柚子のがらくた箱

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☆ 天地明察 ☆

2011年02月06日 | 

                       天 地 明 察              

                         著者    冲 方  丁   様

 

                 P 85

   

  『 自分は何の事やら分かりません 』

    無理に会津弁を江戸弁に直したような口調で、自分はなんにもしていない、という返事をする。

   これも会津藩士の律儀さだった。刀の差し方が乱れているというのは恥ずかしいことである。

   だがそれを帯刀の経験がない春海に言うのは可哀想だ。しかし見て見ぬふりはできない。

   誰かが教えてやらねばならない。だが春海の歳で、わざわざ教えられるのも恥となる。

   だから手助けしつつも、最初から何も見なかったことにする。  

 

                 P 207

 

   この二人の老人にとって研鑽のためなら三十も年下の若者に

   頭を垂れることなど苦にも何でもないらしい。それどころか、

   『 だいたいにして若い師というのは実によろしい 』 

   『 ええ、ええ。教えの途中で、ぽっくり逝かれてしまうということがありませんから 』

   などと喜び合うのだった。