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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

イノチの衝動。

2007-08-04 18:31:47 | その他
 携帯電話が着信を知らせる。
 何事だ と起き上がって携帯電話の発信者表示を見て、一つため息。
 時計を見れば、深夜2時。
「・・・どうしたの?」
 通話ボタンを押して静かな声を送れば、聞えてきたのは
「ルナ・・・」
 すすり泣きの声。
 ああ、まただ。

 ルナマリアの「彼氏」は、ちょっとどころかかなり子供っぽい。
 もう18になろうとしているのに、いつも落ち着きがなくて、荒っぽくて。
 こうして時々、泣きながら電話をしてくる。
「また怖い夢?」
「・・・ん」
「どんな夢?」
「レイ・・・」
 ああ、あれか。
 最初にシンがこの夢を見たのは、戦後すぐだった。
 戦死した親友が、時折夢に出るのだという。
 現実には違うのだけど、夢の中でその親友は、シンの目の前で殺されるらしい。
 白い悪魔に。
「今から行くから。少し待って」
「時間・・・」
「エレカで行くから大丈夫よ。私だって赤なんだし」
 でも女だし とぶつぶつ言うシンに
「待ってて」
 とだけ言い捨てて、通話を切る。
 手早く着替えて、ついでに軍服も持って部屋を出る。
 同じタイミングで、隣の部屋のドアが開いた。
「なーに。またー?」
「うん。行ってくる」
 メイリンの呆れた顔に、ルナマリアは苦笑いしかできない。
 メイリンはシンの友達ではあるけれど、「絶対彼氏にしたくない」部類らしい。
 曰く、「だってシンだもん」。
「仕事にそのまま行くから」
「またママに言い訳しなきゃいけないのー?」
 実家暮らしはここが面倒くさい。
 年頃の女の子が深夜に彼氏の家に行く。その言い訳をしてくれているのが、妹だ。
「ごめん。今度ランチ奢るからさ」
「欲しいものがあってー」
「・・・なによ」
「香水」
 また高い報酬だ。
「わーかったわよ。しっかり言い訳しておいてよね」
「了解です、ホーク小隊長!」
 ぴっ とザフト式の敬礼をする妹の頭を軽く小突いて、ルナマリアは音もなく家を出た。
 軍の訓練を、こんなことで生かすなんて。

 今日電話があるのではないか という予感はしていた。
 きっかけがあったからだ。
 日付で言えば昨日、来客があった。
 オーブ軍総督、ムゥ・ラ・フラガ。
 シンの親友であったレイの遺伝子の元になった人の、息子だという。
 そして、シンの想い人であった「ステラ」を、戦場に送り込んだ人。
 元は連合の兵士であったが、先の大戦で記憶を失い、連合に操られていたのだという。
 レイがクローンだという話は、AAで聞いた。
 終戦後保護されたAAで、治療を受けながらシンがぽつりぽつりと話してくれた。
 その後現れたフラガへのシンの怒りは、救援から戻ってきたアスランが力ずくで押さえつけるまで止まらなかった。
「約束したじゃないか!」
 シンは何度も叫びながら、泣いていた。
 フラガは言い訳のひとつもせずに、ただ黙ってシンの決して弱くはない拳を受け続けていた。

 そういう人が、仕事とはいえシンの目の前に現れるのは、正直ルナマリアとしては心中穏やかではない。
 さすがにもう叫んだり拳を振り上げたりはしなくなったが、それでも瞳に憎悪を宿す姿は、見ていられない。

「シン?」
 エレカを飛ばして、シンが借りているアパートの部屋の鍵を、貰った合鍵で開ける。
 ドアの隙間から声をかけると、
「・・・っ」
 怯えた子供が、飛びついてきた。
 ああもう と呆れながら
「大丈夫。もう、大丈夫だから」
 ほんとうに手がかかる男だけど。
 しょうがないじゃない。
 
 翌日仕事に二人で行くと、上司であるキラに
「シン、目が腫れててみっともない」
 と辛辣な一言をもらった。
 もともと赤い瞳が、腫れてたしかにみっともない。
「・・・すいません」
「まぁいいや。今日は通常業務だし」
 やれやれ とキラはデスクに着いて
「そうだ。いいもの見せてあげる」
 カバンを探って、一枚の写真を取り出した。
「赤ん坊?」
「双子ちゃんなんだよー」
 受け取ったシンと写真を見れば、金髪の赤ん坊が二人、寄り添って眠っている。
「右がオトコノコ、左がオンナノコ」
「誰の子供なんですか?」
 自然に聞けば
「ムゥさんだよ」
 地雷。
 かっ とシンの怒りに火が着くのを隣で感じた。
 今にも写真を破り捨てようとするシンに、もう一枚、キラが差し出す。
「こっちが起きてるとき」
 怒りを抑えようとして動けないシンの代わりに受け取って、
「ちょ、シン」
 思わず、シンの腕を掴む。
 ぱっちりと開かれた、双子の瞳の色。
「これ・・・」
 男の子のほうはアイスブルー、女の子のほうはシンより幾分か紫がかった赤。
「男の子がレイ、女の子はステラ」
 キラの言葉に、シンがばっ と顔を上げた。
「コーディネイトしてないから、完全なナチュラルなんだけどね。どういうわけかそういう色の眼で」
 ムゥさんが勢いで名付けちゃったんだって。
「レイ・・・ステラ・・・?」
「うん」
 いい名前だよね。
 キラはあどけない顔で言う。
 シンの瞳は、もう決壊寸前で。
「今度会いに行こうよ」
「・・・はい」
 ぐしっ と袖で涙を拭うシンに、ルナマリアはそっとハンカチを差し出した。


前にブログでぼやいたネタをサルベージ。
・・・イザークB.Dまで時間があるもので・・・。