太平洋戦争の頃、日本の若者はみんな戦争に行ったわけでして、戦後には多くの未亡人が残されたわけです。最愛の旦那が戦死したとの知らせがあって落ち込んでいるところに再婚の話があって、人生再出発ということで再婚したら実は旦那は生きていて、帰って来てから一悶着・・・なんていう悲劇が戦後には多かったことだろうと思います。なんせ戦時中の、しかも敗色濃厚になってからの公報というものはあてにならなかったですからね。新しい旦那をとるか、前の旦那に戻るか、悩み苦しんだ日本の女性の悲劇をドラマ化したのがこの作品です。まだ結婚はしてなかったけど、この人しかいないと決めた画学生が戦争に行ってしまい、戦死の知らせが入ります。そして執拗に結婚を迫られていた実業家と結婚してしまいますが、戦後にあの画学生が歩いているのを見たという人の話を聞いて主人公の心は揺れ始めます。誠実と思っていた実業家が実は愛人のいる、不誠実の見本のようなやつだったことがわかったりして、余計に進むべき道に迷う女性が最後にどういう決断をするのか・・・?戦争が生んだ悲劇の一つの形体を作者得意の情緒的なしっとりとした文章で描いてあります。まさに芝木好子ワールドです。実に見事な仕事です。