雰囲気からしてまさに水上勉ワールドです。夕子という名の美しい女性が遊郭である夕霧楼に預けられ、客をとるようになります。そしてある若い客が頻繁に通うようになってから彼女の行動が怪しくなっていきます・・・きたきた、水上勉ワールド!なにか秘密が隠されている、何かが裏で進行している、なんだろう?なんだろう?で読む人を引きつけておいて、えー!そうなるのー!みたいなビックリの結末。そして物語の底辺にはやるせない悲しみが・・・。文学的であって、でもサスペンスだったりするわけです。えしぇ蔵はこういう作品好きですねぇ。
泉鏡花の作品のイメージは、「高野聖」に代表されるように幻想的でオカルト的なものというのが固定しているかもしれませんが、大衆文学的でテレビドラマのシナリオになりそうな物語もそれは素晴らしいものを残しています。この作品なんて読み出したら止まりませんよ。韓国ドラマも真っ青の驚きの展開に読んでて振り回されます。盛り上げて盛り上げて最後ビックリの結末が待っています。本当に芝居向きのストーリーです。文章が師匠の尾崎紅葉のような昔風の文体で書かれてますのでちょっと読みにくいかもしれませんが、ストーリーが強烈ですからそれもすぐに慣れるでしょう。はい、テレビは消してこっち読みましょう。
「近代日本資本主義の父」であるあの偉大な渋沢栄一の生涯を描いた作品です。作家が城山三郎ですからさすがによく調べてあります。おおよそ渋沢栄一のことがつかめるのではないかと思います。しかしこの人はスゴすぎ。一体いくつの企業を作ったんでしょうか?関係した企業の数は500以上と言われています。まさに明治以降の日本の経済の基盤を作り上げたと言ってもいいでしょう。そんなすごい人が幕末の頃は志士であり攘夷を叫んでいたのですからえらい変わりようです。本当にドラマチックな人生ですから読んでて面白いです。城山三郎の本領発揮的な大作です。
短歌に興味を持ったらこの人の名前に必ず行き着くと思います。やっぱすごいですよ。巨人って感じがします。アララギ派の流れで、伊藤左千夫の弟子です。ものすごい数の短歌を残してます。この「寒雲」は昭和15年の発行で、タイミング的に戦争に関した短歌も多いです。戦争肯定派だったので戦後に批判もされましたが、その辺は現代の我々がどうのこうのと論議しても始まらないでしょう。ただその作品の素晴らしさを尊重するのは忘れてはいけないことだと思います。
どこか人里離れた静かなところに旅行するとしたら、旅の連れとして持って行きたい本はなんですか?えしぇ蔵はそういう時妙に堀辰雄が読みたくなります。旅先で静かに堀辰雄を読むなんてなんかめっちゃ文学してるなぁと思ったりするわけです。それってやっぱりこの人の作品が軽井沢のサナトリウムで療養してるような話が多く、自分もそういう状況にいるように感じたいからでしょうかね?それにしても美しい文章です。これぞ文学ですね。この人は詩も書きますが、詩人が書いた小説って美しいですよね。どうかこの文章に浸ってみて下さい。
藤沢周平は司馬遼太郎や池波正太郎と肩を並べる超大物時代劇作家です。この人の時代ものは、歴史の知識があまり必要でないのが特徴です。平和な江戸時代の話が多いですし、藩も架空で登場人物も架空のものが多いです。だから気楽に読めます。ただ江戸時代の人々の生活の細かい描写については時代考証が素晴らしいので作品が軽くならないわけです。「たそがれ清兵衛」は映画化された名作です。主人公の人柄はこの人が好きなパターンの一つです。つまり普段はあんまりぱっとしないけどいざという時にビシッと決める人。きっとそういうところに男のあるべき姿を見ていたのでしょうか。とにかくリラックスして読める娯楽ものですからお気軽にどうぞ。
傲慢でいい加減で気まぐれで思いやりのない主人公に読んでてめっちゃ腹立ちますよ。でもそれが彼の手腕のすごさです。家の世話をしてくれる女中さんみたいな人に手を出して妊娠させてしまって、責任をとるのか、縁を切るのかはっきりしないまま、なし崩し的に家庭ができていって、一体主人公は彼女を愛してるのかどうかよくわからない。そういう人間像をよくここまで細かく書けるなと思います。何でも自分がモデルだそうですが、こんな人だったんでしょうか?身近にいたらつきあいたくないかも(笑)
春は馬車に乗ってやって来るんですよ。あぁなんて素晴らしいタイトル・・・。横光利一は川端康成と親友で、ともに”新感覚派”と言われた作家ですが、正直に言うとえしぇ蔵はノーベル文学賞とった川端康成よりも彼のほうが才能は上ではないかなと思っています。この作品でも彼のすばぬけた才能を充分に感じることができます。主人公は死が近い奥さんを励ましたりけんかしたりしながら看病するんですが、二人のやりとりがとても胸をうちます。愛する人の死が近づいてくるつらい時間の流れを見事に描写しています。やっぱり横光利一はすごい。