真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第三章

2005-08-06 06:57:13 | オリジナル小説
全てを話し終えた西澤は、まるで女神の審判を待つ羊飼いのようであった。
しかし、女神の役を演じるはずの直子の言葉は、意表をつくものであった。

「ご両親のお墓参りに行きましょう」

罵倒される事や殴られる事、泣かれる事は予想していたが、これは西澤にも予想外の反応であった。
あまりの意外な言葉に戸惑っていると、直子は西澤を急き立て、気がついた時にはハンドルを握って車を走らせていた。
西澤の両親の墓地へと向かっているはずなのだが、車は西澤の故郷の海辺の寒村へは向かわず、山間へと向かっていた。
不審に思った直子が西澤に問うと、両親の真実を知った後に、改めて墓所を移し、ちゃんとした墓石を買い、忌まわしい記憶の残る村ではなく、別の場所へと移したのだと言う。
そして墓石を移してからは、時折一人で花を携え訪れていたのだそうだ。
周囲は益々緑が増え、外気も数度下がっているようだ。
無言のドライブの後に辿りついたのは、霊園ではなく一軒の家であった。
豪奢という程ではないが、温かい印象のアイボリーを基調とした外観に、庭もきちんと手入れされている様子で、どうみても墓があるようには見えなかった。
その家の脇に車を停めると、直子を裏庭に当たる方へと誘った。

裏庭には、数々の植物と共に、ひっそりと一つの墓石が佇んでいた。
「これは直子の誕生日まで内緒にしておくつもりだったんだが・・・ろくろく旅行にも連れて行ってやれないから、別荘をプレゼントしようと思って買っておいたんだ。 庭の手入れや家の管理なんかは地元の人に頼んであるから中も綺麗なはずだ。」
「ここに親父とお袋を連れて来るときに、どうせなら一つの墓で一緒にいたいだろうと思って、同じ墓石に納骨し直したんだが、やっぱり別荘の裏に墓ってのは変かな?」

直子は西澤の言葉など聞いていないかのようだった。
真っ直ぐ墓前へと向かい、なにやら一心に話しかけてでもいるようで、最後に一言「ごめんなさい」と呟くと、一筋の涙を零した。
墓に向かったまま、直子は西澤に話しかけた。

「私もあなたに話しておきたい事があるの。私が子供のできない体だっていう事は以前に話したけれど、一度だけ妊娠した事があるの。以前・・・あなたと結婚する前に好きだった男性がいて、その人との間に子供ができたんだけど、妊娠している事にも気づいてあげられない内に、お腹の中で赤ちゃんが死んでしまって・・・それが原因で子供のできない体になったのよ。」
「まだ名前も性別も分からない私の子供には、墓さえ無いけれど、いつも忘れた事は無かったわ。小さな子を見る度に、生きていたらこのぐらいだったかしらって。。。 でもきっと今はここで、お祖父ちゃまとお祖母ちゃまと一緒に暮らしているわね。」
「でも、どうせならもっと早く全てを知りたかったわ。時間が戻せたらいいのに。。。 せめて私のこの子が死ぬ前の時間までだけでも戻せたら。。。 でも、もう遅いのよね。」

また涙が溢れてきている直子を、本当なら抱きしめたい! 抱きしめて、温めて、守ってやりたい。
だが、今西澤がそれをする事が許されるのかどうか。。。分からないままに直子の涙が止まるまで立ち尽くすしかできなかった。