蔵書

「福岡ESEグルメ」のえしぇ蔵による書評サイトです。
要するに日本文学の素晴らしさを伝えたいのです。

国木田独歩 「忘れえぬ人々」

2006年05月29日 | Weblog
あなたにとって忘れえぬ人とはどういう人ですか?大好きだった人?お世話になった恩人?ずっと一緒にいた人?普通はそういう人を連想しますよね。でも実際はどうでしょう?本当に忘れられない人というのは、ほんのちょっとすれ違っただけとか、一度挨拶を交わしただけとか、意外とそういう人かもしれません。この作品はそういう人間の脳の隅にこびりついた不思議な印象をテーマにした作品です。読後の印象がこれまた不思議なものが残ります。こういうのもある意味名作だと思います。

宮沢賢治 「風の又三郎」

2006年05月29日 | Weblog
毎年、まだ残暑が残る9月初旬に必ず読む作品があります。それがこの「風の又三郎」です。個人的にこの作品がめちゃめちゃ大好きです。ストーリーが9月1日の朝に始まるので臨場感を味わうためにこの時期に読みます。転校してきた不思議な少年が村の友だちと楽しく交わる姿が微笑ましく、また突如別れも告げずに去って行くところはミステリアスな雰囲気を感じます。とても不思議な、でも夢のある作品で、何回読んだか覚えてないくらいお気に入りの作品です。ちょっと童心に戻ってというか、戻る必要もないですが、読んでみられませんか?

里見 「若き日の旅」

2006年05月22日 | Weblog
明治41年の春に志賀直哉、木下利玄、里見の3人は関西方面へ2週間の旅に出ます。この作品はその旅行記です。3人ともいづれは有名になっていくわけですが、この頃はみんなまだ若く、里見にいたっては19歳でした。夢を抱いた若々しさが文章の中から感じられます。3人の愉快なやりとりが非常にユーモラスで、全体的に”青春”を感じる爽やかさがあります。本当に楽しそうな3人が目に浮かんできます。後の世の大物3人も若い頃はこんなにお茶目だったのかと思うと妙に親しみが湧いてきます。微笑ましい3人組の旅を読んでると旅愁に誘われますよ。

島崎藤村 「夜明け前」

2006年05月22日 | Weblog
幕末から明治を舞台にした歴史小説は山ほどありますが、それらの作品というのはほとんどが歴史上偉大な足跡を残した有名な人が多いですよね。そういった作品を読む時にいつも思うのは、「その頃の庶民の人たちはどういうふうに感じ、行動したのだろう?」ということです。そういった点に着目した作品は意外に少ないですよね。それを知るにはこの名作はうってつけです。島崎藤村の父親をモデルにしたと言われる主人公は本当に名もない普通の人です。そしてやはり時代の変遷に翻弄されつつもたくましく生きていきます。その姿を壮大なスケールで描いたかなりの大作です。島崎藤村は身近なところでの歴史の流れを描こうとしたのかもしれませんね。

三島由紀夫 「宴のあと」

2006年05月15日 | Weblog
この作品は政治ものなんですが、有田八郎元外相をモデルにして書かれており、プライバシー侵害で訴えられたりしたんで余計に有名な作品になっちゃいました。それはともかく一つの作品としては展開が早くストーリーも面白くて、「どうなるんやろ?どうなるんやろ?」とハラハラします。なにせ政治の世界ですからライバルを出し抜くためにあの手この手の攻防戦があるわけですよ。それをかなりリアルに描いてます。現実もこうなんやろうなぁと思ってしまいます。とにかく面白いですよ。ちょっと松本清張の作品に似た感じかな。

横光利一 「蝿」

2006年05月15日 | Weblog
我が尊敬する横光利一大先生を初めて知った作品なんですが、その時の強烈なインパクトは未だに覚えています。こりゃとてつもないすごい人だと痛烈に感じました。非の打ち所のない構成、美しくリズムのある文章、あっと思わせるクライマックス、ありありとその情景がうかぶ巧みな描写、まさに完璧と言っていいのではないでしょうか?当時の文壇を驚かせたというのもうなづけます。だって今読んでもびっくりですもん。これ読んで皆さんも横光先生のファンになりましょう。

新田次郎 「アラスカ物語」

2006年05月11日 | Weblog
これは本当にいたすごい人のすごい話です。日本人でありながらアラスカに住みついて、食糧不足や疫病からエスキモーの人たちを救って、”アラスカのモーゼ”とまで言われた人の生涯を描いてます。しかも時代は明治・大正・昭和初期にわたります。90歳で亡くなったそうですがついに日本には戻りませんでした。国外で英雄視された数少ない日本人の一人です。同じ日本人として尊敬せずにはいられません。その人柄に是非この作品で触れてみて下さい。本当にすばらしい人ですよ。

山本周五郎 「赤ひげ診療譚」

2006年05月11日 | Weblog
黒沢明が映画化したのでご存知の方は多いでしょう。その原作です。映画では赤ひげ役は三船敏郎でした。この作品を読めばわかりますが三船敏郎は原作の主人公を上手に演じてたなぁと感じさせられます。山本周五郎の描く江戸の人情ものはえしぇ蔵には非常に心にしみてきます。読後もさわやかで、おいしい料理と同じく後味がいいです。赤ひげの強く朴訥な人間性はいわば男として手本にすべきもののような気がして、これを読んで以後は一つの生き方の参考にしてます。

横光利一 「日輪」

2006年05月11日 | Weblog
つくづく思うんですけど、この人はその作品の素晴らしさが十分に今の世間に知られてないと思うんですよね。文章の美しさ、ストーリーの面白さ、作品全体の完成度、どれをとっても非の打ち所がないのですよ。日本文学の象徴的存在でノーベル文学賞受賞の川端康成が彼に一目も二目も置いてわけですからそのすごさがわかると思います。この「日輪」なんてまだ駆け出しの頃の作品ですけど、恐ろしいほどの完成度にえしぇ蔵は絶句ですよ。古代の日本が舞台なので文学的な歴史ものです。これは絶対に読むべきです。

太宰治 「魚服記」

2006年05月11日 | Weblog
どうして太宰治はこれほどまでに人気が高いのだろうと、まだあまりその作品に触れていない頃にはよく思ったものでした。その原因を探ろうと片っ端から読んでみたわけですが、この「魚服記」を読んだ時になるほどと思いました。これはちょっとやそっとじゃ書けません。この水準のものを若い頃既に書いてるわけですからそりゃすごいですよ。彼の描く世界というのは美しくて奥が深く、そして他にはない独特のものになってます。他では得られない完全なる太宰ワールド。その一端を垣間見るにはこの作品はうってつけです。

夏目漱石 「我輩は猫である」

2006年05月11日 | Weblog
江戸時代にもユーモラスな文学はあったけど、明治以降で本格的にユーモラスな文学はこれが最初じゃないですかね?猫の目から観察した人間の滑稽な社会というアイディアは当時は斬新だったでしょう。そういう書き方だから多少皮肉にも書けて余計面白いんでしょうね。この作品は明治の頃の文体ですしそれに長いです。でも笑えますからあまり気にならないかも。ゆっくり時間かけて読めばいいと思います。なんせ日本文学史の輝ける金字塔ですからね。

井上靖 「氷壁」

2006年05月11日 | Weblog
これはストーリーが面白くて一気に読んでしまいました。主人公は友達と奥穂高に登るんですけど、なぜかザイルが切れて友達は死んじゃうんですよ。この原因がわからない。なんでザイルが切れたのか?友達は自殺したんじゃないか?いろんな憶測に悩みつつ、ついに結論を出すために今度は一人で登りに行きます。友達の恋人を好きになっちゃったりとか、そういうのもからんで人間ドラマ的にも面白くて長編ですけど一挙に読めますよ。

正宗白鳥 「微光」

2006年05月11日 | Weblog
この人ご存知ですか?まず名前を知って欲しいのですよ。なぜなら日本文学史を語る上で必ず登場する名前なのに、最近の本屋さんに行ったら本置いてないからです。古本屋で探してやっと見つけるという感じ。これではまずいでしょう?ここでもまた日本人は自らの誇るべき文化の一端を忘れてしまおうとしています。「自然主義文学の新星」と言われて文壇に登場し、この作品はその地位を確かなものにしました。本当に高度に文学的であり、高度に自然主義です。まさに文学です。名作です。それなのに本屋でなかなか見つからないなんてまずいでしょう?

芝木好子 「光琳の櫛」

2006年05月11日 | Weblog
古い櫛を集める料亭の女将の話です。えしぇ蔵は日本の伝統文化が大好きでなので、この作品の主人公が櫛にはまっていく姿に非常に共感を覚えました。特に古い櫛には愛用していた女性のドラマが刻まれており、愛おしい櫛もあれば、捨ててしまいたいくらい気持ち悪い櫛もあったりするわけで、主人公はまるで人間と対しているように櫛へのさまざまな感情を露にしています。そして主人公にとって究極の尾形光琳作の櫛に出会って話は盛り上がります。そこに男女の恋愛もからんで非常に完成度の高い作品になっています。特に女性に読んで頂きたい名作ですね。

芹沢光治良 「パリに死す」

2006年05月11日 | Weblog
この人をご存知ですか?まさに日本の誇りですよ。この人の文学は国内はおろか、世界に認められました。特にこの作品の舞台であるフランスでは多くの人に受け入れられました。なんでもノーベル賞候補にまであがったそうです。そんなすごい作家の代表作なんですからこれは外せないですね。生命の尊厳を訴えた作品は民族や国境を越えて多くの人の心に何かを残しました。素晴らしいの一言ですね。