永井路子とくれば「女性の目から見た歴史もの」です。非常に細かく調べに調べ上げて、そこに自分なりの解釈を加えて隙のない文章で物語に仕上げるのがこの人の得意技です。しっかりとした調査がベースになっているので創作といえど軽くなく、説得力もあります。いわば一つの彼女なりの仮説を物語にしているといったほうがいいかもしれません。この作品は戦国時代の中国地方に覇をとなえた毛利家を中心に話が進んでいきます。お、ということは毛利元就の話かな?と思うでしょ?確かに毛利元就は一番多く登場します。ですが、それなら他の歴史ものと変わらないわけです。永井路子が書くわけですから視点は女性なわけです。ということでこの作品の主人公は毛利元就の妻のおかたです。中国地方を統一した男を支えた女性の生涯はどういうものであったか?それを調べて書かれたのがこの作品です。是非この点に注意して読んで頂きたいのです。なぜなら、おかたが死んだ時点でこの物語は終わります。元就が陶晴賢を倒し、尼子を倒して中国に覇を唱えるのは妻の死後です。元就を主人公だと思って読んでいくと、「えー!これから面白くなるのにー!」というところで終わってしまいますから、くれぐれもご注意下さい。永井路子が書く歴史ものは一味も二味も違いますから読んでみる価値は大いにありますよ。
太平洋戦争の頃、日本の若者はみんな戦争に行ったわけでして、戦後には多くの未亡人が残されたわけです。最愛の旦那が戦死したとの知らせがあって落ち込んでいるところに再婚の話があって、人生再出発ということで再婚したら実は旦那は生きていて、帰って来てから一悶着・・・なんていう悲劇が戦後には多かったことだろうと思います。なんせ戦時中の、しかも敗色濃厚になってからの公報というものはあてにならなかったですからね。新しい旦那をとるか、前の旦那に戻るか、悩み苦しんだ日本の女性の悲劇をドラマ化したのがこの作品です。まだ結婚はしてなかったけど、この人しかいないと決めた画学生が戦争に行ってしまい、戦死の知らせが入ります。そして執拗に結婚を迫られていた実業家と結婚してしまいますが、戦後にあの画学生が歩いているのを見たという人の話を聞いて主人公の心は揺れ始めます。誠実と思っていた実業家が実は愛人のいる、不誠実の見本のようなやつだったことがわかったりして、余計に進むべき道に迷う女性が最後にどういう決断をするのか・・・?戦争が生んだ悲劇の一つの形体を作者得意の情緒的なしっとりとした文章で描いてあります。まさに芝木好子ワールドです。実に見事な仕事です。