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秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.15

2012-08-21 01:09:25 | Weblog
「ふたりは先にお風呂に入りなさい、父さんはもう少し部品について調べるから」
「はい、サヨリこっちよ」
「お風呂借りる、です」
あゆとサヨリは秋月家の風呂場に入って行く。
あゆの母も後を追い洗濯乾燥機にサヨリの服を入れさせる。どこかに泊まる予定はなかったので着替えがないためだ。

「外泊証明書にサインねぇ……外人部隊への入隊志願書じゃないだろうな?」
あゆの父は店舗のパソコン前で一枚の書類を眺めながら思わず航空アクション漫画のエリア88を思い出す。
話の流れで秋月家に泊まる事になったサヨリは鞄から外泊証明書を取り出しホスト側(宿泊先)の住所電話番号そして主のサインを求めた。日本式ではないので捺印箇所はないが小さい文字で色々書いてある。
あゆの父はスキャナでその書類を取り込み電子メールに添付して仕事仲間で英語がとても堪能な友人に送り同時に携帯電話で直ぐに見てくれるよう即した。
「ああなんの問題もないよ、『我が国の騎士に格別なる取り計らいを』云々の言い回しが古臭くて厳めしいから構えてしまうよな。しかし騎士とはw王政じゃないいだろ? 島諸なんとかは」
「そうかありがとう、娘とそっくりなんだがやはり他所様の子だしな」
通話を終えサインをしていると妻が無言で近づきあたりを窺うように小声で話始めた。
「あなた、サヨリちゃんの服を全部洗濯乾燥機に入れさせたのだけど」
「セクシーな下着でビックリか?」
「あなた、真面目に聞いてください、その、ピストルがポケットに、本物だって」
「軍人だしな、でも外交官でもないのに港の税関どうしたんだろうな?」
「大使館の方が秋葉原は物騒だからと貸してくれたそうですよ」
「……まぁ……親心ってやつだよ。さっきサヨリちゃんと大使にお礼の電話入れたが何か凄いお爺さんだったよ。大使って定年とか無いのかな」
「それと……これを見て」
あゆの母が新型iPadを差し出す。
そこにはM4カービンを手にした小柄な女性兵士が地面にうつ伏せに伏せさせられた男達に銃を向けている画像があった。
その画像は2chまとめサイトで『実写版ガンスリンガーガール』と銘打たれ面白おかしく取りざたされていた。
内容は要するに島諸首相国連邦の海賊取り締まりの画像の中に少女兵士が写っていて人権団体が騒いだが結局小柄な部族の成人女性だったという事で落ち着いた件である。どこかのジャーナリストが恥をかいたらしい。
確かに複数写っている女性兵士は相対的に顔が小さく小柄な大人であるとわかる。ただ一枚どうしてもサヨリの後ろ姿にしか見えないひとりが気になった。その女性の顔の分かる他の写真は無くなんとも言えないのがもどかしい。

風呂場の方から女の子のあゆの悲鳴が響くと母はダッシュでそちらに向かう。
「どうしたの?!」
母にしては荒々しい声、荒々しいドアの開け方にびっくりするあゆ。
「サヨリったら最後に水を浴びるんだもの! まだ水浴びには寒いよ」
「いつもの習慣、肌も引き締まる」
「そう? 私もやろうかな? お母さんも」
「普段から鍛えていないと風邪引くわよ」
あゆの母はバスタオルでサヨリを拭いてあげる。見た目は自分の娘と同じだがよく引き締まった筋肉質に驚く。
「おーい、どうした?」
「やだ、お父さん覗かないでよ!」