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秋風

アキバ系評論・創作

補足

2012-08-14 16:11:26 | Weblog
>「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」
ああそうか、blog判月下の舞姫vol.8で
>二人揃って同じポーズでメタボのお腹を揺らし息が上がっている。
とありますが今回のコミケに出した本では
エレベーター整備中だから10階まで自分の足で歩いて登ってきたから息をきらしている
と加筆したのでした。
だから今回あゆは昨日と違ってエレベーターは使えますよという意味で絶好調と言ったのです。
アップしなおそうか検討します。

それはそうとしてコミケ後、秋葉原の同人誌ショップとか行きましたか?
人が多くて大変でしたよ。それも普段いらしてない方がお盆休みやコミケのついでで来たので
勝手がわからず右往左往してしまって混雑に拍車を掛けています。
月下の舞姫/ZEROに書いた夏コミの頃エレベーターにトイレの芳香剤は今年はというか近年は見ていないような気がしますがどこかでやっているのでしょうか?
90年代後半、まだ同人ショップが珍しかった頃は確かにあったんですがやはり苦情が有ったのでしょうかね?

月下の舞姫vol.12

2012-08-14 15:59:01 | Weblog
「ネットは広大だが世間は狭いですな」
 思わずあゆの父が呻く。
 高校の職員室隣の会議室には教職員にあゆとあゆの父、男子生徒とその母親、そして何とした事か先日あゆ達の店舗権住居の入っているビルの前で騒いでいた初老の男が居た。男子生徒の母方の祖父だという。
 会議室の机の配置はカタカナのロの字型で窓際に男子生徒側、廊下側に秋月父娘、それ以外に教職員がふたりずつ計4人。教頭、正副担任と事務方らしき人。

(やはり弁護士さん連れてくれば良かったか?)
 幸先の悪い再会が先触れだったかのように合同三者面談は荒れる。
 先ず男子生徒の母は息子の振り回したペン型ナイフはペーパーナイフであり凶器ではないと主張する。
「この子は不器用なんですよ、なのに学校は乱丁落丁の教材ばかり寄越して」
 男子生徒の祖父は退職金でメード喫茶を起業をしいずれ孫を店長に云々。
「この親子に私の老後の人生設計が狂わされ今また孫が前科者にされようとしている」
 肝心の男子生徒本人、たかちゃんと家族に呼ばれている崇谷崇(タカタニ タカシ)は終始うつむいたままブツブツと何か言っているがよく聞き取れないのであゆの父は無視というか気にしないことにした。
「まず教材の乱丁落丁ですが私も娘からも聞きましたが入学式の後に渡された一部の問題集がそうだったようですね。でも1種類だけでは?」
「ひとつ発見したら30は! というじゃないですか!」
 崇の母が声をあげる。ゴキブリかよと呆れながらあゆの父はシステム手帳からプラ製の栞を抜き出してヒラヒラさせながら答える。
「羹に懲りて膾を吹くことはないですよ、定規で十分」
「わしらの頃は皆、小刀で鉛筆を削り、」
 崇の祖父がいきり立つ。
「時代が違いますし、そもそも女の子に手を上げた事が」
「そもそもあんたが悪徳不動産業者じゃないか!」
「先日のそれはこの件とは関係ないですよ。因みにうちは貸主で、ああ、あの不動産屋は私の父の登山友達だけあって山師っぽいところがありましてねぇ」
 教職員は特に教頭はただ黙って事の成り行きを見守っている。
(笑えよ、ここは笑いどころだぞ)
どっしりとした態度か漫然とした態度かの判断は分かれるところだ。
「崇谷君、私が授業中思わず大声出してしまったのが気に障ったのならその場ではっきり言えばいい。後からわざとぶつかってくるなんて卑怯よ、おまけにくだらないこの茶番は、」
 それまで俯いていた崇谷崇があゆの突然の発言も途中で激昂して立ち上がり教頭の後ろを通って秋月父娘に迫る。教頭はポカンとしている。
(これくらいでフリーズかよ、Windows Meの方がマシだぞ)
 最初からさして教職員を当てにしていなかった秋月父娘はさして驚かない。いわゆる想定の範囲内というやつだ。
「たかちゃんダメよ!」
 流石に母親は素早く反応するが声だけであたかも躾の悪い犬と飼い主のようである。
 あゆの父はこの会議室に着席してから盾になる自分のアタッシュケースをさり気なく机の上に置き不測の事態に備えていた。またシステム手帳を取り出した時に何かの役に立つかもと色々中身を出して置いておいた。
 その中には左上をA4、5枚をホッチキス留めしてある書類があったのでまたプリントアウトすればいいと思い、突進して来る崇の足元に放ってやる。不発に備えアタッシュケースのキャリングハンドルも掴む。 
 崇はモロに書類を踏みズルリと滑って転んだ。書類の束を踏むと紙同士は滑る反面、床と接した面と靴で踏まれた面はそれ程滑らないという差異の為に思いの外ツルリと派手に転んでしまう。ホッチキス留めした書類の束ではそれが最大限発揮される。
 すなわちコミケ会場のコピー誌は凶器である。
 崇が転びつつも勢のよく慣性の法則に従いこちらの方に突っ込んでくるのでアタッシュケースで最終ブロックする。母親の悲鳴が会議室に響く。
「いい声だ、オペラ歌手になれるぜ」
 振り向けば隣の椅子には娘のあゆが座っている筈だが居ない。鞄もない。
 あゆは何かあったら振り向かず素早く逃げろと言ってあった父の指示を守り、崇が教頭の薄くなった後頭部の頭髪をカンニングよろしく見たであろう頃には席を立ち、アタッシュケースにタッチダウン後初めて呻いた頃には階段をダッシュで下っていた。
「こら、廊下いや階段を走るな!」
「すみません、父が大変なんです」
 嘘ではない。事情を知らない先生の叱責を尻目にあゆは高校の入っているビルの外に出て念の為周辺を警戒しながら昨日の弁護士の先生に電話する。仕事中らしかったがこちらに来てくれるというのであゆは一安心する。

「午後の授業どうしよう?」
 やれやれとばかりにあゆはコーヒーの自販機に歩み寄ると先客が居た。自分と同じ背丈、黒髪長髪。自分の後姿を見ているようでギョッとする。ただ服装は自分は着ないようなツナギ服のようだ。よもや暴走族でもあるまいがあゆはそっと近寄った。
 その自販機は最近流行の前面がほとんど全て一枚の大型タッチパネル付きディスプレイで商品見本さえモニタに映し出された画像である。しかもそれは秋葉原らしく完全キャッシュレスタイプでsuicaのような電子マネーカードやおサイフケータイでなければ水ひとつ買えない。
 その先客は使い方が解らないのかリアル小銭入れを握り締めてコイン投入口を丹念に探しているようだった。何やら呟いているが日本語でも英語でもない。しかどこかで聞いたような気がする言語だった。
 先客に声を掛けようとしたその時、救急車のサイレンが聞こえて来た。
「崇谷君? 大事に?」
「(弁護士の)先生! 今何処ですか?」
 あゆはPHSをリダイヤルして大声を上げてしまった。
「「今着きました」」
 声がダブる。振り向くと携帯電話を握り締めた弁護士がやっぱりメタボのお腹を揺らしながら息を切らせていた。
「毎日運動して死ぬほど健康になりそうですよハァハァ」
 あゆは弁護士の手を掴んで高校に向けて走り出す。重い。
 ふとさっきの自販機を見ると自分と似た先客はもう居なかった。あゆは死期が近い人物がドッペルゲンガーを見るという事を思い出したが顔は見ていないからセーフと思うことにして再び弁護士を掴んだ手に力を入れた。重い。
「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」