「ちょっと埃くさい?」
早めにベッドに潜って、くんと匂いを嗅ぐ。
「消臭スプレー、買ってくればよかったな」
「明日これ洗濯して干せば大丈夫だよ」
「だれが洗濯するんだ?」
「・・・アスラン?」
「この!」
ばふっ と枕を押し付けられて、じゃれあえば。
子供の頃を思い出す。
笑いあってふざけあって。
子供の頃と違うのは、その合間にキスがはいること。
「ん、んん・・・」
唇を啄ばむものから、深いものまで。
何度もキスをして。
「疲れた?」
至近距離で覗き込まれて、心臓が跳ねる。
狭い、いつもと違うセミダブルのベッドは壁に沿って置かれていて。
気がつけばキラは追い詰められていた。
「・・・どうしてここなの?」
「帰ろうと思ったんだ」
「あの頃に?」
「帰りたかったんだろ?」
「・・・うん」
「だから」
ずっと帰りたかった。あの幸せしか知らない日々に。
「キラの家はもう人手に渡って入れないから。せめてと思って」
「ここ、どうして残ってたの?」
キラの住んでいた家は人手に渡り、買い物帰りにその前を通れば人の住んでいる気配はなかった。
買われて捨てられた、思い出の場所。
「父は手に入れたものは手放さない主義で、ここは引っ越してもザラの家のものだったんだ」
キラを押し倒したまま、アスランは説明する。
「戦争が終わって、俺はオーブに身を寄せている間にプラントにいる父の顧問弁護士と税理士に極秘に連絡を取った」
一度目の戦争の後だ。
「財産整理の必要があったんだ。プラントの屋敷と、各地の別荘、マンション、他の各不動産と、預金、会員権から、なにからなにまで」
アスランが連絡を取るまで、宙に浮いていたのだという。
「それを全部売却してもらった」
「すごそう・・・」
「ああ、小さいコロニー一つくらいなら作れたかもな」
MSなら簡単に買える額だぞ。
アスランは笑って言う。
「それをすべて、戦後復興支援団体に寄付した。偽名で」
一部にはバレただろうけど。
「残ってるのはここだけ」
「どうして残したの?」
「手放せなかった」
アスランは身体を離してキラの隣に転がり、キラを抱き寄せる。
ぎゅっと強く抱かれて。
「キラと、唯一繋がれる場所だから。捨てられなかったんだ」
「じゃあ、ここって」
「俺の名義だよ、今は」
「アスランの家?」
「そう」
ここが俺の帰る家。
そう言われて、キラは胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
プラントのあの部屋は。
アスランの家ではないのだと、言われた気がして。
「アス。ここで、なにしたいの」
「全部を元に戻したい」
「もと?」
「キラと出会った、あの頃に」
ざっ と血の気が引いた。
いやだ。
これ以上聞きたくない。
聞けば。
すべてが、終わる。
「帰ろう。忘れることは、できないかもしれないけど」
「や・・・」
「最初からやり直そう」
「あすら・・・」
「離れなければよかったんだ」
え?
「あの日、父に逆らってでも、ここに残ればよかった。そうしたら俺はキラを一人にしなかったし、ザフトにも入らなかった。キラもMSに乗らずに済んだんだ」
「アスラン?」
「ここから、はじめよう」
ぎゅう と、アスランが抱きつく腕に力を込めた。
「ここを、二人の帰る場所にしたい」
「え?」
「ここを、共有してくれないか」
ここだけが、キラと繋がる唯一の場所で。
「ここしか、俺の思い出は残ってないから」
キラと撮った写真は、プラントの部屋のリビングに飾ってある一枚を残してすべて処分されてしまったから。
「キラと共有したい」
「共有って・・・」
「具体的に言う?」
「ん・・・」
「土地を俺、家をキラの名義にしたい」
アスランの言葉に、息が詰まった。
「思い出の詰まった家はキラにあげる。そこを支える土地だけ、俺に譲って」
「逆でしょ? だって」
「キラは思い出、もう残ってないだろ?」
言われて、反論できない。
キラが持っていた写真や思い出は、トリィを残してすべて宇宙の塵だ。
トリィは別れの思い出。
一緒にすごした時間は、なにひとつキラの手元に残っていない。
「書類も持ってきた。サインするだけで、この家はキラのものだよ」
「アスラン・・・」
「受け取って欲しい」
そして
「いつか、二人でここに帰ろう」
いつかオーブ軍もザフトも辞めて。
ここに。
世界がふたりだけだった頃に。
「嫌?」
「いやじゃないけど・・・」
「けど?」
「アスランの思い出は、どうなるの?」
「俺にはキラがいればいい」
写真や記憶なんかじゃなくて。
「キラが笑っていれば、それでいい」
どうしよう。
これって。
生涯を誓う、確かなものだ。
ずっとほしかったものだ。
二人を繋ぐなにか。目に見えるなにか。アスランを縛り付けるなにか。
アスランの未来を、独占するなにか。
「結婚、できないんだよ?」
「そのうちプラントも婚姻統制の無意味さに気づく」
「子供、できないんだよ?」
「キラがいればいい」
嘘だ。
アスランはずっと欲しがっていた。
自分だけの家族を。
「キラ」
拒む言葉を捜しているうちに身体が離れて、目を覗き込まれて。
「俺のものになって」
俺の持つものすべてをあげるから。
そんなこと、言われたら。
言葉は役に立たなかった。
ただアスランにしがみついて、涙を流して。
ごめんなさいと。
謝ることしかできなかった。
すべてを奪ってしまう。
過去も今も未来も。
この人からすべてを。
ごめんなさい。
あの日出会ってしまったから。
あのとき、その手を取ってしまったから。
求めてしまったから。
いま、こんなにもうれしい。
ごめんなさい。
貴方のすべてを。
僕にください。
どうにもこうにも、ネタを詰め込みすぎです・・・。
「ここからはじめよう」はどうしてもアスに言わせたかった台詞。(わかる人だけわかってください)
早めにベッドに潜って、くんと匂いを嗅ぐ。
「消臭スプレー、買ってくればよかったな」
「明日これ洗濯して干せば大丈夫だよ」
「だれが洗濯するんだ?」
「・・・アスラン?」
「この!」
ばふっ と枕を押し付けられて、じゃれあえば。
子供の頃を思い出す。
笑いあってふざけあって。
子供の頃と違うのは、その合間にキスがはいること。
「ん、んん・・・」
唇を啄ばむものから、深いものまで。
何度もキスをして。
「疲れた?」
至近距離で覗き込まれて、心臓が跳ねる。
狭い、いつもと違うセミダブルのベッドは壁に沿って置かれていて。
気がつけばキラは追い詰められていた。
「・・・どうしてここなの?」
「帰ろうと思ったんだ」
「あの頃に?」
「帰りたかったんだろ?」
「・・・うん」
「だから」
ずっと帰りたかった。あの幸せしか知らない日々に。
「キラの家はもう人手に渡って入れないから。せめてと思って」
「ここ、どうして残ってたの?」
キラの住んでいた家は人手に渡り、買い物帰りにその前を通れば人の住んでいる気配はなかった。
買われて捨てられた、思い出の場所。
「父は手に入れたものは手放さない主義で、ここは引っ越してもザラの家のものだったんだ」
キラを押し倒したまま、アスランは説明する。
「戦争が終わって、俺はオーブに身を寄せている間にプラントにいる父の顧問弁護士と税理士に極秘に連絡を取った」
一度目の戦争の後だ。
「財産整理の必要があったんだ。プラントの屋敷と、各地の別荘、マンション、他の各不動産と、預金、会員権から、なにからなにまで」
アスランが連絡を取るまで、宙に浮いていたのだという。
「それを全部売却してもらった」
「すごそう・・・」
「ああ、小さいコロニー一つくらいなら作れたかもな」
MSなら簡単に買える額だぞ。
アスランは笑って言う。
「それをすべて、戦後復興支援団体に寄付した。偽名で」
一部にはバレただろうけど。
「残ってるのはここだけ」
「どうして残したの?」
「手放せなかった」
アスランは身体を離してキラの隣に転がり、キラを抱き寄せる。
ぎゅっと強く抱かれて。
「キラと、唯一繋がれる場所だから。捨てられなかったんだ」
「じゃあ、ここって」
「俺の名義だよ、今は」
「アスランの家?」
「そう」
ここが俺の帰る家。
そう言われて、キラは胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
プラントのあの部屋は。
アスランの家ではないのだと、言われた気がして。
「アス。ここで、なにしたいの」
「全部を元に戻したい」
「もと?」
「キラと出会った、あの頃に」
ざっ と血の気が引いた。
いやだ。
これ以上聞きたくない。
聞けば。
すべてが、終わる。
「帰ろう。忘れることは、できないかもしれないけど」
「や・・・」
「最初からやり直そう」
「あすら・・・」
「離れなければよかったんだ」
え?
「あの日、父に逆らってでも、ここに残ればよかった。そうしたら俺はキラを一人にしなかったし、ザフトにも入らなかった。キラもMSに乗らずに済んだんだ」
「アスラン?」
「ここから、はじめよう」
ぎゅう と、アスランが抱きつく腕に力を込めた。
「ここを、二人の帰る場所にしたい」
「え?」
「ここを、共有してくれないか」
ここだけが、キラと繋がる唯一の場所で。
「ここしか、俺の思い出は残ってないから」
キラと撮った写真は、プラントの部屋のリビングに飾ってある一枚を残してすべて処分されてしまったから。
「キラと共有したい」
「共有って・・・」
「具体的に言う?」
「ん・・・」
「土地を俺、家をキラの名義にしたい」
アスランの言葉に、息が詰まった。
「思い出の詰まった家はキラにあげる。そこを支える土地だけ、俺に譲って」
「逆でしょ? だって」
「キラは思い出、もう残ってないだろ?」
言われて、反論できない。
キラが持っていた写真や思い出は、トリィを残してすべて宇宙の塵だ。
トリィは別れの思い出。
一緒にすごした時間は、なにひとつキラの手元に残っていない。
「書類も持ってきた。サインするだけで、この家はキラのものだよ」
「アスラン・・・」
「受け取って欲しい」
そして
「いつか、二人でここに帰ろう」
いつかオーブ軍もザフトも辞めて。
ここに。
世界がふたりだけだった頃に。
「嫌?」
「いやじゃないけど・・・」
「けど?」
「アスランの思い出は、どうなるの?」
「俺にはキラがいればいい」
写真や記憶なんかじゃなくて。
「キラが笑っていれば、それでいい」
どうしよう。
これって。
生涯を誓う、確かなものだ。
ずっとほしかったものだ。
二人を繋ぐなにか。目に見えるなにか。アスランを縛り付けるなにか。
アスランの未来を、独占するなにか。
「結婚、できないんだよ?」
「そのうちプラントも婚姻統制の無意味さに気づく」
「子供、できないんだよ?」
「キラがいればいい」
嘘だ。
アスランはずっと欲しがっていた。
自分だけの家族を。
「キラ」
拒む言葉を捜しているうちに身体が離れて、目を覗き込まれて。
「俺のものになって」
俺の持つものすべてをあげるから。
そんなこと、言われたら。
言葉は役に立たなかった。
ただアスランにしがみついて、涙を流して。
ごめんなさいと。
謝ることしかできなかった。
すべてを奪ってしまう。
過去も今も未来も。
この人からすべてを。
ごめんなさい。
あの日出会ってしまったから。
あのとき、その手を取ってしまったから。
求めてしまったから。
いま、こんなにもうれしい。
ごめんなさい。
貴方のすべてを。
僕にください。
どうにもこうにも、ネタを詰め込みすぎです・・・。
「ここからはじめよう」はどうしてもアスに言わせたかった台詞。(わかる人だけわかってください)
またちょくちょく拝見させていただきます。