ、ユーラシア、極東、極西、東欧、東南アジアを含んだ連合体が、いわば地球の柱とも臓器ともいえるこの四つの文明、四つのモラルシステムであるヨーロッパ文明、イスラム文明、インド文明、中国文明に行動規制をかけられるようになれるかということであろう。

 

5 そういう意味で見直すとTPP(環太平洋協定)は、本来の趣旨と異なるのかもしれないが、準文明間における連携を形成し、その裏付けとして経済的な相互依存関係を図る条約ということにもなる。

 

 TPP条約の加盟国は現在、日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、ペルー、チリ となる。

 

 辺境型準文明(極東文明)として日本、植民型準文明(オセアニア文明)としてニュージーランド、オーストラリアあるいはオセアニアではないがカナダ(北米文明)。(南米文明)としてメキシコ、ペルー、チリ。融合型準文明(東南アジア)としてシンガポール、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、タイが参加していることになる。準文明のうち、浸透型文明からは全く参加していないが、南半球が中心となるかもしれないが、新しい地球神殿の屋根の部分を構築していくという趣旨であるのならば、今後、アフリカ大陸南部やユーラシアからの参加も望まれるかもしれない。

 

 しかしそうなるとTPP(環太平洋連携協定)ではなくなり、TOP(環大洋連携協定)となってくるが、中国の「一帯一路」構想がコロナウイルスで難易度が高まったことに対して、環境に対しても有望であり、そもそも、中国文明の時代が終わったとしても、インド文明、イスラム文明という具合に今後、文明の台頭が続いていくとするならば、その都度、一方的に覇権文明のモラルシステムが強制され、世界の平和が乱される危険性も残っていくわけである。文明が多立する北半球の平和をうまくコントロールしていくこと、全地球的視野から南半球(南極も含めて)、シベリア、海洋、宇宙空間といった地域を、地球から人類に与えられた財産としてうまく活用していくことが重要であり、準文明間における連携もその意味において大変重要になってくるわけである。しかしそのためには経済的な共存が必要であるとともに、それぞれの文明の価値を尊重していく仕組み(社会構造力)も必要であろう。それぞれの文明に対して生存権はあるのであり、それは人権同様のものではないだろうか。インカ、アステカ文明に行われたようなことを二度と人類は許してはならないし、それぞれの文明がそれらしく存続していける環境づくりをしていくことが必要であろう。そのためにこそ準文明が経済的協力関係の基礎の上で四大文明を規制していく、政治的な協力体制を築いていくことが必要なのではないだろうか。

 

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