鞄に演劇をつめこんで

観劇者が立ち上げた小劇場演劇を広めたいためのブログです。
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当日パンフレットの考察その4

2021年05月03日 | 小劇場演劇の考察

6 理想の当パンを求めて
 以上を踏まえ、理想の当パンについて考えてみました。
 コンセプトは、「作品、役者、団体と観客をしっかり繋げる当日パンフレット」で、5つの役割をしっかり発揮した当パンです。
 架空の作品をもとに、作成したのが画像にある当パンです。

<1頁目>

<2頁目>

<3頁目>

<4頁目>

作成するにあたって検討した事項を記載します。
■ 当パンのサイズは?
 複数の出演者いる舞台を仮定し、相当の情報量を盛り込む必要があることから、冊子のようなパンフレットらしさも出るA5版・4頁を採用しました。

■ 配役は1頁目で 
 1頁目には、フライヤーの画像データを活用し、①公演に関する情報と、②配役表 の両方を掲載しました。表紙の役目と、一番知りたい情報の配役がすぐにわかることを優先したことが理由です。

■ 劇団のPRは2頁目で 
 2頁目には、当パンの役割4「団体を知ってもらうツール」に関係する情報を掲載しました。挨拶を簡潔に掲載したほか、団体の紹介とあわせ、過去上演作品を紹介しています。また物販のお知らせは広告ぽく、最下蘭に配置してみました。あらすじも載せました。

■ 3頁目を出演者情報として活用 
 3頁目は、「役者」を中心にした情報発信をしたいと考え、配役表にしないで、出演者の情報を2段組で掲載しました。情報として重視したのがTwitterのアカウントで、Twitterをフォローすれば、今後の公演情報やその際の予約扱いのURLを知ることができます。
 そのため、氏名(所属)の次にアカウントを掲載し、更に、余白にQRコードを載せました。また過去の出演情報を紹介してから、今後の活動情報を載せました。
 情報量(文字数)は多くなりますが、枠線ありの2段組みとし、さらに字のポイントをやや小さめにしたことで読みにくくならず1頁内でおさめることができました。

■ スタッフなどは4頁目で 
 最終面の4頁目は、冒頭で「感想のお願い」を入れました。「#タグ」を文字でお知らせするのが狙いです。またプレゼント企画を設けてみました。
 スタッフや協力は、エンドロールのような感覚で、しっかり紙面を割いてみました。余白があるので、スタッフのアカウントやQRコードも掲載するのもありかと思います。
 そして最後に、団体の公演情報を掲載しました。これはテレビでいう、次回の予告にあたるような効果を狙ったものですし、4頁しっかりと眼を通してもらうことも狙いです。

7 まとめ  
 ここまで長文を読んでいただきありがとうございました。
 日頃から観劇の度に手にする当パンですが、今回のテーマを執筆するため、大量の当パンを見返してみて、そして自分でも当パンもどきを作成してみて、改めて「当日パンフレットっていいな」と思いました。
 最後に、新型コロナを背景に最近見かけることが増えてきた「デジタル当パン」のことと、「広告掲載」について触れておきます。

デジタル化 
 コロナ禍で急速に増えたのが「デジタルパンフレット(デジタル当パン)」でしょう。観劇直前に予約時のメールアドレスに送付されたURLや、チケットや劇場内に掲示されたQRコードからアクセスします。
 デジタル当パンは紙と随分違います。HTMLなどでデザインされ、スクロールしながら読んでいきます。
 デジタル当パンは便利なようですが、例えば感想をSNSで呟くときに、氏名の確認などで何度も画面を切り替える必要があるなどストレスが溜まります。また保存に向いていないので、プリントアウトすると大量の紙に印刷されることや、後で印刷しようとしたまま時間が経ってしまいアドレスがわからなくなってしまうこともしばしば。
 印刷コストは削減できるとしても、WEBデザインを考えると劇団の負担はそれなりにあると思います。
 そこで、デジタル化の流れは避けられないとすれば、当パンの原稿はこれまでどおり作成し、1頁から4頁まで順番に閲覧できるファイルと、(表)4頁と1頁・(裏)2頁と3頁の順に割り付け自宅で印刷して二つ折にして当パンを完成できるファイルの、2種類のファイルを作成し、提供方法を紙ではなくPDFでのダウンロード方式にすれば、保存も印刷もしやすく、いいのかなと考えます。

広告の掲載 
 当パンを作成しない理由にコロナ禍で収入減や公演中止リスク等に伴う経済的リスクを耳にしたことがあります。上述のデジタル化が解決策だと思いますが、もうひとつ広告収入について触れておきます。
 可能性がありながら、現実的ではないといわれてきたのが、「当パンでの広告掲載」だと思います。広告掲載料が収入として入れば、作成費用の負担軽減になります。
 実際にどのぐらいの団体がこれについて営業されているかわかりませんが、仮に50人×8公演ができれば、前説・終演後の挨拶などで紹介するなどの仕掛けで、少なくとも確実に400人の方に広告に目を通させることが可能です。これは相当凄いことです。
 そんな効果が期待されながらも、広告という考えが進まない理由は今後分析していく余地があるのですが、小劇場は劇団が劇場と結びついても地元の商店街など地域に根付いていないこともあるのではないかと考えます。
 また、クラウドファンディング形式で、名前掲載や客入れ時での紹介などをリタ―ンに協力金を募ることも可能だと思いますので、広告収入の取組はやりようがあるのではないかと思います。

最後に 
 この文章を通して当パンの魅力が少しでも伝われば嬉しい限りです。観劇される方がこれまで以上に当パンに目を通され、演劇関係の方が当パンの作成の参考にしていただけるようなことがあれば、これ以上の幸せはありません。

 2021年5月 下北沢の喫茶店にて

 

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当日パンフレットの考察その3

2021年05月03日 | 小劇場演劇の考察

4 どんな構成になっているか 
 頁ごとにどのような情報が掲載されていたかランキングにしてみました。

1頁目 
第1位 タイトル 98団体
第2位 団体名  87団体
第3位 公演期間 77団体
第4位 上演劇場 74団体
第5位 作演   60団体
第6位 配役・出演者 20団体

 1頁目は、表紙にして、作品名など公演に関する基礎的な情報のみを掲載している団体がほとんどです。
 そのうち15団体がフライヤー(宣伝チラシ)のデザインを表紙として使っていました。
 配役・出演者を1枚目に掲載する団体は20団体ありました。観劇者が一番知りたい情報を冒頭に掲載するのもいいかと思います。観劇中に配役が気になる方には紙をめくらずに確認できるメリットがあります。

2頁目
第1位 主宰などの挨拶 53団体
第2位 配役 32団体
第3位 スタッフ 22団体
第4位 あらすじ 15団体
第5位 協力 11団体

 2頁目で多かったのは主宰などの挨拶です。
 4頁の当パンでは、表紙をめくった2頁目が最初に目にする情報になります。ここに主宰等からの挨拶を載せ、観劇のお礼を伝えたいのは理解できる流れです。
 一方、配役を載せた団体は32団体でした。観劇者が一番知りたい情報を先頭に掲載したい狙いがあるのかと思います。
 あらすじを2頁目に載せた団体は15団体。あらすじを当パンに載せた団体の8割近くが2頁目に掲載しています。

3頁目
第1位 配役39団体
第2位 スタッフ36団体 
第3位 次回出演情報 23団体
第4位 協力 21団体
第5位 グッズ販売 8団体

 3頁目で多かったのは、配役(39団体)とスタッフ(36団体)です。
 分析では4割弱ですが、もっと多くの団体が配役を3頁目に記載している気がします。配役だけで頁が埋まることは少なく、残りをスタッフ、協力、スペシャルサンクスに割り当てる使い方が多いようです。

4頁目
第1位 次回出演情報 47団体
第2位 次回公演情報 24団体
第3位 団体のSNS  14団体
第4位 スタッフ   11団体
第5位 グッズ販売  11団体

 4頁目で多かったのは、演者の次回出演情報で、ほぼ半数の団体が掲載しています。
 団体の次回公演情報や団体のSNSを掲載する団体も多くあります。
 スタッフを最終頁に掲載する団体は約1割。これは次回出演情報を3頁目に掲載した結果、スタッフや協力、スペシャルサンクスが最終頁になったことが考えられます。
 映画のエンドロールと同様、パンフレットの最後に掲載することは可笑しくないでしょう。
 一方で、次回出演情報は、上演作品との関係は薄い情報なので、先に作品に関わるスタッフ等の情報を掲載し、最後に裏面をみると次の観劇に向けた情報がわかることも整理された考え方だと思います。

5 当日パンフの役割とは 
 これまでに紹介したような、たくさんの情報が載っている当パンですので、劇場に入って座席に当パンがないと残念に思います。本当に残念な気持ちで一杯になります。
 なんでそう思うのか、当パンの役割から考えてみました。

役割その1 演劇を楽しく・わかりやすくするもの
【関連情報】配役表、あらすじ、主宰挨拶
 連載その2「配役表があるといいこと」でも書きましたが、配役表であらかじめ気になる役者の役名を知っておくことで、舞台で「この人かな?」と気にすることが減り、集中した観劇につながります。
 また登場人物や設定を上演開始前に頭に入れておくだけでも、芝居がわかりやすくなります。
 このほか、主宰の挨拶やあらすじは、作品を読み解く鍵になることがあります。

役割その2 観劇者と役者をつなぐもの
【関連情報】配役表、今後の活動情報、経歴、物販情報
 配役表があることで、舞台での登場人物(役)を通じて、役者を知ることができます
 舞台で気になった出演者さんがいれば、配役表で役名から名前を確認し、今後の活動情報から次回出演作やSNSのアカウント情報を得ることで、その方の次の舞台を観に行くかもしれません。
 お目当ての役者さんの次回の出演情報を入手することもできます。場合によっては、SNSや出演団体の情報公開より早く入手できる場合があります。
 このように、当パンを通じて、観劇者も出演者も次の活動に繋げることができます。
 掲載している当パンは少ないですが、過去の出演歴に関する情報が役者を知るうえで役立ちます。観ていた作品に出演していたことがわかると、親近感が湧いたり、益々気になったりするかもしれません。
 最近では個人の物販サイトを設ける役者さんをみかけます。こうした物販情報も、役者さんと観劇者さんの距離を縮めます。

役割その3 見返したときの記憶をよみがえらせるもの
【関連情報】タイトルや公演日時、出演者、配役表、あらすじ
 時間が経ってから、どんな作品だったか、いつ・どこで観たかなどを思い出すときに、パンフレットがあると便利です。
 上演作品は意外と忘れていくものです。
配役表はもちろん、あらすじや配役に(説明)があると助かります。

役割その4 団体を知ってもらうツール
【関連情報】団体紹介、SNS、物販
 旗揚げのきっかけや届けたい作風を紹介することで団体を知ってもらうことや、SNSでのアクセス情報や物販サイトを紹介するのも、当パンの役割といえます。主宰の挨拶も同様で、「団体の気持ち」を伝えることは、団体に対する親近感を持たせることに繋がるかもしれません。

役割その5 その1~その4までの情報が迅速に入手できる 
 当パンを作成しないということは、以上のことが観客にとっては手に入らない、団体や役者にとっては届けられない、ことを意味します。
「SNSなどで団体や役者を検索すれば配役や個人の活動情報などは入手できるのでは。」という団体があります。しかし検索して調べるには時間と手間を要します。整理された情報が迅速に入手することができるのも当パンの重要な役割といえるでしょう。

**コラム**
当パンは観劇後に見返すのか
 ところで、どのくらいの観客が後になって当パンを見返すのでしょうか。「ほとんどの人はその場でしかみないのでは」「そんな少数のために当パンを作る必要があるのか」との意見もあるかと思います。
 当パンの役割はこれまで述べたとおり、観劇後だけではありません。劇場や観劇直後でも必要な情報を提供しています。また観劇者だけでなく、団体や出演者にとっても役立つものであります。
 なので、これらの役割をカバーする当パンを作成することが、当パン自体の必要性を高めます。
 そしてなにより、少人数かもしれない当パンを見返す観劇者こそ、小劇場愛が強く、支えている人かもしれません。
 また気になった役者さんをSNSでフォローしたら、プロフィールなどから過去に観た作品に出演していたことがわかることがあります。こういう時に当パンを見返し、あの役だったのかと振り返ることがあります。

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当日パンフレットの考察その2

2021年05月03日 | 小劇場演劇の考察

当日パンフレットのこと その2

③スタッフや協力
 スタッフ(STAFF)や協力は映画ではしばしばエンドロールで流れますが、当パンでは、配役表に続いて載っているなど、最後に掲載されるとは限りません。
 スタッフには、主に舞台監督、音響、照明、舞台美術、衣装、照明操作、舞台写真、振付、音楽から、票券管理、宣伝美術、演出助手、アクション指導、制作・主催、制作助手、イラスト、当日運営、などがあります。脚本/演出を加える団体もあります。 
 自分は、舞台美術や照明、音響が良かったと感じた作品に出会えたときは、名前をチェックします。そういう方は他の現場(作品)でもいい仕事をしていることが多い。時には、その方の照明や美術、舞台監督だから観に行くという場合もあります。
 また舞台で観た方が当日運営を手伝われていて、当パンから名前を知ることもあります。
 そういう意味で、スタッフも観劇の楽しみを広げてくれる大切な情報です。

 協力は、客演(劇団員以外の出演者)や外部のスタッフさんが所属する団体名を記載することが多いです。スペシャルサンクスとして掲載する団体もありますが、スペシャルサンクスは、スタッフ以外で上演に協力してくれた個人や団体などを掲載する場合が多いようです。

 このほか、助成金を貰っている場合は、「助成:芸術文化〇〇基金」など記載します。演劇に限らず公的な団体等から助成金(補助金)を受ける場合は、当該助成金を受けている旨の掲出を条件とする場合がしばしばあります。

④主宰挨拶 
 主宰や作演家・プロデューサー・企画者などの挨拶文です。
 分析では、観劇のお礼のほかネタバレにならない範囲で作品を書いた動機などを記す方が多かったです。
 中には作品と全く関係なさそうなことを書く方もいます。

主宰挨拶で気になるのは、文量!
 1頁をまるまる使って長々と書く方がいますが、あまり長いと上演前に読むのに正直面倒と思うことがあります。
 挨拶(スピーチ)は短い方がいいといいますが、当パンの挨拶も数行で伝えたいことを書く方がいいと思います。

<主宰挨拶の例>
〇冒頭挨拶
 ・本日はこのような状況の中、ご観劇いただき感謝申し上げます
 ・検温や消毒にご協力いただきありがとうございます
 ・感染防止の中での稽古の大変さ
〇作品の紹介
 ・こういう思いから上演(再演)しようと思った
 ・この作品で大事にしているのは「〇〇さ」です
〇なぜ脚本を頼んだのか(企画制作)
 ・脚本をだれだれ氏に頼んだのは、これこれの理由からです。
〇まとめ
 ・この作品があなたの大切な存在に捧げたなら幸いです。
 ・ときには人を傷つけることも必要だと演劇を通じて感じてもらいたい。
 ・そんなことを観劇後に思っていただければ幸いです。
 ・皆さまの心に熱が届き、明日から少しでも明るく迎えられる公演になったらこんな嬉しいことはない

⑤団体や役者の次回出演情報 
【舞台】【映画】など区分する場合もあります。

<次回出演情報の例>
■山田太郎 
 団体「作品タイトル」 2021年1月×日(水)~24日(日)@中野テアトルBONBON

【渋谷花子】
 団体「タイトル」 2021/1/12(金)~14(日) @B1小劇場

【演劇五郎】
【演劇】劇団名「タイトル」 作演:○×△
 20201年7月×日(水)~7月〇日(日)
 中野ザ・ポケット

作品ごとに出演者をまとめる場合もあります。

【山田太郎・田中愛美 出演】 
作品のQRコード 団体、タイトル
@劇場 期間
【山田太郎 出演】
作品のQRコード 団体、タイトル
@劇場 期間

出演予定が無い方は、SNSのアカウントを紹介する場合があります。

【下北歌子】
Twitter:@アカウント
公演情報は随時上記SNSで

団体の公演予定をあわせて掲載する当パンもあります。

劇団○○ 今後の予定
第〇回公演×××× 脚本/演出 演劇太郎
2021年〇月〇日(水)~〇月×日(日)
@下北沢駅前劇場

⑥その他の情報 
 観劇の手助けとなる、用語集や人物相関図、自己紹介、アフターイベントなどの情報がありました。
 ここでは分析を通じて気になった内容を紹介します。

(1)感想を呟いて! 
 終演後の舞台挨拶でよくいわれる内容ですが、「#〇〇〇〇(#タグ)」をつけて感想などをSNSで発信することをお願いするものです。長い文字数のタイトルや劇団名の時は、簡略にした#タグがあるといいです。
<掲載例>
 感想はTwitterで【#ぼくらの箱部屋】でつぶやいて頂けると嬉しいです!

(2)あらすじ 
 フライヤーに載せている程度のあらすじが書かれています。あらすじは、作品の世界に入りやすいほか、後で作品を見返すときに役立ちます。
「いつ、どこで、誰が、何を、どうする」を簡単に書いてあるとわかりやすいです。

<掲載例> 
 ここは下北沢から少し離れたBARで、今日は大晦日。
 常連客やスタッフで溢れています。そこに、街で有名なアイドルが突然現れて、誰かと初詣に行きたいというから、もう大変

(3)劇団紹介
 旗揚げ時期や上演記録、どんなテーマを扱っているのかなど、劇団の紹介を記載しています。 
企業や事業者が商品のパンフレットに会社概要や業績を載せるのと同じで、上演作品(商品)のパンフレットに、いつ旗揚げして、どんな作風の作品を届けるのか、あるいは、これまでの上演一覧などを掲載することで、団体のことを更に知ってもらうことができます。

<劇団紹介例> 
劇団●●とは
2018年●月に□□××と●●××が立ち上げた劇団
日常に潜むものを切り取り、大きく育て、みる人の想像力を刺激することをモットーとする
人間の強さや弱さを肯定する演劇を目指す
劇団HPはこちら URL:

GOODS 
 最新DVD 2,000円
 上演台本  1,500円
 その他過去公演のDVD、Tシャツなど
 購入希望は、Webストア(*******@***)まで

(4)出演歴 
 出演者のこれまでの出演歴で、商業演劇など有償パンフレットでは記載されていることが多いです。

<掲載例> 
 主な出演舞台:劇団●●「××」、△△企画「●●●」など
 主な出演作品:劇団■■「△△」(2019.12)、劇団△△「●●」(2020.11)
 主な出演作品:「●●●●」劇団××劇場△△ 


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当日パンフレットの考察その1

2021年05月03日 | 小劇場演劇の考察

当日パンフレットの考察 連載その1

<目次>
1 当パンとは(連載その1)
2 当パンのサイズ・頁数(連載その1)
3 掲載内容のランキング(連載その2
 ・配役表があるといいこと
4 どんな構成になっているか(連載その3)
5 当パンの役割とは(連載その3)
6 理想の当パンを求めて(連載その4)
7 まとめ (連載その4)

1 当パンとは 
 当パンとは「当日パンフレット」の略で、公演期間中に劇場に来た観客向けに配布するパンフレットのことです。映画館や大きな劇場ではカラー印刷の数ページのパンフレットを受付で有償販売する場合がほとんどですが、ここでいう当パンとは、小劇場などでの公演で座席などに置いてあって、無償で配布するパンフレットを指します。
 当パンは、配役やスタッフ、出演者の今後の活動などの情報を観客に提供するツールで、多くの団体が作成しています。
 しかし最近は、当パンを作成しない団体をみかけるようになりました。
 そこで、2020~2021年2月までに観劇した100団体(100公演)の当パンについて分析し、観る側から当パンの魅力に迫りつつ、理想的な当パンについて探ってみました。

2 当パンのサイズ・頁数

■ サイズ別・頁数別 団体数
A4版:
1頁 7団体 2頁 8団体 4頁11団体 3つ折り 1団体
A5版: 1頁 1団体 2頁 2団体 4頁63団体 16頁 1団体
B5版: 1頁 1団体 4頁 4団体
B6版: 4頁 1団体 

 A5版4頁で作成している団体が63団体と圧倒的な多さです。A4用紙に両面印刷して、二つ折にする作りやすさに加え、伝えたい情報量と小さすぎない文字の大きさがマッチしているのではないかと思います。
次に多かったがA4版4頁で11団体。A3用紙に印刷して二つ折にしたもので、A5に比べ文字が大きく読みやすさが加わります。
第3位・第4位もA4サイズで、両面刷りの2頁が8団体、片面のみ1頁が7団体で、A4版の当パンが4分の1を占めていました。

A5版とA4版の優劣はつけにくいところです。
4頁ですとA5版がいいかなと思います。
席の間隔が狭い小劇場では、広げるとA3版になるパンフレットは扱いづらいからです。
またパンフレットを保存する際にかさばらないことも利点です。フライヤー(宣伝チラシ)はA4版が多いので、A5版の当パンをA4版に広げて、フライヤーと一緒にクリアファイルに保存しておくと見返す際に楽です。

一方、掲載したい情報が少ない場合はA4版1枚がいいかなと思います。読みやすい文字の大きさで作成できますし、かさばりません。
B版サイズは6団体ありました。B5版になるとかなり文字が小さく読みづらさを感じます。
このほかA4を3つ折りにした団体が1団体ありました。

■ 白黒か、カラーか
殆どの団体は白黒印刷で、多色刷り・カラーを使っている団体は、名前が知れた団体を中心に、1割にあたる10団体でした。
中には、コート紙でA5版16頁の写真入り当パンを無償で配布した団体がありました。団体の気合いを感じました。

3 掲載内容のランキング

当パンに掲載されていた内容を、多い順に並べると、以下のとおりです。
大きくは①公演作品名など公演に関する基礎的な情報、②配役や出演者、③スタッフや協力、④主宰などの挨拶、⑤団体や出演者の今後の予定、⑥その他の情報 に分類できます

<ランキング>
1位 作品のタイトル 98団体

2位 配役  93
3位 スタッフ 88
4位 団体名 87
5位 次回出演情報 83
6位 公演期間 80
7位 公演劇場名 76
8位 主宰等の挨拶 75
9位 作演名 65
10位 協力 52
11位 公演回数 43
12位 次回公演情報 41
13位 スペシャルサンクス 24
14位 グッズ販売 24
15位 あらすじ 21
16位 団体のSNS紹介 19
17位 ウェブアンケート 18
18位 出演者  15
19位 団体紹介 10
20位 助成事業 8
21位 諸注意 8
22位 配信案内 2
23位 登場人物相関図 2
24位 感想呟いて 2
その他 43

①公演に関する基礎的な情報
 作品名(1位)、団体名(4位)、公演期間(6位)、公演劇場名(7位)の5Wにあたる基本的な情報に、作演の名前(9位)を加えた5つの情報は、多くは1頁目の表紙に記載されています。

 観劇当日では、これらの情報が書かれた紙をみつけると「ああ、当パンだ」とわかるぐらいのことですが、重要なのは観劇後に当パンを見返した時です。配役や出演情報だけを掲載する団体がありましたが、後々のことを考えると必ず掲載してほしい情報です。
作演の名前は、表紙には書かず、主宰(作演)の挨拶として掲載する団体もあります。
11位の公演次数は団体名に付随する情報で、「劇団××第○回本公演」と通常書かれます。
掲載した団体数が43団体と少ないのは、コロナ禍のため本公演ではなく特別公演が多かったことが要因として考えられます。

②配役や出演者 
 配役(表)は「何役を誰が演じるのか」を列記したもので、93団体(第2位)とほとんどの団体が掲載しています。その位、当パンの中で重要な情報といえる配役表の効果を3つ挙げてみました。

■ 配役表があるといいこと

その1 目当ての役者の役名がわかる
 知り合いなど目当ての役者の役名やポジションがわかることで、安心感が生まれます。知り合いだからといっても、舞台の上にあがると、メイクや演技で、この人かな?と不安になることもあります。観劇前に役名がわかることで、観劇中にその役者を追う負担が軽減され、集中して観劇することができます。
 また、口こみやDMなどのお誘いから名前しか知らない役者を観劇するときは、配役表がないと困ることもしばしば。上演前に役名を知ることで、目当ての役者を簡単に見つけられ、好演をシッカリと追うことができます。
 もし、当パンがない公演をDMで誘うのであれば、観劇前に自分の役名を伝えてほしいです。

その2 気になった役者の名前が簡単にわかる 
 観劇して気になった役者の名前を、役名から確認することができます。
 このことは、次の予約に繋がる可能性があることから、「観る側」だけでなく「出る側」にとってもいいことといえます。

その3 作品を理解しやすくなる 
 大よその役名や登場者数を事前に把握することで、舞台の描く世界に入りやすくなります。
 せっかく観劇にきたのに、舞台の世界にうまく入れない人も少なからずいます。ネタバレのようですが、上演前にある程度の情報を頭に入れておくことで、作品を理解しやすくなります。

<配役表の記載例> 
 役名と出演者を箇条書きにした書き方が多く、一目でわかります。
 記載の順番は、主役、準主役から、主演の家族や恋人などの主演との関係の深さや役の出演頻度などに応じて記載していくものが多いですが、中には登場順に記載している当パンもあり、これはこれでわかりやすいです。
 また出演者の氏名の横に所属劇団を( )書で記載する団体が多いです。

記載例①
<配役>
ロミオ・・・演劇太郎
ジュリエット・・・下北花子(劇団○×)
記載例②
<登場人物(登場順)>
由美子 … 下北花子
正   … 演劇三郎(劇団△△)
碧(正の妻)… 中野洋子

■補足説明がある配役表
役に補足説明を添える団体があります。ネタバレが懸念されそうですが、上演中に役の名前を聞き逃すことや、終演後に思い出せないことがあるので、補足説明があると助かります。時間が経ってから当パンを読み返したときにも役立ちます。

記載例③
キタザワ [演劇太郎] … 主役。大学生
ウエハラ [下北花子] … コンビニ店員
サングウ [中野二郎] … 弁護士

 役者を重視する当パンも
 配役表にはせず、役名ごとに、出演者名や主な出演作品、今後の活動予定、一言コメントなどをまとめて掲載する団体がありました。
有償販売されるパンフレットでは顔写真付きでこうした情報を掲載していることが多く、これに近い方法といえるでしょう。

記載例④
(CAST)
キタザワ・・・・演劇太郎
[出演作品]2020.8○○○○(団体名)など
[今後の活動] 
@アカウント

ウエハラ・・・・下北花子
[出演作品]2020.8○○○○(団体名)など
[今後の活動] 
@アカウント

*** コラム ***
上演中に配役表をみる観劇者
 配役表は、役者を追いたい場合には上演前にチェックを済ませ、あとは終演後に読むのがいいと思います。
 観劇しているとたまに、上演中に配役表を必死にみる人がいます。板の上で熱演を振るう役者さんの名前が気になったのかなと思います。そのたびに、隣で、当パンを開いたり閉じたりされると、気になったりすることもあります。
 個人の自由ですし確認したくなる気持ちもわかりますが、そもそも上演中は役名の世界にいて、役者の氏名で舞台を観ているわけではないので、上演後に調べれば十分ではないかと考えます。
 こうした理由から、配役表を作らない団体があると聞いたことがあります。しかし配役表のメリットは多岐にわたります。ならば、表紙に配役表を掲載するなど、観劇の妨げを少しでも減らす工夫で対応してもいいのかなと思います。

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アンケートの考察 まとめ (連載その6・最終回) 

2020年03月16日 | 小劇場演劇の考察

最後に、今回の記述を通じて思ったことを残しておきます。

1 アンケートってどう使われているのだろう

 100団体のアンケートに目を通し、また提案らしいことも書いてもみましたが、そもそもアンケートが活用されなければ、いろいろ考察したところで一蹴されるだけのことかもしれません。
なので、もともとは観る側の目線で書き始めた考察でしたが、「アンケートが実際にどの程度使われているのか」に興味がでてくるわけで、この「使われ方」を分析してこそ、はじめてアンケートの考察は完結する気がします。
中でも、公演の感想や要望は、どこまで、どのような形で届いているのか気になるところです。団体側・劇団員だけで読んでいるのか、客演も含め回し読みされているのかなど。
 また、それ感想以外の項目は、そもそも分析されているのだろうか、そのような時間が団体にあるのだろうかとも思ったりします。

2 アンケートを回収する方法

回収についてです。どのぐらい回収するかは気になりますが、回収率が高くても、ただ紙を提出しただけであれば意味がないと思います。アンケートを記入した人は提出して帰るでしょうから、結局は「書きたくなるアンケート」を作成することが回収率のアップにつながるはずです。

「アンケートを書きやすい環境を整える」ことは大事です。
画板を用意する団体は多いですし、筆記用具を貸し出すことは、当たり前になってきました。
筆記用具は回収しないとアンケート以上にコストがかかるのですが、もって帰ってしまうこともしばしば。さらに画板にハサンで、パチンと飛んでいったこともあります。
最近増えてきたのがQRコード方式です。
当日パンフにQRコードを配布して、スマホでアンケート欄に誘導する「後で書いてね」方式も「書きやすい環境」につながると思います。
しかし自分の場合、SNSで呟いてからさらに劇団のアンケートにまで書こうというのは、時間も気力もなかなかおきません。

また「アンケートを出したくなる環境を整える」方法もあります。
極端な例ですが、アンケートを提出してくれた観劇者の中から抽選で「次回公演を無料にする」「特別な動画を提供する」「劇団グッズをプレゼント」などのリターンを用意するとか、当番制などにして劇団員さん役者さんに直接手渡すような仕組みも考えられます。
QRコードでアンケートに誘導して、そこでもなるべく選択方式にして、しかも投稿するとおまけの動画がみられると楽しいかも。

3 より身近に演劇を感じられるアンケートを求めて

アンケートは基本的に団体の資産ですが、アンケートの記入を観劇者も楽しめればウィンウィンになります。
終演後のわずかな時間では具体的な感想が浮かばなくても、選択肢に✔をつけながら「あの展開は面白かった」「あの役者は良かった」などと作品を振り返ったり、演者の名前を覚えたり、照明や舞台美術、小道具にも目が向いたり、次の観劇ではこういう視点からも観てみようと思う時間になれば、作品ひいては演劇との距離が縮まると思います。

またアンケートの記入が、劇場を出た後、感動したことや逆にがっかりしたことの理由を考察するきっかけやきずきになるだけで、有意義なことだと思います。

更にアンケートを通じて出演者にエールを送れれば、例えば名前を覚えた出演者の次の舞台を観にいくことや、逆に出演者が新しい観劇者を覚えお客として繋がる機会になるかもしれません。

このほか団体が試行したいことや、試行したことの効果を測ることもアンケートとして有効です。
例えば、試行したいことでは「入場時に携帯OFFをチェックすることに 賛成・ 反対 」を質問して、今後の当日対応の賛否を問うことや、試行したことの例としては、チラシをこれまでより多く配布したのであれば、入手場所を選択肢にすることや、来場の指定時間を開演時間の15分前に設定したので、その効果を尋ねるなどです。こうした質問は、結果を運営にフィードバックし、時には観客に検討結果をアウトプットすることを繰り返すことで、観客とのコミュニケーションが深まります。

つたない分析もここまでですが、質問や選択肢を通じて、普段は気にとめない観劇者の行動などを考える、いい機会になりました。
自分が書きたくなるアンケートに出会えることを楽しみにしながら、その時は、しっかりアンケートを書きたいと思います。

最後にここまで稚拙な長文を読んでいただいたことに感謝します。
観劇側も団体側もアンケートについて興味を持ち、アンケートづくりの参考になれば嬉しい限りです。

おしまい