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あたし好きなもんは好きだし、強引に諦める術も知らない

特集ドラマ 『喧噪の街、静かな海』

2016-07-27 22:27:08 | テレビ
7月17日放送、特集ドラマ『喧噪の街、静かな海』のネタバレ感想です。

 

『喧噪の街』という地獄、『静かな海』という天国で。
だれもが必死に生きている。






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■地回り先生


──今会いたい。
──ご飯食べよ。
──今晩泊めて。


久保田紗友さん演じるクロのけだるいナレーションで、物語は始まります。


大阪の夜の街角。
JKビジネスに携わる少女たちに話しかける初老の男。
「行き場のない子どもたちの受け皿に」
そのボランティアを続ける“地回り先生”。

地回り先生の名前は海老沢淳(演:寺尾聰)
大阪で『戎クリニック』を経営する精神科医です。
声掛けボランティアを続ける中、ある経緯で別れた妻と息子への悔恨を抱えて生きていました。

その敦に声をかけたのが水無月進(演:ディーン・フジオカ)。
街で倒れている敦を助けたとき見つけた名刺に何か勘付きます。



敦の手当のために、戎クリニックを訪れた進。
そこで自らが風景写真を撮るカメラマンであると明かし、敦に名刺を手渡します。

名刺のやり取り。
なんてことのない場面ですが、2人が名刺を見つめる仕草で
「ああ、今気づいたな」と。

敦と進の関係は公式のあらすじで『父と息子』であることが明かされていますが。
2人とも半信半疑のまま、名刺と向かいにある顔を他人行儀に見ているのが印象的でした。
敦と進の心理的距離でしょうか。



敦の専門は児童精神医学。
医学部を卒業するも医師にはならず、別の仕事をしていたと明かします。
しかし「あること」が契機となって、精神科医になったと話しました。


敦は進に「写真を撮らせてくれ」と提案します。
ずっと風景写真だったけれど「あなたを撮りたい」と。





敦は、進の真意に気づいたかのようにゆっくり頷きました。

──30数年ぶりの親子の再会。
──彼はなぜ父に会いに来たのか?
──ふたりはもういちど本当の親子に戻れるのか?
──心の真実に迫る物語が、いま動き始める。




■クロという少女


冒頭のナレーションで登場したのがクロという少女。(演:久保田紗友)



大阪という街で行き場のない悩みを抱え、街を孤独にさまよう女子高生。
彼女に声をかけて目にかけていたのが敦でした。

そんなクロは17歳の誕生日。
誕生日会をやろう、ということになり、敦は知り合いの春日レイ子(演:キムラ緑子)が運営するNPO施設『あすなろハウス』に招きます。

が……


「人と話しているときはスマホはやめよか」

レイ子はクロに注意をするのですが、クロは聞く耳を持ちません。

それもそのはず、食卓に並んでいるのは椎茸や高野豆腐。

「大人になって好きになれてるのは子どものときに食べていたからや」

クロは母の味を知りません。
好きになれるはずがない。


「こりゃケーキまで辿りつきそうにないな」と敦はぼやきます。

ケーキ、それは誕生日の特別のもの。
17歳という年齢を考えれば、家族で祝うもの。
生まれてきた喜びをお互いに笑いあう日。

ですが、今のクロからその日にたどり着くには大きな障害がありました。

クロの母親は鬱病を患い、寝込みがち。
このまま放っておいたらクロも同じ道を歩んでしまう。
暗闇にひきづられてしまう。
敦はそんな思いでクロに目をかけていたのでした。




居心地の悪さからあすなろハウスを飛び出したクロ。
クロをレイコが追いかけて呼び止めます。

「給食の味なら知ってるはずや」

家の思い出がないのなら、学校の思い出を、と。
渡したのは揚げパン。


「悪いのは大人や。もっと自分を大事にせんと」

体を売るようなことはするな、そんなことはするな。
レイコの強い言葉がクロの背中に刺さります。



■不幸の手紙




ところで進は、大坂滞在中、学生時代の友人・青木晴也(演:和田正人)の部屋に世話になっていました。
晴也との何気ないやりとりに心を休める進なのですが……



街中でパニック発作が進を襲います。

その発作の始まりは、2か月前の『不幸の手紙』でした。
心臓疾患で永眠した母。
チラシの裏に書かれた母の遺言。
尾鷲の海に散骨してほしい、と書かれた不幸の手紙。


「まさか本当に亡くなってしまうなんて」
「『死にたい』が口癖でした」






強い希死念慮のあった母親。
その母親に育てられた進。

どこかクロの姿と重なります。



■孤独のふたり


ある日、いつものようにクロが待ち合わせをしていました。
そこに現れたのは進。
人を待っているからどいてくれ、と怒るクロですが。


「それ、俺だから。君が待ってるの、俺」

最初のうちこそ拒否はしたものの、旅人に大阪を案内するということで落ち着いた2人。
クロは贔屓のお好み焼き屋に進を案内しました。


「誕生日言うたらお好み焼きだった」

ケーキではなくお好み焼き。
それがクロの誕生日。


進はクロに「どうしてクロなのか」と尋ねます。
クロは「白か黒だったら黒がいい」と。


「早く親と打ち解けられるといいな」

何をせかすでもなく、時間が来たら自立の時が来る。
そう伝える進の優しさと、2人の目の前で着陸していく飛行機。




■拒絶


一旦帰宅したクロがみたのは、荒れ果てた家の様子でした。
母の精神は壊滅状態。
電気もガスも止まっておりとても生活できる場所ではない。

クロが頼ったのは敦でした。

しかし敦の立場として未成年をかくまうわけにはいきません。
『あすなろハウス』に行ってほしいと頼む敦でしたが、クロは強い拒絶を示しました。

「もう話しかけないで」



クロに進を重ねているのか、それとも自分を重ねているのか。
敦の悲しそうな視線。



■あの日の記憶


敦が取り出したのは、30年前の在りし日を記録したビデオカメラでした。



そこに映るのは、30年前の妻・岸部幸子(演:市川由衣)と進の姿。



時を同じくして進もまた葛藤をしていました。



クロという少女が、不器用な親子2人に与えたもの。
それは戸惑いであり、罪の意識あるいは怒りであり、背中を押す力だったのでしょう。




■父と息子


敦は進をプラネタリウムに呼び出します。
プラネタリウム、それは親子の思い出の場所でした。

敦は幸子のことを語り始めました。

「お母さんは絵描きになりたかったんだ」
「とても繊細ないい絵を描く人だった」


鬱病が悪化してしまい、実家に帰らざるをえなくなったこと。
その実家で余計に悪化させてしまったこと。
進の前で自殺未遂をしたこと。


「耐えられなかった」

あまりに辛すぎる現実。
目を背けた進は写真家に、逃げ出した敦は精神科医になります。


そうして30年。
親子として向き合う2人。



「僕はもう逃げるのをやめようと思います」


「私は続けるよ」



写真を撮るのを辞めると話す進。
まだ精神科医を続けるという敦。

どちらの選択が正しいのか。
いえ、正しい道なんてないのだとも思います。

それでも親子関係の修復を試みる敦なのですが、進が声を荒げます。

「生きづらさを抱えた人たちを1人でも救えたと言えますか?」
「言えないよね。家族のことも愛せないのに」
「もう遅いんだよ、何を言っても」


もう遅い。
母は死んでしまった。
もう届かない。

今更家族なんて言われても、もう遅い。


進は敦に背を向けて去っていきました。



■疾走


行き場を失った少女・クロは、男たちに騙されてしまい軟禁されかけます。
思わず助けを呼んだのが敦。
敦は身を挺してクロを助け出しました。


「やるやないの、見直したわ」

夜の大阪の街を走る2人。
何かが吹っ切れたように。



戎クリニックに泊まったクロは敦に本心を明かします。

「ママの代わりに何でもやってきた。でももう疲れた」

クリニックにいることが迷惑になるんじゃないかと危惧するクロ。
しかし敦は優しく諭します。

「本当の迷惑ってのはね、二度と手の届かないところに行かれてしまうことだ」
「残された人間は一生後悔するだけだ」
「戻ってきてくれてよかった」


クロが無事に帰ってこれたこと。
幸子のように遠くにいかなかったこと。
進が会いに来てくれたこと。
ひとり残されずに済んだこと。


喜びと切なさの混じる穏やかな言葉でした。



■トカゲになる


そのころ進は晴也の引っ越し業を手伝っていました。
その仕事のひとつに遺品の整理。

遺体の引き取りも遺品の引き取りも断られたある人の部屋を片付ける晴也と進でしたが。
旅立った人が孤独のままに死んでいったことを思い、突然頭から水を浴びます。




その尋常ならぬ様子で何かを察知した晴也は、秘密にしていた自身の身の上話をはじめるのでした。

「重たい話してもええか」
「親父、自殺やってん」


自死遺族であることを明かした晴也。
驚く進。



「何があったか知らんけど、お前だけやないから」

トカゲになれ。
どんなに辛いことがあろうとも地を這って行け。
しっぽが斬られたら、また生えてくるまで待て。

大丈夫、何度でもやり直しはきく。


晴也の力強い励ましに、もう一度父と向き合う覚悟を決める進でした。



■家族と他人


しかし敦は警察署の中でした。
居合わせたのはレイ子。

というのもクロの母親が捜索願を出しており、敦に誘拐の容疑がかかったというもの。
ずっとずっと放置していたはずの母親がなぜ、とつぶやくように言う進でしたが。


「気持ちはわかる。子どもに逃げられるのは辛い」

レイコもまた家族に問題を抱えていました。
不登校だった娘、その末の離婚。


「家族いうのは支えにもなるけど、足かせにもなるんやね」

支えるか逃げるか、家族にはそれしかできない。

だからこそそこに他人の力が必要だ。

そうして『あすなろハウス』を立ち上げた、と。


戎クリニックへ向かい、レイ子に渡されたのは30年前のホームビデオ。
進はそれを再生します。

そこにいたのは幼い自身と笑う母。
そしてそれを撮影している父。

ずっと母を拒絶し父を恨んで生きてきた進。

しかし思い出の中の2人が教えてくれたのは、「両親がずっとそこにいた」ということでした。
家族は足枷ではなく支えだった。
そのことに気づいたとき、進の頬を涙がつたいました。



■静かな海へ


敦への疑いは無事に晴れ、2人はまた大阪の街で再会します。
そして進は「一緒に尾鷲へ行ってほしい」と頼みました。



尾鷲、幸子が1人で旅立った地。



故人の家で見つけたのは、母が息子を愛した証拠でもあるスクラップブックでした。
進は「逆に恨まれている」と言っていましたが、そんなことはなかった。
幸子は心臓が止まるその寸前まで、進を愛していた。



■ちぎり絵


入院していた病院やデイサービスなどをつたい、2人はある喫茶店にたどり着きます。
そこで知ったのは死ぬ間際まで母が情熱を注いでいたちぎり絵でした。



『ある日のプラネタリウム』。
ちぎられた和紙で作られた天の川。
そこに願いを託すような親子3人。







敦の妻、進の母が最後までこの地で生きていたこと。
生きがいをもって、息子を愛していたこと。


それを、今になって知らされる残酷さ。
家族だったのに。
家族だったから。


「申し訳ないことをしました」

喫茶店のマスターである小山が話しかけます。
小山は入院中の幸子のもとを訪れた唯一の見舞客でした。

行方知れずの息子と夫。
入院。
死期を悟った時、やってきたのは他人の小山親子。

「いろんなことがあったけど今は不思議と安らかな気持ちです」

母は孤独ではなかった。
家族ではなくても他人がいた。


支えてくれる人は、いた。



■これはバッドエンドじゃない


そして散骨のために海に向かう2人。


「他人ってすごいよね。家族に出来ないこと出来ちゃうんだから」

呟く進に、敦はしっかりとした口調で声をかけます。



「(幸子は)精一杯生きて、ひとりで死んだ。自分の生を全うした。私は彼女を憐れまない。これはバッドエンドじゃない」

母は、妻は孤独ではなかった。
家族に出来ないことを他人がしてくれた。
そして父と息子を再会させてくれた。
2人の人生を救ってくれた。




これはバッドエンドじゃない。

敦の声が美しい風景に響きます。



■そして、春


そして春。
クロは母と一度離れ、自立支援ホームにいました。


「おっちゃんあんな目に合わしたん、更生くらいする。したる」

クロは進に「敦が父親でどう思ったか」と尋ねます。

「最初は戸惑った。そのあと腹が立った」
「今は、身元引受人になってもいいかな」


身元を引き受ける。
遺体も遺品も引き受ける。
それは家族が出来ること。

支えでも足枷でもなく、共に生きていくということ。




敦、レイ子や晴也などそれぞれが日常を送るなか。
進は東京の恋人に「今から帰る」と連絡をしました。

それは新たに自分の人生をスタートする瞬間。
母にも父にも縛られない、自分の人生。


エンドロールのラストカットは進の満面の笑みで終わりました。




人間の持つ深い味わいやおかしみ、哀しみがえぐり出されるようなドラマでした。


鬱病、パニック障害、自死遺族。
非常に重いテーマを扱った作品だったと感じます。


しかしそこには人生がある。
人が生きている。


みんな何かしらの問題を抱えている。
でもどうにかもがいている。
明日は素敵になるように、と。

『喧噪の街』という地獄で、『静かな海』という天国で。
しかし『喧噪の街』でも必死に生きている人がいる。




冒頭のナレーション。

──今会いたい。
──ご飯食べよ。
──今晩泊めて。


これはもしかしたら他人だからこそできることなのかもしれません。
敦、進、クロ。
レイ子や晴也。
皆がいわば他人であり家族でもあり、しかし他人であるという優しさが現されたフレーズだったのかなと。



撮影はほとんどロケとの宣伝でしたが、『大阪の街、尾鷲の海』がリアリティをもって迫ってきました。






それにしても。

『ダメ恋』以来に動くディーンさんを拝見したのですが。

『あさが来た』で毎回ひどいつっこみしててごめんなさい(嘘コケ
だって五代くんトンチキだったんだもの。

あとクロ役の久保田さん。
『インディゴの恋人』で藍役をされていました。



いつのまに名女優になられて…!

今後が楽しみな女優さんがまた一人増えました。





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