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秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.15

2012-08-21 01:09:25 | Weblog
「ふたりは先にお風呂に入りなさい、父さんはもう少し部品について調べるから」
「はい、サヨリこっちよ」
「お風呂借りる、です」
あゆとサヨリは秋月家の風呂場に入って行く。
あゆの母も後を追い洗濯乾燥機にサヨリの服を入れさせる。どこかに泊まる予定はなかったので着替えがないためだ。

「外泊証明書にサインねぇ……外人部隊への入隊志願書じゃないだろうな?」
あゆの父は店舗のパソコン前で一枚の書類を眺めながら思わず航空アクション漫画のエリア88を思い出す。
話の流れで秋月家に泊まる事になったサヨリは鞄から外泊証明書を取り出しホスト側(宿泊先)の住所電話番号そして主のサインを求めた。日本式ではないので捺印箇所はないが小さい文字で色々書いてある。
あゆの父はスキャナでその書類を取り込み電子メールに添付して仕事仲間で英語がとても堪能な友人に送り同時に携帯電話で直ぐに見てくれるよう即した。
「ああなんの問題もないよ、『我が国の騎士に格別なる取り計らいを』云々の言い回しが古臭くて厳めしいから構えてしまうよな。しかし騎士とはw王政じゃないいだろ? 島諸なんとかは」
「そうかありがとう、娘とそっくりなんだがやはり他所様の子だしな」
通話を終えサインをしていると妻が無言で近づきあたりを窺うように小声で話始めた。
「あなた、サヨリちゃんの服を全部洗濯乾燥機に入れさせたのだけど」
「セクシーな下着でビックリか?」
「あなた、真面目に聞いてください、その、ピストルがポケットに、本物だって」
「軍人だしな、でも外交官でもないのに港の税関どうしたんだろうな?」
「大使館の方が秋葉原は物騒だからと貸してくれたそうですよ」
「……まぁ……親心ってやつだよ。さっきサヨリちゃんと大使にお礼の電話入れたが何か凄いお爺さんだったよ。大使って定年とか無いのかな」
「それと……これを見て」
あゆの母が新型iPadを差し出す。
そこにはM4カービンを手にした小柄な女性兵士が地面にうつ伏せに伏せさせられた男達に銃を向けている画像があった。
その画像は2chまとめサイトで『実写版ガンスリンガーガール』と銘打たれ面白おかしく取りざたされていた。
内容は要するに島諸首相国連邦の海賊取り締まりの画像の中に少女兵士が写っていて人権団体が騒いだが結局小柄な部族の成人女性だったという事で落ち着いた件である。どこかのジャーナリストが恥をかいたらしい。
確かに複数写っている女性兵士は相対的に顔が小さく小柄な大人であるとわかる。ただ一枚どうしてもサヨリの後ろ姿にしか見えないひとりが気になった。その女性の顔の分かる他の写真は無くなんとも言えないのがもどかしい。

風呂場の方から女の子のあゆの悲鳴が響くと母はダッシュでそちらに向かう。
「どうしたの?!」
母にしては荒々しい声、荒々しいドアの開け方にびっくりするあゆ。
「サヨリったら最後に水を浴びるんだもの! まだ水浴びには寒いよ」
「いつもの習慣、肌も引き締まる」
「そう? 私もやろうかな? お母さんも」
「普段から鍛えていないと風邪引くわよ」
あゆの母はバスタオルでサヨリを拭いてあげる。見た目は自分の娘と同じだがよく引き締まった筋肉質に驚く。
「おーい、どうした?」
「やだ、お父さん覗かないでよ!」


月下の舞姫vol.14

2012-08-19 11:07:20 | Weblog
「「「乾杯!」」」
 最近秋葉原駅の近くに出来たメイドレストラン『オータム ウィンド』の一角で各々ビールやジュースで乾杯する。
 一行は秋月夫婦とその娘あゆ、弁護士、そしてサヨリである。
 メイドは居るが彼女達がお茶屋遊びよろしく相手をしてくれるタイプの店ではなく単にウェイトレスの制服がメイド服なだけであるので家族連れでもおかしはない。
 ウェイトレスがチアリーダーの格好のレストラン、フーターズという先駆者もある。
 そうはいっても客の多くが青壮年男性である。
 店内は中々盛況で一同が入ったところでちょうど満席になった。
 本来は四人のボックス席だが小柄なあゆとサヨリそして秋月婦人の三人は普通に二人掛けのシートに座れる。
 反対に弁護士は一人半のサイズであゆの父を圧迫している。

「島嶼首相国連邦というと東南アジアでも日系移民の多いところですな、私のお祖父さんがそこの守備隊に居て終戦を迎えたんですよ」
 あゆの父と同世代の弁護士の先生は二人前のWステーキを頬張りながら司令部付き士官だった祖父の思い出話を始める。
「まぁー、祖父は後方の司令部に居た主計だったし現地の日系人が情報や物資を回してくれたそうだし、そもそもあの辺は資源が特に無くて激戦区じゃなかったので命拾いしたそうですよ」
「今は色々地下資源が発見されたそうね、昔から見つかっていたら激戦地だったわね」
 あゆはミルクシチュー定食の箸を休め秋月ラジヲ店舗内から持ち出して来た商品検索をする為の新型iPadを繰りながら話を繋げる。
「外資が資源採掘権狙い、反日系人団体が活発化、内憂外患」
 ビーフシチュー定食を食べながらサヨリはぶつ切り調の喋り方で答える。
「サヨリさん、階級は? 私の祖父は『やりくり中尉』止まりだったそうで」
 弁護士がライスのお替り(無料)をしながら聞く。
「ワラントオフィサー……准尉」
「ほぉー? 今はパイロットはどこの国でも皆少尉以上の士官だそうですが?」
「未成年なので半人前扱い。戦闘任務からは外されている」
「チャイルドソルジャーなっちまうと国際法上もまずいな」
 半人前扱いされて悔しそうなサヨリの表情を汲み取ってフォローを入れる。
「学校はどうしているの? 私と同い年でしょ?」
 あゆが食後のホットコーヒーを啜りながら聞く。
「士官が家庭教師、通信教育併用、去年国際バカロレア試験に受かった」
「すごーい、飛び級3年なんだ」
「パイロットは優秀でないとな」
 あゆの父がわが娘のごとくサヨリを褒める。
「ねぇ? 艦載機は何に乗っているの? 航空母艦なんて無いでしょ?」
 あゆが新型iPadで島嶼首長国連邦の軍事情報を見ながら問う。
「フリゲートに搭載している超小型水上機、フライングフィッシュ」
「ああジェットスキーに羽が生えた感じのものよね? 雑誌で見たことがある」
「コーヒーのお替りはいかがですか?」
 食後も話しこむ一向にメイドが追い出しに掛かってきた。



コミケ82雑感

2012-08-17 23:37:11 | Weblog
今回のコミケで贋札騒動がありましたがこれは現在の一万円札の旧バージョンのホログラムがないものを間違えたようですね。

暑かったけど去年や一昨年よりはマシだったかも。

今秋の映画も控えまどか☆マギカ関係の同人誌多し。
コスプレはまどかよりもほむらの方を多く見かけたような気がする。
日本人、黒髪、肌の露出が少ないのでコスプレ初心者にとって敷居が低いせいか。

いつも初日、東館、壁際に配置されるサークルが今回何故か二日目に配置されたので多少戸惑う声があり。

大きな事故もなく何よりでした。


補足

2012-08-16 23:31:14 | Weblog
拙いWeb小説で申し訳ないです。
描写不足でなんだこれ? なところはおいおい直して行きます。

あゆ達のお店は架空の「秋月ラジヲ」といいますが
実在の秋月電子とは関係ありません。
いずれタイトルの月下の舞姫の月下と絡めたいので月を入れたのです。
秋葉原だし秋も。
素月(そげつ)でも良かったかな? 素子(エレクトロニクス的な“そし”)の素が入っているし。
でも大声で呼ぶ時「素子おおお!」(攻殻ネタ)じゃなかった
「秋月いいい!」の方が「素月ううう!」より力が入りそうだし。

うーん・・・

とにかくまだまだ続きます。

月下の舞姫vol.13

2012-08-15 23:33:40 | Weblog
「そう、大変だったわね」
 何事にも動じないあゆの母が何か他人事っぽく呟く。
ここは秋月家の店舗権住居の入っている秋月ビルの2階で秋月ラジヲ店内奥である。
あゆの母は店番はするがあまり店頭に出ることはなく通販業務や主婦業を中心にしている。
 この店はパソコンパーツショップだが一般的なモノの他にES(エンジニアサンプリング)品を扱っていて知る人ぞ知る店である。
 開店は時間は平日正午から夕方6時までで土日祝は原則休みである。
 客層の半分以上がメーカーの開発者かハイアマチュアなのでそれでいいとして、来れない人は通販でというスタンスだ。
 あゆの肝の座り具合はお母さん譲りだとよく言われるがこんな時は素直に喜べない。
 小柄だがあゆよりは大きく150cm程ある。亜里沙よりは少し小さい。

 高校のエレベーターにふたりして乗り込もうとした時、
「君が居ると話が長くなりそうだからまっすぐ家に帰りなさい」
 と言われたのでその通りにして母に報告したところだ。
 自分の生活圏は徒歩5~10分以内に大体全て揃っている今までありがたさを感じたが同時に何か悪い事があっても常に身近なのかと唖然とした。
 これからどうなるのだろう?
「間が悪いと邪魔になるからこちらからの電話は止めておきましょう」
 母の言うことは解るし自分も家への帰り道そうしてきた。しかし……

「たのもう、ごめん、ください」
 店舗の方から妙な日本語の声が聞こえる。自分の娘の声そっくりで母親はギョッとする。
 あゆ自身は自分の声を客観的に聴く事はないのでピンと来ないが母の珍しく驚いた顔に驚いてしまった。
「はい、少々お待ち下さい」
 奥の倉庫から店舗に向かった母がフィルムの逆回しのように後ずさって戻ってきた。
 これはただ事ではないとあゆが母と入れ違いに店舗に出る。
「……イラッシャイマセ……」
「これえください」
 一目見て思わずあゆも言葉を失う。酒屋、いや今はコンビニになった友人の恵子の家ほどではないが商店の娘として最低限の挨拶は半ば無意識に口を吐く。
 そこにはさっき後姿を見たツナギ服姿の自分そっくりな娘が『秋葉原ガイドブック ウルトラスーパーマニアックス』を手に立っていた。
 自分よりやや目付きがキツい。日本語がネイティブでないのか何なのかしゃべり方がちょっとおかしい。
 不思議と相手はあゆの姿を見ても特に驚いてはいないようで堂々としている。
 それはそれとしてこれくらいマニアックで詳解な本でないとうちの店は紹介されないのか! と一瞬、商店の娘モードになったが冷かしや知識不足のお客さんの相手をしないからよしとする。選択と集中があゆの父の生き方である。

 プリントアウトされた買い物メモを出して部品を買いに来たれっきとした客なのであゆと母は委細かまわず部品カゴを持ってバタバタと走り回って半分ほど揃える。
「ごめんなさいね、後はここには無いか、そもそもどんな部品なのか何なのか主人でないと解らないわ」
「この型番って真空管? 今時無いよそんなの、あとこのワンボードリナックスは他所の店かどっかで見たかな? 若松だったかな?」
 あゆが新型iPadで検索しながら首を傾げる。
「主人とはマスターか? いまどこですであるやいなや?」
「ちょっと用が……またいらっしゃって下さい」
「万障繰り合わせの上、可及的速やかに修理を急ぎられたし」
 旧日本軍の戦争映画みたいな言葉使いに戸惑う秋月母娘である。
「うちは出張修理は原則しないのよ」
「修理はこちらの船の技術士官がする」
「士官? 軍人? あ、その肩のパッチって東南アジアの島嶼首長国連邦の? コスプレじゃなくって本物だったんだ」
 月下の咆哮というミリタリー系ゲーマーのあゆが反応する。
「嘘ではない」
 身分証を差し出すあゆそっくりの少女。
 いつの間にか普通に会話をしているふたりにあゆの母が紅茶とマドレーヌを持ってて時ならぬお茶会が始まった。あゆの母にしても他人には見えなかったのである。
「Sayori Akizuki……? 苗字同じなんだ」
 サヨリの身分証をまじまじと見るあゆとその母。
「島嶼首長国連邦本島の日系人村には珍しくない苗字」
 要はサヨリは島嶼首長国連邦の海軍特別陸戦隊特殊航空班に所属する本物の航空機パイロットだった。
 今東京湾に寄航しているフリゲートに乗って来たが落雷で電装品が一部故障してしまったので技術士官が修理中だそうである。日本語で説明商品のパソコンパーツの買い物が出来るのがサヨリくらいしか乗っていなかったので代表で買いに来たらしい。
 さっき持っていたガイドブックは最初に行ったヨドバシカメラ秋葉原店の2階PC書籍コーナーで買ってきたそうだ。因みにそこの2階PCパーツコーナーでは欲しい物はほとんど無く途方に暮れていた時に通りすがりの外国人に勧められたそうだ。
「何故ヨドバシカメラ秋葉原店?」
「最大の電気街の一番大きな店は何処? とわが国の大使館のに聞いたから」
 その大使はエレクトロニクス関係には疎いようだとあゆは溜息を吐くとPHSが鳴る。
「あ、(弁護士の)先生! どうなりました? え、警察? なんで?」
 PHSをスピーカーモードにしてあゆと母が聞く。サヨリはいつの間にか足元に居た秋月家の飼い猫レインを撫でている。
 弁護士の話によると崇谷家が一致団結し騒ぎ立てているようで取り合えず万世警察署に河岸を移したそうだ。
 崇本人は近所の三次救急(救急救命)の三井記念病院救急外来に搬送された。どこまでも大げさな一家だが刑事は専門外とはいえ弁護士が密着しているのでそう酷い事にはならないとの事である。
「ごめんなさいね、サヨリさん、主人がちょっと……」
 あゆの母が店仕舞いと出かける用意をしている間あゆはさよりに事の顛末を話す。
「わかった、マスター、助けに行こう、日本、外圧に弱い、わが国の大使館の大使に働いてもらう」
「え? 大丈夫なの?」
 だいたい自分と同い年の女の子が軍のパイロットで軍艦の電子部品買いに来た事自体不思議なのにと秋月母娘は思ったが外圧云々はそうなのでそれに賭けてみる事にした。

「いやぁ、酷い目にあったな、まーいい経験か」
「島嶼首相国連邦の大使がなぜ?」
 秋月母娘とサヨリが万世警察署に着くと同時にあゆの父と弁護士が出て来た。来る途中サヨリがどこかに携帯で電話していたが大したものだ。小国とはいえ大使は大使か。
 サヨリが一歩前に出る。
「問おう、貴方がマスターか?」
「ええ、まぁ店主というか社長だけど? 誰? 親戚? こんなあゆと同世代でそっくりな娘居たっけ? まぁいいや近くのメイドレストランにみんなで喰いに行こう、割引券今日までなんだ」

補足

2012-08-14 16:11:26 | Weblog
>「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」
ああそうか、blog判月下の舞姫vol.8で
>二人揃って同じポーズでメタボのお腹を揺らし息が上がっている。
とありますが今回のコミケに出した本では
エレベーター整備中だから10階まで自分の足で歩いて登ってきたから息をきらしている
と加筆したのでした。
だから今回あゆは昨日と違ってエレベーターは使えますよという意味で絶好調と言ったのです。
アップしなおそうか検討します。

それはそうとしてコミケ後、秋葉原の同人誌ショップとか行きましたか?
人が多くて大変でしたよ。それも普段いらしてない方がお盆休みやコミケのついでで来たので
勝手がわからず右往左往してしまって混雑に拍車を掛けています。
月下の舞姫/ZEROに書いた夏コミの頃エレベーターにトイレの芳香剤は今年はというか近年は見ていないような気がしますがどこかでやっているのでしょうか?
90年代後半、まだ同人ショップが珍しかった頃は確かにあったんですがやはり苦情が有ったのでしょうかね?

月下の舞姫vol.12

2012-08-14 15:59:01 | Weblog
「ネットは広大だが世間は狭いですな」
 思わずあゆの父が呻く。
 高校の職員室隣の会議室には教職員にあゆとあゆの父、男子生徒とその母親、そして何とした事か先日あゆ達の店舗権住居の入っているビルの前で騒いでいた初老の男が居た。男子生徒の母方の祖父だという。
 会議室の机の配置はカタカナのロの字型で窓際に男子生徒側、廊下側に秋月父娘、それ以外に教職員がふたりずつ計4人。教頭、正副担任と事務方らしき人。

(やはり弁護士さん連れてくれば良かったか?)
 幸先の悪い再会が先触れだったかのように合同三者面談は荒れる。
 先ず男子生徒の母は息子の振り回したペン型ナイフはペーパーナイフであり凶器ではないと主張する。
「この子は不器用なんですよ、なのに学校は乱丁落丁の教材ばかり寄越して」
 男子生徒の祖父は退職金でメード喫茶を起業をしいずれ孫を店長に云々。
「この親子に私の老後の人生設計が狂わされ今また孫が前科者にされようとしている」
 肝心の男子生徒本人、たかちゃんと家族に呼ばれている崇谷崇(タカタニ タカシ)は終始うつむいたままブツブツと何か言っているがよく聞き取れないのであゆの父は無視というか気にしないことにした。
「まず教材の乱丁落丁ですが私も娘からも聞きましたが入学式の後に渡された一部の問題集がそうだったようですね。でも1種類だけでは?」
「ひとつ発見したら30は! というじゃないですか!」
 崇の母が声をあげる。ゴキブリかよと呆れながらあゆの父はシステム手帳からプラ製の栞を抜き出してヒラヒラさせながら答える。
「羹に懲りて膾を吹くことはないですよ、定規で十分」
「わしらの頃は皆、小刀で鉛筆を削り、」
 崇の祖父がいきり立つ。
「時代が違いますし、そもそも女の子に手を上げた事が」
「そもそもあんたが悪徳不動産業者じゃないか!」
「先日のそれはこの件とは関係ないですよ。因みにうちは貸主で、ああ、あの不動産屋は私の父の登山友達だけあって山師っぽいところがありましてねぇ」
 教職員は特に教頭はただ黙って事の成り行きを見守っている。
(笑えよ、ここは笑いどころだぞ)
どっしりとした態度か漫然とした態度かの判断は分かれるところだ。
「崇谷君、私が授業中思わず大声出してしまったのが気に障ったのならその場ではっきり言えばいい。後からわざとぶつかってくるなんて卑怯よ、おまけにくだらないこの茶番は、」
 それまで俯いていた崇谷崇があゆの突然の発言も途中で激昂して立ち上がり教頭の後ろを通って秋月父娘に迫る。教頭はポカンとしている。
(これくらいでフリーズかよ、Windows Meの方がマシだぞ)
 最初からさして教職員を当てにしていなかった秋月父娘はさして驚かない。いわゆる想定の範囲内というやつだ。
「たかちゃんダメよ!」
 流石に母親は素早く反応するが声だけであたかも躾の悪い犬と飼い主のようである。
 あゆの父はこの会議室に着席してから盾になる自分のアタッシュケースをさり気なく机の上に置き不測の事態に備えていた。またシステム手帳を取り出した時に何かの役に立つかもと色々中身を出して置いておいた。
 その中には左上をA4、5枚をホッチキス留めしてある書類があったのでまたプリントアウトすればいいと思い、突進して来る崇の足元に放ってやる。不発に備えアタッシュケースのキャリングハンドルも掴む。 
 崇はモロに書類を踏みズルリと滑って転んだ。書類の束を踏むと紙同士は滑る反面、床と接した面と靴で踏まれた面はそれ程滑らないという差異の為に思いの外ツルリと派手に転んでしまう。ホッチキス留めした書類の束ではそれが最大限発揮される。
 すなわちコミケ会場のコピー誌は凶器である。
 崇が転びつつも勢のよく慣性の法則に従いこちらの方に突っ込んでくるのでアタッシュケースで最終ブロックする。母親の悲鳴が会議室に響く。
「いい声だ、オペラ歌手になれるぜ」
 振り向けば隣の椅子には娘のあゆが座っている筈だが居ない。鞄もない。
 あゆは何かあったら振り向かず素早く逃げろと言ってあった父の指示を守り、崇が教頭の薄くなった後頭部の頭髪をカンニングよろしく見たであろう頃には席を立ち、アタッシュケースにタッチダウン後初めて呻いた頃には階段をダッシュで下っていた。
「こら、廊下いや階段を走るな!」
「すみません、父が大変なんです」
 嘘ではない。事情を知らない先生の叱責を尻目にあゆは高校の入っているビルの外に出て念の為周辺を警戒しながら昨日の弁護士の先生に電話する。仕事中らしかったがこちらに来てくれるというのであゆは一安心する。

「午後の授業どうしよう?」
 やれやれとばかりにあゆはコーヒーの自販機に歩み寄ると先客が居た。自分と同じ背丈、黒髪長髪。自分の後姿を見ているようでギョッとする。ただ服装は自分は着ないようなツナギ服のようだ。よもや暴走族でもあるまいがあゆはそっと近寄った。
 その自販機は最近流行の前面がほとんど全て一枚の大型タッチパネル付きディスプレイで商品見本さえモニタに映し出された画像である。しかもそれは秋葉原らしく完全キャッシュレスタイプでsuicaのような電子マネーカードやおサイフケータイでなければ水ひとつ買えない。
 その先客は使い方が解らないのかリアル小銭入れを握り締めてコイン投入口を丹念に探しているようだった。何やら呟いているが日本語でも英語でもない。しかどこかで聞いたような気がする言語だった。
 先客に声を掛けようとしたその時、救急車のサイレンが聞こえて来た。
「崇谷君? 大事に?」
「(弁護士の)先生! 今何処ですか?」
 あゆはPHSをリダイヤルして大声を上げてしまった。
「「今着きました」」
 声がダブる。振り向くと携帯電話を握り締めた弁護士がやっぱりメタボのお腹を揺らしながら息を切らせていた。
「毎日運動して死ぬほど健康になりそうですよハァハァ」
 あゆは弁護士の手を掴んで高校に向けて走り出す。重い。
 ふとさっきの自販機を見ると自分と似た先客はもう居なかった。あゆは死期が近い人物がドッペルゲンガーを見るという事を思い出したが顔は見ていないからセーフと思うことにして再び弁護士を掴んだ手に力を入れた。重い。
「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」

月下の舞姫/ZEROとは?

2012-08-13 22:53:38 | Weblog
月下の舞姫本編の少し前の話です。
初出は去年の冬コミに発行した本です。
今回の新刊の巻末にも併録しました。

本編が4月上旬、新学期が始まって直ぐで桜も満開は過ぎて散り始めたけれど
まだ残っている時期です。
対してZEROはその前の月の下旬で10日くらい前ですね。
今回の冬コミではblog連載の加筆修正版でZERO版でニアミスした二人がようやく正式に出会うところまで書きました。
本編の方もまた明日から進めたいと思います。

月下の舞姫/ZERO

2012-08-13 00:42:08 | Weblog
in秋葉原

三月下旬は東京秋葉原電気街にとって書入れ時である。
 進学就職の節目で家電、パソコン、携帯電話がよく売れる。
 新たに上京した学生や社会人が地方には無いヲタク系アキバ系の商品を持ちきれない程買い込み難儀している姿も珍しくない。

「これからはクラウドだよな」
「なに? お父さん」
 
もともと秋葉原はこの不況下でも比較的活気のある街である。
 その主力商品は家電、パソコン、ヲタク向けコンテンツと移ろいはあり、また現状には色々賛否はある。
 しかしながらシャッターを下ろした商店ばかりが目立ち人が入っているのはコンビニか地元商店街の仇の大規模スーパーくらいのいわゆるシャッター商店街から見れば雲の上の存在である。

「知らんのか? クラウドとは……」
「そうじゃなくって! うちで扱っている商品とは関係ないって事よ」

 身長142cmのスリム体型、黒髪長髪の少女あゆは来月から地元の高校に進学が決まっているが未だに小学生とよく間違われる。概ね小学4年生女児の平均体格と同じなのだから無理はない。
 あゆと両親の住まいは秋葉原にある持ちビルのワンフロアで直下の別フロアは父が店主のパソコンパーツショップである。

 ちなみにクラウドとは端的に言ってデータを手元のパソコンや携帯電話に置かずネットワーク上のサーバなどに上げて置き利便性を図るシステムである。

「今度クラウド関係の訪問家庭教師をするんだよ、それ系の苦手な経営者相手に。あゆも来なさい」
「えええ、またマウスのダブルクリックから教えるの?」
「そういやな顔をするな経営者に対する営業の一環だよ」
「うん」
「『心を開かなければパソコンは動かないわ』くらい言ったらいい」
「暴走しそうね」

「それはそうとこの9.5㎜厚薄型ブルーレイディスクドライブの書き込み速度まだ解らないの?」
『スペック不明、デバイスドライバ無(win標準で×)、質問不可』と書かれた普通のショップではありえない、秋葉原でもジャンクショップ以外では珍しいコメント付きの値札を左手でピラピラさせ右手で極細サインペンをくるくる回しながら店内で店長の父親に迫る。
「俺のパソコンでも認識しないからな」
「壊れてんじゃないの?」
「いや工場のパソコンでは動いていたからな。まぁ誰かお客さんが解析してくれるよ」
 あゆの家のパーツショップはちょっと特殊で普通のパーツも勿論有るがES品(エンジニアサンプリング)を積極的に取り扱っている。文字通り一般的な量産品を作る前の一種の試作品なので親切な説明書は無く不具合があっても不思議ではない。

 Windows XP以降は標準ドライバでどんなものでも概ね認識して使えないことはないが一般のパーツショップは説明が大変だしクレームを恐れ置きたがらない。
 主なお客さんはどこかのメーカーのエンジニアやハイアマチュアが多く、新商品をいち早く研究する為に高額で不安定なモノを嬉々として買っていく。

 数日後「やったよ! 解析完了!」とか言いながら来店し自作のドライバや説明書、裏技集をドヤ顔で置いていく。itの権化とも言えるような種類の人種でありながらメールで済ませる人は居ない。
 精根尽き果てたのか、どうかするとその場でばったり倒れ救急車を呼んだことも一度や二度ではない。

 そんな彼らに店長は労いの言葉こそ贈れ全く無報酬である。精々あゆがウォーターサーバーから水を汲んで出すくらいである。
 誰が何を解析したかが壁やショップHPに張り出されているがペンネームというか解析ネームなので社会的にも評価を受けるわけではない全くの自己満足である。

「うちの解析マニアのお客さん達って飲まず食わず眠らずの漫画家みたいだよね」
「ありがたいことだよ」
「たまに臭い人が居るよ……」
「超高性能空気清浄機のES品探すよ同人ショップでも売れそうだな」
「夏になると電気街雑居ビルのエレベーターにトイレの芳香剤が置かれるよね、あれ失礼だよ! せめて目立たないようにレースで包むとかさ」
「昔は夏コミ帰りの特にキツい客に消臭スプレー直噴サービスとかしてたショップもあったよwin95の頃かな?」
「さー……びす?」
「片手に消臭スプレー、片手に冷却スプレーの有無を言わさぬ店頭W噴射! あの頃に比べると無茶苦茶な店は減ったよ接客態度が向上したというか」
 店の奥であゆの母親の爆笑する声が響く。主に家事や通販中心であまり店には出ない。小柄だがあゆ程ではない。

「私の生まれる前の秋葉原ってまるで戦場?」
 母親が淹れてくれた紅茶とお茶菓子のマドレーヌで誰も居ない店内で休憩しながらあゆは両親に尋ねる。
「ここ秋葉原は太平洋戦争復員兵が露天でラジヲを売っていた頃からずっと戦場だ。いや戦争は終わっていない、今でもだ」
 つけっぱなしのTVからどこかの紛争地帯の映像が流れる。
 何か叫びながら担架を搬送する衛生兵達、最後尾で背後を振り返りながら乱射する少年兵の画像に母親が顔を顰める。
「この映像はヤラセだな、撃ったら目立つよ黙って運べってんだ」
 父親がフォローを入れる。

「解釈にもよるけど現代の紛争の多くはその源泉を第二次世界大戦に見出すことが出来る。」
「うん、社会で先生も言っていたかな?」
「僕が子供の頃、あゆのお祖父さんがラジオ会館内でパーツショップをやっていてよく手伝いに行ったが別のショップで大量に買い込むロシア人のおじさんと知り合いになった」
「お父さんが子供の頃って米ソの冷戦期でしょ? それってスパイ?」
「正当な買い付けだよ、お祖父さん達は日ソ不可侵条約破棄を見た世代だから売らなかったりしたけどねそのロシア人のおじさんは自国の為にと真摯に頑張っていたよ、露助とか誹謗中傷されてもね」
 そのひたむきさに大人のかっこよさを見出しちょっと憧れていたであろう少年の日の父親にあゆは思いを馳せる。

「今、熱心なのは台湾やタイの人かな?」
 あゆはお店の常連さんを思い浮かべながらマドレーヌを紅茶に浸して食べる。何か昔のアニメのヒロインがやっていたのを父が気に入り娘に勧めたとかお客さんから聞いたが美味しいので別に気にしない。飼い猫の名がレインなのと関係有るとか。
「インドも頑張るな。カースト制の作られた時代に無かったit系は制度のしがらみの外なんで人気があるそうだ」

 秋葉原のトンデモ店員の話がいつの間にか現実の話になったがこの家庭ではよくある事である。ちょっとヲタク趣味があるが話題が豊富で娘の話でも耳を傾けてくれる父親をあゆは慕いよく店を手伝っている。

 あゆが来月から進学する都立秋葉原高等学校は秋葉原駅の近くにある単位制三部制の高校である。
 午前午後夜間の何れかのコースを取りバイキング料理のように好きな授業(必修授業もある)を一日4時限授業を受ければ最短4年で卒業できる。3年で卒業したかったら別の時間帯のコースの授業を追加で受ければいい。

 あゆは昼間部を取った。午前中は家の家事や開店前の用意をして昼から高校に行き夕方からまた家業を手伝うつもりである。その後の進路はまだ考えていない15歳である。

 オタク会館状態を経て今は建て替え中のラジオ会館で商売をしていたあゆの祖父はその進路に正直いい顔をしていない。
「娘を勤労学生にしなければならない程商売が上手くいかないのか?」
 今はパーツショップを息子に託し、引退後は念願だった晴耕雨読をする祖父母にこっち(鎌倉)に来いと言われたが都会育ちでなんだかんだと言っても父に感化されヲタク趣味のあゆにとっては秋葉原は離れ難く
休みの日に訪ねるに留めておいている。

 ヲタク趣味といってもあゆの場合は漫画や小説を読むくらいだったが中学生になってからは父親に連れて行ってもらったゲームセンターのフライトシミュレーションゲームが気に入り今では一端のエースパイロットである。

「ゲーセン、リニューアルしたそうだしちょっと飛んでくる」
「遅くならないでよ」
 母親が母親らしい事を言う。
「僕は常連の解析マニアにメールを出すか、このままじゃやっぱり困る」
 不思議な店よねと思いながらあゆは自宅兼職場のビルを出る。
 そのビルの一階は貸し店舗なのだがこの数ヶ月埋まらない。何か入っても長続きがしない。なにしろ秋葉原電気街としては辺鄙な場所にある。
 
 秋葉原電気街に秋葉原という地名は無い。
 JR秋葉原駅から銀座線末広町駅までのいわゆる秋葉原電気街と呼ばれるところは住所的には東京都千代田区外神田の一角である。
 
 秋葉原という地名は電気街の外れにある東京都台東区にある一角でほとんど商店はなくましてやアキバ系ショップは無い。

 あゆ達が住むビルのある場所はまさにその秋葉原である。
 
そんな場所であゆの父親が商売をやっていけるのは独自ルートで仕入れているES品とネットを通じた全世界展開、そしてパソコン家庭教師派遣業のおかげである。
 あゆの祖父が現役だった昔はこのビルは住居兼倉庫として使われ大型白物家電店の事務所としても貸していた。

 あゆはこのちょっと寂れてでもちょっと歩くと賑やかなここが大好きである。


 騒々しいJR線高架を潜り抜け中央通りに出てJR秋葉原駅方面に向かい歩くと外国の軍人の集団が買い物をしていた。海軍の艦艇が東京湾に入るとよく見受けられる光景だ。

 家電量販店が誰彼かまわず呼び込みをしている。最近は数ヶ国語に対応できるようだ。
 あの軍服は何処の国だろうかと思いながらあゆは駅の近くの大型ゲームセンターに入る。

 あゆがやるフライトシミュレーションは『月下の咆哮』という三軸回転するカプセル型の操縦席の中に入り操縦するリアルなタイプである。
 宙返りをすれば本当にカプセルが360度回転しカプセル内のモニタの情景もそれに追従する。

 人が中に入りグルグル回る大型筐体という事もあり常時ゲームセンターのスタッフが付いていなければならないので一回500円と高額なプレイ代金は安くなる事はない。家業の手伝いとはいえちゃんと労賃を貰っいるあゆだからこそ通えるとも言える。

 4点支持ベルトでガッチリ身体を固定しなければ起動もしない。
 個人の設定などが入った専用USBメモリを刺しコインを入れると画面上にあゆの乗機のスウェーデン製サーブJAS-39グリペンNGが現れる。
 ゲーム内のあゆのコールサインは「サラマンダー」で機体にも火喰蜥蜴が描かれている。

「ん、17時かソロ狩モードでいいや」
 中学生以下はゲームセンターでは18時になると追い出されてしまう。
 来月から高校生とはいえ今はまだ中学生のあゆには時間が無い。
 月下の咆哮には色々なゲームモードがあるがネットワーク上の空戦域で誰かと一騎討ちするのを通称ソロ狩と言う。誰もログインしていなければ自動的に対コンピュータ戦になる。

「これで5機目、ありがたみの無いエースね……」
 大型筐体という事もあり地方ではあまり月下の咆哮は置かれていないのでおそらくは上京組みの初陣であろうとあゆは推測する。
 次々にログインした敵機がうろうろしてはあゆに撃墜される。どうも同一人物が何度もコンテニューしているのかムキになってあゆと再戦するがまったく歯が立たない。
 逆上してリアルファイトに持ち込まれたら困るので同一人物を7回撃墜したところであゆはログオフして慎重にカプセルから出る。
 ネットワーク上の戦いなので必ずしも同じゲームセンター内に相手が居るとは限らないがここは秋葉原なので一番遭遇率が高い。
 ストリートファイターⅡの時代からゲーセンリアルファイト事件があったとあゆは父親から伝え聞く。
「おまえにコンテニューだ!」と叫ぶのかと想像し思わずニヤける。
「ん、余裕がある、大丈夫」

 あゆがカプセルから出るとふたつとなりのカプセルのハッチがのっそりと開く。
 フロワ内のモニタで観戦していた先ほどすれ違った軍人と同じ制服の一団がカプセルに殺到してプレイヤーを口々に責める。観戦武官が多いのとプレイヤーが小柄なのか何なのか相手の姿が全く見えない。

 英語でも勿論、日本語でもないので、あゆには内容は解らないがこれはかなりマジで熱くなっていると理解できた。

 相手のプレイヤーはもしかしてパイロットだったのだろうか?
 リアル系フライトシミュレーションとは言えやっぱりゲームなのでゲームシステムに慣れていなければ本職の戦闘機パイロットといえども勝てない。
 ましてや現代は機関砲で撃ち合う接近戦の訓練はあまりやらない。
 現代においてはゲームのようなドックファイトはニアミスの一種で事故のようなものだという認識が軍にはある。

 軍人の誰かが目ざとくあゆを指差し何か叫ぶ。「さらまんだ」と聞き取れなくも無い。
 マズイ! あゆは冷や汗を流す。カプセルにプレイヤーのコールサインが表示されるわけではない。モニタ上に対戦相手のコールサインが表示されるくらいだ。
 折りしも他のプレイヤーが居ないので彼らは確信を持ったようでネットワークがどうのと言っても通じないと思われた。
 あゆは生まれた時から身体が小さいので心配した父親は祖父の反対を押し切って護身術の道場に通わせていた。これまでも役に立った局面はあるがせいぜいクラスの乱暴者相手なのでこれまでとはまったく状況が違う。

 月下の咆哮は必ずゲーセンスタッフが居るはずなのにこんな時に限って居ない! あゆはポケットの中の防犯ブザーに手を掛ける。
 「とにかく人を呼ぶ! 火事だと叫ぶほうが人は来るかな?」
 自分に方針を言い聞かせていると不意にフロアの照明が非常灯以外落ちて暗くなる。
 印象を良くする為に普段は眩しいくらい明るいので暗闇に目が慣れないうちは動けない。

 軍人の一団はパニックを起こしている。本当に軍人か? コスプレじゃないのか? と思いながらあゆは勝手知ったるホームグラウンドの地の利を活かし脱出する。

 フロアから出て階段を下っていると背後から外国語の女の子の声があゆの耳に届く
「あの場に女の子は居なかったような気がするけど?」
 言葉は通じないがパニックを起こしているというよりはそれを諌めている感じに聞こえたのであゆは振り向かなかった。

 いつも月下の咆哮の傍に眠たそうに居るスタッフとすれ違う。あゆを見てニヤッと嗤う。
「電源を落としてくれたの?」とは聞かずとにかく脱出した。
「ああもう暫く来れないや、あの軍人達いつまで日本にいるのだろう?」

 三月下旬の東京秋葉原はまだ寒い。